"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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ようやくバトル回です…


First Battle

「なるほどねぇ……。ルブランでそんな事が……」

 

 一樹は車を運転しながら、隣の座席に座っているモルガナから事情を聞いていた。

 

 モルガナの言った事を要約すれば、最近調子に乗っている怪盗団メンバーに(ないがし)ろにされていて、挙げ句には怪盗団にモルガナはいらないとまで言われたらしい。

 

 それに怒ったモルガナは怪盗団を抜けて、1人で次のターゲットであったパレスに向かっていた所を、偶然一樹と遭遇したらしい。

 

「って、別に良いんだけどさ、怪盗団には『一人でやる』って言っちゃったんだろ? 俺を誘って良かったのか?」

 

 俺じゃ一人分の役にも立たない、ってことなら別だけど。と一樹は言いそうになったが、それはこらえた。

 

「フン。アイツらは初心者のイツキと違って何ヵ月も怪盗をやってるんだ。そこでワガハイとお前の二人でパレスを攻略すれば、ワガハイの有り難さがあいつらでも分かるだろうさ」

「ふーん? まあ、モルガナがよけりゃそれでいいんだけどさ。──と、着いたぞ。このビルだよな?」

「おお! やっぱりクルマだと早いな!」

 

 モルガナに頼まれて一樹がやって来たのは、あのビックバンバーガーで有名な大企業、オクムラフーズの本社ビルだった。

 

 そこは本社と言うだけあり、何階まであるのかすら分からない高層ビルで、既に日は沈んだのにも関わらず漏れ出すオフィスの明かりが、その存在感を強めていた。車から出ていない一樹たちは一切気付かなかったが。

 

「……よし、キーワードの設定ができるぞ。これでパレスとやら入れるんだよな?」

 

 イセカイナビをいじくって準備を終えた一樹がモルガナに問うが、モルガナは躊躇してキーワードを教えない。

 

「……なあ、ここまで連れてきて何なんだが、覚悟はできてるか?怪盗はお遊びじゃない。失敗すればパレスの主を廃人にするかもしれない……。いや、最悪オマエも命を落とすかもしれないんだぞ。

 

 ましてや──」

 

「待って。それ以上言う必要は無い」

 

 一樹はモルガナの言葉を止める。

 

「そんなこと、夏休みに新島から誘われた時から覚悟してる。それに……、ちゃんと指導してくれるんだろ? 先輩」

 

 それに、必要になった時だけ頼られて、用が済めば礼も無くそれで終わり。そんな冷酷な扱いをされる怒りも、見返したいと想う心も、一樹はよく分かっていた。

 

「……ああ! 無論だ。任せとけ!」

 

  感涙極った表情モルガナからキーワードを聞き出した一樹はイセカイナビを起動させた。

 

 ……一樹がこの時、ルームミラーを見ていたら、または近くを彷徨(うろつ)く少女を見つけていたら、展開が変わっていたかもしれない。

 

 しかし、今の一樹にそれを求めるのは酷な話だ。彼は『物語の役者』の一人になれた興奮に飲まれて、注意など散漫していたのだから。

 

 

 

 

 

 

「これが……、パレス」

「ああ。ここまでデカいのは流石にワガハイも初めてだがな」

 

 グラリと視界が歪み、次に目を開けた一樹の視界に広がったのは『宇宙船』、もしくは『宇宙ステーション』とでも言うべき空間だった。

 

 一樹はそこに、いまだ見慣れぬ軍服もどきの怪盗服で立っていた。隣には当然のように二頭身のモルガナが立っていたが、一樹はなんとか悲鳴を抑える事ができた。

 

「既に警戒されているな。窓ガラスが割られたせいか?」

 

 怪盗チャンネルの改心ランキングで奥村社長が一位になってから、ビッグバン・バーガーの本社に細かな嫌がらせが発生している事は、一樹もニュースとして知っていた。

 

「でもやる事は変わらないんだろう? うんじゃまず何すれば──」

 

『何者だ貴様ら! 』

 

「ッ?! しまった、警備員がいたのか!!」

 

 二人がパレス入り口で会話していると、体格のおかしい警備員の様なナニかがいきなり現れた。

 

『まさか、貴様ら侵入者か!』

 

 警備員の様なナニかは聞いてきたクセに答えを聞かずそう判断するや否や、いかにもな化け物に変身する。

 

「あれが…シャドウか!」

「ああ。こんな所ででくわすとはな… …。イツキ!」

「ウォッ! な、なんだ?」

「この戦い、ワガハイはサポートに専念する。コイツをイツキ一人で倒すんだ!」

 

 モルガナが真面目な顔でよく分からない事を抜かしてる。一樹は数秒、モルガナの言っている意味が飲み込めなかった。

 

 そしてなんとか飲み込み──

 

「は、ハア?! 何言っていんだ! 俺は怪盗初心者だぞ、リードしてくれんじゃないのかよ!」

「二人でこのパレスを攻略するのなら、こんな雑魚、一人で倒して貰わないと困る。既にお前には戦闘のイロハは教えている。それにお前、実はコッソリ特訓してただろ?」

「うっ……」

 

 8月終わりに確認の為にメメントスに潜って以来、一樹は筋トレとスイングの練習を始めていた。モルガナは以前会った時よりも、確かについている一樹の筋肉からそれを悟ったのだ。

 

 それにしたってモルガナは想像以上な無理難題を吹っ掛けてきた。しかしパレスに侵入する前に「覚悟はある」と言った手前、一樹は引く事もできなかろう。

 

「ああ……クソッ! やるよ、やってやる!」

「よし! それでこそ怪盗だぜ! なに、心配すんな。回復はしっかりしてやるからな!」

『打チノメシテヤル。侵入者メ!』

 

 一樹は覚悟を決めて、祖父形見のダイナミックハンマーを取り出す。

 

「おおっ!随分気合いの入ったハンマーじゃないか!」

「ま、諸事情有ったんだッ……。オラッ!」

 

 敵は、いかにも魔物然とした毒々しい色をした蛾の怪物(モスマン)。一樹は先手必勝とばかりにモスマンへ近づきわダイナミックハンマーを振りかぶる。が、敵は遠心力を付けている一樹へ一撃を喰らわせた。

 

 一樹が痛みを感じ悶えるよりも速く──

 

「≪ディアラマ≫! 回復は任せろと言っただろう? さあ! 一撃を喰らわしてやれ!」

「ありがとよ!」

 

 モルガナの回復スキルにより一樹のダメージが消え去った。

 

(──今のが回復スキル……。流石異世界、スゲえな!)

 

 一樹はさっきのお返しにと全快した力でハンマーを振りかぶり、モスマンを思いっ切りぶっ叩いた。が、

 

「……モ、モルガナ? 効いてる感じがしないんだが……ってうわぁ!」

 

 モスマンは少し仰け反っただけで、大したダメージが入った様には見えない。事実モスマンは何事も無かった様子で一樹に襲いかかる。

 

「物理への耐性持ち……って感じじゃないな。単純に威力不足か……」

「なっ、嘘だろぉ!」

 

 健康体の男が全力でスレッジハンマーで殴って、威力不足。これが認知世界かと恐れながら一樹は何とかモルガナの横まで撤退する。蛾モドキはモルガナを警戒してか追撃を仕掛けてこない。

 

 仕切り直しになったようだ。

 

「どうすりゃいいんだ! 俺はお前らみたいにスキルが使えないんだぞ!」

「いや、ワガハイの見立てだと、あいつの弱点は銃撃だ。一発重いの喰らわしてやれ!」

「お、おう分かった!」

 

 一樹はロケットランチャーを取り出して、モスマンに向けて構える。蛾モドキは危険を察してか、電撃をこちら全体にばらまく攻撃を仕掛けてきた。

 

 モルガナは上手に避けたが、ランチャーを構えて狙いを定めている一樹はそうもいかない。

 

(──痛い……。でも、動けなくなる程じゃない!!)

 

「ぐっ、うぅ……」

「【ディアラマ】! 良く耐えた!! さあ、ぶっぱなせ!」

「ッ、撃つぞ!」

 

 一樹の放ったミサイルは、見事モスマンに着弾して爆発した。

 

 今更だが、一樹はこのロケットランチャーなら複数の敵をまとめて狙えそうな事に気が付いた。これならばしっかり狙わなくても敵にダメージを与えられるだろう。

 

「よし、ダウンしたな! いくぞ、総攻撃だ!」

「りょ、了解!」

 

 一樹の狙撃によりへばっている蛾モドキを、一樹はモルガナにならってタコ殴りにする。

 

 ──MISSION ACCOMPLISHED!! (ミッション完了)

 

 ひとしきりボコボコにすると、モルガナが何処からか椅子と葉巻を取り出してキメポーズをとり、その背後でモスマンが明らかに致死量の血を吹き出した。

 

「えっ?! 何それ、どうなってんの!」

「フッ。ここは認知世界だからな。イメージが重要なんだよ!」

 

 よく理解できないが、そう言う物なのだろう。一樹は取り敢えずそう納得する事にした。

 

「兎に角、敵を撃破だ! 初戦にしてはよくやったじゃないか!」

「あ……あぁ。サンキュ」

 

 生まれて始めての戦闘でテンションが上がっていたが、興奮が冷めて思い返せば、自分は何もしていない。思ったよりは動けたし、確かに銃撃をしたのは自分だが、モルガナ一人で事足りていた事だ。

 

 弾の都合上一度の戦闘に一度しか撃てないランチャーに、全く効果のないハンマー、スキルすら使えない自分は足を引っ張っているだけ。

 

 やはり、自分はここでも役立たずなのだろうか。一樹はガスマスクの裏で自嘲した。

 

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