"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Hasten

 プルルル、プルルルと、トイレの個室からコール音が鳴り響く。二回、三回とコール音が続き、それが止まる気配は無い。

 

(クソ! 早く、早く出てくれ……!)

 

 携帯電話の持ち主、一樹は電話の相手が出ない事に焦りを募らせていた。

 

(──どういうことだ!? 春は大丈夫なのか? 改心に失敗した? こっからどうすれば… …)

 

 様々な思いが怒りや焦燥となり、一樹の携帯を持つ手を震えさせた。プルルル、プル。と不意にコール音が不自然に止まる。

 

「──! 春か!?」

『………一樹君』

 

 電話の相手は、奥村 春。たった今事故に遭ったと報道された、奥村社長の娘。彼女の友達であり仲間である一樹は、春が強いようでいて弱い所が有る事を知っていた。

 

 それを他人に見せず、一人でどうにかしようとしてしまう事も。

 

 色々と春には聞きたい事は有ったが、一樹は取り敢えず春が思ったよりも冷静な事にホッとした。これならば一樹の方が慌てていた位だ。

 

「今ネットの中継を見た。ど──」

『どうしよう……?』

「春?」

 

 泣き出しそうな春の声色に、一樹は思わずギョッとする。

 

『私、携帯切ってて……、私も今ようやく聞いて、メールが来てて、お父様の事知らないで……ッ!!』

 

 堰を切った様にどもりながら話す春の話を纏めれば、『春も奥村社長が事故に遭った事を知らなかった事』『混乱して怪盗団たちと別れてしまった事』『唐突な状況のせいか会社の人と連絡が取れない事』を言っていた。

 

「──春」

 

 一樹は先程の自分の判断を悔いた。実の親が事故に遭ったのに冷静でいられる程冷たい女ではないと、一樹は知っていたはずなのに。一樹はひとまず春を落ち着かせようと、力強く声をかける。

 

『一樹君……?』

「今何処にいる?」

『ディスティニーランドの、入り口の所に……。でも、会社の人とも連絡つかないし、タクシーも来ないし……!』

 

 春は混乱している。何時もなら分かる事も、今は判断出来なくなっているようだ。

 

 つまり──

 

「春。一回落ち着け。親父さんの運ばれた病院は分かるな?」

『え? あっ……、うん……』

「よし。30、いや20分待っててくれ。迎えに行く。お前は病院への行き方を調べといてくれ」

 

 ──こんな時は、仲間を頼るべきだ。と。

 

 一樹は頭の中でディスティニーランドまでの地図を描きながら、一樹は言う。

 

『……いいの?』

 

 藁にもすがる様な声。それだけ心細かったのだろうか。

 

「当然。友達だろ? たまには頼ってくれ」

「……。うん。ありがとう」

 

 春の声には大分理性が戻っていた。これならば、少しは一人でも耐えられるだろう。一樹は電話を切り、ビュッフェ会場へと走って戻る。いま一樹は車の鍵を持っていない。祖母から借りなければ。

 

 

「ん? 随分時間かかったな? さては大の方が──」

「叔父さん! 他の皆は?!」

 

 一樹が会場に戻ると、席には叔父さんだけしかいなかった。

 

「ああ。向こうででかいステーキを切り分けてるらしくてな。それ取り行った。お前も取りに──」

「そんなんどうでもいいんだよ!」

 

 つい口を荒げる。今は呑気に叔父さんと話している暇は無い。一樹は祖母の元へ急ぐべく、背を向けた。

 

「待てよ」

「っ!」

 

 一樹は叔父さんの言葉に止められてしまう。振り向けば、叔父さんは『ヒョウキン者な親戚』ではなく『警部補』としての様な目をしている。

 

「そう慌てんなって。事情くらい説明してけ」

「……友達の父親が事故った。友達を病院に連れてく約束をした。早く行かないと」

 

 一樹は叔父の目をしっかりと見ながら言う。こうしている間にも時間は過ぎていく。ここから祖母を説得して……

 

「やっぱ、変わったよ。お前」

 

 ふと、叔父の空気が柔らかくなった。

 

「事情はわかった。 これ、貸してやる」

「……! いいの?」

 

 渡されたのは、叔父さんの車の鍵だった。

 

「ばーさんは俺が説得しといてやる。行きな」

「ありがとう!」

 

 正直、マイペースで頑固な祖母と話すのが一番の難所だった。叔父の申し出はありがたい。

 

「あっと最後に」

「なに?」

 

 駐車場まで駆けようとした一樹を、また叔父さんが呼び止めた。

 

「その友達ってのは……、お前のコレか?」

 

 叔父さんは少し下世話な笑みをしながら、小指を立てていた。一樹もつい肩に入っていた力が抜ける。

 

「違うよ。ただの友達。……大切な」

 

 それだけ言って、今度こそ一樹は走ってビュッフェ会場から出て行った。

 

 

 

 

 

 

【俺だ】  

【深夜に悪いな。今春と一緒に病院にいる】

 

『新島) 病院って……、もう日付変わってるわよ?

     ずっと病院にいたの?』

 

【ああ

【色々とあってな……】 

【兎に角、時間は空いたんだが今春が話せる状態じゃない】    

【俺がかわりに諸々を共有する】

 

『雨宮) 奥村社長はどうだった?』

 

【取り敢えず無事だ。命に別状は無いってさ】

 

『高巻) よかったぁ~』

 

『喜多川) 悪人とは言え、知り合いの親だからな』

 

【だけど……】

【意識不明で、何時目を覚ますか分からないらしい】

 

『新島) そんな……』

 

『坂本) クソ!』

『坂本) ひき逃げだろ? 犯人はなんて言ってんだよ!』

 

【その事なんだが……】

【奥村社長をはねた奴は、精神が暴走してたらしい】

 

『高巻) えっ……』

 

『新島) それって……』

 

【多分、奥村社長は事件の真犯人とやらに口封じでひかれたんだ】

 

 

 

 

 

 自分の推測でチャットは騒がしくなったが、伝えたい事は伝えた一樹は、チャットを閉じて隣を見る。病院の長椅子に座る一樹の肩に寄り掛かって、春が寝ていた。

 

 一樹がビュッフェ会場を出た後、15分でディスティニーランドに着き、直ぐ様病院に春を連れて行った。

 

 病院に着いたら着いたらで、医者の話を聞いた春が泣き崩れたり、気の早い会社重役が後継者どうこうと騒ぎ立てたてたり、警察が来たり粘着質な記者にまとわりつかれたりと問題があった。

 

 それにまんまと巻き込まれた一樹は周りを落ち着かせそうと奮闘する春を守ろうとしたせいで帰るに帰れず、こんな時間になっていたのだ。

 

 11時を回った頃でようやく回りも落ち着いたが、今度集中力が切れた春が寝落ちしてしまい、一樹はまだ帰れずにいる。

 

 春は一樹の肩を枕にすやすやと眠っている。思えば朝、学校にいた時から春は緊張していた。結局奥村社長が改心したかは分かっていない。そこでこの事件だ。寝落ちしても仕方ない。

 

 一樹は今日中に帰るのを諦めて、自販機で買った缶コーヒーをチビチビ飲みながらネット小説を読んで春が起きるのを待つ事にした。

本作品には恋愛要素が──

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