奥村が覚醒した後、2人と1匹はパレスから脱出して近所のファミレスへ移動した。夜遅かったので、24時間営業のレストランはありがたい。2人と1匹は適当に注文して雑談する。
「それにしても、あの怪盗団さんが同じ学校の生徒だったなんて……、ビックリしちゃった」
「ま、驚くよな。俺としちゃ、たまたま巻き込まれたのがターゲットの娘でクラスメートで、しかも俺と同じくペルソナが出てこないって偶然に驚いてるけど」
「世界は意外と狭いからな!……ニャフッ やめろー」
ファミレスに入れないモルガナは今、一樹のカバンから頭だけを出してこっそり侵入しており、その頭を一樹に撫でまわされている。ペットを飼った事のない一樹に猫の感触は珍しいのだ。
注文したポテトを一樹にコッソリと食べさせてもらっていたモルガナがそういえばと口を開く。
「そういえば、イツキは春と普通に喋れるんだな」
「え? あーたしかに。あの時は慌ててたし、奥村サンにはそれで慣れたのかもな」
「私の事は春でいいわ。クラスメートだし……、私たちは怪盗団の仲間でしょう?」
「……そうだな。じゃ、これからよろしく。……春」
「ええ! これからよろしく、一樹君!!」
一樹が気恥ずかしそうに名を呼べば、春は満足そうに頷いた。
「よし! 現実世界の問題が解決した所で次ばパレスでのコードネームを考えないとな!」
「コードネーム……?」
「あーほら、怪盗団だからさ。本名で呼ぶ訳にはいかないじゃん?ちなみに、モルガナはモナ。俺は……DRってコードネームがある」
「わぁ! カッコいいね!」
「………ども」
春はうーんと少し考える。
「じゃあ、ノワールって呼んで下さい!」
「ノワール?」
「うん。フランス語で"黒"って意味でね、闇から闇へ悪を打ち倒すヒーローなの!」
楽しそうに設定を語る春。どうにも変身ヒロインが好きらしい。設定が随分と作り込まれている。きっと即興ではなく、常日頃から想像して楽しんでいたのだろうと、そこは卒業した一樹は思う。
「いいんじゃないか? さしずめハルは"美少女怪盗"って所だな!」
「プッ! ……ククク。いいんじゃないか? 似合ってるよ」
「もう! それなら一樹君は"ワイルド仮面"ね!美少女怪盗のライバルで、仮面の下は神秘に包まれてるの!」
「止めろ。悪かった、悪かったよ。謝るから」
その設定は卒業した一樹にはイタい。
(──てか、神秘に包まれてるのに"ワイルド"なのか。)
口に出してツッコミそうになったが、口にしたら更に設定を深堀りされそうなので、一樹は傷の浅い内に言及を止めた。
「まあとにかく! オタカラ目指して頑張ろうじゃないか! DR、ノワール!!」
「ええ!」
「……ラジャ」
それでと、春は楽しそうに鞄に入ったモルガナへ訊く。
「これから、具体的に何をやるの?」
「ウウム、ホントはパレスの攻略を進めたいんだが……」
「俺も春も素人だしなぁ」
「うむ。ワガハイも性急すぎた! 悪かったな、イツキ」
「別にいいさ。死ななかったし。あの危機でペルソナが出てくれりゃ文句なかったんだけどな。──で、何やんだ?」
モルガナの考えは、まず怪盗団として戦闘の経験を積む案であった。つまりは"怪盗お願いチャンネル"を使った、メメントスでの改心である。
「メメントス……?」
「集団心理だか何だかの認知世界だ。ナルホドな。確かにあそこは野良のシャドウがウジャウジャいるから、レベル上げにはピッタリの場所だ」
「だろ!」
全会一致は怪盗団の鉄則である。一樹も賛成だったが、特に春がやる気だったためモルガナの案で可決した。
「と、そうだ春。お前の家、猫大丈夫か?」
「猫? モナちゃんのこと?」
「そう。うちのマンションはペット禁止なんだよ」
「なっワガハイは猫じゃ──」
「いいの?!」
「うおっ 思ったより積極的」
曰く、パレスにいた時から気になっていたらしい。モルガナと話すときにソワソワしていたのは恐怖の為ではなかったようで、春は一樹の鞄ごとモルガナを受け取る。
「じゃあ次は、渋谷駅で」
「うん、またね!」
次の集合日を決めて、その日は解散となった。
■
次の日、一樹は純喫茶ルブランに来ていた。昨晩は途中でモルガナとパレスに行ってしまって渡し損ねていた配達を終わらせる為だ。
使った錠剤はおっかない医者に怪しまれながらも買い直し、冷めきったバーガー等は泣く泣く一樹が処理して、一樹は1日遅れで頼まれていた物をルブランへ持ってきた。
「悪かったな、遅くなって。いきなり用事入っちゃって……って、大丈夫か? 」
「……いや。問題ない」
雨宮はいつもどうりに荷物を受け取って代金を払うが、寝不足が見てとれる程にフラフラしている。この様子だと、昨晩一睡もしていないのかもしれない。
「大丈夫か? おーい。……行っちゃったよ。えっと、……何が、あった、んだ?」
一樹の話を聞いているのかいないのか、雨宮は受け取った荷物を持って二階へと上がってしまった。仕方なく、一樹は奥の席で悲しげに座っているハッカー少女に話を聞く事にした。
「……モナが、帰ってこない……」
「えっ、と……猫、出てっちゃたんか?」
ハッカー少女はコクリと頷いた。やっぱりあいつのせいかと、一樹は心の中で呟く。顔に出さないようにしなければならない。
「そーじろうはすぐ帰ってくるって言うけど……、昨日一晩中探したのに……」
「そりゃ……大変、だな」
ハッカー少女と話している内に、雨宮がフラフラしながら下りてきた。
「おーい、大丈夫か?」
「……ああ」
「っ! おいおい! 無理すんなって!」
何とか一樹らの所まで来た雨宮がついにバランスを崩した。何とか一樹が抱きかかえたが、対応が遅れれば雨宮は地に頭をぶつけていただろう。
「あー、と……熱はないな。……ホントに寝ないで一晩中ぶっ通しで街を歩き回ってたのか」
マスターが一樹と入れ違いで出ていってしまったのが悔やまれる。マスターならガツンと言ってくれただろうに。
「なあ君、悪いけど、リーダー君二階に寝かせてくる。──モルガナが戻って来たら教えて」
「お、おう。任せろ」
動揺するハッカー少女を尻目に、一樹は心ここに有らずとフラフラ歩く雨宮を無理矢理ベッドに放りこんだ。
「一時間でも寝りゃ楽になるだろうし、無茶すんな」
「……モルガナ」
「……はぁ」
うなされる様に呟く雨宮を見て、一樹はついため息を吐く。首を突っ込みすぎるとモルガナとの関係がバレるのでほどほどに済ませるつもりだったが、ここで一樹の気が変わった。
「あのさあ雨宮君よ。多少は俺も事情を聞いたけどさ。ぶっ倒れる程に探し回るくらいなら、なんでモルガナのことを邪険に扱ってたんだよ」
「邪険に……なんて、して」
「されたと思ったから、モルガナは逃げたんだろ?」
質問していながら、一樹は雨宮に被せるように畳み掛ける。
「……分かってた。分かってたんだ。あいつが、最近機嫌悪いって。でも、俺は……」
仲間との空気を優先してしまったと、そういう訳らしい。一樹は少し呆れた。
「勝手に"いじられキャラ"なんてもんにして、それで反抗したら空気読めねーって文句言うの、お前らが嫌いないじめと一緒だぜ?」
「……うぅ。……謝らないと。早く……」
「おいおい無茶すんな。いいから一回寝ろって」
無理に起き上がろうとする雨宮を一樹は制した。雨宮は窓の外を見る。いつの間にか雨が降っていた。
「モルガナ……。もし今あの雨にうたれてたら……」
(──いや、豪邸で美少女にもてなされてるぞ。)
「モルガナは残飯なんて漁れないから……、腹をすかせてるかもしれない……」
(──さっき、春から中トロたらふく食べさせたって連絡が来てたなぁ。)
「早く……、探しに行かないと……」
「いや、いいから! きっと無事だから! 寝とけって!」
さっきまでの怒りや呆れは何処へやら。一樹は罪悪感で胸がいっぱいだ。
「うぅ……。モルガナ…、悪かった……」
「フフッ…と…。悪い」
無理矢理一樹に寝かしつけられて尚、モルガナに謝り続ける雨宮を見て、一樹はつい笑ってしまう。一樹は雨宮の事を"完璧な奴"だと思っていたが、どうやら実際は想像以上に人間味のある男だったらしい。
「ま、アレコレ終わったら俺も謝るよ。……お前にな」
一樹は雨宮に聞こえない程度に呟き、部屋を出た。
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