「あ゛アァァ…。 疲れた……」
「大丈夫? 一樹君」
「 なんとかな……。真のヤツ、片っ端から俺に押し付けやがって……」
文化祭2日目。今日が怪盗団にとっての正念場である日がやってきた。
怪盗団に精神暴走事件の濡れ衣を着せた真犯人の情報を得るべく、高校生探偵の明智吾郎を講演会の名目で学校に呼び寄せたからだ。
怪盗団の中でも、特に新島は緊張している。このリスクの高い賭けを提案したのは彼女だし、午後の講演会で進行役として明智から情報を引き出すのも彼女の役目だからだ。
新島が緊張するのは当然の事だろう。それは一樹も理解できる。
(……が、その緊張による余裕の無さによる被害が、俺だけに降りかかる必要性はまったく理解できない訳で。)
真曰く、「前まで全然実行委員の仕事をしてなかったんだから、少しくらい手伝いなさい!」とのことだが、どう考えても仕事量が異様に多かった。
一樹が仕事をサボったのは男としてのプライドにかかわる──少なくとも一樹はそう思っている──からだし、そもそも実行委員をやるだなんて一言も言っていない。
それでも一樹は仲間である真が困っているなら手助けしようとは思っていたし、仕事を任されたことには文句は無い。
にしたって、この量はなかろうと一樹は思う。少なくとも生徒会時代でこんなに動いた覚えはない。舞台袖から演台を運び終わったかと思えば学校のどこかにいる先生へメッセージを伝えに走り、それが終われば今度はやたらと重い音響装置を動かし……と、一樹は休む暇なく雑用と力仕事を真に押し付けられた。
そして講演会30分前になってようやく、一樹は休憩をとる事ができた。春の持ってきてくれたタオルで汗を拭い水で喉を潤す。
「ああ~、生き返るッ! ……ん?」
「どうかした?」
「いや、何か違和感があって……。まあ、多分気のせいだろな」
一瞬一樹は何処かで違和感を感じたが、すぐに消えたので忘れることにする。それよりも、今の内に早く昼飯を食べに行かなくてはならない。
「まだ春も飯食べてないんだよな。一緒に食いに行くか?」
「え? うん。いいよ!」
「よっしゃ。じゃあ急ぐか。昨日みたいに屋台巡りとしゃれこもうぜ」
あと25分で講演会が始まってしまう。一樹と春は走って屋台の出ている中庭へ向かった。
■
『それではただいまより、講演会を始めます。本日のゲスト、明智吾郎さんです!』
壇上に立つ生徒会長と高校生探偵。明智を迎える盛大な拍手が、明智の人気を物語っている。無事に講演会が始まった。
「頼むぞぉ。会長! ……つか、パイセンは?」
怪盗団メンバーは、二階のギャラリーから講演会を見学している。実行委員長である新島が上手く『実行委員以外立ち入り禁止』と指令を出したため、ここでなら堂々と会話できるのだ。
しかし、何故かそこには一樹の姿がなかった。自然と、一緒に昼食を食べにへ行っていた春に視線が向けられる。
「えっと、一樹君。お腹壊してたみたいなんだけど、気づいてなくて──」
何処までも言い難そうに、春が一樹の不在である理由を説明する。
「かき氷一気食いがトドメになって今トイレに籠ってるう!? 何やってんのあの先輩?!」
「なんというか……」
「……アホ」
流石に春も庇えずに「アハハ…」と笑っている。そうこうしている内に、壇上では新島が本題を切り出した。
『正直言って、どのくらい進んでます? 怪盗団の調査』
「っと、アホなイツキの事より、今はこっちに集中しようぜ」
「だな」
ちまちまと上げた信頼度を大きなヘマの一度で一気に崩す。一樹の毎度のパターンであった。
■
「いやぁ悪い悪い……、って、え? なに? 何かあったのか? そんな捜査状況が核心にまで迫ってたとか?」
講演会が終わった頃、ようやくトイレから脱出した一樹が怪盗団メンバーたちと合流すると、やけに疲れた目で迎えられた。
「えっと、実は──」
落語研究会の発表を傍目に、二階ギャラリーにて一樹は真の話を聞く。
「はあ?! あの探偵がペルソナ使いだった挙げ句に怪盗団の証拠を握ってた? マジかよ……」
体育教官室で会話した明智曰く、オクムラフーズ前でイセカイナビに巻き込まれて奥村社長のパレスに迷い込み、そこで
明智が今回の講演会を引き受けたのは、怪盗団と会う為だったらしい。以前、何処かで一樹が考えた可能性が真実だったということだ。
「色々気になるが……あの日真犯人は奥村社長のパレスにいたのかよ……」
「明智の野郎が覚醒したのを見て、逃げてったんだとよ」
「不確定要素を避けたのか……? つか今は、怪盗団の事だな。証拠を握ってるって?」
「ええ…。パレスに入る瞬間の写真と動画を撮られていたみい」
「……一応聞くが、合成の可能性は?」
「無いとは言い切れないけれど、可能性は低いでしょうね」
一樹がトイレに籠っていた間に、怪盗団は大分厳しい状況に追い詰められていたらしい。
「……探偵の要求は? 警察にチクってないってことは、何かしらあるんだろ?」
「……"真犯人"逮捕の為の認知世界での協力、その後の…怪盗団解散、よ」
「やっぱそんなトコだよなぁ……」
一樹は思い切りため息をはく。下から聞こえる笑い声が煩わしい。怪盗団に利益のある協力は兎も角、怪盗団解散は一樹にとっても致命的だ。
「クソッ。だからあれほど人目につかない所でアプリを起動しろって……。 いや、今言ってもしょうがねえか……」
写真を撮られたのは、奥村社長のパレスに侵入した時らしい。その時の一樹は一人で車からパレスに入っていた為、怪盗団を止める術などなかった。
「──うん? て、そうか。だから明智は昨日……」
昨日のメイドたこ焼き屋の前で、探偵は「あれ? 一人多いね」的な事を言っていた。あれは怪盗団+
「なら、てことは、明智は俺がペルソナ使いだってことを知らないのか?」
「──! たしかにそうね。 これ、何か交渉に使えるかも……」
真はアゴに手を当てて考える。彼女は怪盗団の参謀担当だ。そこら辺の知略は任せておこう。
──どうなれど、恐らく怪盗団は探偵に協力する。
一樹は、理由は無けれどもそう予想している。ならば、命懸けで戦う機会はきっとある。作戦策略など面倒臭いことは放り投げ、自分はただそれを楽しみに待つとしよう。
怪盗団解散や逮捕の不安を脇に押しやって、一樹は楽しげに笑った。
本作品には恋愛要素が──
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必要
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必要ない
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少しだけ欲しい