"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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奥村パレス
Recollection


 

 あの四軒茶屋での諸々があった晩。

 

 一樹は自分の部屋で、ベッドに横になりながら今日の事を思い返す。

 

 唐突に怪盗団やら異世界の話をされたと思ったらその異世界に連れ込まれ、よく分からぬ内によく分からぬ格好になったのにメインの力は不発。

 

 コスプレしただけで終わり、挙げ句の果てにはロケットランチャーをぶっぱなしては気絶し目が覚めたら怪盗団に勧誘され……。

 

 正直、一樹にはまったく実感が湧いていない。全部夢だったと言われれても納得できそうだ。

 

 だが、今日の事が夢でないと、スマホのアプリが語っている。

 

 『イセカイナビ』

 

 バグアプリか何かだと思っていた物が、まさか異世界に通じていたとは。

 

 一樹はまじまじと、目の様な模様が描かれた気持ち悪いアイコンを眺めながら考える。再び、あのメメントスなる異世界に行ければ、実感も沸くのだろうか。

 

 昼間行った時は新島がアプリを操作したため、一樹はこのアプリの使い方を分かっていない。

 

 アプリを開くだけで異世界に飛ばされるのか、それとも何か別の操作がいるのか。

 

 シャドウとか言う化け物がいるらしい世界に一人で挑戦できる度胸は、一樹には無い。

 

 きっと、あの怪盗団のメンバーなら迷わずにこのアプリを開くんだろうな。そう思うと一樹は自分の情けなさが嫌になってくる。

 

 一樹はなんとなくネット小説を開くが、何も見る気分になれずにすぐ閉じてしまった。

 

 四軒茶屋で解散してもう数時間が経つ。一樹は家に帰ってからずっとこれを繰り返していた。

 

 イセカイナビを眺めては自己嫌悪に陥り、他のサイトやアプリを開いてはそれを閉じてまたイセカイナビを眺める。

 

 これを延々と繰り返しているせいでスマホの充電が怪しくなってきた。だがしかしベッドから起き上がって充電器を取る気にもなれず、一樹はスマホを閉じて机の上に放り投げた。

 

 そのまま一樹はダランと脱力し、結局今日の回想に戻ってしまう。

 

 怪盗団は明日、仲間内でビーチへ行くらしい。それは別に構わないのだが、もし今日自分が仲間入りしていたら色々と気不味いことになっていたのではなかろうか。

 

 それならそれで良かったかもな。一樹はそう思って笑った。

 

 

 一樹は暫くベッドの上でボーとしていたが、唐突に立ち上がった。何か思い立った訳では無く、ただただ尿意が抑えられなくなっただけの事だが。

 

 

 それでも、折角起きたのだからと一樹は充電器を棚から取り出してスマホに刺し、部屋を出て電気を消した。

 

 どうせ何をやっても気が散るのだから、リビングでテレビでも見ようとの腹づもりである。

 

 扉を閉める前、ふと自分の部屋が目に映る。

 

 グチャグチャになった毛布が乗っかったベッドに一応それなりに使い込まれた学習机。雑多な物が適当に置かれ、半分も埋まっていない本棚。母親が畳んでくれた服をそのまま突っ込んだタンス。

 

 大柄な一樹には少し手狭だが、それでもそこまで広くないこの家で一人部屋が有るのは有難い事だと常々感謝している。が、他に考え事をしている今日は何も思うこと無く扉を閉めた。

 

 

 

『メジエド撃退!! 改心の驚きの手法とは?!

──心の怪盗団 徹底解析スペシャル!!』

 

「何だかなァ……」

 

 トイレを済ませた一樹はリビングでテレビをつけた。丁度ワイドショーで怪盗団について喋っていたので見てみるが、真実を知った一樹からすれば見当違いな内容だ。

 

 だが、それは仕方ない事かと一樹は思い直す。異世界などと言う科学で証明出来ない話を、どうやって察しろというのか。

 

 怪盗団が情報を隠蔽する事に対して大分適当なのは、そこら辺が理由なのかも知れない。

 

 そう考えてるふと、一つの疑問が一樹の頭に浮かぶ。

 

 そう言えば、イセカイナビなるアプリはいったい何人の人間が持っているのだろうか?あの怪盗団だけなのか、それとも実はもっと大勢が持っているのか。

 

 そこから、また一つ疑問が湧き上がる。

 

 最近話題になっている不可解な『精神暴走事件』にも、やはりあの認知世界とやらが関係しているのだろうか。となると、一番怪しいのはあの怪盗団……

 

 

 そこまで考えて、一樹は自分の思考を嗤った。

 

(──まさか。そんな犯罪組織なら、あの生徒会長が所属するかよ。)

 

 一樹は新島のことは嫌いだが彼女の思考と正義感は割りと信用している。

 

 もっとも、彼女がもっと弱者や王道を進めない相手に寄り添える視点を持ってくれれば、今ほど嫌いにならずに済んだだのだろうが。

 

(──いや。アイツが「弱者の心が分かる強者」なんてズルい人間だったら、やっぱり俺は嫌いになるんだろうな。)

 

 そう思って、一樹は再び嗤った。

 

 

 その日は結局、夜中の2時過ぎまで眠れずに充電の終わったスマホを弄くったり大して興味もないネット小説を読んだりして過ごしてしまった。

 

 

 

 

 当然の帰結として次の日は正午ギリギリ前まで起きれなかったが、高校三年生の癖にやることのない一樹にはこの夏休みの日常である。

 

 

 今日はどうせ海に行くらしい怪盗団とは会えないのだからと割り切って、一樹は生涯最後の夏休みを少しは有意義に過ごそうと、コーヒーの安いチェーンの喫茶店で小説を読んで過ごした。

 

 その晩、再びイセカイナビが気になってモンモンとしていると、新島から連絡が来た。

 

 

 

『新島)明日空いてるらならルブランに来て』

           

【ルブランに? 良いけど、何時?】

 

『新島)昼過ぎに。ついでに勉強道具も』

 

【了解。何をするの?】

 

『新島) 勉強会よ』

『新島) 折角だから、貴方も交流ってことで』

 

【ナルホド】

【12時半には着くよ】

 

『新島)よろしく』

 

 

 

 今日も眠くなるまで起きているつもりだったが、予定が入ったなら別だ。もう寝るとしよう。一樹はスマホに充電器をぶっ刺し電気を消してベッドで横になった。

 

 

 次の日。一樹が目を覚まし出かける準備をしていると、唐突に怪盗団リーダーの雨宮から連絡が来た。

 

────────────

 

『雨宮) ・じゃがりこ×6

     ・イカ三味

     ・クリーチャー×3

     ・ハッピーチャープス

     ・プロテイン

よろしく』

 

【……買ってこいと?】

 

『雨宮) そう』

 

【……いいよ。分かった】

 

──────────

 

 

 一樹は暫くスマホ画面を眺めたまま考える。本当にパシりを押し付けられるとは。あのメガネは本当に後輩なんだろうか。一応、自分が先輩の筈なんだが。

 

 一樹はため息を吐く。自宅から四軒茶屋の喫茶店まで電車で一時間ほどかかる。それを目安に準備していたため買い物をしていれば確実に遅れるだろう。

 

(──てか、勉強会なりパーティーなりに使えそうな他のは兎も角、プロテインは何に使うんだ。まさか個人用なのか。それよりプロテインなんてどこで買えるんだ。)

 

 色々と悩んだ一樹は取り敢えず新島に遅れると連絡して、ネットでプロテインを売っている店を調べる所から始めた。

 




【ゲーム的設定】

 買い出しは昼か放課後に「主人公が自宅にいる状態でSNS画面の一樹のコマンドを選ぶ」事で発動し、「買い出しを頼める物リスト」から商品を選ぶ事が可能。
 選んだ商品は夜に一樹が主人公の元持ってくるので、その時間に代金と引き換えに選んだ商品が手に入る。
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