「なになに……、集団に暴力をふられた挙げ句に現金を……ってこれ普通に犯罪じゃん」
一樹が雨宮に荷物を届けた後、一樹、春、モルガナの新怪盗団3人は一樹の車の中にいた。車は渋谷駅近くの駐車場に駐めてある。
一樹が運転席に、春とモルガナが後部座席に座り、スマホの情報を共有している。新怪盗団は、一樹の車を臨時のアジトに使っていた。
3人は車の中でメメントスで狙うターゲットを決めるために話し合う。
「イジメとかカツアゲって言ったって、要は暴行と脅迫だろ? 警察に通報した方がいいんじゃ?」
「いや。大方相談できない事情が有るんだろう。相手に口止めされてるとかな」
「なら、私たちが助けてあげないと!」
「……まあ、二人がそう言うなら俺も賛成するけど」
「よし、全会一致だな!」
怪盗団の原則である全員一致でターゲットが決まり、話は横道にそれていく。モルガナがターゲットに予告状を届けに行ったので不在だ。
「そう言えば、オクムラ社長のパレスの、あの開かない扉はどう攻略したもんかな。 下手に触るとシャドウが沸くみたいだし」
「あそこって、お父様の認知なんだよね。なら、私に任せて。多分、私なら開けられるはず」
「あ、そうか。娘だもんな。もし怪盗団がパレスまで追い掛けてきても、あの扉は超えられない。これは大きなアドバンテージだ」
着実にレベルを上げて、パレスを攻略するだけの猶予があるということだ。春ほどではないが、一樹もパレス攻略の意欲が湧いてきた。
(──色々と準備した事だしな。)
一樹は助手席に置いた荷物を見ながら、心の中でそう呟いた。
■
「───おおっ! 話には聞いてたけど、実際に見ると凄いな!」
「スゴいね、モナちゃん!」
「ニャフフ。そうだろうそうだろう」
メターゲットに予告状を渡してきたモルガナと合流してメントスに入ると、モナが車に変身した。本人曰く「猫は車に変身できる」と言う認知を利用したらしいが、だとしても日本人は猫バスが好きすぎるだろう、とDRは思う。
モルガナカーに乗り込んでみればと、想像よりも中は普通の車だった。これならば普通に運転できそうだと、免許を持っているので運転手に選ばれたDRは安心した。
DRが運転席に座ると、何処からともなくモナの声がする。よく見ると、ハンドルにモナの覗いている。少し気味悪かった。
「ここは浅い階層でシャドウも弱い。ワガハイの体当たりでも倒せるが、今日の目的の半分は二人の特訓だ。ターゲットまでの敵としっかり戦ってもらうぞ!」
「了解。俺も試したい物があるしな。ノワールは大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。昨日、一杯特訓したから!」
「特訓?」
「えっとね。斧について色々とインターネットで調べたの。つまり、薪割りの要領って事だよね!」
たしかに斧は薪割りに使う道具ではあるが、 DRはなんとなく怖い気がして、詳しい事は聞かなかった。
雑談しながらも、DRはモルガナカーを運転する。メメントスとは言え、地下鉄の線路上を走るのはDRも初めての経験だが、道はモナが指示してくれるし、シャドウの警戒もノワールがしてくれる。DRは運転に集中するだけでいい。
「む! 前方にシャドウだ。DR、先制攻撃だ!」
「あれがメメントスのシャドウか……。了解!」
薄暗く不気味なメメントスの線路上で、これまた不気味なシャドウが彷徨い歩いている。DRは一瞬だけ躊躇して、車でシャドウを跳ね飛ばす。
「よし上手いぞDR!」
モルガナカーの衝突したシャドウが泥に包まれて、正体を表す。三日月形の頭をしたヒトガタが一体だ。
「ザントマンか……。こいつは風属性に耐性がある。倒せないこともないが、ワガハイの助力に期待するなよ!」
「ええ!」
「りょーかい!」
早速とばかりにノワールが仕掛けた。DRと同じく重量型の武器でありながら、素早い動きだ。ノワールの斧はザントマンを切り裂くが、まだ倒れる様子はない。
「ノワール気をつけろ! 何か仕掛けてくるぞ!」
──≪ドルミナー≫!!
「うっ、少しだけ……、眠り……」
モナが忠告するも遅く、ノワールは呪文にかかり眠りに落ちてしまう。この状態で攻撃を喰らえば、手痛いダメージを受けてしまうだろう。
「しょうがない……。≪メパトラ≫!」
「……っ! ありがとうモナちゃん!」
「おうよ! よし、後は決めてやれ、DR!」
「了解! ハァァア、殴る!」
ノワールに魔法をかけて油断したザントマンを、DRは充分に遠心力をつけた戦槌でぶん殴る。先ほどのノワールの攻撃によるダメージと合わさり、ザントマンは消滅した。
「……よし! 流石はいいハンマーだな」
DRは満足気に持っている戦鎚を眺める。
そう。戦槌である。DRは昨日の晩、怪盗として行動するならと、以前目をつけていた戦槌のレプリカを速達便で買っておいたのだ。
新しいハンマーは何かのゲームに登場する武器のレプリカらしく、実用的な見た目をしていた祖父の形見のスレッジハンマーに比べて少々中二チックな見た目をしている。
認知により強さの変化するこの世界では、"お古のハンマー"よりもレプリカの戦槌の方が強いらしい。形見のスレッジハンマーは捨てる訳にもいかないので、部屋の片隅に装飾品として飾ってある。
「むむ、またシャドウ発見だあ!」
「体当たりだな、よし!」
ザントマンを倒して、車を進めていると再びシャドウと遭遇した。DRはシャドウに攻撃されるよりも早くぶちかます。
シャドウの正体が暴かれる。ライオンの頭を持った巨大な鳥だ。
「アンズーだ! コイツは銃撃に弱い。撃ち落としてやれ!」
「お──」
「わかったわ! こうね!」
DRがロケットランチャーを構えるよりも早く、ノワールがアンズーを撃ち、爆発によってアンズーが地面に叩きつけられた。
「よし! 総攻撃だ!」
地に落ちダウンしたアンズーを三人がかりでボコボコにする。
──Adieu(さようなら)
頃合いを見計らって攻撃を止めると、ノワールが何処からか現れた椅子に座り紅茶を飲みながら決めポーズを決める。
DRよりも先に、認知世界に馴染んだらしい。
(──なのに、まだ俺は……)
DRはハーフガスマスクの下でため息を吐く。
ノワールが軽々と大斧を振り回せるのは認知世界の力だ。DRはいまだ現実世界の常識に囚われているらしく、ノワールやモナほど機敏な動きができない。
それに合わせ、ノワールの銃はグレネードランチャー、DRのロケットランチャーよりも取り回し易くも充分な威力を持つ武器だ。
「……大丈夫。俺は……、大丈夫だから」
DRが居なくとも二人はさして困らないのではないか。DRはプロテクター越しに胸を叩き、その不安を押し込めた。
「どうした? DR」
「あ、いや。何でもない」
「そうか。多分、ターゲットはすぐそこだ。気を張っておけよ?」
「……了解」
モルガナカーに乗り込み、先に進む。
そして……
「うるせえうるせえ! この世は弱肉強食。最後に立ってた奴が笑うんだよ!」
「クソ! ほら、だから話し合いなんて必要無いって言ったんだ!」
今回の改心のターゲット──1人の気弱な少年をグループでリンチにしていた半グレがノワールの正論にぶちギレて、スライムみたいな姿になって襲ってきた。
「おい、コイツ分裂しだしたぞ!」
「へへ……。勝負ってのはなぁ、数で決まるんだよ!」
「クッ……」
「モナ!」
分裂した半グレスライムは1匹を残してモナに襲い掛かる。タイマンなら難なく対処できる相手でも、囲まれればそうもいかない。
「≪ガルーラ≫! こっちは気にするな! オマエラはその1匹を!」
「っ! 了解、撃つぞ!」
「私も! ヤァッ!!」
「ハッ! そんだけかァ……?そんな攻撃利かねぇよぉ!」
「クソ! 見た目通り、やっぱり耐性持ちか……」
モナの助力は期待できない。しかしこの半グレスライムは物理攻撃と銃撃に耐性が有るらしく、DRのミサイルもノワールの繰り出した斧の一撃もダメージになっていない。
「お? まさかお前ら、スキルが使えねぇのかよ? ならこうだなぁ!」
──≪飢餓の叫び≫!!
「なっ……クッ!」
「うぅ~、お腹が鳴りそう……」
DRとノワールを襲ったのは、強烈な飢餓感。DRは戦槌を持つ腕に力が入らない。ちらりと横を見れば、それはノワールも同じらしい。
「動けねぇだろぉ? めんどそーなのは数で囲んで、雑魚はこうして確実に潰すのが賢いやり方ってヤツよ!」
「なっ!? やめてッ……!」
半グレスライムは動けないノワールにネチャリとまとわりつく。ノワールは振り払おうとするが、空腹状態の力ではそれも出来ない。
「このまますり潰してやんよぉ!」
「キャア!」
「ノワール!」
ノワールが潰されそうになったその時──
「喰らえィ!」
「なっ──グワァァ!!」
「きゃ!」
虹色に輝く小規模な爆発が起き、ノワールから半グレスライムを引き剥がす。大量の半グレスライムを撃破した、モナのアシストだ。
「大丈夫か? ノワール。すまないちょっと巻き込んだな」
「モナちゃん……。ううん。大丈夫だよ」
「テメェ……、今の爆発、何をしやがった!」
「ふん。ワガハイだって愚かじゃない。ちゃんと弱点を突けるよう準備してたんだよ!」
「あっ、そっか。あの爆弾!」
「その通り! 昨晩。ノワールに幾つか潜入道具を作ってもらっていたのさ!」
「なるほどね……」
モナは高い実力とそれらのアイテムを駆使して半グレスライムの分裂体を撃破し、二人を助けに来てくれたのだ。
「クソがぁ……! 俺の分身の癖に、ろくに役に立たねえじゃねえかよぉ……!!」
「……自分の分身なのに、情はないの……?」
「あぁ? たりめぇだ。あんなモン、俺が楽するための道具でしかねぇんだよ!」
「……最低ね」
半グレスライムの何かが、ノワールの逆鱗に触れたらしい。ノワールから甘さが消えたように、DRには見えた。
「ハッ! 強がったって、そのネコがもう道具を持ってねぇのは分かってるんだよ!」
「なに?! そうなのか、モナ?!」
「……なに、奴がもう一度分裂する前に倒しきれば問題あるまい」
若干の強がりだろう。モナの額には冷や汗が流れている。
「どうする? 一旦引くか?」
「いいえ」
ノワールが強めの声でDRの提案を否定する。
「私は、彼を許せない。ここで成敗します!」
「ハッ! スキルも使えねぇやつが何を」
──≪サイ≫!!
煽る半グレスライムを、虹色に輝くエネルギーが襲う。
「──なにっ!!ゲエッ?!」
「え……」
「今ノワールが、スキルを……?」
(──今一瞬、ノワールの後ろに巨大な、貴婦人?が写ったよう、な?)
おそらくは、ペルソナ。その片鱗が、ノワールには現れていた。
「モナちゃん、DR 、総攻撃です!」
「お、おう!」
──Adieu!!
油断してもろに念動属性の攻撃を喰らってダウンした半グレスライムを、三人がかりでタコ殴りにする。総攻撃を終了した時には、半グレスライムに抵抗するだけの余力は残っていなかった。
「クソが……。スキル使えたのかよ……。ウソつきやがって……、セコいじゃねえかよ……」
人間体に戻った半グレがノワールにいちゃもんをつける。
「ふん。自分で最後に立ってた方が勝者だと、言ってただろう? こうされるのが嫌なら、もうイジメなんてやめるんだな」
「……わかったよ。もうグループは解散する。アイツにも、謝るよ」
「それでいい」
"パレスの種"を残して陽キャが消える。ミッションクリアだ。それを見届けて、DRは思う。
(この戦いも、また俺は役に立たなかった……)
ノワールはスキルすら使った。なのにDRは何も出来ず、しかも不利になったらすぐに逃げを選ぼうとした。格の違いを見せつけられたようで、DRの心の内に、何とも言えない、しかし馴染んでしまった黒いモヤが生まれていた。
半グレスライムの見た目はブラックウーズです。