「おー。結構様になってんな」
中間試験終了から一週間足らずのある日。秀尽学園では学園祭が行われていた。一樹は玄関の前でメンバーと共に飾りや看板の立てられた校舎を眺める。
学園祭は四月の騒動や校長の件などから中止も検討されていたらしいが、無事開催できたことは一樹としても喜ばしい。
去年まではボッチの一樹は学園祭なんて青春行事は最低限参加してあとは自宅待機が基本だったが、今年は一緒に回る仲間がいる。色々と面倒事や考えなくてはならないことは多いが、今日くらいは純粋に楽しみたかった。
「いやーここ最近まったく学校来てなかったから、この代わり様は驚きだわ」
「実行員の仕事も全然しなかったわね……。ずっと家にいたの?」
「まさか! 学校終わるまで喫茶店だので時間潰してたよ」
特捜に目を付けられず自然に集まれるようにと、生徒会長である真が、勝手に一樹を文化祭実行委員会に入れていた。しかし一樹はその手の委員会が嫌いである。
一樹は学園祭の準備期間として設けられていた期間の間、一切学校に近寄っていなかった。
「もう。一樹君と一緒に模擬店の準備するの、楽しみにしてたのに」
「その模擬店も問題で来れなかったんだよ……。アホな出し物を計画しやがって……」
一樹と春のクラスの出し物は『女装メイド喫茶』とか言う正気の沙汰とは思えない模擬店だった。 しかも、いつの間にか一樹はウェイターに選ばれていた。
一般的男子生徒なら口ではなんだかんだと言いながらも回りの空気に流されて黒歴史を作る所だが、
「一樹君のメイド姿、見たかったのに」
「……」
春が残念そうに言うが、一樹は聞こえないふりをする。なんとなく、一樹がウェイターに選ばれていた理由が春にある気がした。
「それにしても、盛況だな」
「人、去年より全然多い」
「そりゃそうだろ。『有名』になっちまったし」
一樹は去年までを知らないが、たしかにたかだか高校の文化祭にしては人が多い。竜司は他人事の様に言うが、この高校が注目を浴びている理由はほぼ怪盗団関係だ。つまり──
「私服警官とかもいるかも……」
「いる、って考えた方が無難だろうな。怪盗団を探して聴き耳を立ててる連中が」
「そうね。会話の内容、気をつけないと」
「フツーの学生ぽさが大事だな」
それを聞いて、竜司や杏が「普通に学園祭を楽しめばいい」となどと気楽な事を言い出した。怪盗団の中でも、特に気を張らなければならない連中だろうに。
「お気楽ね。リーダーや竜司は調査の過程で既に名前が挙がってても──」
「おい。」
お小言を言おうとした真を、一樹が止めた。SNSアプリを開いて真にスマホを見せる。
【会話の内容、気をつけるんだろ】
【こんな誰が聞いてるかわかんねぇ所でする話題じゃない】
『真) そうね……』
『真) ごめんない。私も気が焦ってるみたい』
『真) 取り敢えず、特に初期の三人は会話に気をつけて』
『竜司) わーたよ』
『杏) フツーっぽい会話!だよね!』
脇の甘い連中への注意喚起も済み、怪盗団は春のリクエストで「食事を楽しめる模擬店」に行く事になった。杏が良い模擬店を知っていると言うので、彼女に案内を任せる。
「着いた! ここだよ!」
「『メイドたこ焼き』……! てかお前のクラスじゃねーか!」
「へへ。1組様ごあんな~い」
「……どのクラスも考える事は一緒だな。無駄に凝ったメイド服を着やがって」
一樹はそう呆れたが、しかしこの模擬店は衣装に凝りすぎたせいで予算が無く、無難なたこ焼きは全部売り切れたとかで、怪盗団は『ロシアンたこ焼き』なるいかにも学園祭らしいたこ焼きを注文させられた。
一樹はその『ロシアンたこ焼き』にあまりいい予感がしなかったが、春が随分楽しそうにしていたので何も言わない。
そうしてたこ焼きを待っていれば、話題は自然と怪盗団の事になる。いま一樹たちのいるエリアは客足も遠く、模擬店の店員にさえ気をつければ普通に会話して問題ないだろう。
「取り敢えず、本題話そうぜ」
「本題……? ああそう言えば、明日
「もう。それを決める為に委員会に参加してもらったんでしょう?」
「へいへい悪かったな。もう一回教えてくれ」
──『高校生探偵』明智吾郎。
警察と協力して数々の難事件を解決した実績があり、その知性と容貌から巷では探偵王子とも呼ばれている。怪盗団の改心を洗脳と同質と考えて心を盗む怪盗団を大々的に否定していたが、最近は怪盗団援護側に回ったらしい。
精神暴走事件の真犯人を探すため、怪盗団は情報を盗むべく高校生探偵を文化祭の講演に呼んだらしい。コネは蓮が持っていたらしいが、相変わらず謎の人脈だと、一樹は思った。
「にしてもムカつくぜ! アイツに頼んねーとなんねぇなんてよ!」
「ホント…。濡れ衣なんか着せられなきゃ、ぎゃふんと言わせられたのに……」
一樹は何とも思っていないが、怪盗団の初期メンバーは高校生探偵に敵対心を多大に抱いている。そんな人をどんな形にせよ頼るのは、彼らにとって苦肉の策だろう。
「道行く人の話を聞くと、明智の人気ばかりが耳に届くな」
「全部怪盗団のお陰だろっ!」
何人かが双葉の言葉に頷く。一樹はいくらか距離を置いて客観的且つ利己的に怪盗団に所属しているが、怪盗団の正義を盲信している彼らには高校生探偵の人気は腹立たしいのだろう。
「つかさ、明智のヤロウが出演を受けたのって、俺らがやってないって信じてるからか……?」
「意外と、ただの祭り好きかもな」
「あー、メディアでちやほやされるの、まんざらでも無さそうだしね」
「可能性で言えば……いや、いいか」
探偵嫌いの色眼鏡を除いて考えた時、こんな時期にこの高校に彼がやって来る理由。ふと、一樹の頭にぶっ飛んだ想像が浮かんだが、流石にあり得ないだろうと思考から消した。
「お待たせいたしました~。えっとー、このなかの1つが『特別』で~す」
一樹の思考が飛んでいる間に、『ロシアンたこ焼き』がメイド服の女子生徒がテーブルにたこ焼きを置いた。
「……特別?」
船皿の上には、人数分なのか七個のたこ焼きが乗っていた。まあ学園祭クオリティの、普通のレトルトたこ焼きだ。
……1つを除いては。
「1つ明らかに真っ赤だろ。どう見ても『それ』だろ」
「オイまさか『ロシアン』って……」
「いや待て……。こんなあからさまなヤツ、逆にフェイクの可能性も……」
一樹は辛いのは苦手だ。コンビニのピリ辛お菓子すら駄目なレベルなのだから、見るからに真っ赤な『ソレ』を食べる勇気はない。一樹は痛いのは好きだが、求めているのは戦闘による副次的な痛みだ。自分から無駄に喰らうのは流石に躊躇する。
一樹の言葉のせいか、皆疑心暗鬼になり他のたこ焼きに手をつけれなくなっている。兎に角、赤いのを始末しなければ……。
「あら、皆食べないの? なら私が『特別』をいただこうかしら」
「……まさか、素でいこうとしてる?」
どうにも春は本気で分かっていないらしい。誰かの口から安堵の息が漏れた。
確かに自分から生贄になろうとしているのだ。止める理由はない。一樹だって志願してるのが春で無ければ見捨てていた。
しかし、たまにゲテモノに走ろうとするとはいえ春はセレブ。彼女の口は肥えている。唐辛子をぶちこんだだけだろう辛さに耐性が有るとは思えない。
しかも彼女は今日を楽しみにしていた。こんなことで思い出を汚すのは躊躇われる。
かといって他人に押し付けるのは違う。やはり自分が──と一樹が素早く覚悟を決めた、その時。
「あれ? 一人多いね」
彼が表れた。
「こ、講演会、明日なんだけど?」
「会場の下見に──」
「なあ、……誰?」
小声で隣に座る春に尋ねる。一樹といえど、テレビで彼を見た記憶はあるし、真との会話からある程度予測はつくが、それでも確信はなかった。
「あ、明智吾郎君……。 高校生探偵の……」
「……だよな、やっぱり」
「これ、1ついただくね」
前までの一樹なら、嫉妬でマトモに向き合えなかったであろうその男、明智は下見に来たらファンに見つかって人気の無い方に逃げて来たと説明して、不意に船皿からたこ焼きを1つ取った。
「これ、1ついただくね」
「あ! 『特別』……!」
「出演料代わりってことで」
「それ──」
杏の制止も遅く、杏はにこやかに赤いたこ焼きを口に放り込み──
「ほうぁっ!」
思いっきりむせた。
「喉がっ…ウホッ、これはッ…! 胃の中が、大炎上だッ…!!」
「大丈夫? 水……」
「平気に、決まってる、だろ…? 僕、辛いの…大好き…だい、す…き…ハハ…」
大した痩せ我慢で、軽く挨拶すると早足に去っていった。トイレにでも行って思いっきり咳き込むのだろう。
(──弱味を見せようとしない姿は天晴れだな。……経緯は兎も角。)
不穏な点は残しつつも、これが一樹と高校生探偵明智吾郎の、ファーストコンタクトであった。
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本作品には恋愛要素が──
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