「ん……。久しぶり、でもないか」
荒廃した駅のホームの様な、不思議な空間。そこに真っ黒な軍服、緑のプロテクターにハーフガスマスクを装着した、怪盗姿の一樹は来ていた。
二度目故に驚きはしないが、矢張少々恥ずかしい格好だと、一樹は自分の特殊工作員みたいな服装を思う。
「さて、と……」
本題である武器の試し打ちに取り掛かるべく、一樹は気合いを入れた。
まずは、近接武器からだ。以前は腰に付いていたハンマーは、無くなっている。
(──心の中で想像して取り出すんッ……うわっ!」
以前と同じく突然出現した質量に堪えかねてバランスを崩してしまったが、一樹は何とか近接武器を呼び出す事に成功する。
そしてそれは──
(──やっぱり、こっちなんだな。)
一樹の手に現れたのは、祖父の形見でもあるスレッジハンマーだった。一樹は柄を両手で強く握る。ハンマーは重いが、認知世界で強化されている身体能力なら持てない程ではない。
「ん、よっ ハッ!!」
右から左へ、そして上から下へと一樹はスレッジハンマーを振ってみる。が、ハンマーはまるで水の中にある様にノロノロとしか動かない。
(──ヤバいな。思った以上に重すぎる……)
何とか振る事は出来ても、敵にぶつけた所でマトモなダメージになりそうに無い。一樹は色々と振り方を変えて試してみる。
「ゼー… ゼー… …よし!」
何度も全力でハンマーを振るった結果、回転して遠心力をつけて叩き付ければ何とか威力が出る事は解った。最も、そんなことをやっている内に一回は殴られているだろうが。
「……筋トレ、するかな……」
何よりも何回か全力で振っただけで息切れする方が問題だと、座り込んでしまった一樹は筋トレする事を決意した。
一樹は座り込んで息を整える。
「よっしゃ次は!」
息が整った一樹は気合いを入れて立ち上がり、ミサイルランチャーを呼び出す。流石に今度は転ばずに済んだ。
ミサイルランチャーは無骨だがゴツい見た目をしている。追加のミサイルは持っていないので、一度の戦闘で撃てるのは1発までだ。ならばやはり、上手く撃てるようにならなければ。
(えっと、まず片膝をついて……)
メメントスに入る前にも確認した動画を思い出しながら一樹は態勢をつくる。四苦八苦しながらも何とか動画と同じ形を作る。後は引き金を引くだけだ。
一樹の指に緊張が走る。
一樹の持つランチャーは本物ではない。あくまでミサイルの飛ぶ偽物である。故に専門的な安全装置など付いていない。
だから前回気絶する無様を晒す羽目になった。今回も同じ、もしくはそれ以上の酷い事になるかもしれない。そう思うと途端に、引き金に掛けた指が重くなる。
今メメントスでこうしている事を、怪盗団に伝えていない。それは一人で出来るようになって見返したいという、つまらない一樹の意地故だ。だからもしここで一樹が倒れたとしても、自力でどうにかするしかない。
(──そう言えば、認知世界で死んだらどうなるんだ?聞いときゃよかった。スキルとやらですぐ助かるのか?それとも……、現実でも死ぬのかな。)
一樹は怖くなってきた。何も今ランチャーの撃ち方など試さなくても良いのではないか。もう帰ってもいいんじゃないか。
思考の大半を「逃げ」が支配した。
(──ッ!! そうはいくかよ!)
一樹は頭を振ってその思考を追い払う。彼等なら、怪盗団ならここで逃げなどしないだろう。なら、その仲間に成ろうとしている自分が逃げる訳にはいかないではないか。
一樹は覚悟を決めて引き金を引いた。
「グッ、うぅ……よし!」
ミサイルは真っ直ぐ飛んでいき、その反動は一樹にかかったが、一樹は崩れる事なく耐え抜いた。
成功だ。
一樹は衝撃でプルプルと震える腕を抑えながら喜んだ。この調子でペルソナも覚醒しないかと思ったが、残念ながらそちらは成功しなかった。
「………」
ひとしきり喜んだ一樹は複雑な想いで、ホームへ降りる大扉を見つめる。あの扉の先は、バケモノの跋扈する異色の世界らしい。
(──入ってみたい。)
その考えが、一樹の頭の中で踊っている。
少しだけ、入り口付近を覗くだけならすぐに逃げれるんじゃないか? もしかしたら、それがキーになってペルソナが覚醒するんじゃないか?
都合の良い妄想が、一樹の危機感を塗り潰していく。
「──あっ…」
「……ぶな」
何とか危険な欲望を押さえつけ、一樹は現実世界へと帰ってきた。肉体的な疲れと、精神的な疲れとが合わさって、一樹は倒れてしまいたくなる。
真夜中で人気が無いとは言え、まはか渋谷のど真ん中で寝る訳にはいかない。
(──早く帰ろう。終電も近い)
やらなければならない事は数有るが、今はさっさと帰ってベッドに入りたかった。
こうして夏休みは明けて、新学期が始まる。
■
学校が始まったからと、一樹の身に何かスゴい事が起こる訳でもない。朝起きて学校へ行き、一言も喋らずに学校を終わらせて放課後はのんびり本を読んで過ごす。
時折車を走らせたり、怪盗団のパシリをしたり。高校生としては少々物足りないが、平穏そのものだ。
いつの間にかスーパーで買える消耗品だけでなく、総菜屋の限定品だの、怪しい店のモデルガンだのの買い出しも頼まれるようになっていたが、それも些細な事だ。
そんなある日。
「いらっしゃい」
「……どうも」
四軒茶屋の喫茶店『ルブラン』に、一樹は足を運んでいた。
珍しくカウンター席にお客が居ると思ったら、モルガナを膝に乗せたハッカー少女だった。
「コーヒー、一杯お願い、します」
「──はいよ」
一樹はマスターの淹れたコーヒーを受け取り、端っこのテーブル席に座る。
一口、コーヒーを含む。相変わらずの美味しさだ。
「そう言えば、今日は、彼は……、雨宮はいないんですか?」
「ん? アイツらは修学旅行だ。明日か明後日には帰ってくるけどな」
「ああ…… そう言えば、二年生はそうでした、ね」
ここ数日、いくらか学校が静かだった事を一樹は思い出した。丸々一学年いなくなって気付かない一樹も大概である。
「修学旅行、ですか。自分、集団行動の時以外はずっとホテルで本読んでました、ね」
「おいおい。寂しい事やってんな……」
思い出すと、本当に寂しくなってくる。一樹も去年ハワイに行ったが、一樹に青いビーチの記憶など無いに等しい。
モルガナと遊んでいたハッカー少女が口をはさんでくる。どうやらモルガナの代弁らしい。
「マコトも付いて行ったぞ」
「えっ、何で?! 3年生なのに?!」
「引率」
「ああ……、なるほど……」
言われてみれば、自分のクラスにもここ数日空いている席があった、気がする。ボッチでクラスメートとの関わりの薄い一樹には、教室の事などあまり思い出せないが。
「Zzz……」
「─、──! ────!」
「……ハッ」
いつの間にか、一樹は寝ていたらしい。
一樹は寝惚けた目を擦りながら壁時計を探すと、モルガナを抱えて二階へと駆けていくハッカー少女が見えた。
少し様子が気になったが、一樹はそれよりもカウンター席に座っている新たな客の方が気になった。
(──このおっさん……、 何処かで見たことがある、ような?)
一樹の席からでは後頭部とかけているメガネくらいしか見えないが、それでも一樹には既視感があった。しかし、まだ寝ぼけて回っていない脳から答えは導けない。
一樹が首を捻っていると、気配を察したのかマスターと話していたおっさんが振り向いた。一樹は目を逸らそうとするも既に遅く、バッチリおっさんと目が合ってしまう。
「……あっ!」
一樹はおっさんと見つめ合ったまま少し固まってしまうが、おっさんが何かを思い出して近寄ってくる。
「君、秀尽の生徒……、だよね?」
「?! ………あっ! カウンセリングの……?」
正面から顔を見た事で一樹も、初日からマイクに頭をぶつけた愉快なおっさんの事を(名前以外)思い出した。
少々草臥れたメガネのおっさんは、秀尽学園の非常勤スクールカウンセラーだった。
キンクリされた一樹のコープイベント
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