「っ! モナ!!」
運が良かったのか、シャドウに捕まる事なく奥に進んだDRとクラスメイトの女子は、そこで倒れたモナを発見した。
「え……?」
クラスメイトがポカンとしている。DRがモナとは猫モドキのナニかだと伝え忘れていた為だが、今のDRにそれを気にする余裕は無かった。モナは柱の影に隠れる様にして倒れている。酷い傷だ。DRは辺りを警戒する事も忘れて、倒れるモルガナに駆け寄った。
「うう…、イツキか……」
「モナ! くそ……、大丈夫か?!」
「なんとかな……」
モナは喋るのも辛そうな様子だ。DRは慌てて懐から回復アイテムを探る。DRが取り出したのは缶ジュースだ。DRも使った薬の方が回復力はそうだが、傷付いているモナには液体の方が摂取しやすいだろうと判断したからだ。
「飲めるか?」
「ああ……」
モルガナは始めは大人しく飲んでいたが、徐々に渋い顔になっていった。感覚が戻ってきたのだろう。
「イツキ…、これ、凄いクサイぞ……」
「まあ……、これドリアンオレだからな」
「ケガ人になんてモン飲ませてんだ!」
「雨宮に言われて買ったモンだから、文句はアイツに言ってくれ。ホラ」
多少は体力が回復したらしいので、DRは残っていた錠剤をすべて渡した。モナはそれを飲み込んだが、苦そうにしている。ドリアンの臭みが口の中に残っているらしい。それでも何とか薬を飲み込むと、みるみる傷が治っていく。相変わらず凄まじい回復力だ。
怪我が治った事を確認したモナはスパッと立ち上がり、手足を振って体の調子を確認する。絶体絶命の危機から助かった事、そしてDRが助けに来てくれた事で、モナの表情は明るい。
「よし! 助かったぜ、DR」
「ああ、うん。よかったよ……」
逆にDRは、本命であったモナの救出に成功しながらもその声色は暗い。後ろで成り行きを見守っていたクラスメイトが口を開く。
「あ、あの……」
「ん?……んな?! な、ナゼここに一般人が?!」
「ああ……。やっぱ気付いてなかったか……」
死にかけていてクラスメイトを認識していなかったモナがついにクラスメイトの存在に気付いた。
(──さて、どう説明すべきかな……)
そうDRが悩んでいる間に、クラスメイトは自分で事の成り行きを説明する。
「えっと……。私、巻き込まれちゃって……」
DRが来るまで出入口付近に隠れていた事、無理を言ってここまでついてきた事、DRとはクラスメイトである事も口早に話していく。
「うーむ……。お嬢さん! ちょっと待っててくれ!」
「えっ」
「DRはコッチだ!」
「えっ?ちょっ 何処に……」
クラスメートの説明を聞き終えたモナがDRを引っ張って、クラスメイトに声が届かない所まで連れていく。モナはそこでDRに膝をつかせて視線を合わせる。ひそひそ話をしたいらしい。
「彼女はどこまで知ってるんだ?」
「……割りと全部。俺とモナが怪盗団だって事はバレてるし、ここが認知世界だってのも理解してる」
「まあ、ここでそんな格好してたんだ。DRの正体がバレたのはしょうがない。だが、他の奴等については?」
「そこら辺の話はしてない。……悪いな、勝手に連れてきちゃって。仮入団でしかない俺が一人で決める方が不味いかと……」
「別にいいさ。取り敢えず、彼女にはここの事を秘密にしてもらう方向で話を進めよう」
「了解。クラスで気まずくなるな……」
「それはしょうがないな!」
DRは膝たちを止めて、モナと共にクラスメイトと交渉すべく気合いを入れた。
「待たせて悪かったな!」
「え? あ、いや……」
モナに話しかけられたクラスメイトはいくらかおどおどしている。二足歩行する猫モドキとの会話は、慣れるまで少し怖いものだ。それを知ってか知らずか、モナは上手く会話の主導を握っている。
「そう言えば、名前を聞いていなかったな!」
「え?あ、モルガナちゃん?には自己紹介してなかったね。私、奥村 春 といいます。よろしくね」
「……え?」
(……オクムラ、だと?)
DRが動揺しながら横を見れば、驚愕でプルプルと震えているモナがいる。きっと、自分も同じ様を晒しているのだろうと、クラスメート……奥村の爆弾発言に驚愕するDRは思った。
「あ、あの…、アンタはもしかして……、オクムラフーズと関係あったりするのか……?」
奥村はDRの質問に、意外な事を聞かれたと言いたげな表情で肯首した。まるで「知ってて連れてきたんじゃないの?」とでも言いたげだ。それを見たDRはモナの首根っこを掴んで先ほどひそひそ話をした所まで慌てて引っ張っていく。
「ど ど どどうする?! 標的の娘だぞ!?」
「ど ど どどうするも何も、オマエが連れてきたんだろうが!?」
「や、やばい……やばい、よな? これ親とか警察に告げられたら……」
「い いや、なんとかここで説得して……」
「アンタの親を改心させていいですか、ってか?そんな悠長な事してる余裕は……。い、いっそのこと、ここでふんじばっちまって……」
「バッ! お、落ち着け! ワガハイたちは義賊なんだぞ!!」
自分でも過激な事を言っている自覚は有るが、それをやりそうな程にDRは焦っていたのだ。奥村が近付いて来ているのに気が付かない程に。
「あの……」
「ヒッ!? な、なんでしょう?」
「ここは、お父様の精神世界……なんだよね?」
「そ、そうだな。奥村社長の歪んだ認知が、このパレスを形作ってるんだ」
それを聞いた奥村は悲痛そうに顔を歪める。
「それじゃあ……、あのロボットたちを壊れるまで酷使しているのも、一樹君やモルガナちゃんにひどい事をしたのも、全部……お父様の心なのね?」
奥村の気迫に負けて、DRとモナはこくりと頷いた。
「そう……。私、知っていたのに……、見ていなかった……。いいえ、見て見ぬふりをしていた!」
奥村はそう慟哭する。
「私はもう、目をそらしたくない! ──! うぅっ!」
突如、奥村は頭を押さえて膝から崩れ落ちた。彼女は踞ったまま、頭を抱えてもがき苦しむ。知っている、いや、DRも体験したことのあるこの突然の光景。
「なっ! モナ、ま、まさかこれ!」
「ああ……! 覚醒だ!」
崩れ落ちた奥村は一樹とモナには聞こえぬもう一人の自分と話し、覚悟を決めた様子で立ち上がる。その顔には、いつの間にか黒いドミノマスクを着けていた。
「これは私の、覚悟です!」
そのマスクを勢いよく剥ぎ取ると、奥村は蒼い炎に包まれる。ポカンと間抜け面で二人が眺めている内に蒼い炎は消え去り、奥村は中世の騎士の様な服装に変わっていた。
しかし……
「……? ペルソナが──」
「──いない……?」
■
「多分……。DRと同じ理由だと思うんだが……」
安全な場所に移動してからモナが羽根つき帽と少々派手な騎士風の格好をした奥村をしげしげと調べるが、やはり理由は分からないらしい。
「これが……」
春はモナに調べられながら、自分でも不思議そうに自分の姿を見ていた。自分もメメントスで同じ事をやってたんだろうなと、シャドウに警戒しながらその光景を眺めているDRはなんとなく思った。
「で、どうする?」
「え?どうする……って?」
「あー、だから……、身の振り方……とか?」
いくら鈍いDRといえど、今までの会話やパレスをみた奥村の反応から、奥村家の家庭環境はなんとなく察せている。奥村はもう叛逆の意思などについては既にモナから教わっている。後は、奥村の気持ち次第だ。
つまりは怪盗団に入るのか、否か。そして父親に従い続けるのか、抗うのか。DRはそう奥村に問いかける。
「………私は怪盗団に入りたい。いや、入れて欲しいの! お願いします!」
「まあ、歓迎するよ。よろしくな、奥村サン」
「ワガハイも異論はない! 歓迎するぞ、ハル! だが覚悟しておけよ? DRと一緒にビシバシ鍛えてやるからな!」
「うん! よろしくお願いします!」
こうして、モルガナと一樹の仲間に奥村春が加わった。