"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Hostile

 

 SFチックな宇宙船の中──オクムラパレスの、UFO前。

 

 罠にかかった怪盗団を背に、モナは宇宙人の様な姿のシャドウオクムラに啖呵を切る。

 

「この世には、カネや名誉に代えられないモンが山ほどある。一人だけ助かって、なんの意味があんだ!」

 

  モナの言葉に怪盗団が息をのむ。

 

「こいつらの代わりなんて何処にもいない! オマエの提案は、ハナから取引になっちゃいないのさ!」

 

 そう言うや否や、モナはパチンコを取り出し、シャドウオクムラの持つ罠のスイッチを撃つ。

 

「な!?」

 

 放たれた弾は見事スイッチに当たり、怪盗団を捕らえていた罠は解除された。

 

「お父様……」

 

 ひとしきり喜んだ後、怪盗団はシャドウオクムラに対して武器を構える。策を破られピンチ……の筈のシャドウオクムラ、は余裕の表情を崩さない。

 

「ふん。本当の経営者というものは、いくつもの手を用意しているものだ!」

 

 シャドウオクムラが何かのスイッチを押すと、何処からともなくドローンが現れた。──傷だらけのDRをぶら下げて。

 

「なっ!?」

「一樹君?!」

「……これは皆さん…おそろいで……」

 

 ドローンが怪盗団の目の前で、なおかつ手の届かない位置に止まる。

 

「お前! パイセンに何しやがった!」

「何をだと? 私は何もしてないさ。こいつが勝手に入りこんできて、勝手にボロボロになったんだ」

「テメ──」

「おっと。動くなよ。こいつは取引の材料かつ、人質なのだよ」

 

 シャドウオクムラはDRに銃を向けた。今のDRに当たれば、死を免れることはないだろう。

 

「クソ!」

「イツキもなんでこんな所に……!」

「……」

 

 DRは、怪盗団がオタカラまでのルートを確保した事を知っていた。そして、奥村社長に予告状を出した事も。

 

 だから、DRは先にオタカラを盗みだすつもりで、パレスに侵入したのだ。自身の価値を、彼らに証明するために。

 

 結局、すぐにばれて捕まってしまったが。

 

「さあ、交渉再開といこう。なに。単純な話だ。こいつを解放してやる。貴様らは、こいつを連れてさっさと帰るといい。私は、次のステージに行くがな」

「だれが──!」

「いやだと言うのなら……」

 

──Bang!!

 

「っ!! ぐうっ…!」

「一樹君?! お父さま、止めて下さい!!」

 

 シャドウオクムラが、脅しとばかりにDRの足を撃ち抜いた。

 

「……俺の事は、放っておけ……。自分の尻くらいは、自分で拭かせろ……」

「先輩! 今どうにか──!!」

「やめろ……。俺を助けようとするなッ……!」

 

 怪盗団は苦しそうにシャドウオクムラを睨むが、DRに向けられた銃のせいで動けない。

 

「発射時刻までこうしているか? まったく。どんな無能にも役に立つ道があるとはよく言ったものだ。ンナハハハ!」

「クッ……」

「どこまで……、どこまで堕ちるつもりですか、お父様! ミラディ!」

「なっ!?」

「モナちゃん!」

「ああ!」

 

 ミラディのスキルがシャドウオクムラの目眩ましになった隙に、モナがスキルでDRを捕らえるドローンを撃ち落とした。

 

「グッ……」

「また当たった?! ワガハイ、超絶好調……!!」

「一樹君! そんな、ヒドい怪我……!!」

「おっと、大丈夫かDR?! ≪メディラマ≫!」

 

 ドローンと一緒に落ちるDRをノワールがキャッチして、モナが回復する。辛そうだったDRの呼吸が落ち着いた。

 

「……クソ。なんで俺を助けた……。俺もう、仲間じゃ……」

「私……、一樹君の事、ずっと仲間だと思ってるから」

「……ッ!! これじゃ、意味ねぇんだよ……!」

 

 力もなく、守られてばかりの存在は仲間とは呼べない。DRは、怪盗団と対等な存在になるために、一人でオタカラを盗み取ろうとしたのだ。その功績があれば、仲間になれるのだと思って。

 

(なのに……、結局助けられた……)

 

 無力感と屈辱が、タールのようにDRの胸を覆う。悔しさで涙が出そうだ。その様子を見たシャドウオクムラがニヤケながら提案する。

 

「ほう……。そう言えば、お前も怪盗団と仲違いしていたらしいな。どうだ? 今からでも裏切れば、この船に乗せてやってもいいぞ?」

「ハッ まだ言ってやがるのかよ!」

 

 シャドウオクムラも、正直期待していなかったであろう提案。しかし──

 

「裏切り……か。……それもいいな」

「……え?」

 

 DRは、己を抱き抱えていたノワールを突き飛ばす。抱えられていたため威力は出なかったが、ノワールの腕から乱雑に降りることはできた。

 

「なっ! なにやっている! 」

「ほう……?」

 

 怪盗団が異常事態で固まってる隙に、DRはシャドウオクムラの横に着く。

 

(──どうせ登れない舞台なら、ここで。敵として……)

 

「それで、何やりゃいいんですか。……社長」

「なんだ。怪盗の中にもまともな思考ができる者がいるじゃないか」

「……俺は、あの怪盗団に入った記憶はありません。で、どうしろと?」

 

 シャドウオクムラが下卑た笑みを浮かべながら腕を振るうと、社畜ロボが複数体呼び出された。

 

「まずは入社試験からだ。こやつらを貸してやろう。虫ケラどもを叩き潰せ!」

「……りょーかい」

 

 DRが適当にスレッジハンマーを構えると、怪盗団に動揺が走る。

 

「住吉君!自分が今何をやろうとしてるのか、分かってるの?!」

「よく言うだろ? 長い物には巻かれろってな。たまには昔の人の言葉に従ってみようかとな」

「本当に……、俺たちとやりあうつもりか?」

「酔狂で、誰がこんな事やるかってんだよ、ジョーカー? 」

 

 怪盗団の言葉にDRは軽口で返し、構えを解かない。

 

「だが──」

「だが何んだよ? 俺じゃどうせ、オマエらに勝てねえってか?!」

 

 ジョーカーだけでなく怪盗団みなが押し黙る。そう、言いたいらしい。

 

(──ああ、とことんナメられてんだなぁ、俺は。)

 

 存在そのものを忘れられ、脅せば簡単に口を割ると軽んじられ、決死の覚悟は甘く見積もられる。怪盗団にとって一樹とは脇役ですらなく、顔のないモブでしかないワケだ。

 

 新怪盗団だなんだを経て、その程度。逆に清々しくて、DRは腹の底から笑いが込み上げてくるのを感じた。

 

「クフッ、フフフフッ……! 今、ようやく分かった。俺はさぁ……、オマエらの事、大ッ嫌いだよ」

 

 ()()の唐突な告白に、怪盗団の動きが止まる。

 

「俺にはな…坂本(金髪ヤンキー)の様なコミュ力も、高巻(金髪ツインテール)みたいな容貌も、喜多川(芸術家クン)みたいなセンスも無いし佐倉(ハッカー少女)の様に独特な特技やらモルガナみたい知識が有るわけでもねえ!

  雨宮みたいな誇りも、新島みたい知恵も、春みたいな勇気も! 結局無かった!」

 

(──だから、俺はオマエらが全員妬ましい。)

 

 これが逆恨みなのは一樹も分かっている。だが、だからと言って消せる感情でもなかった。

 

 一樹だって馬鹿ではない。あんなに濃い怪盗団の面子の名前くらい、流石に覚えられる。それなのに名前で呼びたがらなかったのは、やはり彼らが嫌いだからだろう。

 

「嫌悪感を尊敬で隠して……、どうして今まで気付かなかったんだろうなァ? どいつもこいつも「私は理念の為に戦ってます」って自信に満ちたその顔が、マジで腹が立つんだよ!」 

 

 一樹にはこの認知世界を悪用する気も、善行に用いる気もなかった。ただ中途半端にペルソナに目覚めただけの、タダの一般人でしかない。

 

 しかし、怪盗団は違う。ペルソナに目覚めた彼らは世直しなんて題目を掲げて、命を賭して本当にそれを実現しようとしていた。

 

 だからこそ一樹は憧れた。力に成りたいと思った。だからこそ一樹は新怪盗団なんてものの一員となった。そして彼我の差を思い知り、絶望した。

 

「てめぇらが何かすげぇ事をすればする程俺は惨めになっていく! 何も出来ないと思い知らされる! だから、ここで殺し合おう、怪盗団!」

「ハァ!? なんでそうなる?!」

「ここで何人か巻き添えにして俺が死ねば、いい加減オマエらも理解してくれるだろう?! オマエらの人生の影に、住吉一樹って脇役がいた事を!!」

 

 DRはそう言って激情のままにジョーカーに飛び掛かる。──フリをして、ノワールに飛びかかった。

 

 油断していたノワールは咄嗟に斧でガードし、DRのスレッジハンマーを受け止める。DRはノワールを弾き飛ばしながらロボットに命令する。

  

「社員ども、敵一人に対して二人でかかれ! 倒さなくていい。だが俺の邪魔をさせるな、連携させるな!」

 

 DRに乗じて社畜ロボも怪盗団に飛び掛かる。これで少しは時間を稼げるはずだ。

 

「さあ、やろうぜノワール!」

「つうっ……! 止めましょう一樹君! 私たち、仲間でしょう!」

 

 DRはノワールの訴えを無視して攻撃する。ノワールを狙った理由が、戦略的な物だけでないことを、DRは認める。DRの攻撃には、多大な怒りと嫉妬心が含まれている。

 

 DRは新怪盗団の頃、自分と同じくペルソナを呼び出せないノワールに同族意識を感じていた。けれども、ノワールは成長してしまった。

 

 DRを、置いていった。

 

 それが、DRには妬ましい。

 

「仲間だぁ? どうせお前も心の中じぁ見下してたんだろ? 『ペルソナも召喚できない役立たず』ってよぉ!!」

「そんな事……!!」

「ああそうだよな!お前はそんな事を思わねえよな!ならさ……、本気で戦って、証明してくれよ。さあ、戦えよ、ノワール! ペルソナを使え! 使えるんだろ? 俺と違って!」

 

 少しの攻防と問答の末に、ノワールが倒れた。トドメを刺す絶好の機会だ。

 

「言っただろ?俺はさ、オマエラ(怪盗団)が大っ嫌いなんだよぉ!」

 

 DRの振り下ろしたスレッジハンマーが、ノワールの頭を叩き潰す。

 

 その直前──

 

「させん! ≪メギド≫!!」

「なっ?! ぐぅッ……!」

 

 DRを衝撃とともに襲ったのは、強烈な目眩と、吐き気。DRは立っていられずに膝をつく。万能属性を撃たれたと察した頃には、DRは怪盗団に囲まれていた。周りを見れば、既に社畜ロボは破壊されている。時間切れだ。

 

「ああ……クソ。俺の負けか。やっぱ」

「……一樹」

「やれよ。このまま見逃されるのが、一番腹立つ」

 

 DRを取り囲んだ怪盗団は、本当にやるのかと、不安気な表情でジョーカーを伺う。DRには、ジョーカーも決めかねているように見えた。

 

「どうした? はやくやれよ! なんならもう一戦するか?! 俺を"情けをかけられた敗者"なんかにするな! これ以上、俺を惨めにしないでくれ……」

「っ! やるぞ」

 

 DRを憐れんだのか、ジョーカーは総攻撃を仕掛けてきた。

 

 DRは思う。結局、自分は何がしたかったのか。彼らの仲間に成りたくて、無茶をした。なのに何故か裏切って、結局負けて。

 

 母の言うようにやりたいようやってみたが、無駄に混乱させただけで終わった気がする。

 

「ぐぅぅ……、ガアァ!」

 

 素早く、痛い連撃にDRは成す術は無い。ただただ一方的だ。

 

 ──THE SHOW’S OVER……(ショーは終わりだ)

 

 総攻撃が終わるのとともに、DRの意識は途切れる。

 

(──ああ、クソ。もっと……)

 

 もっと……、もっとやりたい事をやればよかった? もっと言いたい事は我慢しないで言えばよかった?どれも違うような、真実の様な。

 

 どの気持ちが本当なのかDRには分からなかったが、DRが後悔しながら意識を失ったのは、間違いなく真実であった。

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