難しかった…
「新島たちが怪盗団……。そっ、そう、か……」
予想のついていた事だし、ある程度確信もあった。それでも尚、一樹は驚きが隠せなかった。
心を盗むなどと言う非科学的な事をやってのける『怪盗団』は、自分と同じ現実の存在と言うよりも物語や空想の存在のように、一樹には思えていたのだ。
一樹は驚いていたが、新島の仲間も驚いていた。
「ちょっ、言っちゃっていいの?!」
「誤魔化すんじゃなかったのか」
怪盗団は警察に追われている。あちこちで話すのはリスクでしかないだろう。あの摩訶不思議な砂漠空間を誤魔化す方法など、一樹には思い付かないが。
「住吉君は私たちの正体にかなり勘づいてたわ。変に黙ってるのは悪手でしかない。なら、いっそのこと話した方が取れる手が多くなる」
それに、と新島は言葉を続ける。
「彼は正体を知ったからって言い触らす様な事はしないわ。彼、性格は悪くないし」
その言い方だと、性格以外は悪いということになるのだが。一樹は腹が立って、有ること無いこと警察に伝えてしまおうか。と思ったが、
「なに。全部任せていたんだ。ここはマコトの判断に従おうじゃないか」
(──ネコガシャベッタ。)
一樹の思考は、すべて吹き飛んだ。
そう言えば、あの砂漠の時にも黒猫形のナニかが居たな、という記憶はすっかり一樹の頭から抜け落ちていた。
「それもそ……どうしたん? えっと……、スミヨシ先パイ?」
「ネネネ、ネコが喋ッタ……」
一樹は顔を青くしながら化け黒猫を指差す。
何故こいつらはさも当然の事の様に喋る化け猫と接せれるのか。傍目に写る怪盗団メンバーは皆一様に呆けた顔をしている。
そんなにおかしな事を言ってなかろう。言葉を話す猫だぞ。と、一樹は段々腹立たしくなってきた。
まさか、何か種が有ったのでは。怒りで逆に冷静さを取り戻してきた一樹はネタを破ろうと黒猫を睨む。
「住吉君。ちょといい?」
ただの黒猫にしか見えないな。まさか本物に化け猫なのでは……と一樹の顔に青味が帰ってきた頃、新島に声をかけられる。
一樹は何となく悪い予感を感じた一樹は警戒しながら返事をする。
「……な、何?」
「貴方、こういうアプリみたいなの、スマホにインストールされてないかしら」
「……ん? それっ、て」
指し示された新島のスマホに表示されているアプリに一樹は見覚えがある。
それは、確か一週間前、あの砂漠から帰ってきた時に初めてインストールされていたバグアプリ。
まさか喋る化け猫と何か関係が有るのかと、一樹はスマホのアプリ一覧に入れてあったそのアプリを新島に見せる。
「やっぱり……、住吉君はそのアプリを開いたりした?」
「え? いや、バグか何かだと思ってたから…… 」
人と話し慣れない一樹の声は段々と小さくなっていき、何回か消そうとしたけど、と言った時には消え入りそうな音になっていた。
それでも一応聞き取れたらしく、新島に聞き返されずにすんだ。
「本当はそんなに話すつもりは無かったんだけど……、これがあるなら話は別ね」
顎に手を置き一瞬考えた新島は、まず 、と言葉を綴る。
「君は、私たちがどうやって心を盗んでいるか、想像はついてる?」
「え、っと。 いや……それよりその猫の話は──」
唐突な質問に、一樹はパッとネットニュースで見た『洗脳か、催眠か!?』と言う見出しを思い出したが、そんな事をする集団に新島が所属するまいとその考えを否定する。
それ以上一樹が何か言う前に、新島が続ける。
「この世界には『現実世界』とは別の、異世界が存在しているの。そこは『認知世界』と言うか…… 兎に角そう言う場所」
「は? いっ、いきなりなんの話を……」
突拍子も無く漫画の設定の様な事を言い出した新島に、一樹は豆鉄砲をくらった様な顔をしてしまう。
「いいから聞いて。その『認知世界』って言うのはその名の通り"人々がどう思っているか"が重要な世界なの」
「う、えっと……、うん」
「そしてその認知世界の一種に『パレス』って物がある。そこは、何て言うか……"一人の歪んだ心の具現"?って感じかな」
一コイツは何の話をしてるんだ、と一樹は思っているが、新島だけでなく他のメンバーまで神妙そうな顔つきをしているため、口を出せずにいる。
「パレスはその持ち主の歪んだ欲望を『オタカラ』として核にしている。だから、そのオタカラを盗めば持ち主は歪んだ欲望が消え去る」
「えっと……、ナルホド?」
最初はSFかと思っていたが、段々と話がライトノベルみたいになってきた。一樹は今の時点で話を半分も理解出来ている気がしない。
「だから、私たちはパレスに侵入してオタカラを盗むの。悪人を改心させる為にね。その『イセカイナビ』を使ってね」
「……はい?」
自分は5分くらい居眠りしてたのか? 話飛んでないか? と一樹が疑うほど、新島の話は想像を越えていた。
これならば、"怪盗団は被害者を誘拐し、違法なお薬を使って洗脳している"とか語っていたネットの二流記事の方がまだ現実味が有る。
「信じられないのも分かるけど、それが真実なの」
「いや、うん?でも……」
ハイそうですか、と理解出来る領域は軽々しく越えている。と言うか、直ぐ様納得出来る方がどうにかしているだろう。これは。と一樹は思った。
「無理にここで納得させる必要は無いさ、マコト。ワガハイたちにはもっと簡単な証明方法が有る」
「……それもそうね。住吉君。今日まだ時間あるかしら?」
「え? う、うん。今日は、えっと……、1日空いてる」
実際の所、3年生の癖に"今日
「それは良かった。なら一度来てもらいましょう」
「……へ? 何処に?」
「もちろん、『認知世界』よ」
■
「えっ、えぇ……?」
渋谷駅まで移動して新島に言われるがまま例のアプリを操作すると、何時の間にか、一樹は薄暗い見知らぬ場所に立っていた。
ここはよく見れば、荒廃した駅のホームのようだ。こんな経験は二度目だが、一樹はやはり呆然としてしまう。
「……なんだ、ここ?」
「ここは『メメントス』 認知世界の1つよ」
「っ! 新島……ってなんだその格好?!」
知っている声が聞こえてガバッと振り返れば、そこには真っ黒なライダースーツに鉄仮面を着て、手にはメリケンサックを装備した、あの砂漠の時と同じ世紀末覇者みたいな格好をした新島が立っていた。
その後ろには、それぞれあの時と同じ珍妙な服装をした怪盗団メンバーが立っている。
しかし、宇宙人の様な格好をしている赤髪の少女はあの少女店員だろうか。
あの砂漠で見た覚えがない。慌てふためいていたから気付かなかっただけかもしれないが。
そう言えば、相変わらず当然の様に二頭身の猫型のナニかが混ざっている。あの化け黒猫の正体なのだろうか。
そして、あの時は気にする余裕が無かったが、あのカタブツ生徒会長がこんな姿なのはなかなかにシュールで笑ってしまいそうになる。
一樹は己の笑顔が気持ち悪い事を知っているので、顔下半分を手で隠す。その行動を自分の事を馬鹿にしていると取った新島は少し不機嫌そうに答える。
「まあ、怪盗衣装みたいな物よ。そんなに気にしないで」
「ああ……、ナルホド。それで、こ、此処がなんだって?」
「『メメントス』ね。一般人の意識の集合体。パレスを持たない悪人のシャドウは此処にいるから、それを倒して『オタカラの芽』を盗むのも怪盗団の仕事なの」
一樹はなんとか話と設定を噛み合わせて相槌を打ちそうになったが、1つ引っ掛かることが有った。
「悪い、ホント、あの……『シャドウ』って、何のコト?」
先程の説明にも出てこなかった……ハズの単語だ。一樹は自分の記憶力に一切期待していないので、絶対にとは言えないが。
「え? ああ言ってなかった? シャドウは二つの意味があるの。1つは、認知世界に居る悪魔って言うか…まあそんな感じの"異形の者"」
そしてもう1つは、と新島が続ける。
「"歪んだ自己認識の具現化"ね」
「なる、ほど?」
分かったような分からないような。
「じゃあ、お前たちが操ってた、あの、幻影みたいなのは?」
一樹は言ってから後悔した。新島が本題だとばかりに笑った気がしたからだ。
「それは『ペルソナ』。"もう一人の自分"であり"叛逆の意志" そして──住吉君。今から君に目覚めて貰う力よ」
「ナルホ………はい?」