謎のパレスから雨宮や芳澤と共に脱出してから数日が経った。その間特に変わった事も無く、クラスメートも荒々しく変貌した一樹に慣れ、一樹はたまに買い出しや送迎を頼まれたりして過ごしていた。
そんなある日……。
■
『春) 朝早くにごめんなさい』
『春) お父様が
緊急記者会見を開くらしいの』
【それって、改心成功ってことか?】
『坂本) そーゆう事だろ!?』
『高巻) おめでとう!』
『新島) いつなの?』
『春) 急なんだけど、
今日の20時からだって』
『新島) 廃人化のこと
話してくれるかしら』
『佐倉) どこで見よう?』
【集まる必要あんのか?】
『雨宮) 集まろう』
『春) 集まるなら
秀尽学園の屋上はいかが?』
『春) 私ちょっと用があって』
『佐倉) 学校、だ、と…』
『新島) 双葉はちゃんと
正面から来なさいね?』
『新島) じゃあまた放課後に』
【了解】
■
オクムラ・パレスからオタカラを盗み出してからしばらくの日にちが経っていたが、ようやく奥村社長が行動を起こしたらしい。一樹は自分の目で鴨志田の懺悔は見ているし、ネットを探せば班目画伯の号泣会見も見る事ができた。しかし一樹自身が改心に関わったのは初めての事。不安は残っている。
そんなモヤモヤを抱えつつ放課後まで待ち、HRが終わり次第屋上へ向かった。当然だが、クラスメートの春も向かう方向は同じだ。
「……大丈夫か?」
「え? 何が?」
「いや。……色々と」
「……うん。大丈夫。ありがとう」
今回の一件で一番気を病んでいるのは、奥村社長の家族かつ下手人である春であろう。怪盗団にとっては、どうしたって『いつもの慣れた仕事』でしかない。春の不安は、記者会見を通してで奥村社長が正しく改心したのを見届けるまで解消されないだろう。
「……なあ、屋上行ってなにするんだ?何か用事があるらしいが」
「花壇の模様替えをしようと思って」
「花壇? 屋上に花壇なんて有んのか?知らなかった」
「基本、屋上は立ち入り禁止だからね」
怪盗団は一時期、カモシダ・パレスを攻略中はアジトとして入り浸っていたらしいが。そんな事を話している間に、一樹と春は屋上についた。一番乗りだろうか。
「ムッフッフ 遅かったな!」
「!佐倉か。随分早いじゃねえか。驚いたぞ」
「俺もいるぞ」
「喜多川もか……。秀尽メンバーの方が遅かったんだな」
一樹が扉を開けると、放置された机の上に座った佐倉が待っていた。その横には喜多川が立っており、じゃがりこをむさぼり食っている。屋上を見渡しても、他のメンバーはいない。2人で待っていたようだ。佐倉と喜多川では話が噛み合わないように思えるが、様子を見る限りそうでもないらしい。
「っと、これが例の花壇か?」
「そうだよ。今回は、喜多川君のプロデュースなの」
「プロデュースと言っても、色のバランスと配置に、何と言うか、侘び寂びを加えただけだ」
「へぇ。凄そうだな」
「ふむ、分かるか?」
「いや? ぜんぜん。ショージキその「ワビサビ」が何なのかも分からん。俺に美的センスを求めんなよな」
「そうか…」と残念そうに呟く喜多川を横目に待って少し。ようやく他のメンバーが屋上にやってきた。
「あっ。もう皆来てたんだ」
「……遅れた」
「チース!」
ドアが開けられやってきたのは、二年生3人+1匹。それから更に生徒会の用事のあった新島が遅れて到着して、やっと怪盗団全員が屋上に集まった。
「これ、先輩が育ててたんだ」
後から来たメンバーが春の花壇を鑑賞している。屋上をアジトにしていた彼らには、何か感じる物が有るらしい。
「『先輩』じゃなくて、もう『春』でいいよ」
「……春がそう言うなら俺も、『一樹』でいい」
春は兎も角、1度裏切ってしまった一樹は怪盗団との距離が若干遠い事を感じていた。感じていただけでどうこうするつもりはなかったが、春が詰めるなら便乗して一樹も距離を詰める。
そのまま春と喜多川の指示の元で作業をする事になったのだが、手先が途轍もなく不器用な一樹は力仕事のみ手伝った。……そんな風に自分から距離を取るから距離が縮まらないのだが、万年ボッチだった一樹は気付かない。
「そう言やさ、前に話したけど打ち上げと学園祭、一緒になったじゃん? やっぱ打ち上げは打ち上げでちゃんとやった方がよくね?」
「同感だ。打ち上げは2人の歓迎会も兼ねているのだし、内々で気兼ねないやつをやりたい」
「いいよ、そんな、私は学園祭だけで充分だよ」
「俺も学園祭だけで腹いっぱいだな」
打ち合わせていた訳では無いが、一樹と春は同意見だった。春は遠慮から、一樹は気不味さからと理由に違いは有るが。
「おいおい。主役がそんなだと、みんなのテンション下げちまうぜ?」
「うーんそれなら……、イブニングパーティーなんていかが? 『ディスティニーランド』で」
「ディスティニーランドって……、あの夢の島の?」
春の話を聞くに、会社の親睦会の為に借りていたディスティニーランドを、醜聞で自粛になった機会をそのまま流用して、名前を出さずに一晩借りれるらしい。
「そーいうことなら……そうよね。今日はダブルで盛り上がればいいし!」
テーマパーク貸し切りというサプライズ。否応なしにみんなのテンションが高まっていく。そんな時に空気を読まず水を差すのが一樹である。
「あー、すまん。学園祭は兎も角、ディスティニーランドに俺は行けん」
「え!? どうして!?」
春に詰め寄られるが、申し訳無さで一樹は顔を背ける。
「本当にすまん……。今日は京都から叔父さんが来て、食事会なんだ。俺自身恩があるから……フケれない。マジで悪いと思ってる」
来るのは一樹に、どうやってか警察学校の推薦を与えてくれた刑事の叔父さんだ。一樹が会いに行かない訳にはいかない。
今日の朝、記者会見の話を聞いた時から伝えたかったのだが、機会を逃し続けてこのタイミングになってしまった。
「だから、悪いがイブニングパーティーは俺抜きで楽しんでくれ。……記者会見だけは、絶対に確認するから」
至極残念そうにする春に一応フォローを入れる。
「それにディスティニーランドなら俺が食事会をするホテルのすぐ側だ。何かありゃ呼んでくれ。そん時は走って駆けつけてやる」
其処まで一樹が言い切ったからか春も納得し、作業へと戻るのだった。
■
「なんつうか……、変わったな、お前」
その晩。食事会の会場になったとある有名ホテルのビュッフェで、一樹は久しぶりに合った叔父さんにそんな事を言われた。たまたまか、叔父さんと一樹以外は食事を取りに行って今席にいない。
「……何が?」
「色々だよ。見た目もだが……お前、前はそんな唐揚げとフライドチキンおかずにポテト食うような奴じゃなかっただろ?」
叔父さんに言われて一樹は自分の皿を見る。確かに皿の上はトコトン茶色い。前までは、もっと色々と考えて色とりどりに食べていた気がする。
「まあ……、俺も成長したって事ですよ」
「成長なぁ……」
「叔父さんだって若い頃は、食事バランスなんて考えてなかったでしょ?」
「むっ。俺はオジサンじゃない──」
「ハイハイ『イケオジ』でしょ。聞き飽きましたって」
恩があるが親戚故の気安さもあり、一樹は叔父さんに対して変な話し方になる。
「……あっ」
ふと一樹がビュッフェ会場の壁に掛けられた時計を見ると、いつの間にか時刻は8時に迫っていた。
「すいません。ちょっとトイレに行ってきます。……長引きそうなんで、婆ちゃん達に伝言よろしく」
「んー? おー。1時間コースなんだから、時間無駄にすんなよ?」
「りょーかい」
自然な感じで席を離れ、トイレの個室に入る。そろそろ奥村社長の緊急記者会見の時間だ。一樹は便座に座ってスマホを開いた。
スマホを開けば、前もって設定しておいた通りに記者会見の生放送が流れる。
──はずだった。
【本日8時より予定していた記者会見は、奥村社長が交通事故に遭われた為、中止とさせていただきます】
「………は?」
本作品には恋愛要素が──
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必要
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必要ない
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少しだけ欲しい