SFチックな宇宙船の中。DRは『仲間』と共に『敵』と戦っている。
「ハアァッ!」
勢い良く振り下ろされたDRのハンマーを、『敵』の一人はギリギリの所で躱す。DRは「クソが!」と悪態をつく。『仲間』が時間を稼いでいるが、それもいつまで持つか分からない。今の一撃で仕留めたかった。
今日は不思議と体が軽い。DRは素早く二撃目を放つが、それも『敵』の武器で抑えられてしまう。二人の力が均衡する。しかしDRが有利だ。『敵』が苦しそうに叫ぶ。
「なんで!DR……、
万力を籠めていたのに、ハンマーが弾かれた。どこに、そんな力の差が有るのか。
「なんで、あなたがそっちにいるの!」
「うるせぇ! 黙って戦え、
敵──怪盗団の連中─を数で抑えていた仲間──社畜ロボども─がやられ始めている。オクムラ社長はつまらなそうにこの戦いを眺めている。これ以上の手助けは期待できない。
つまり、時間は敵の味方だ。無駄話に付き合ってる暇は無い。
「らぁ!」
DRの戦鎚を、ノワールは再び避ける。先程からノワールは避けるか武器で弾くのみで、一切の攻撃を仕掛けてこない。
「戦えよ、ノワール! ペルソナを使え! 使えるんだろ? 俺と違って!」
「くぅ……」
DRの猛攻を耐えるだけのノワールに怒りが募っていく。再びお互いの力が均衡し、一瞬の静寂が生まれた。
「なん…で、お父様につくの? あなたも……、お父様に怒ってくれたじゃない……」
「……別に、社長につきたかった訳じゃねぇ。俺はな、オマエらと敵対したくなったんだよ、怪盗団!」
DRのハンマーがノワールを弾き飛ばした。吹き飛んだノワールは地に倒れる。
「言っただろ?俺はさ、
DRは倒れたノワールにハンマーを振り下ろした。
■
『あのさ……、一樹君』
最近よく行くようになったファミレス。何か言いづらそうな顔をする春。
(──ああ、これは、夢だ。)
一樹はボンヤリとした意識の中で確信する。この光景は、一樹が10日ほど前に経験した悪夢。
『ちょっと……、話したい事が有るの』
一樹は、それを聞いた時点で嫌な予感がしていたのを覚えている。それでも、一樹は頷いて話を促してしまった。無視して逃げていれば、何か違っていただろうか。
『その……、怪盗団の人たちと、仲直り……しない?』
(──ああ……やっぱり、駄目だったか。)
そう言われた時、一樹は、なんでかそんな事を思っていた気がする。聞いてもいないのに、春が事情を語る。
一樹が祖母の付き添いを言い訳に逃げたあの日。モルガナと怪盗団との確執が取れたらしい。それで、春も感化された訳だ。
『あのね。みんな……、一樹君のことも歓迎するって! だから──』
春は怪盗団と一緒に行きたがっている。怪盗団もそれを望んでいる。つまり、一樹が「イエス」と言えばすべて丸く収まるのだ。
結局、あの時なんと答えたのだったか。一樹は記憶を辿る。
(──ああ、思い出した。)
『春。俺さ。オマエの事仲間だと思ってた』
『……え?』
それだけ言って、その日の一樹は席を立った。これ以上、ここにいたくなかった。
『待って! 一樹君! 一樹──』
「──一樹! はやく起きなさい!」
「……おはよ。母さん」
一樹は目を開ける。そこには母がいた。状況は飲み込めないが、一樹はとりあえず挨拶をした。
「はいおはよ。夕飯できてるからはやく来なさい。二度寝しちゃ駄目よ」
そう言い残して母は部屋から出ていく。一樹は寝ぼけながら辺りを見回す。自室、ベッドの上。外はもう暗くなっている。またスマホを見てて寝落ちしたなと当たりをつけた。
「ああクソ……、嫌な夢を見たな……」
あの日春と別れて以降、結局怪盗団とは疎遠になってしまった。惰性で筋トレは続けているし、呼ばれれば買い出しや送迎はするが、それだけだ。春とは教室でも会うが、一樹はなるべく目を合わせないようにしていた。
だが世間は怪盗団ムーブ一色で、スマホを見ようがテレビを見ようが怪盗団の話題ばかり。いつ奥村社長を改心させるのかと、全ての人が期待しているかのようだ。
「……もう、俺には関係ねぇ、か」
一樹は、部屋の隅に置かれた、埃を被っている形見のスレッジハンマーを見ないように、ベッドから降りて部屋を出た。
「最近、なんか有ったの?」
「え? 何が?」
今日の夕飯はしょうが焼きだった。父は出張で長らく家にいない。母は一樹の向かいに座っている。
「ちょっと前……、学校始まった当たりから、あんた楽しそーだったでしょ? 柄にもなく筋トレなんかも初めてさ。それが、元に戻った感じするのよ」
「………。」
よく息子を見ている母親だと、一樹は嘆息する。できれば、触れないでほしくはあったが。
「なんつうか、一緒に頑張ろう!って言ってた仲間に、裏切られた……感じ?」
「ふぅん?」
「いやさ。俺は……、3人でやりたかったのに、その2人が大勢連れて来ちゃった……みたいな」
「ああ。あんた昔からコミュ症だもねぇ。結局あんたが馴染めなくて逃げだしたんでしょ?」
詳細は違うが、おおまかに説明すればそんな感じだろう。一樹が頷くと、母が大きくため息をついた。
「本ッッとにあんたは変わらないわね。『逃げる』のコマンドを選んでばっかり。なんで『戦う』のコマンドを選ばないの?」
割りとゲーム好きな母は続ける。
「やっと手に入れた居場所なんでしょ? 仲間に「三人でやりたい!」って言ったり、その新参者に「来んな」って言ってでも守りなさいよ」
「そんな事言われたって……。俺のやりたかった事は、3人でやるよりも大勢でやる方が絶対に正しい。……文句なんか言えないでしょ」
「なんで正しい必要があるのよ。アンタの目的はその何かしらの成功じゃなくて、居場所を守る事でしょう?なら、合理性だのはいらないじゃない」
そう言われると弱い。一樹は口をつぐむと、母はついでにと言葉を続ける。
「どうせあんたの事だから「皆に嫌われる……」とか考えてるんだろうから一応言っとくけどね。『万人に好かれる』ってのは特殊な才能で、あんたにそんな才能はない!」
ズビシっと言い切られた。なんでこんな性格の母から自分が生まれたのだろうか。一樹はいつも不思議だった。
「やりたいようにやって、それを認めてくれる人とだけ付き合えばいいのよ。せっかく体がデカイんだから、もっと主張していきなさい」
「主張……」
母の叱咤が一樹の胸に刺さる。体の大きさと主張の関係は分からないが。
「もう1つ言っとくと、「やった方がいい事」と「やりたい事」は違うからね? あんた、そこ履き違えてる節あるし」
「……」
一樹は考える。自分のやりたい事……怪盗団の役に立つ?いや、それはやった方がいい事だ。悪人の改心? それも違う。
「……あっ」
1つ、思い付いた。
「母さん。ちょっと……いや、けっこう危険な事やっていい?」
「へぇ? どんな?」
「世直し」
「ハハ! ならよし! せいぜい好きにしな」
母はカラカラ笑って許した。