「あ゛あ゛……。 疲れた……」
一樹は自分のベッドにばたりと倒れる。一樹はメメントスでのミッションを終わらせた後、春とモルガナを家まで送り、更に一仕事してから車を祖母に返して、ようやく我が家に帰ってきたのだ。既に日も暮れている。今日はもう夕食を食べる気にもならないし、もう寝てしまおうか。そう考える程に、一樹は疲れていた。
「たっく。雨宮も人使いが荒いんだから……」
そう。一樹は仲間二人と別れた後、雨宮に買い出しを頼まれていたのだ。内容はお高い猫缶だったりとモルガナのゴキゲンを取るための物ばかりで、一樹は負い目もあって律儀にそれをルブランに届けてから帰ってきた。
「とと……、寝てる場合じゃねえか」
用事を思い出した一樹は気力を振り絞ってベッドから起き上がり、携帯を鳴らす。プルルル、プルルル、プル……とコール音が不自然に止まった。
『もしもし一樹君? こんな時間にどうしたの?』
「あー、春か?悪いな夜遅くに。一応伝えといた方が良さそうな話が有ってさ。モルガナもそこにいる?」
『いるよ。聞こえるようにした方がいいかしら?』
「ああ、うん」
『じゃあ、スピーカーにするね。……はい。どうぞ』
「えっと、さっき雨宮と会ってきた。あいつらは明日、奥村社長のパレスに行くらしい。……モルガナ、お前を探すためにな」
沈黙が流れるが、一樹は黙って言葉を待つ。
『……ふん。だからなんだってんだ。わざわざアイツらに付き合ってやる必要はねえ!』
「あ──」
『……違うよ。モナちゃん』
『ハル……?』
『私からすると、今の怪盗団の人たちは怪盗失格だよ。だから向こうで、私たちがビシッと怪盗とはなんたるかを教えてあげようよ』
『ハル……』
多分だが、携帯の向こうで寸劇が始まっている。今頃二人で抱き合って涙でもしてるんじゃないだろうか。短い付き合いだが、一樹はなんとなく春の人なりを掴めていた。
「あー、と。じゃあ明日は奥村社長パレスで怪盗団を待ち伏せ、って事か?」
『あっ、うん。一樹君もそれで大丈夫?』
「まあ俺もそのつもりだったし……、俺もアイツらには、思う所が有るしな」
『──?』
「あ、いや、個人的な事だから。じゃあまた明日。昨日と同じ所に迎えに行くから」
『えっと、じゃあお休み』
通話を終え、一樹は再びベッドに横になって目をつぶる。
一樹も、怪盗団、彼らに悪感情を抱いている。しかしそれは、春の様に他者を思っての事ではない。
酷く個人的で一方的な理由だ。
モルガナと共にオクムラパレスに侵入した時、一樹は怪盗団に問いただされることも覚悟していた。
モルガナがパレスに挑むのなら、共に行く協力者がいる可能性など新島なら充分に予想できるはず。だから、怪盗団が自分の所にモルガナの居場所を問いに来てもおかしくないと、一樹は考えていた。
しかし、怪盗団は来なかった。それどころか雨宮やハッカー少女とは二度もルブランで会ったし、新島とも学校ですれ違った。なのに一樹は何も言われていない。怪盗団がモルガナを探しているのは間違いない。それなのに、誰も一樹の所には聞きに来ない。
(──もしかして、アイツらは俺がペルソナ使いだって事を忘れてるのか?)
一樹の想像はベッドの上からどんどん深みへと落ちていく。怪盗団の協力者としてパシリのようなマネまでしているのに、もし本当にそうだとしたら……。
明日、お互いに怪盗として会い、しっかりと話をしなくては。一樹はそう決めて眠りについた。
■
「……本当に、アイツら来るんだよな?」
「おいおい。情報源が情報を疑ってどうすんだよ? こういう時は、どっしり構えてるんだな」
三人は今、オクムラパレスの開かずの大扉の側にあった、手頃な棚の上に隠れていた。まだ潜んで10分足らずだが、もうDRは不安になってしまった。その横で、ノワールも緊張しているが。
「……そういやさ。今日のシャドウはロボットっぽかったよな。以前は警備員っぽい見た目だったのに。なんで前に来た時と違ってるんだ?」
まさか日替わりじゃあるまいしと、DRが疑問に思っていた事を言う。不安を紛らわす為に、何でもいいから雑談がしたかったのだ。
「そう言えばそうだな。基本、シャドウの姿は一定のはずなんだが…」
「多分、あの日は警備会社の人が来てたからじゃないかな。本社ビルに石を投げ込まれた件で、点検の為にいっぱい来てたから」
「なるほどな。それが認知に影響してたのか。……ムッ」
謎が1つ解けた所で、モナが気配を察知した。怪盗団だ。
開かない扉をなんとか開けようとする怪盗団。金髪ヤンキーが乱暴に開けようとするが、生体認証だと知るDRからすれば無謀な行為だ。
「(よし。予想通りだな。いけ! ノワール!!)」
「(ええ!)──お待ちなさい。あなたたち!」
ノワールが揚々と怪盗団の前に姿を現した。ノワールが棚の上から説教をし、その後モナとDRが登場。そして新怪盗団設立を宣言し、彼らの開けれなかった扉を堂々と開ける。それがモナの考案した作戦なのだ。
が。
「…………」
大勢を前にしてノワールは考えていたセリフが全部トンだらしい。威勢よく前へ出たはいいが、そこから何も言えずに棒立ちになった。
「まさか…斑目や金城が言い残した……!?」
「あいつが廃人化の───」
「(おいどうする? ノワールが意味あり気に黙ったせいで変な勘違いされてんぞ)」
「(むむむ……。しょうがない…、ワガハイらも出るぞ!)」
「(マジか!)」
「オマエら、勘違いもほどほどにしろよ!」
そんな会話を経て、DRとモナはは物陰からノワールの隣へと飛び出した。
「モナ!」
「無事だったのね! それと──?」
「ええ、っと……?」
「テメェら……! マジで俺の事を忘れてたのかよ!!」
怪盗団は現れたモナとの再開を喜ぶが、その横のDRを見て(マスク越しなのに)端から見ても分かる程に首を傾げた。つまり、「何処かで見た姿だが何処で見たのか思い出せない」のだ。秀才生徒会長の新島すらそうしている。
(──確かに俺の怪盗衣装を見たのは一度だけだからって、数少ないペルソナ使いの存在を忘れるか? 普通。)
流石にDRの堪忍袋の緒が切れた。
「そんなに俺に興味がねぇか!」
「うおおわぁ!」
「危ない!」
DRはミサイルランチャーを構えると、狙いもしないでトリガーを引く。案の定ロケットは誰にも当たらず、近くの地面にぶつかって爆発した。
「で、思い出したか?」
「え、ええ。ひ、久し振りね。住吉君」
新島が代表してひきつった顔で挨拶してくる。本人のことは忘れていても、ランチャーの爆発は覚えていたらしい。
「……ふん。モナを連れ戻しに来たってんなら要らぬ世話ってやつだぞ」
ロケットの爆発音で逆に落ち着いたDRがモナを膝で突っつきながら話す。ここからでも計画も元に戻さなくては。
「そ、そうだせ。ワガハイはな、もう新しいトリオを組んだんだ! この──」
「『美少女怪盗』と申します!」
「「……は?」」
緊張でトンでいたノワールが唐突におかしな事を口走った。決めポーズを取りながら。
「な、何を言って……」
「つか、美少女って自分で言ったぞ」
「ノノ、ノ、ノワール? ど、どうした急に?!」
モナとDRがノワールの肩を揺らせば、ノワールの目はグルグル回っている。極度の緊張で、混乱状態に陥ったらしい。
「美少女怪盗と申します!」
「もう一回言ったぞ」
「そしてこちらが、ライバルと書いて友と読む、『ワイ──」
「あー!あー! ほらノワール、怪盗ウエハースチョコだ。味わわずに食え!」
DR的に不味い事を口走りそうになったノワールの口に混乱治しの効果があるチョコを突っ込んで物理的に黙らせる。ノワールが詰め込まれたチョコをモグモグと噛むと、回っていた目の焦点が合ってきた。
「……ハッ! 私は何を……?」
「……よし、落ち着いたな。しばらく何も言うな。マジで黙ってろ」
こうなっては計画も何もない。いまだ高い所に乗っている事すらもはや滑稽に写るだろう。
「緊張感に欠けるな……」
(──うるせえ。そんなこと俺が一番分かってるわ。)
DRは心の中で青髪の美術家に反論した。