"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Enrichment

  

(──ん? あれは……)

 

 怪盗団に啖呵を切った次の日。一樹は普通に登校していた。何時も通りに授業を終えて、家に帰ろうとしたその時、一樹は視界の端に春を捉えたが。

 

 園芸中なのか、体操着を着た春は重そうな土だか肥料を、リヤカーで運んでいる。

 

 春とは学校で関わらない様にしている(春は少し残念そうにしていたが、秘密の活動のためとかなんとか言ったら納得してくれた)が、あれは手伝った方がいいかもしれない。

 

 しかし向こうは美少女でこっちは友達0人の陰キャ。学校で声をかけるのはいかがなものか……などと一樹が悩んでいる内に、誰かが春に声をかけた。

 

 ──雨宮だ。

 

 雨宮は軽々とリヤカーを動かし、春と楽し気に話している。一樹はなぜか、少し警戒した。

 

 春は雨宮の正体を知らないが、雨宮は春の正体に気づいているかもしれない。生徒会室に全校生徒名簿が有るし、ハッカー少女が一樹のスマホから情報を抜き取った可能性もある。

 

 何処からともなく新島まで現れた。これはもう、彼らが春の正体に気づいているのは確定だろう。

 

「──協力できないかと思って」

「……私たち、」

「よお。何の話だ?」

「──っ! ……住吉君」

 

 のほほんとした春一人では、怪盗団の切れ者二人との対話は厳しかろうと判断して、一樹は手助けに入る。

 

「……昨日、君に話し損ねた事よ」

「ふうん?」

 

 一樹は適当に相づちを打つ。新島がこうした聞く気のない対応をされるのを嫌っている事を、一樹は知っている。

 

「私たち、協力できない? 奥村社長を改心させたいって目的は同じでしょう?」

「……何がしたいのかわからない人たちと、協力できないよ。今じゃ無駄に世間を騒がせてるだけだし」

「それに、お前らは仲間を大切にしないらしいしな」

 

 新島が反論しようとするが、雨宮がそれを制す。一樹や春の言い分を聞きたいらしい。

 

「私は、お父様に罪を償って欲しい。そして、切っ掛けをくれた一樹君とモナちゃんのお手伝いをしたいだけなの」

「……」

「だけど、目的は一緒でしょう? なら協力したほうが……」

 

 生徒会長がそう食い下がる。

 

「私は、モナちゃんと一樹君の三人で行きます」

 

 だが、春は強く否定した。新島はまだ何か言いた気だったが、雨宮が再びそれを制する。それからいくつか言葉を交わして、雨宮と新島は去っていった。

 

「……ふう。緊張したぁ」

「お疲れ様。向こうの口車に乗んないでくれてよかったよ」

 

 一樹が危惧していたのはそこだった。一樹自身やモルガナは兎も角、春に怪盗団と敵対する理由はない。奥村社長の改心だけが目的なら、春は怪盗団と手を組んだって問題はない。

 

 話がそっちに向かうようであれば、一樹は春を引っ張ってでも会話を打ち切るつもりだったが、杞憂に済んだようだ。

 

「それはモナちゃんが嫌がるだろうし、……一樹君も嫌だったんでしょう?」

「……その通り。仲間の勘が鋭くて嬉しいよ」

 

 割りと個人的な感情で会話に割り込んだ事を見透かされていたらしい。一樹は羞恥で顔を背ける。

 

「……と、そういえばこれからガーデニング?」

「あ、うん。ちょっとだけね。待ち合わせには遅れないから」

 

 一樹と春は放課後メメントスに潜って依頼をこなす計画を立てていた。

 

「了解。じゃあ、手伝うよ」

「えっ? そんな、悪いよ」

「2人でやった方が早いだろ? まあ、単純作業以外を期待されても困るけどさ」

「……そうね。ありがとう」

 

 そう言って、一樹はリヤカーから肥料を持ち上げた。一樹に退く気がない事を理解して、春はニコリと笑ってお礼を言う。そうして2人で土いじりをしていて、モルガナとの約束の時間に遅れそうになったのは余談である。

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛……。疲れた……」

「やっと、終わったね……」

 

 メメントスにて、新怪盗団の3人は以前よりも浅い階層にいるターゲット何人かと戦い、ようやく今日のノルマだった依頼を終わらせた。

 

「いい戦いぶりだったぞ、二人とも。認知世界での戦闘に慣れてきたんじゃないか?」

「……サンキュ」

 

 意外とスパルタだったモナに付き合わされ、割りと限界まで戦わされた。この世界がゲームならきっと、DRとノワールのHPもSPも底をついているだろう。

 

 DRは重い体を引きずってモルガナカーを運転して、安全地帯まで運転する。

 

「今日はこのまま解散するの?」

「そうだな。続きは明日……」

「……あっ、そうだ! すまん。明日は車動かしてくれって祖母に呼び出されてる」

 

 マイペースな祖母は何を思ったのか、新しい家具を探しに行くから運転手をしてくれ、と唐突に言ってきたのだ。最近しょっちゅう車を借りているDRに、車の所有者である祖母への拒否権はない。

 

「てな訳で、明日はノワールと二人で行ってくれ」

「え?」

「別に明日は延期でもいいんだぞ?」

「いや、別に置いてってくれていい。俺の勝手な用事だしな」

「まあ、そこまで言うなら……。明日は二人で攻略するか、ノワール!」

「えぇ!?」

 

 ようするに、DRは逃げた。

 

 祖母に呼ばれているのは本当だが、明日でも明後日でもいいと言われているのだ。DRはモナのスパルタ戦闘が嫌なので、それは言わないことにした。

 

 取り残されたノワールは何か言いたそうな目でDRを見ていたが、DRはそれに気付かないふりをして運転していた。

 

──その逃げ腰が大間違いだったとは分からずに。

 

 

 

 

「よお」

「……いらっしゃい」

 

 いつものように春とモルガナを家まで送り届けた後、一樹はルブランに来ていた。雨宮に「お互い怪盗団の事は無しでゆっくり話したい」と誘われたからだ。

 

 そう言って騙す奴ではないだろうと、一樹はルブランに足を運ぶことにした。

 

「まさか、本当にお呼ばれするとはな」

「もてなすって言ったからな」

 

 そう言って、雨宮は一樹に淹れたてのコーヒーを差し出す。湯気とともにいい臭いが漂ってきた。

 

「じゃ、お言葉に甘えて」

「お代わりが欲しければ、言ってくれ」

「至れり尽くせりじゃん。サンキュ」

 

 一樹は適当なテーブル席に座り、コーヒーを楽しむ。対面の席に雨宮が座った。彼もコーヒーのカップを持っていた。

 

「……そうだ。借りてた本。返す」

「ん? ああ。ライトノベルを貸してたっけ?そう言えば。……で、どうだった?」

「……悪くなかった」

「そればっかだな。でもまあ、そりゃ良かった」

 

 二人は1時間程、コーヒーを飲み雑談をしてのんびりと過ごした。お互いに怪盗団やパレスの話題を出さずに、最近読んだ小説や行きつけの喫茶店の話など、つまらない話題ばかりだ。

 

 しかし一樹は、不思議な充実感を味わっていた。雨宮が聞き上手なのもあるが、それ以外の理由もあるのかもしれない。人付き合いの苦手な一樹には分からなかった。

 

「……そう言えば、昨日今日と悪かったな。皆には言っておいた」

「それは本当にな。大志を抱くのは勝手にすりゃ良いが、人にそれを押し付けさせるなよ。増長すればご立派な大志も薄っぺらくなるぞ」

「……今回の件で身に染みた」

 

 モルガナの離脱や新怪盗団の設立宣言は雨宮にとってかなりこたえる出来事だったらしい。以前にも思ったが、完璧に見える雨宮も人間らしい所があるものだ。

 

 フと笑ったついでに一樹が窓を見れば、外はいつの間にか既に薄暗くなっている。

 

「もういい時間だな。……なあ、この後予定あるか?」

「? いいや」

「なら、今から少しドライブしようぜ。まあ車返さなくちゃいけないから片道だけど」

「……良いのか?」

「春とかを乗せてるしな。今更だ」

 

 前に一樹は車に乗せたくないと言ったが、今はアジトにすら使ってるのだから、ドライブに連れていくぐらい何てこともない。

 

「それに、お前なら乗せてもいいって気分になったんだよ」

「……ありがとう」

「ついでに浅草で飯食おうぜ。安くて美味い、いい店知ってるから」

「楽しみだ」

 

 

 

 

【Rank Up】

 

ARCANA 『傍観者』 

 

 ★★★★★☆☆☆☆☆ RANK5

 

【役立たずの仕事】消費アイテムを買ってきてくれる

【役立たずの貢献】買ってくるアイテムの種類が増える

NEW!!【役立たずの使命】車での送迎をしてくれる

 

 

 

 

 そう言うと雨宮はそそくさとコーヒーカップを片付ける。住み込みだからか随分と手慣れた動きだった。

 

「終わったのか? よし、行くか」

 

 ルブランを出て近くの駐車場に止めてあった車の後部座席に雨宮を乗せると、雨宮が何かに気が付いた。

 

「この毛……、モルガナの」

「……気付くのはっや。スゲえな」

 

 まさか乗った瞬間に見つけるとは。一樹は一応、来る前に座席をファぶってコロコロをかけておいたのに。一樹は観念して、運転しながら事情を話す。

 

「この車、俺たちのアジトに使ってんだ」

「……だから見つからなかったのか」

 

 リーダー君の独り言的に、彼らは一樹たちを探していたのだろうか。

 

「変な裏路地とかからメメントスに行くよりは安全だろ? いつも俺が春とモルガナを拾って、適当な駐車場からメメントスに行ってんだ」

「……なるほど」

「てか、何時も思うんだけど怪盗団は街中でイセカイナビを使ってんだろ? 危なくないのか?」

「……人は、見たい物しか見ないから」

「そんなモンか? 決めつけるのは危険だぜ」

 

 会話しながらも一樹は運転する。何度もルブランまで行っていた為、物覚えの悪い一樹も自宅から四軒茶屋までのルートは覚えていた。

 

 浅草に着いた二人は一樹オススメの店で美味しい料理を食べ、そこで別れる。充実した1日を過ごせた一樹は、明日は祖母の付き添いだが、明後日からはまた頑張ろう と気合いを入れた。

 

 

 ──結局、新怪盗団が再び集まることはなかったが。

 




【ゲーム的設定】
車での送迎……時折一樹が車を出してくれるようになり、一定確率で定期券外の交通費がタダになる。
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