"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Hammer

「ばーちゃーん。来たよー!」

 

 四軒茶屋から電車で一時間。自宅からは徒歩で十五分の場所にある祖母の家に、一樹はやって来た。

 

 呼び鈴を鳴らしても反応がなかったので、一樹は預かっている鍵を使って家の中に入る。

 

「ばーちゃーん。入ったよー」

「あ~ら一樹。もう来たのね。気づかなかったわ。チャイム鳴らしてくれればよかったのに」

「鳴らしたけど出てくんなかったんだよ」

「あらやだ。また耳が遠くなったかしら」

 

 祖母は玄関にいる一樹の元へ駆け寄ってくる。何をやっていたのか、額に汗が浮いていた。祖母は倉庫に使っている一部屋に居たらしい。

 

「で、俺は何すればいいの?」

「いやね。もう8月も終わりじゃない? それで本当はもっと早くやった方がよかったんだけどね。ほら今年は色々忙しかったじゃない……」

「で! 何すればいいの?!」

「ああ、そうそう。倉庫の中の物をお天気干ししたいのよ。一樹は、屋上まで段ボールを運んでちょうだい。後は私がやるから」

 

 倉庫の中には床も壁も見えない程に大量の段ボールが積まれている。中に何が入っているのか一樹には分からないが、年老いた祖母では運ぶのは難しいだろう。

 

 一樹が入ってきた時も、段ボールを動かそうと四苦八苦していたらしい。

 

「了解。全部運んで良いんだよね?」

「ええ。よろしく」

 

 そう言って祖母は先に屋上へ上がっていった。一樹は体格だけは良いが、力仕事が得意と言えるほど筋肉があるわけでもない。1時間かけて、ようやくほとんどの段ボールを屋上に持っていく事ができた。

 

 残りはダンダンダン!と三段階に積まれた大きめの段ボール3つだけだ。書類が詰め込まれて重そうだが、これくらいなら後十五分程で終わるだろうかと、一樹は考える。

 

「……ん? なんだこれ?」

 

 一番上の段ボールを持ち上げた所、その裏から段ボールに挟まれる様に突き刺さっていた薄汚い棒が見えた。

 

 今までも倉庫の中から壊れた折り畳み式テーブルなり何年も昔の戦隊ヒーローの玩具の箱なりが出てきたが、ここまで得体の知れない物は初めて見た。

 

「んっ 意外と……」

 

 

 一樹は一旦持っていた段ボールを下ろし、薄汚い棒の正体を確かめるべく引っ張ったが、思いの外重く、抜く事が出来なかった。

 

 一樹は少々意地になり両手を使い足腰に体重をかけて引っ張ると、今度は想像より早く抜け、一樹はバランスを崩して倒れそうになる。

 

「ん、おっわっと! ……何だこれ? ハンマー?」

 

 薄汚く、意外と長かった木製の棒の先には、錆びて元の色が分からなくなった金属の塊がくっついていた。

 

「なんだこれ。車両脱出用のハンマーじゃねえな。スレッジハンマーか?」

 

 一樹は棒の先端を持ち、まじまじとそのハンマーを観察する。何処か、懐かしい感じがした。それにしても、と一樹はハンマーを床に置く。このスレッジハンマーはやたらと先端が重かった。

 

 一樹の目算だが、先端の金属塊だけで5、6キロは有りそうだ。何故こんな物が……と一樹が考えていると、不意に電話が鳴った。

 

 祖母からだ。

 

「あっ、やっべ」

 

 今が仕事中で、祖母を屋上に待たせている事を思い出した一樹は慌てて放置していた段ボールを持ち階段をかけ上がった。

 

 

 

 

「ふぅ。有り難うね一樹。助かったわ。日干しが終わったら、倉庫に戻すのもお願いね」

「……うへぇ」

 

 全ての段ボールを屋上に運び終わった一樹は、リビングルームで大量に流れた汗を拭き、水分を取り返すべくお茶をガブガブ飲んでいた。

 

「あ、そう言えばさばーちゃん」

「ハイハイどうしたの一樹」

「あのさ、倉庫の段ボール運んでたらさ、なんかでっかいハンマー見つけたんだけど、あれ何?」

「ハンマー? あら懐かしい! おじいちゃんの仕事道具よ。まだしまってあったのねぇ……」

「やっぱり……」

 

 一樹の祖父は数年前に他界しているが、一樹が物心ついたにはもう隠居していた。一樹にあのハンマーが見覚え有るのは何かの機会で祖父に見せてもらっていたからだろう。

 

 納得した所で一樹は本題を切り出した。

 

「それでさ……、あのハンマー、俺にくれない?」

「ハンマーを? 何で?」

「いや…、ええっと……」

 

 恐らく、あの巨大ハンマーは認知世界における一樹の近接武器に使える。

 

 雨宮は怪盗団の近接武器をミリタリーショップで購入しているらしいので、交換できるのは間違いないだろう。くぎ抜き付きのハンマーよりは、スレッジハンマーの方が強いだろう。

 

 別に近接武器が強くなった所でペルソナが使えなければ、 怪盗団と共に戦えないが、試してみない理由は無い。

 

 だがしかし、それをそのまま祖母に説明する訳にもいかない。一樹は必死に言い訳を考える。

 

「ほら…… 学校で文化祭が近いじゃん? その時に使えそうなんだよね。あっ 当然飾りとしてだよ? 人には向けないから」

 

(──シャドウとかいう化け物には向けるかもしれないけど。)

 

「へえ。まあ、別にいいわよ。忘れてたくらいなんだし、使い終わったらそのまま処分しちゃっていいわ」

「えっ いいの? 一応じーさんの形見でしょ?」

「だってあんな重くて大きな物、飾ってられないわよ。倉庫の肥やしにするくらいなら、捨てちゃっていいってあの人も言うわ」

「ああ、そう。有り難う」

 

 それからまた屋上の物を一階倉庫まで運ぶ力仕事を済ませて、祖母に夕食を食べさせてもらってから、一樹は祖母の言葉に甘えてスレッジハンマーを持って帰った。

 

「ふう……」

 

 同じような言い訳で親を誤魔化して、自室にハンマーを持ち込みんだ一樹は額の汗を拭った。何しろハンマーが重い。先ほど重量を測ったら、全体で8キロも有ったのだ。

 

 もしこれを自由に振り回す事ができれば、自分でも戦力になるのではないだろうか。一樹は筋トレする事を考慮に入れた。

 

「って、こうしちゃいられないか」

 

 今から家を抜け出して、一樹はメメントスに侵入するのだ。その為に、リーダー君からアプリの使い方も注意点もそれとなく聞いてある。

 

 と言っても、認知世界素人の一樹はシャドウの出る所まで行く気は無い。安全地帯で近接武器と、ランチャーの撃ち方を確認するだけだ。

 

 念のため認知世界では回復アイテムになるらしい菓子パンだの薬だのを集めたが、危険そうならすぐ戻ってくるつもりだ。

 

「よし。行くか!」

 

 一樹は深く息を吐き、渋谷駅へと向かった。

 




「トンカチよりスレッジハンマーの方が強くね?」となって設定を変えたのはここだけの秘密……。
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