"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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 雨宮から連絡の来た数時間後。一樹はようやく指定された物をかき集めてルブランに到着した。

 

 まずプロテインなり薬なりが確実に売っているとネットで当たりを付けた渋谷まで電車で約1時間。そこから昼飯を食べたり物を集めたりでまた何時間かかり……。そうしてやっと、一樹は四軒茶屋の喫茶店ルブランに到着した。

 

 既に勉強会とやらは終わってるだろうが、別に参加したかった訳では無いので一樹としては構わない。

 

 一樹は息を整えてルブランの扉を開ける。

 

「やっと終わったぁ……」

「俺も終わりそう……。 別の意味で」

 

 中で、金髪ヤンキーが怪盗団メンバーとマスターに囲まれてへばっていた。

 

「おう。いらっしゃい」

「あ……えっと、はい。お邪魔します……」

 

 二度目だが、店の人に声をかけられる事に一樹は慣れない。マニュアル対応に慣れすぎたせいだ。

 

「あぁ……っと。お待たせ」

 

 一樹は鞄に入れておいたビニール袋を取り出しながら怪盗団に挨拶する。怪盗団は1つの机を囲んで勉強していたようだ。

 

「雨宮君に頼まれてたモノ。集めてきた」

「頼まれて? ……て、じゃがりこにモンスターに、ハッピーチャープスまで! 随分色々買ってきたのね?」

「?」 

 

 何処か、一樹は生徒会長と話が噛み合ってない気がした。

 

「俺は、頼まれた物買ってきただけだけど、そっちで話共有してないのか?」

「えっ?」

 

 生徒会長と一樹が揃って雨宮の顔を見た。雨宮は不思議そうに首を傾げた。

 

「……言ってなかったか?」

「パイセンについちゃ何も聞いてねぇぞ」

「私も、住吉君から遅れるって連絡があっただけね」

 

 金髪ヤンキーと生徒会長に証言され、雨宮は些か不服そうに答えた。

 

「……言い忘れてたな」

「そりゃないだろ……。てか、ちゃっちゃと払う物払ってくれ」

 

 一樹は呆れながら、財布から品物のレシートをリーダー君に渡した。

 

 リーダー君は何を言うでも無く、満額をまとめて一樹に渡した。割と高値だったのだが、何かいいバイトでもしてるんだろうか。と一樹は不思議に思う。

 

 ちなみに一樹は、金欠になるとコンビニの『トリプルセブン』でバイトをして金を稼いでいる。

 

「……て、ちょっと多くないか?」

「電車賃」

「ああ。そう…」

 

 言われてみれば、確かに電車賃を合わせればこれくらいだ。リーダー君の妙に律儀な所に一樹は多少の好感を覚えた。

 

「……参加したくなかったんだろ?」

「え?」

「この勉強会」

 

 まさか、一樹が嫌がっているのを察して時間の掛かる買い物を押し付けたと言うのか。一樹の中で雨宮への好感度はうなぎ上りである。

 

「お前……、聞いてりゃ先輩パシらせたのかよ」

「あっ、いや。俺が好きでやったような、もんなんで……」

「……そうかい」

 

 マスターがリーダー君を睨む様に見て、一樹は下手くそな援護をする。口下手は一樹の昔からの性格だが、マスターはそれで雨宮の真意を悟ったらしい。

 

 マスターが透明なグラスに氷と一緒になみなみと入ったコーヒーを持ってきた。この夏場だと殊更旨そうに見える。

 

「ほらよ」

「あ、いや。俺は……」

「気にすんな。今日のは奢りだ。アイツのな」

 

 

 マスターはリーダー君を顎で示して一樹にコーヒーを進めてくる。

 

 リーダー君は少し驚いた様子を見せたが笑って頷いた。それなら。と一樹はコーヒーを受け取る。やはり、バカ舌の一樹にも分かるほど、美味いコーヒーだ。

 

「そう言えばさ、もう勉強会は終わり! って空気だったけど、どうするの?」

 

 金髪ツインテールの言葉に振り向けば、既に金髪後輩コンビとハッカー少女がそれぞれじゃがりこを開けていた。もう宿題は終わっていたらしい。

 

「別に、やんなきゃいけない宿題残ってないし、このままで、いいんじゃ……?」

 

 一応一樹も"やった方がいいんだろうな"と思う課題は持ってきたが、もう既に最低限の事は終わらせているので構いはしない。

 

「住吉君も終わらせてたのね。あの小論文とか、結構難しくなかった?」

「……ん? ショウ、ロンブン……?」

 

 どうせ7月中に全ての宿題を終わらせただろう生徒会長が、一樹の耳には聞き覚えの無い単語を発した。

 

「……え? 確か、三学年は全員対象だったと思うんだけど……ほら、あの環境と科学、みたいなテーマの」

 

「あ、あぁっと。あった、ような…?」

 

 一樹は言われればそんな話を高校でされた気がしてきた。最も、気がしてきただけで内容はほぼ思い出せないが。

 

「……大丈夫なの? 内申に関わるんだけど」

「えっ、そうなの?」

 

 一樹は自分でもびっくりするほど小論文に関する記憶に無い。カウンター席に座っているハッカー少女がポツリと呟いた。

 

「ホント。絵に描いたみたいな夏休み終盤だな」

 

 一樹も己の事ながらそう思うが、それほど焦っていない。卒業出来ないのは困るが、受験どうこうなら問題はない。

 

「ま、別にいいか。どうせ俺受験しないし」

「えっ?! なんだよそれ!? メッチャうらやましい!」

 

 一樹の言葉に、金髪ヤンキーが思いっきり反応した。見てくれの通り、勉強が苦手らしい。

 

「受験しない? 推薦……って事でも無さそうだし、どうするの?」

「あれ? 話してないっけ?」

 

 今度は一樹が首を傾げた。だがしかし思い返してみれば、先日この話題に触れた記憶はない。

 

「あーと、何て言うか……推薦みたいなモンだよ。こう、俺の親戚のおじさんがさ? 警察でさ。その伝手で、試験を実質パスしてんの」

「へぇ~ うらやましい」

 

 金髪ツインテールも羨んでくるが、一樹は眉をひそめて否定した。

 

「そうでも、ない。毎年脱走者が出るような学校だし。おじさん曰く、どっちかと言えば監獄。だって」

 

 この道を勧める時、矢鱈と楽しそうに嘘か本当かもわからないこの道関連のおっかない話をおじさんはしていた。

 

 警察としては人材不足解消のために人手が欲しいが、おじとしてはオススメしたくない。そんな感情故の行動だろうと一樹は推理していた。

 

 結局一樹がその道に進む事を決めた時も、随分微妙な顔で手続きをしてくれていたものだ。

 

(あの人は善人だけど不器用だから…。そう言えば、最後に会ったのは何時だっけ。確か、奥さんの葬式の後に何回かは──)

 

 一樹の思考がそこまで飛んでいった時、不意にチャリリンとドアベルがなる音がする。

 

 一樹が思考を取り戻して扉を見ると、マスターが出ていったのが見えた。

 

「あれ? マスターどっか行くのか?」

「どっかって……。今、用が有るから少し留守にするって言ってたじゃない」

 

「ああ、そう。上の空だったな……」

 

 話の途中で思考が飛ぶのは一樹の悪癖である。その内直さなければ、と一樹はぼんやり思った。

 

「にしてもよー。受験しないでいいってうらやましーよなぁ」

「あんまり、オススメはしない。学校って付いてるけど、学校って扱いじゃないらしいから、夏休みとか、無くなるらしいし」

 

 進学校の三年生である一樹としては周りが受験勉強に忙しい中ただ一人暇なのは大分気不味いが、後々の事を考えると休みが少ないのは自分だろう。

 

「えっ! てことは明日がホントに最後の夏休みなの?!」

「そうなるな」

「じゃ、リュージにはムリだな」

 

 ハッカー少女がピシリと言い切った。無情なり。とも一樹は思ったが、2、3日しか付き合いのない一樹もハッカー少女と同意見である。

 

 鋭い言葉を喰らった金髪ヤンキーは机グタリと頭から倒れ、少ししてノソノソ復活した。

 

「でもよー。もう一生夏休みないとか、しんどくね?」

「……まあ、自分なりに夏を楽しんだし、免許も取ったし…」

「えっ!?免許って、車の?! 」

「それって、本当?」

「えっ えっ?」 

 

 一樹の想像以上に皆が食い付いてきた。

 

「一応、普通の車なら運転できる、ぞ」

「車! 車は?!」

「ばあちゃんが持ってるから、頼めば貸してくれる……な。うん」

 

 講習なり諸々の費用は、近所に住んでいる耳を悪くした祖母がたまに足になる事を条件に、半分以上出してくれていた。だから一樹も免許を取れたのだ。

 

「えっと、何期待してんのかは分かるけど、悪いけど、車は出せないぞ」

「えぇ! 何でだよ!」

「ガソリン代なら出せるぞ」

「いや、金の話じゃなくてさ……」

 

 何でリーダー君はポンポン金を出せるのだろうか。一樹は不思議に思ったが、怪盗団のリーダーなら何か伝手があるのだろう。と飲み込んだ。

 

「えっと、何て言うかな……」

 

 一樹はどう説明するべきか、脳を回すのだった。

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