"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Expose

 

 一人に視線の集まるルブランの中、一樹は近場の(勿論ハッカー少女とは離れた)カウンター席に座り、車を走らせたくない理由を話す。そんな大層なモノでも無いのだが。

 

「まあ、なんだ、単純な理由でさ……。人を乗せれる程上手くないんだよ」

 

 色々悩んだ結果、一樹は正直に言う事にした。恥ではあるが、下手に隠してあとでバレた方がいらない恥をかくだろう。親族なら兎も角、赤の他人を車に乗せようものなら、緊張で事故を起こすだろうマイナス方面への自信が一樹にはある。

 

「もうちょい一人で乗り回して練習したら、乗せてやれる……かも」

「なるほどね。まあ、ならしょうがないわよね。怪盗団としても、行動範囲が広がるなら歓迎したいのだけれど」

「………そういうこと」

 

 二位がフォローらしき物を入れる。相変わらず自然に上からの目線で話してくる奴だと、一樹は思った。

 

『こちらのクラブチームでは積極的なスポーツ科学の導入が──』

 

 会話が終わりいくらかの沈黙が喫茶店中を包んでいたため、自然とマスターがつけたままにしていったテレビのニュースに全員の注目が集まる。

 

 研究所がどうとか、技術的なんちゃらがどうとか、スポーツ関係で一樹には興味の無い内容だったが、それでもただ沈黙に耐えるよりはましだった。

 

「そう言えばさ、ウチの学校でもスポーツでちょっと有名になった子いたよね」

「スポーツ? 新体操の子?」

「そうそう。すっごい可愛いって噂の子」

「ああ、芳澤だっけ? ──」

 

 金髪のツインテール女子が皆に話題を振ったが、残念ながら一樹に興味の無い話だった。 一樹にはスポーツ全般がどうとか、容貌がどうとかの話題は一切縁の無い話だと思っているからだ。

 

 運動は出来ず、顔も自己評価的には良くて中の下の下がいいとこの一樹はモテ期なるものを経験した事はない。

 

「チッ ──」

 

「─────」

 

 いつの間にか宙を舞っていた一樹の意識が金髪ヤンキーの舌打ちで帰ってくる。一瞬自分が話を聞いていないせいで舌打ちされたのかと一樹は勘繰ったが、どうやら関係ないようだ。

 

「だか、ワガハイらの働きで悪い可能性は摘めるはずだ」

 

 一樹はまったく話を聞いていなかったため何の話かまったく分からないが、モルガナの言葉に皆が頷いたので、一樹もとりあえず一緒に頷いておく。

 

「あっ もうこんな時間。悪いんだけど、私ちょっと先に抜けるね」

 

 用事があるらしい。金髪ツインテール残ったコーヒーを飲み干し、足早に出ていった。

 

「私たちも解散にしましょうか。来たばっかりで住吉君には悪いけど」

「別に、いいよ。また何か有ったら呼んでくれ」

「ええ。また今度」

 

 新島、金髪ヤンキー、ハッカー少女も続いて出て行く。一樹も早く出ようと半分以上グラスに残っているコーヒーに口をつけた。

 

「急がなくていい。のんびり飲め」

「あ……そう。ありがとう」

 

 勉強道具を広げていた机を拭いているリーダー君が一樹の一気飲みを止めて言う。何をやってるのかと思ったが、一樹はリーダー君が住み込みだったことを思い出した。

 

 一樹が座っているのはカウンター席のため、背後でリーダー君が作業をしている。若干の気苦しさを感じるが、一樹は味わいながらコーヒーを飲む。

 

 

 一樹がコーヒーを半分味わった時、ピロリンとスマホの着信音が鳴った。新島からだ。

 

 

 

 

『新島) 言い忘れてたんだけど。』

『新島) 一応、ランチャーの使い方を覚えておいて。ネットを探せば出てくるはずだから。』

 

 

 

 

 何事かと思えば、もう既に済ませた事を命令されただけだった。昨日、一樹は自分のベッドで横になりながら色々な動画を見ている。ネット視聴を勉強と言うのかは微妙な所だが。

 

 中には胡散臭い物も有ったが、正しい撃ち方は一応分かった。次に撃つ時は自分が吹き飛んで気絶する様な、醜態は見せずにすむだろう。

 

 ついでに一樹はハンマーの武器としての使い方を調べてはいたが、そちらは殆んど有益な情報が手に入らなかった。精々、自分のと同じ様なハンマーで戦う漫画のキャラがいる事を知ったぐらいだ。

 

 一樹は生徒会長に説明するのが面倒だったので、取り敢えず【了解】とだけ送ってスマホを閉じた。

 

「むっ? イツキは小説を読むのか?」

 

 スマホをポケットにしまって振り向けば、モルガナが一樹のバッグの中を覗いていた。何を勝手に。とは思ったが、開けっぱなしでバッグを放置していたのは自分なので一樹は何も言わない。

 

「アイツも色々読んでるからな。イツキはどんなのを読んでるんだ?」

 

 一樹の本は無地のカバーがされているため、端から見れば真面目な本に見えるだろう。が──

 

「まァ……、大した本じゃないよ」

 

 一樹はボカす。あまり知られたくない物だ。すると洗い物をしていた雨宮がニヤリと笑った。

 

「……エロ本か?」

「んな訳ないだろ……。俺に外でそんなモン読む度胸は無い」

「……家では読んでるみたいな言い方だな?」

「ハァ……。失言だったか」

 

 雨宮は男子高校生らしく一人クスクス笑っている。そっち方面を掘り下げられてはたまらないので、一樹は諦めて本のカバーを外して二人に見せた。

 

 表紙には剣を持った無個性な少年が数人の美少女に囲まれて、格好いいポーズを決めているイラストが描かれている。まごうことなき、普通ののライトノベルである。

 

「なんだ。そんな恥ずかしがる本じゃないじゃないか」

「いや、ちょっと……、前にゴタゴタがあってさ」

 

 中学生の時、少し過激な表紙のラノベを教室で読んでいた所、「一樹が教室でエロ本を読んでる!」と騒ぎ立てられ、散々な目に会ったのだ。

 

 その噂はクラスどころか学年中に広がり、最終的に担任に事情聴取を喰らう羽目になった。

 

 幸い担任がその方面に理解が有ったので誤解は解けたが、クラスメートらには飽きるまでネタにされ続けた。

 

 その良くある話だが嫌な経験から、一樹はオタク趣味は隠して無地のカバーは絶対忘れないようにしているのだ。

 

「その本。知ってる」

「えっ マジで?」

「図書室で見た。借りなかったが」

 

 読んでいてこう言うのは何だが、正直英断だと一樹は思う。何故図書室に置いてあるのか不思議な程、(ライトノベルにしては)ありきたりな内容だったからだ。

 

「ライトノベルか… レンも何冊か読んでたよな?」

「ああ」

「へぇ……、何読んだんだ?」

 

 聞けば、それこそ無難な物ばかりだった。

 

「イツキ的には、どんな本がオススメなんだ?」

「え? そうだな… やっぱり…」

 

 初めて聞かれたが、どうせだから真面目に答えてやろう。そう思い一樹は頭を捻ってオススメの本を考える。

 

「『転スケ(転成したらスケルトンだった件)』とか『リワン(Re :イチから初める異世界暮らし)』とかは王道だしネットで無料で読めるし、『防やり(防御の勇者のやり直し)』とかもいいな。いや敢えて『蜥蜴ですがなにか』とかも… ああいや『小説を書こう』作品ばっかだなこれじゃ。『ディスグレ(バレット オブ ディス グレート ワールド)』とか『ノラゲ(ノーライブノーゲーム』なんかも……ハッ!」

 

 一樹はふと正気に帰った。雨宮とモルガナが驚きを表した目で一樹を見ている。

 

(──しまった。やらかした。)

 

 一樹は心の中で後悔する。少し興味を持っているからと、こんなに矢鱈と押し付けられてはいい迷惑だろう。

 

「……ごめん。忘れてくれ……」

「いや、なんだ…、ラノベが好きなんだな! トクサツを語るフタバみたいだったぞ!」

「……」

 

 趣味と言える程の物ではないと、一樹自身は思っている。今挙げた小説も図書室なりで借りて読んだだけだし、登場人物は主人公の名前すら怪しい。

 

 暇潰しに読んでいるだけだ。口下手が過ぎて、そうは思えないような暴走してしまったが。

 

「……今度、読んでみよう」

「そう……。ありがとう、感想は教えてくれ」

 

 優しさだろうが、口下手なヤラカシを気にする一樹にとって、そう言ってくれた雨宮の存在は有難かった。

 

 

 

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