"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Controversy

「なにも出てきませんねぇ」

「そうですか……」

「我々も予告状以上の物証、期待してたんですがねぇ」

 

 奥村社長が事故に遭った次の日。奥村宅の家宅捜査が行われていた。奥村社長と怪盗団の繋りを探す為だ。

 

「大丈夫か? 春」

「……ええ。ごめんね、一樹君。巻き込んじゃって」

「お前のせえじゃねえよ」

 

(──ああクソ……。 叔父さんに車返さねぇと……)

 

 その現場には何故か、一樹もいた。

 

 昨日病院にて、春が目を覚ました頃には空が白まっていた。申し訳無さそうにする春を家まで送ったまではよかったが、今度は一樹が限界だった。

 

 一徹した状態で車を運転するわけにもいかず、ソファを借りて仮眠を取る……つもりが思いの外爆睡してしまい、一樹が起きた時にはとうに学校は終わっていた。

 

 そしてその頃には家宅捜査だと警察が来ており一樹は帰るに帰れなくなってしまっていたのだ。

 

 

 そもそも何故春の家が調査されなくてはならないのか。真犯人が別にいると確信している一樹は不満を持つ。真犯人について一樹や春の口から伝える事はできない。それが一樹にはとてももどかしかった。

 

 ちなみに警察曰く、「奥村社長と怪盗団は繋がっていた(奥村社長のライバルを廃人にした)→奥村社長が怪盗団を切ろうとした→怪盗団は奥村社長を改心のターゲットに選んで対抗した→改心に失敗した→腹いせに事故に遭わせた(交通事故の加害者の精神を暴走させた)」

 

 という理屈で奥村社長と怪盗団の繋がりを探しに家宅捜査に踏み切ったらしい。

 

 が、そんな証拠は探せど探せど出てこない。

 

 当然だと、一樹は懸命に捜査を続ける警察を横目に思う。しかし顔には出さない。一樹の側に立っている女検事は妙に鋭い。一樹と怪盗団の関係を悟られてはならないのだ。

 

「だからそんな顔するな。警察も被疑者の娘までは探んねぇって」

 隣で不安そうにしている春に小声で言う。もし警察に自分の部屋や携帯を調べられたらマズイと、春は思っているからだろう。

 

 一樹は一応警察を目指している身として、恐らく彼らには其処までの権限は無かろうと予測して、堂々としている。

 

 もっとも、春がつらそうなのは父親が意識不明の重体であり、そうさせた犯人がいると分かったからだろうが……。

 

 一樹は春の肩をポンポンと叩き「心配すんな」とメッセージを送った。春はそれをしっかりと受け取り、少し安心した様な表情を見せる。

 

 ピピピと女検事と話していた捜査員の携帯が鳴る。

 

「はい? えっ?! 新島さん! 校長室でも出ました、予告状!」

 

 言葉を理解し飲み込んだ瞬間、一樹は叫びそうになったのをなんとか堪えた。隣の春は驚愕で言葉が出なくなっているらしい。

 

「よし…! もう一度聞くけど、お父様から怪盗団の事は聞いていないのよね?」

「はい……」

 

 何か分かったら連絡して。そう言って、女検事と警察は帰っていった。

 

「一樹君……」

「……校長って、うち(秀尽)の……だよな?」

 

 校長…そう言われて2人の脳裏に浮かぶのは、あの肉だるまの様な秀尽の校長。つい最近、亡くなったばかりの。

 

「あの肉塊、……校長が死んだのって、9月のいつ頃だったっけ?」

「……たしか、中頃の…11日くらい…」

「俺もまだ加入してなかった頃か……」

 

 思い返せば、たしかにあの校長の死も怪盗団の仕業だとの噂はあった。しかし……。

 

そんな話(校長殺し)なんて、怪盗団から聞いたことあるか?」

「……ううん」

「だよな……」

 

 一樹は、ふと思い出してしまう。まだ怪盗団に入っていなかった頃、ワイドショーを見ながら考えていた事。

 

 

(──イセカイナビを持つ人間はそう何人もいるものなのだろうか?)(なら、精神暴走事件で一番怪しい容疑者は怪盗団……)

 

 信じたくない。よりによってあの新島が、そんな事件に関与しているなどと。だが一樹と春には、彼らが校長と奥村社長を事故に遇わせていないと言い切れる証拠は、なにも無い。

 

「あいつらが殺人をするとは思えねぇ。だが、一回話聞いた方が良さそうだな……」

 

 なにか、風向きがおかしい。そんなドロリとした不安の様な物を、一樹は感じた。

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず次の日、一樹は怪盗団をアジトに呼ぶことにした。

 

「どこもかしこも、メディアは俺たちが奥村社長を殺そうとしたのだと断定しているな」

「世間は怪盗団バッシングで一色。ついこの間まで怪盗団ブームだったのが嘘みたい……」

「手のひら返しやがって……。クソッ!!」

 

 ルブランに到着した一樹がマスターに挨拶して屋根裏部屋への階段を登っていると、そんな会話が耳に入る。一樹以外の全員が先に来ていたらしい。

 

「ん? 悪い。最後だったか? 待たせたな」

「ううん。大丈夫」

「よし。それで春、気になることってのは? オクムラ関連の事だろ?」

 

 選挙カーの演説をBGM代わりにそう尋ねたモルガナに、春が少し言い淀む。

 

「みんなは、校長先生って狙ったの?」

 

 それを聞いた怪盗団は一様に不思議そうな顔をした。図星を突かれて慌てている様子もない。

 

(──これは、シロか……?)

 

 一樹は少しホッとした。

 

「昨日、うちに検察の人が来てね……。その検事のひとが、校長室から予告状が出たって、そう言ったの」

「ウチのコーチョーを?!そんなの知らねえっての!」

「まさか……、俺たちは嵌められたのか……?」

「それにしたって、何か…、手際が良すぎない……?」

 

 春の言葉を聞き、ギャーギャーと騒ぎ始める。

 

(──ハァ……。 たっく……)

 

 ガンッと鈍い音が響く。怪盗団は驚いて音源を見れば、そこには壁を思いっきり殴った一樹がいた。

 

「なっ、なにを……」

「質問に答えてねぇ」

「はっ……?」

 

 ポカンとする新島を一樹はにらむ。

 

「推測するも騒ぐも勝手だが、まずは春の質問に答えてからだろうが……! 春からすりゃ、親狙ったのがオマエラかも知れねぇッて不安があんだぞ! わかんねぇのか!」

「い、一樹君……。 別にいいのに……」

 

 春はこの状況でジーンと感動していた。やはり、春も少し感性がずれてるらしい。

 

「で? 狙ったのか? 狙ってねぇのか?!」

「やってねえっての!」

「だってさ。春」

「……うん。私は、皆を信じるよ」

「そうか。ならいい! じゃ、後は好きに討論してろ」

 

 そう言うと一樹は壁に寄りかかって聞く体勢に戻る。一樹は空気を読まない。白けた空気の中、新島が言おうとしていた事を言い直す。

 

「えっと……奥村社長の件は、何ていうか…… 事件後の、事の進みが早すぎる気がするの」

「どういう意味だ?」

「事故が起きて次の日には家宅捜査。そして校長室から身に覚えのない予告状が見つかる……」

「……つまり?」

「真犯人、つまり、精神暴走事件を起こして奥村の親父さんを殺そうとし人間が、警察と繋がってる可能性がある……って訳か」

 

 新島の推測を引き継いだ一樹の言葉に、皆が戦慄した。その推測が正しければ、この国の政治の中に敵が巣喰っている事となる。

 

 その後は坂本がギャーギャー騒いだだけで大して発展的な話もなく、新島の考えが正しければ警察にも追われるだろうから大人しく目立たないように行動しよう。と無難な対策をしただけで終わった。

 

 

「春」

「一樹君。あっ、さっきはありがとう。私の為に」

「いや、いい。半分は俺がムカついたってだけだからな。……と、そうだ。帰りは電車か?」

「え? あ、うん」

「なら送ってやるよ。そこに車駐めてるから」

「いいの? ありがとう!」

 

 ルブラン前でメンバーと別れた一樹と春は近場の駐車場に駐めてあった車に乗り、走り出す。一樹が春を乗せた理由の半分は善意だが、もう半分は春に言っておきたい事があったからだ。

 

「あー…、と」

 

 一樹はコミュ症だ。言い方に迷ったり空気を読んでいる間に言いたい事を言う機会を逃してしまう。だからこそ、一樹は単刀直入に言うことを好むようになった。

 

「なんかあったら言ってくれ。できる限り、力になる」

 

 奥村社長が事故に遭ったことで取り止めになったあの記者会見で、社長は自身が抱える『()()』の自白と共に、会社の労働基準法違反の告白と警察への自首を行う予定だったらしい。

 

 だがその社長が事故に遭い意識不明の重体となってしまい、社長の抱える秘密、責任のあれこれなど様々な事が有耶無耶になってしまった。

 

 不幸中の幸いと言うべきか経営に関しては事前に粗方決まっていたらしく大きな問題はなかったらしいが、それでも混乱は起こっている。

 

 ゆえに、今の内に会社の実権を握ろうと画作する輩がいてもおかしくない。

 

 そして、そんな輩に狙われるのは春だ。

 

 春は今まで会社の人間とあまり関わらないでやってきたらしい。ならば奥村社長不在の今、誰が味方で誰が敵かの判断は出来ないだろう。

 

 そんな時、なんの役にも立たないだろうが、絶対に『仲間』である一樹は、己惚れでなければ少しくらいは心の支えになれる筈だ。

 

 と、運転しながら一樹は春に語った。

 

「一樹君……」

「どーせクラスも一緒なんだ。なんかあれば気軽に相談してくれ。話すだけでも楽になんだろ」

「本当に、本当にありがとう……」

 

 シンミリとした空気の中、春がそう言えば。と言い出した。

 

「さっきの事なんだけどさ。ほら、真犯人が警察と繋がってるかも…って皆で話してた時……」

「あん? それがどーした?」

「いや……。あの時、皆驚いた顔をしてたのに、一樹君だけ──」

 

  ──笑ってた……よね。

 

「だからなんだ、って事なんだけどさ。気になっちゃって」

「……え? マジで笑ってた? 俺」

「うん」

 

 一樹はアチャーと言いながら片手で顔を掻いた。あまり見せたい物ではなかったのに。

 

「いや、変な意味はねーんだ。たださ、コーフンしちゃって」

 

 一樹はバックミラーをチラリと見る。そこには、不思議そうな顔をした春と、つい想像して興奮した笑顔の一樹が写っている。

 

(──アァ……。 相変わらずキモチワルイ笑みだ)

 

 一樹はつい片手で口を隠す。自分の事は受け入れれたが、この笑顔は駄目だ。一樹は自分が嫌いだが、特に笑顔が大嫌いだ。前までマスクを常時着用していたのは半分以上自分の笑顔を見たくないからだ。

 

 愛想笑いもキモいが、本気で笑うともっとダメ。自分の顔なのに、自分じゃないよう。取って食われるんじゃないかと錯覚してしまう。

 

 だから見たくない。

 

「一樹君?」

「──! 悪い。自分と格闘してた。と、まあそん時笑ってたのには大した意味は無いぜ。──ただ、ホントに黒幕がいるなら、是非とも戦いてぇな、って思ってただけだから」

「そっか。よく分からないけど、一樹君が()()()()だったから、気になっちゃって」

「……楽しそう? そうか…、楽しそうだったのか」

 

 自分ですら受け入れられないアレを、春は楽しそうだと言うのか。何となく嬉しくなり、一樹は口元を隠していた手を離した。

 

 そこにはやはり、獲物を見つけた捕食者の様な、獰猛な笑みが浮かんでいた。

本作品には恋愛要素が──

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