"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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 喫茶店に怪盗団が集まった次の日。一樹は自室の本棚の前で頭を悩ませていた。珍しいことに何時もよりも早く(と言っても正午直前だが)に起きた一樹はこれまた珍しく自発的に人を遊びに誘ってしまった。

 

 寝起き特有の変なテンションで怪盗団リーダーの雨宮に『前に言ったオススメしたい本が有る。持っていっていいか?』と送信した所、驚いた事に承諾の意が帰ってきたのだ。

 

 寝起きの適当な誘いだった為、具体的に何を持っていくかを考えていなかった一樹は朝飯を食い、パジャマを脱いだ時にようやく、持っていく本が無い気が付いた。

 

 そうして、一樹はかれこれ15分、本棚を見つめ時折スマホを覗き、どうするべきか考えている。一樹は基本ライトノベルはネットで読んでいる為、半分も埋まっていない本棚にはマイナー系ばかりが収まっていて、初心者にオススメするのには向いていない。

 

 まさか図書室で借り続けたのが仇になるとは。一樹は頭をポリポリと掻きながら考える。オススメしたい本は有るが持っていない。近所に図書館は無いし、まさか買いに行く訳にもいかない。

 

 考え続けて大分時間が経ってもしまっている。ここから四軒茶屋に行く時間を考慮すればそろそろ出なくては間に合わない。

 

 一樹は苦渋の決断を下し、「今の自分的な好みからは外れるが他のに比べれば無難な数冊」を選んでカバンに入れた。変に時間がかかってしまった。急がなくてはと、一樹は慌てて家を出た。

 

 

 

 

「……悪くない」

「はや! ……もう読み終わったのか?」

 

 一樹がルブランに着き、屋根裏部屋に入ってまだ一時間も経っていない。雨宮は一樹の持ってきた一冊を読み終えていた。一樹がようやく半分を読んだ頃で、流し読みにしても早い。

 

「オマエにしては時間がかかったな。面白かったか?」

 

 部屋をうろちょろして集中妨害に貢献していたモルガナが珍しそうに言った。普段、つまりあの真面目そうな本をあはもっと早く読めるのだろうか。

 

「まあ、読み慣れてないからだと、思うぞ。……で、どう…、だった? 俺のオススメ」

「……悪くない」

「や、そうじゃなくて……。 こう、展開が良いとか、キャラが立ってるとか……」

 

 ちなみに一樹としては、雨宮に貸している本はストーリーが気に入っている。1巻2巻ともに展開やキャラは月並みだが、ある意味王道を貫いていた作品だ。残念ながら、三巻が出版される事は無かったが。

 

「……展開は良かった」

「おっ、分かるよ。これぞラノベの醍醐味!って感じじゃなかった? 伏線とかもちゃんと張ってたから、主人公の力にもチート(インチキ)感が薄いしさ」

 

 話が通じて一樹は少し興奮する。一樹は「オタクグループ」や「余り者グループ」にすら属せないタイプなので、話し相手に飢えているのだ。

 

「……嫌いなのか、そのタイプが」

「え? まあ……、最近は読んでない、かな。陰キャが異世界で無双!とかが痛く思えてきちゃってさ……。こう、自分と重なって」

 

 チート系だとか俺TUEEE系などと呼ばれるジャンルは一樹の大好きな分野だったが、いつの間にか読まなくなっていた。

 

(──そう言えば、ペルソナ(特別な力)認知世界(異世界)で使う怪盗団は、まさにライトノベルだな)

 

 もっとも、実際に命懸けで戦う怪盗団をあくまで創作でしかないライトノベルのキャラクターと比べるのは、失礼な事かと一樹は考え直す。

 

 もしペルソナに覚醒していたとしても、一樹は自分があの恐ろしいパレスやメメントスで命を賭して戦えるとは、まったく思えなかった。

 

「まあ俺の話は良いとして、雨宮は普段どんなのを読んでるんだ?」

「……『現代社会思想論考』」

「……え? マジで?」

「冗談だ」

 

 棚から取り出した異様に難しそうな本をしまい直して、雨宮は悪ふざけが成功したとクスクス笑っている。

 

 一樹はハァ……、とため息をはく。まだ雨宮とは数日の付き合いだが、一樹にも何となく性格が掴めてきた。何時もは無口なのに、ボケれる時はボケないと気が済まない性格らしい。

 

 正直一樹の苦手な人種だが、それでもあの怪盗団のリーダーであり、小説について語れる人であれば一樹も気にはしない。

 

 ありがたい事に、雨宮のボケのお陰で一樹の頭は冷えた。あのままだったら、興奮で何を言うか分かった物では無い。一樹はこれまでの失敗と黒歴史を振り払うべく頭を振る。

 

 すると壁に掛けられた時計が見えた。

 

「て、もう昼時か。何処か食べに行くか?」

「……悪くないな」

 

 さっきからそればっかり言うなと思いながら一樹は財布の中身を確認する。

 

(この辺りなら何処で食べられるかな。記憶が確かならお札が2、3枚入っていたハ、ズ……)

 

「………」

「ん? どうしたイツキ」

 

 財布を見ながら絶句している一樹にモルガナが声をかけてくる。一樹はなんとかそれに答えようと必死に声を絞り出す。

 

「……金、持ってくるの、忘れてた……」

 

 一樹の財布の中には、何個かの硬貨しか入っていなかった。

 

「いや……その、……昨日、母さんに買い出し頼まれて、買ってきて……。そのまま財布に入れるの、忘れてた…て」

 

 一樹はほぼ一文無しだ。今の財布の中身では缶コーヒーも怪しく、買えるのは駄菓子くらいだろう。

 

 ふと電車用に使っている電子マネーなら残っているのでは……と考えたが、帰りの交通費を考えれば残ってないに等しい。

 

(──完全にドジ踏んだな……。)

 

「……カレーで良ければ、作ろう」

「え?」

 

 雨宮には一人で食べに行ってもらうか。なんて事を一樹が考えていると、その雨宮から思いがけない提案をかけられる。

 

「……いいのか?」

「ああ」

「じゃあ……、お願い…シマス……」

 

 一樹がそう言うと、雨宮はクールに「任せろ」と笑って降りていった。あのクールさが、怪盗団のリーダーには必用なんだろうか。一樹はそんな事を考えながら、雨宮を見送った。

 

 

 

 

「ウッマ!!」

 

 マスターに事情を説明して厨房に入った雨宮が手慣れた様子で作り上げたカレーは、先日食べたルブランカレーに比べても辛かったが、とても美味であった。

 

「……ヨシ」

 

 一樹の対面に座った雨宮も一口食べてガッツポーズをした。野菜の皮剥きすら出来ない一樹からすれば、魔法の様な手腕であった。

 

「……」

 

 それから一言も話さずにカレーをかっ込む雨宮を、一樹は様々な感情が篭った目で見つめる。

 

 読書スピード、料理の手際、なによりも懐の大きさ。雨宮に格の違いをまじまじと見せつけられた一樹は、劣等感で胸が締め付けられる。

 

(──大丈夫、俺は…、大丈夫……)

 

 一樹は目を瞑って、胸を軽く叩いて気を落ち着かせる。いつの間にか、雨宮は既に大盛りのカレーを半分は食べている。自分も早く食べなくてはと、一樹は再び手を動かした。

 

 

 悔しい事に、カレーはやはり美味しかった。

 

 

 

【RANK UP】 

 

住吉 一樹

ARCANA 『傍観者』 

 

 ★★☆☆☆☆☆☆☆☆ RANK2

 

【役立たずの仕事】消費アイテムを買ってきてくれる

 

 

 

 

 

「御馳走様でした……、って別にそれぐらいは自分で……ああいや、有り難う」

 

 最期の一口を食べ終えたのを期に雨宮が自然に皿を回収していくのを見て、洗い物くらいは自分がやるべきだと一樹は思ったが、店の厨房に余所者の素人が入る訳にもいかない。一樹はお礼だけ言って自重した。

 

「いや……なんか。悪かったな。今度なんか奢る」

「じゃあビッグバン・バーガー」

「ハハ。今度持ってくるよ」

 

 一樹的にリーダー君が変に遠慮しなかったのは好感が持てる。一樹はちゃっちゃと恩は返しておきたいタイプなのだ。

 

 

「じゃあ、上に戻るか。まだ他にもオススメの本が有るし。……ん?」

 

 雨宮の洗い物が終わったのを見計らって一樹は声をかけたが、丁度その時、一樹の携帯がプルルルと鳴った。一樹はリーダー君から許可を取って電話に出る。

 

「もしもし?」

『ああ一樹? おばーちゃんだけど。今からこれないかしら?』

「えっ? 今から?」

 

 電話の相手は祖母──免許取得の際半額出してくれた方の──つまりは一樹の頭が上がらない相手だった。

 

『あ、今からって言っても2時過ぎくらいでいいから』

「えっ、いや、ちょ……」

『じゃあ、よろしくね~』

 

 祖母は最近耳が悪くなったのに思い込みが激しくマイペースだ。一樹のどもりを肯定だと勘違いして電話を切ってしまった。

 

 2時過ぎでいいと言っていたがここから祖母の家まで1時間はかかる。となると、ここをすぐ出なくては間に合わない。

 

「……あー、と」

「構わない。行ってこい」

「ありがとう……。じゃあ、また……」

 

 とは言え折角色々な本を持ってきたのに、このまま帰るのも阿呆らしい。

 

「まだ読んでない本は置いてくから、読んで欲しい。終わるまで返さなくていいからさ」

 

 持ってきたライトノベルは雨宮の屋根裏部屋に置いていく事にした。どうせ自宅に持って帰っても、本棚の飾りになるだけだ。

 

「続きが気になるなら、ネットで読めるヤツもあるよ。オススメのサイトも教えとく」

 

 エタってなきゃなと、一樹は心の中でだけ呟いた。ちなみに、持ってきた作品は全部一樹が見た時はエタっていた。最近の一樹が好むのは、そんな小説ばっかりだ。

 

「じゃあ、また」

 

 それだけ言い残して、一樹はルブランを去った。




主人公(雨宮 蓮)の会話コンセプトは「好感度上昇選択肢が無い時はネタ選択肢を選ぶ」です。
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