"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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School Festival

「おっ! この焼きそばうめぇ!」

「ホントだ。美味しい!」

 

 竜司と杏の金髪コンビが絶賛しているのは、中庭の出店で買った焼きそばだ。一樹も春から一口貰って食べてみる。成る程たしかに旨い。

 

 が、一樹にはそれに関連して気になる事があった。

 

「マジでそれ食うの? もはや別料理じゃん」

「……ああ」

 

 蓮の焼きそばには紅生姜が山盛りに乗っけられていた。山盛り過ぎてそばが隠れているほどだ。自発的に乗せていたので、嫌がらせや罰ゲームの類いではない。

 

「いやいやパイセン。これぐらいが旨いんだって!」

「ふぅん? 俺は紅生姜は乗せない派だからな。良く分からん。まあ、好きな奴は多いんだろうな」 

 

 蓮もその好きな奴らしく、なかなかいい食いっぷりを見せている。

 

「ハーイ男たち! こっち向いて~」

 

 声に反応して向くと、杏がスマホのカメラを構えていた。一樹は写真を撮られることは嫌いだが、今は気分がいい。撮影を受け入れた。

 

「一樹君は何を食べてるの?」

「これか? じゃがバターってやつだな。……乗ってるのはバターじゃなくてマーガリンだけど」

 

 一樹は中庭のじゃがバターの屋台をあごで指しながら説明する。別に好物ではないのだが、高校の文化祭でじゃがバターは物珍しくてつい買ってしまった。

 

「ま、取り敢えず不味いモンではないぞ。ほら」

「ん。本当だ、美味しいね!」

 

 割り箸で一口分のじゃがいもを取り、春に食べさせる。春はセレブだが、安い物も食べれる口なのは好感が持てる。

 

「ミンナ食い終わったな! よし、次はアトラクション行こーぜ!」

「いいな! お化け屋敷制覇すっか!」

「ならば向こうだな。どうやらアトラクションはそっちに固まってるようだ」

「ん? ……ゲッ。そっち行くなら俺パス」

「え? どうして?」

 

 竜司とモルガナが騒ぎだし、それに乗った喜多川の広げた案内図を見て、一樹は顔をしがめる。

 

「……その階、俺らのクラスの模擬店がある。見つかったら何やらされるか分からん」

「ああー…。そりゃ無理だな」

「もう!」

 

 一樹の説明に男子たちは同情的な視線を向けるが、真面目な生徒会長としての真と一樹に着せたい主犯の春は不服そうにしている。

 

 一樹は見ないふりをした。

 

 

 

 

 

 

「ほら。アイスコーヒーで良かったんだよな?」

「うん。ありがとう」

 

 少しお洒落な紙コップに入ったコーヒーを席取りをして待っていた春に渡して、一樹も席に座る。二人は今、怪盗団と別れて無難な喫茶店風の模擬店に来ていた。

 

 真は団体行動を乱す事を嫌がったが、男子たち──特に下手にイジれば自分にも跳ね返ってくると察した竜司──の協力により、一樹は一時離脱を許された。

 

 本当は一人でぶらぶら校内を回って時間を潰すづもりだったが、なぜか春が着いてきた。ゆえに一樹は予定を変えて、喫茶店に腰を落ち着かせるのとにしたのだ。

 

「つか、お前もこっち来てよかったのか? あいつらと回るの、楽しみにしてただろ?」

 

 コーヒーを飲みながら、一樹は春に尋ねた。安いコーヒーだ。雑な苦味が口の中を駆け抜ける。

 

 春は穏やかな顔で美味しそうにコーヒーを飲みながら、一樹の疑問に答える。

 

「皆と回るのも楽しいけど、私は……一樹君といたかったから」

「ああ…、そう……。そりゃ光栄だな」

 

 そんな事を言われて、どんな顔をすればいいのか。一樹は顔を反らす。チラリと春の顔を見るが、彼女に照れた様子はない。それどころか、満足そうにコーヒーを飲んでいる。

 

「うん。美味しい」

「……? そうか? 多分安物だぞ、これ」

 

 最近ゲテモノに走ろうとする気はあれど、春の舌は正確だ。高級品と安物を見分けられないはずがない。

 

「うん。高くないコーヒーでも、一樹君と一緒に飲めば美味しいよ」

「……ああ。そうかい」

 

 きっと、前の春にはコーヒーを共に飲める友達がいなかったのだ。一人孤独に飲む高級なコーヒーはどんな味がするのだろうか。一樹には想像がつかなかった。

 

「あー……、なんだ。コーヒーくらい、何時でも一緒に飲んでやるよ。俺で良けりゃあな」

「──!」

「だから、その、そんな寂しそうな顔をすんなよな」

 

 今言えるのは、ここまでだ。春の顔も見れない。これ以上は、一樹の心がもたない。クイッと、照れ隠しにコーヒーを飲む。

 

 不思議なことに、無糖のコーヒーがやたらと甘く一樹には感じれた。

 

 

 

 

 

 

『……降参だ』

『悪かったわね。レベルが違い過ぎた』

 

 舞台の上。戦っていた男が手を上げ、勝った女がドヤる。ちなみに、どうやら女の方が主人公らしい。

 

「……どーゆうストーリーだ」

「一樹君。しー」

 

 一樹と春は怪盗団と合流した後、体育館で演劇部の公演を見物していた。残念ながら第3部までの公演は終わっており、第4部から見始めた一樹にはストーリーがあまり分からない。

 

『これにて、今日の公演を終了とさせて頂きます!』

 

 パチパチパチ。とそれなりに多くの拍手の音が体育館を包んだ。いつの間にか終わっていたらしい。やっぱりよく分からなかったが、春は満足気だからよしとする。

 

「ケッコー面白かったな!」

「うむ。あれも1つの美だろう。俺の目指す方向とは違うが」

「そーゆうモンだったのか……?」

 

 怪盗団の中でもわ劇はわりと好評だった。少し疎外感を感じて、あとで蓮にでもストーリーを聞いておこうと一樹は決めた。

 

「とりま、これでひと通り回った感じ?」

「だな。学園祭らしい出し物は大体見ただろ」

「私的一番の思い出は、『特別』を食べた探偵の挙動だ」

 

 双葉の言葉で光景をフラッシュバックしたのか、何人かがニヤニヤ笑っている。

 

「春、どうする? もう少し回る?」

「ありがとう。もう満足。一樹君は?」

 

 一樹自身も今まで完全に忘れていたが、そう言えば今日は春の歓迎会兼『一樹の歓迎会』でもあったのだ。様子を見るに、一樹以外の男連中も忘れていたようだが。

 

「いや、俺もいい。充分楽しんだ」

「じゃあ、今日は早めに帰って休もう? 明日は……、明智くんだし」

「ワガハイは賛成だ。明日が怪盗団の正念場だぞ! オマエら、気を張れよ!」

 

 モルガナの賛同が鶴の一声となり、今日は解散になった。

 

 

 

 

 ──帰り道。

 

「ん? 祐介はどこいった?」

 

 同じ方向にある駅へ向かっていたはずの祐介がいつの間にか消えていた事に、一樹が気付く。

 

「戻って模擬店でもまわってんのか……?」

「あっ、さっき秀尽のカウンセラーの先生に会いたいって言ってたような……」

「カウンセラー? ああ、あの…おっさんか」

 

 以前ルブランで会った、あのおっとりとしたおっさんの顔を思い出す。

 

「イツキもあの先生のカウンセリングを受けたのか?」

「あー、三年生の一斉受診と、あとはたまたま会った時に軽く話したくらいだな」

「ほう。と言う事は、怪盗団のメンバーは大体カウンセリングを受けているんだな!」

「へー」

 

 いつの間にか祐介の事からカウンセリングの事に話は変わる。だがだからどうしたということもなく、日常の事として皆帰路についた。

本作品には恋愛要素が──

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