"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Will

 SFチックな宇宙船の中。DRは『仲間』と共に『敵』と戦っている。

 

「ハアァッ!」

 

 勢い良く振り下ろされたDRのハンマーを、『敵』の一人はギリギリの所で躱す。DRは「クソが!」と悪態をつく。『仲間』が時間を稼いでいるが、それもいつまで持つか分からない。今の一撃で仕留めたかった。

 

 今日は不思議と体が軽い。DRは素早く二撃目を放つが、それも『敵』の武器で抑えられてしまう。二人の力が均衡する。しかしDRが有利だ。『敵』が苦しそうに叫ぶ。

 

「なんで!DR……、()()() !」

 

 万力を籠めていたのに、ハンマーが弾かれた。どこに、そんな力の差が有るのか。

 

「なんで、あなたがそっちにいるの!」

「うるせぇ! 黙って戦え、()()()()!」

 

 敵──怪盗団の連中─を数で抑えていた仲間──社畜ロボども─がやられ始めている。オクムラ社長はつまらなそうにこの戦いを眺めている。これ以上の手助けは期待できない。

 

 つまり、時間は敵の味方だ。無駄話に付き合ってる暇は無い。

 

「らぁ!」

 

 DRの戦鎚を、ノワールは再び避ける。先程からノワールは避けるか武器で弾くのみで、一切の攻撃を仕掛けてこない。

 

「戦えよ、ノワール! ペルソナを使え! 使えるんだろ? 俺と違って!」

「くぅ……」

 

 DRの猛攻を耐えるだけのノワールに怒りが募っていく。再びお互いの力が均衡し、一瞬の静寂が生まれた。

 

「なん…で、お父様につくの? あなたも……、お父様に怒ってくれたじゃない……」

「……別に、社長につきたかった訳じゃねぇ。俺はな、オマエらと敵対したくなったんだよ、怪盗団!」

 

 DRのハンマーがノワールを弾き飛ばした。吹き飛んだノワールは地に倒れる。

 

「言っただろ?俺はさ、オマエら(怪盗団)が大っ嫌いなんだよぉ!」

 

 DRは倒れたノワールにハンマーを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

『あのさ……、一樹君』

 

 最近よく行くようになったファミレス。何か言いづらそうな顔をする春。

 

(──ああ、これは、夢だ。)

 

 一樹はボンヤリとした意識の中で確信する。この光景は、一樹が10日ほど前に経験した悪夢。

 

『ちょっと……、話したい事が有るの』

 

 一樹は、それを聞いた時点で嫌な予感がしていたのを覚えている。それでも、一樹は頷いて話を促してしまった。無視して逃げていれば、何か違っていただろうか。

 

『その……、怪盗団の人たちと、仲直り……しない?』

 

(──ああ……やっぱり、駄目だったか。)

 

 そう言われた時、一樹は、なんでかそんな事を思っていた気がする。聞いてもいないのに、春が事情を語る。

 

 一樹が祖母の付き添いを言い訳に逃げたあの日。モルガナと怪盗団との確執が取れたらしい。それで、春も感化された訳だ。

 

『あのね。みんな……、一樹君のことも歓迎するって! だから──』

 

 春は怪盗団と一緒に行きたがっている。怪盗団もそれを望んでいる。つまり、一樹が「イエス」と言えばすべて丸く収まるのだ。

 

 結局、あの時なんと答えたのだったか。一樹は記憶を辿る。

 

(──ああ、思い出した。)

 

 

『春。俺さ。オマエの事仲間だと思ってた』

 

『……え?』

 

 それだけ言って、その日の一樹は席を立った。これ以上、ここにいたくなかった。

 

『待って! 一樹君! 一樹──』

 

 

 

「──一樹! はやく起きなさい!」

「……おはよ。母さん」

 

 一樹は目を開ける。そこには母がいた。状況は飲み込めないが、一樹はとりあえず挨拶をした。

 

「はいおはよ。夕飯できてるからはやく来なさい。二度寝しちゃ駄目よ」

 

 そう言い残して母は部屋から出ていく。一樹は寝ぼけながら辺りを見回す。自室、ベッドの上。外はもう暗くなっている。またスマホを見てて寝落ちしたなと当たりをつけた。

 

「ああクソ……、嫌な夢を見たな……」

 

 あの日春と別れて以降、結局怪盗団とは疎遠になってしまった。惰性で筋トレは続けているし、呼ばれれば買い出しや送迎はするが、それだけだ。春とは教室でも会うが、一樹はなるべく目を合わせないようにしていた。

 

 だが世間は怪盗団ムーブ一色で、スマホを見ようがテレビを見ようが怪盗団の話題ばかり。いつ奥村社長を改心させるのかと、全ての人が期待しているかのようだ。

 

「……もう、俺には関係ねぇ、か」

 

 一樹は、部屋の隅に置かれた、埃を被っている形見のスレッジハンマーを見ないように、ベッドから降りて部屋を出た。

 

 

「最近、なんか有ったの?」

「え? 何が?」

 

 今日の夕飯はしょうが焼きだった。父は出張で長らく家にいない。母は一樹の向かいに座っている。

 

「ちょっと前……、学校始まった当たりから、あんた楽しそーだったでしょ? 柄にもなく筋トレなんかも初めてさ。それが、元に戻った感じするのよ」

「………。」

 

 よく息子を見ている母親だと、一樹は嘆息する。できれば、触れないでほしくはあったが。

 

「なんつうか、一緒に頑張ろう!って言ってた仲間に、裏切られた……感じ?」

「ふぅん?」 

「いやさ。俺は……、3人でやりたかったのに、その2人が大勢連れて来ちゃった……みたいな」

「ああ。あんた昔からコミュ症だもねぇ。結局あんたが馴染めなくて逃げだしたんでしょ?」

 

 詳細は違うが、おおまかに説明すればそんな感じだろう。一樹が頷くと、母が大きくため息をついた。

 

「本ッッとにあんたは変わらないわね。『逃げる』のコマンドを選んでばっかり。なんで『戦う』のコマンドを選ばないの?」 

 

 割りとゲーム好きな母は続ける。

 

「やっと手に入れた居場所なんでしょ? 仲間に「三人でやりたい!」って言ったり、その新参者に「来んな」って言ってでも守りなさいよ」

「そんな事言われたって……。俺のやりたかった事は、3人でやるよりも大勢でやる方が絶対に正しい。……文句なんか言えないでしょ」

「なんで正しい必要があるのよ。アンタの目的はその何かしらの成功じゃなくて、居場所を守る事でしょう?なら、合理性だのはいらないじゃない」

 そう言われると弱い。一樹は口をつぐむと、母はついでにと言葉を続ける。

 

「どうせあんたの事だから「皆に嫌われる……」とか考えてるんだろうから一応言っとくけどね。『万人に好かれる』ってのは特殊な才能で、あんたにそんな才能はない!」

 

 ズビシっと言い切られた。なんでこんな性格の母から自分が生まれたのだろうか。一樹はいつも不思議だった。

 

「やりたいようにやって、それを認めてくれる人とだけ付き合えばいいのよ。せっかく体がデカイんだから、もっと主張していきなさい」

「主張……」

 

 母の叱咤が一樹の胸に刺さる。体の大きさと主張の関係は分からないが。

 

「もう1つ言っとくと、「やった方がいい事」と「やりたい事」は違うからね? あんた、そこ履き違えてる節あるし」

「……」

 

 一樹は考える。自分のやりたい事……怪盗団の役に立つ?いや、それはやった方がいい事だ。悪人の改心? それも違う。

 

「……あっ」

 

 1つ、思い付いた。

 

「母さん。ちょっと……いや、けっこう危険な事やっていい?」

「へぇ? どんな?」

「世直し」

「ハハ! ならよし! せいぜい好きにしな」

 

 母はカラカラ笑って許した。

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