"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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consideration

 

「うーん。微妙」

 

 

 口に突っ込んだ変に甘ったるい小さめな鈴カステラを、一樹はそう評価する。

 

 

 時は既に後夜祭。怪盗団メンバーのほとんどは高校生探偵の件で色々考えるべくもう帰宅しているが、午前中まったく遊べなかった一樹は校内をぶらぶらしていた。

 

  

 ほとんどの模擬店は閉まっているが、在庫処理に困った店は幾つか開いている。

 

 一樹は少し閑散とした校内を歩き、叩き売りされている商品に気になる物が有ればそれを買う。

 

 

 どの模擬店もほぼ材料費だけだろう値段で売っている為、不味くても文句はない。

 

 

 

「ここで一通り回ったか?」

 

 

 正確には自分のクラスの模擬店があるエリアには足を踏み入れていないが、そこ以外なら今いる一角で終わりだろう。

 

 

 

「あの! 少し占っていきませんか?!」

 

「ん?」

 

 

 歩く一樹にいきなり声をかけてきたのは、黒いローブを着た如何にも呪い師然とした格好の女子だった。ローブの下の制服を見るに、1つ下の後輩のようだ。

 

 

 その後輩のいる小部屋には、確かに『占いの間』と看板が掲げられている。

 

 

「占い…?」

 

「はい! えっと、恋占いから天運占いまで、色々できますよ!」

 

「ふーん?」

 

 

 別段一樹は占いを信じている訳ではないが、今は予定もなく時間もある。これも一興だろうと、『占いの間』に足を踏み入れた。

 

 

「ありがとうございます!」

 

「いやいや。ここに座ればいいのか?」

 

「はい!」

 

 

 中は薄暗く、それなりに神秘的な雰囲気をしていた。一樹はタロットカードやら水晶が置かれた机に座る。

 

  

 対面に座った後輩がスーと息をはき、神妙そうな空気を纏う。

 

 

「では、何について占いましょうか?」

 

「そうだな…」

 

 

 少し考え、今日の事でいいかと口を開く。

 

 

「あー、なんつうか…俺のいるサークル?が解散の危機でな。勿論俺も仲間もそうならないよう尽力するが、……ぶっちゃけ、なんとかなるか?」

 

 

 色々と隠したり言い換えたりしているが、概要は間違ってはいないだろう。

 

 

「なるほど。大変そうですね… では、始めます」

 

 

 この後輩はタロットを使って占うらしい。一枚、二枚とめくっていく。

 

 

「最後は── はい、見えました。曲事なる選出…(あらわ)なる思い…清算する広場……」

 

「つまり…?」

 

「えっと…どんな形であれ、今年中にはその騒動は終わると思います。ただ…」

 

 

 後輩が少し言い淀む。

 

 

「先輩の存在が、何と言うか…イレギュラーなんです。だから、先輩の行動で良くも悪くも結果が変わるかもしれない…です」

 

「へぇ」

 

 

 大分抽象的だが、高校生の占いならこんなモノだろう。

 

 

「ありがとさん。じゃ、自分で色々動いてみるよ」

 

「そうしてみて下さい。あ、何か他に気になる事はありますか?」

 

「気になるっていやぁ…なんでこんな時間(後夜祭)まで模擬店やってるんだ? もうほとんどこっちには来ないだろうに」

 

 

 後夜祭のイベントは体育館で行われる。店をやっていけないルールはないが、ほとんどの模擬店はもう終わらせている時間だ。

 

  

 後輩は恥ずかしそうに事情を話す。

 

  

「えっと…私たち占いサークルなんです。で、折角だから『知る人ぞ知る』みたいなお店にしよう!…って張り切り過ぎちゃって…」

 

「誰も来なくなった、と」

 

「はい…」

 

  

 たしかに、一樹も声をかけられなければここに店があると気付かずに素通りしていただろう。

 

 

「それでも一人二人は来てくれたので、他の人は占えたんですけど、私だけ一回も占ってなくて… それじゃ寂しいじゃないですか」

 

「なるほど」

 

 

 やたらと必死だった呼び込みにはそんな事情があったのか。納得した一樹は後輩にお礼を言って『占いの間』を出た。

 

 

「ん? 通知が…」

 

 

 

────────────────

 

 

 

『春) まだ学校にいる?』

 

『春) もし良かったら、後夜祭に一緒に行かない?』

 

『春) さっきの話

    考えるほど堂々巡りで…』

 

『春) 気分転換したいし

    どうかな?』

 

          【分かった。行こうか】

 

『春) ありがとう!』

 

『春) 体育館で待ってるね』

 

          【了解。すぐ行く】

 

 

 

────────────────

 

 

 

 今から体育館に行っても、毎年まったく盛り上がらないと噂の『秀尽生の主張』くらいしか参加できないが、気分転換にはなるだろう。

 

 

 

『さてさて~次は毎年恒例、「秀尽生の主張」!』

 

 

 案の定、一樹が体育館に着いた時に丁度イベントが始まっていた。春はパイプ椅子に座らず端に立っていた為、すぐ見つける事ができた。

 

 

「悪い。遅れたか?」

 

「ううん、大丈夫。ずっと…考え事してたから…」

 

「……あー、深く考え過ぎんな。今はな」

 

「そうだね。学園祭、楽しみにしてたの私だし」

 

 

 少しだけ春の肩の力が抜けたように見える。彼女はなんでもかんでも一人で抱え込んでしまう。悪い癖だと一樹は思う。

 

 

『さあ、どなたか主張してくれる人! いませんか~!』

 

 

 当然と言うか、誰も手を上げない。毎年こんな様子なら、何故今だにこのイベントは続いているのだろうか。

 

 

『こちらから指名しちゃいますよぉ?』

 

「指名だって、誰になるんだろう…?」

 

『そこのゆるふわパーマの女子! キミに決めた!』

 

 

  はて、どうにも司会がこっちを向いている様に見える。

 

 

「え…? あの人、こっち向いてない?」

 

「向いてる…な」

 

『壇上までお願いしま~す』

 

「呼ばれてる…よね?」

 

「どうする? 嫌なら体育館出ちまうか?」

 

 

 春は少し悩んだ素振りを見せたが、結局応じることにしていた。

 

 

『お名前は…って…噂の奥村 春さんですよね!?』

 

「え、ええ…」

 

 

 春の答えに観客がざわめく。やはり、春は父親の件でアレコレ言われているらしい。

 

 

『ああー… えっと、傷心の女の子をひっぱってきてしまって… えっとぉ…スミマセン…』

 

「そんな、お気になさらず…!」

 

  

 春の優しい心遣いに、司会が少し持ち直した。

 

 

『なんか主張、あります…?』

 

「主張…ですか? えっと…」

 

『じゃ、じゃあ奥村さんに1つ質問を… この中に、怪盗団がいると思います?』

 

「え?」

 

 

 なんて質問をするのか。配慮に欠けまくった質問をしたことに、司会は気付いていないらしい。

 

 

 一樹は若干の焦りをみせた。春が言葉に詰まっている。彼女はテンバると何を言い出すか分からない。

 

 

『奥村さんにとっては、お父さんの仇…みたいなものだと思うんですけど、明智くんが言った、怪盗団の正体…気になりますよねぇ。

 …で、この中に怪盗団がいるかどうか、どう思います? 奥村さん!』

 

 

 司会が調子に乗って一気にまくし立てる。さっきは傷心だなんだとの気遣いを見せた癖に、仇だなんだと言い出すとは。

 

 

 この司会については後で新島(生徒会長)にチクるとして、今は春を助けなければ。

 

 

 

「えっと…」

 

ハルー! 今度デート行こうぜー!!

 

『オットー! これは青春ッ! 告白かー?!』

 

 

 よし。上手くいった。一樹は満足気に微笑む。

 

 

 声色はなるべく変えたし、反響してどこから声がしたのか分かりづらい。端に立っていたのが幸いし、一樹が叫んだ所は見られていない。

 

 

 司会は完全に意識が告白に移った。後は春が誰かの唐突な告白に適当な返事をすれば終わりだ…と、一樹は思っていた、が──

 

 

「うん! 行こうね!一樹君!

 

 

 何故か嬉しそうな春がこっちを見ていて、何故か春が予想と反対の返事をして、しかも名前を呼んだことにより、一樹の目論見は崩れ落ちた。

 

 

えっ?! 一樹ってあの…

 

住吉、だよな… えっ? どうゆう関係?

 

 

 最近仲良くなったとしても、一樹は春に「秘密の活動のため」だとあまり学校で関わらないよう言っていた。それが余計に仇となってしまった。

 

 

 観客たちがざわめき立つ。実際には一樹が告白した時点でざわめいていたが、より一層強くなってしまった。

 

 

『これは大スクープの予感ですねぇ。奥村さ~ん? 彼、どんな関係なんですか?』

 

「えっ? それは…あのっ、その…」

 

 

 なんで今になって恥ずかしがるのか。ザワザワ、ザワザワと擬音が目に見えそうな程に観客がうるさくなる。

 

  

『アララ、困惑してますね~! 僕は紳士だから、女の子をいじめるのは、しのびないッ!』

 

 

 誰が紳士だ。思い切り思慮に欠けた質問をした癖に。と一樹は心の中で愚痴る。

 

 

『みなさん、美人の赤面堪能しましたか? はい、奥村さん、ありがとうございましたー!』

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

「終わったね。後夜祭」

 

「ああ。なんとか逃げ切れてよかったよ」

 

 

 春が壇上から下りた後、二人は屋上にまで逃げていた。後夜祭が終われば一般生徒はすぐに帰る。少し待てば普通に帰れるだろう。

 

  

 

「さっきはありがとう。私、何もできなかったから」

 

「ま、困ってたら助けるさ。当然な」

 

「私、一樹君にいつも助けられてる。……君とだったら私、これからも大丈夫な気がする」

 

「……そうかい」

 

 

 マスコミ取材のようになってしまい、春は疲れてしまったようだ。いつもよりテンションが低い。

 

 

「それで…どこに行こうか?」

 

「え?」

 

「その…デートで」

 

  

 これは…天然で言っているのだろうか。それとも、すべて分かった上で言っているのか。

 

 

 少し悩んだが、どっちにしたって少なくともNOと言う必要はまったくない。

 

 

「あー…神保町とかどうだ? コーヒー関連の本もあるぞ、多分」

 

「うん、いいね。行きましょう。……そうだ、これあげる」

 

「飴細工?」

 

 

 渡されたのは桜の形に練られた飴細工だった。春は恥ずかしそうにもう1つ同じ飴細工を取り出した。

 

  

「うん。お揃い」

 

「……サンキュ。遅いし、送ってくぜ」

 

「ありがとう」

 

 

 二人は飴を舐めながら帰宅した。

本作品には恋愛要素が──

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