"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Meeting

「取り敢えず、降りようぜ……」

「……だな」

 

 散々ボケをかましてしまった三人は隠れていた棚の上からシュバッと飛び降りた。運動神経の鈍いDRでも、認知世界でならそれくらいは出来る。

 

「で、だ!」

 

 ここから仕切り直しだとの意思を籠めてDRは声を張る。まだ会話の主導権を握れている……んじゃないかなぁとDRは思っている。DRには大人数との会話の主導権を握った経験が無いのでよく解らなかった。

 

「お前らはこのパレスから手を引け! ここのオタカラは、俺たち『新』怪盗団が頂戴する!」

「なんだと?!」

「新怪盗団……!?」 

 

 噛まずに言えたらしいことをDRは内心ホッとする。DRの滑舌は悪くないが、緊張するとドモる悪癖があるから油断できない。

 

「そもそもここの扉が開かねーのにどーやって盗む気だよ?」

「そっちが開けれないからって、俺たちも開けられないと思うのか?」

 

 今の問答は想定の内。DRは堂々と扉を指差す。そこにはDRが引き付けている間に移動したモナとノワールがいた。

 

「おいやめとけって。それ開かね──」

『ピー。ニンショウセイコウ』

「何!?」

 

 ウンともスンとも言わなかった扉が動き出す。怪盗団が驚愕している内にサイバー感溢れる扉は完全に開いた。

 

「ふん。ワガハイ達をナメ──」

「──っ! モナ、ノワール 後ろ!」

 

 扉の先には、大量のシャドウが待ち構えていた。扉の前ではしゃぎすぎたか。などと推測している暇はない。早く逃げなければならないが、アクシデントに弱いらしいノワールが「え? え!?」とキョドってしまい動けていない。

 

「ああクソ!ドロン玉!」

 

 DRは緊急時はすぐに投げるようモナに言われていたボールを地面に叩き付け、煙幕を発生させる。辺り一面が煙に包まれた隙に、ノワールの手を取った。

 

「ほら行くぞ!」

「っ! え、ええ!」

 

 既に逃げた怪盗団の後を追う様に、DRはノワールを連れて走る。流石のモナは何も言わずとも殿を務めてくれる。

 

「まずいな。まだ何体か追いかけて来てるぞ……」

 

 モナに言われて振り返えれば、警備ロボットっぽいシャドウとドローンの様なシャドウの2体が、煙幕が晴れた後もDRたちを見失わずに追ってくる。

 

「今は下手な戦闘は避けたい。DR もう一個ドロン玉を使ってくれ!」

「………。」

「DR?」

 

 あのドロン玉は、不器用なDRが作った物ではない。ノワールが昨晩モナに教わりながらいくつか作り、ノワールからDRが預かっていた物だ。だから、モナはDRがまだ何個か持っているかを知っている。本来ならば。

 

「……すまん。さっき間違えて全部投げちまった……」

「なっ……。 何やってんだこのアホ! 利用は計画的にって言っただろうが!」

「悪かったって! ポケットの中で三個も持ってるって気づかなかったんだ!」

 

 モナの言い分は最もだが、手が肉球のモナと違いDRは厚手の手袋を着けているのだ。手触りで複数握ってる事に気付けなくともしょうがないと、DRは自己弁護した。

 

「そんなこと言ったってなあ!?」

「だからって!」

 

 逃げながらもDRとモナがギャーギャーと騒いでいると、後ろに続くノワールがおずおずと言った。

 

「あの……。私、まだ一個持ってるよ」

「何!? 本当かノワール?!」

「うん… …。最初に作ったやつ、上手く作れなかったからDRに渡してなかったの」

「それでいい! 出してくれ!」

 

 DRが走りながらせがむと、ノワールが言いにくそうに言う。

 

「あの、うん。それで……取り出したいから、手……、離してくれない?」

「え?………あ。す、すまん……」

 

 逃げ出す時に握って以来、DRはノワールの手を握ったままだったらしい。やはり、手袋が厚すぎるんだなと思考逃避した。

 

「えっと……、あった!」

 

 ノワールが取り出したのは確かに少々不出来だが、充分使えそうなドロン玉だった。DRが作ったらこうもなるまい。

 

「よし!地面に叩き付けろ!」

「……えい! ドロン玉!」

 

 瞬く間に煙がDRたちを覆い隠し、煙が晴れた時にはもう、DRたちの姿は消えている。シャドウはキョロキョロと辺りを見渡すが、みつからないと分かるといずれ帰っていった。

 

「……行った?」

「……ああ。もう大丈夫そうだ」

 

 近くの物陰に隠れていたDRたちは、シャドウが消えてから動き出す。

 

「よし。ちゃっちゃと脱出するぞ」

「了解。もう追いかけっこ沢山だ」

 

 

 

 

 

 

「……これは皆さん。お揃いで」

 

 オクムラ・パレスで怪盗団と対峙したその日。一樹はルブランに呼び出されていた。呼び出したのはとうぜん怪盗団だ。別に断って来なくとも良かったのだが、一樹も怪盗団とゆっくり話したかったので呼び出しに応じてやったのだ。

 

「……何で呼び出されたかは、分かってるわよね? 住吉君」

「……さあ?」

 

 一樹がルブランに入るや否や、正面にリーダー君と生徒会長の座るテーブル席に座らされた。他のメンバーも一樹を囲う様に立っている。ただで帰す気はないようだ。

 

「さあって……。 当然、今日のパレスについてよ。何で君がパレスに居たのか。あと、新怪盗団について。……説明してくれるかしら?」

 

(──相変わらず、こっちが「ノー」って言うことを想定してない話し方だ。)

 

 一樹はマスク(──ガスマスクではなく、何時も着けている普通のマスク)の下でため息を吐いた。

 

「変に隠さない方がいいぞ。そんときは私がスマホから情報を抜き取るからな」

 

 一樹が黙っていると、後ろのシートに座っていたハッカー少女が飄々と恐ろしい事を言ってきた。

 

「……それって脅迫? 犯罪じゃね?」

「そんなつもりはないわ」

 

 「犯罪」の言葉に怪盗団全員が反応したようだ。何となく、一樹へ向けられた敵意が大きくなった気がした。

 

 一樹はマスクの下で嗤う。久々に、愉快だ。

 

「そんなつもりがないって言ったってさ。わざわざ足を運んでやった俺を囲んで、脅して情報を奪おうとか。これ、オマエラが改心させてる奴らとやってる事一緒じゃん」

 

 言外に「オマエらが改心されるべきじゃん」との意思を籠める。無事伝わったようだ。一樹を囲うメンバーの目が睨むも同然になった。しかし、雨宮だけはただ一樹を見つめるだけである。

 

「だから、私たちにそんなつもりは──」

「そもそもさぁ!」

 

 敢えて、生徒会長の言葉を遮る。

 

「オマエら、なんか勘違いしてないか? 俺はたしかに買い出しだのでパシリをやって()()()()けどさ、俺は別に、オマエラの舎弟でも部下でもないんだぞ?」

 

 いつもおどおどしていた一樹の雰囲気が変わり、生徒会長は押し黙る。雨宮はやはり、ただ一樹の目を見ていた。

 

「俺はただ、オマエらの理念の力になれないから、雑用を手伝ってただけ。ただのボランティアだ。俺にはオマエらに従ってやる義務も義理もない」

 

 一樹も少しイライラしていたのだ。パシらされる事は別にいい。自分で言い出したことだ。だが、見下される筋合いはない。

 

 自分がペルソナ使いだという事すら忘れられ、ただのパシリだと思われ軽んじられて軽く脅せば何でも喋ると甘く見積もられる。

 

 流石に、腹が立った。

 

「…で新怪盗団の案を出したのはモルガナだ。オマエら、一回自分の事を見直してみろよ。仲間を大切にしない。ボランティアには偉そうに命令する。一体何様だよ?」

 

 そう言い残して一樹は席を立つ。コーヒーも何も出してくれなかったのだ。長居する必要はない。

 

「おいちょっと待てよ!」

「リュウジ!」

 

 金髪ヤンキーが一樹に掴みかかるが、リーダー君がそれを一喝する。

 

「……手間を取らせて悪かった。今度はゆっくりしていけ」

「コーヒーでも出してくれたらな。……新しい怪盗団作ったからって、別に買い出しはこれからもやってやるさ。じゃあな」

 

 一樹はそう言い残して、ルブランから立ち去った。

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