"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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私情のゴタゴタが段々片付いてきました。週一更新はできると思います。


school festival

「おっ! この焼きそばうめぇ!」

 

「ホントだ。美味しい!」

 

 

 金髪コンビが絶賛しているのは、中庭の出店で買った焼きそばだ。一樹も春から一口貰って食べてみる。成る程たしかに旨い。

 

 

 が、一樹にはそれに関連して気になる事があった。

 

 

「マジでそれ食うの? もはや別料理じゃん」

 

「……ああ」

 

 

 雨宮の焼きそばには紅生姜が山盛りに乗っけられていた。山盛り過ぎてそばが隠れているほどだ。

 

 

「いやいやパイセン。これぐらいが旨いんだって!」

 

「ふぅん?」

 

 

 牛丼にしろ焼きそばにしろ紅生姜は使わない派の一樹には分からないが、きっと好きな奴は好きな味なのだろう。

 

 

 雨宮もその好きな奴らしく、なかなかいい食いっぷりを見せている。

 

 

「ハーイ男たち! こっち向いて~」

 

 

 声に反応して向くと、高巻がスマホのカメラを構えていた。一樹は写真を撮られることは嫌いだが、今は気分がいい。撮影を受け入れた。

 

 

 

「一樹君は何を食べてるの?」

 

「これ? じゃがバターってやつだな」

 

 

 一樹はじゃがバターの屋台をあごで指しながら説明する。別に好物ではないのだが、高校の文化祭でじゃがバターは物珍しくてつい買ってしまった。

 

 

「ま、取り敢えず不味いモンではないぞ。ほら」

 

「ん。本当だ、美味しいね!」

 

 

 割り箸で一口分のじゃがいもを取り、春に食べさせる。春はセレブだが、安い物も食べれる口なのは好感が持てる。

 

 

 

「食い終わったな! よし、次はアトラクション行こーぜ!」

 

「お化け屋敷制覇すっか!」

 

 

 昼飯を食べ終わると、モルガナと坂本のおちゃらけ組が騒ぎだす。

 

 

「ならば向こうだな。どうやらアトラクションはそっちに固まってるようだ」

 

「ん? …ゲッ。そっち行くなら俺パス」

 

「え? どうして?」

 

 

 喜多川の広げる案内図を見て、一樹は顔をしがめる。

 

 

「……その階、俺らのクラスの模擬店がある。見つかったら何やらされるか分からん」

 

「ああー…」

 

 

 一樹の説明に男子たちは同情的な視線を向けるが、真面目な生徒会長としての新島と一樹に着せたい主犯の春は不服そうにしている。

 

 一樹は見ないふりをした。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

「ほら」

 

「ありがとう」

 

 

 少しお洒落な紙コップに入ったコーヒーを春に渡し、一樹も席に座る。

 

 二人は今、怪盗団と別れて喫茶店風の模擬店に来ていた。

 

 

 新島は団体行動を乱す事を嫌がったが、男子たち──特に下手にイジれば自分にも跳ね返ってくると察した坂本──の協力により、一樹は一時離脱を許されたのだ。

 

 

 本当は一人でぶらぶら校内を回って時間を潰すづもりだったが、なぜか春が着いてきた。

 

 ゆえに一樹は予定を変えて、喫茶店に腰を落ち着かせるのとにしていた。

 

 

「つか、お前もこっち来てよかったのか? あいつらと回るの、楽しみにしてただろ?」

 

 

 コーヒーを飲みながら、春に尋ねる。安いコーヒーだ。雑な苦味が口の中を駆け抜ける。

 

 

 春は穏やかな顔でコーヒーを飲みながら答える。

 

 

「皆と回るのも楽しいけど、私は…一樹君といたかったから」

 

「ああ……そう…」

 

 

 そんな事を言われて、どんな顔をすればいいのか。一樹は顔を反らす。

 

 

 チラリと春の顔を見るが、彼女に照れた様子はない。それどころか、満足そうにコーヒーを飲んでいる。

 

 

「うん。美味しい」

 

「…? そうか? 多分安物だぞ、これ」

 

 

 最近ゲテモノに走ろうとする気はあれど、春の舌は正確だ。高級品と安物を見分けられないはずがない。

 

 

「うん。高くないコーヒーでも、誰かと一緒に飲めば美味しいよ」

 

「……ああ」

 

 

 きっと、前の春にはコーヒーを共に飲む友達がいなかったのだろう。

 

 一人孤独に飲む高級なコーヒーはどんな味がするのだろうか。一樹には想像がつかなかった。

 

 

「あー…なんだ。コーヒーくらい、何時でも一緒に飲んでやるよ」

 

「──!」

 

 

 今言えるのは、ここまでだ。春の顔も見れない。これ以上は、一樹の心がもたない。クイッと、照れ隠しにコーヒーを飲む。

 

 

 不思議なことに、無糖のコーヒーがやたらと甘く感じた。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

『……降参だ』

 

『悪かったわね。レベルが違い過ぎた』

 

 

 舞台の上。戦っていた男が手を上げ、勝った女がドヤる。ちなみに、どうやら女の方が主人公らしい。

 

 

「……どーゆうストーリーだ」

 

「一樹君。しー」

 

 

 一樹と春は怪盗団と合流した後、体育館で演劇部の公演を見物していた。

 

 

 残念ながら第3部までの公演は終わっており、第4部から見始めた為にストーリーが今一分からない。

 

 

 

『これにて、今日の公演を終了とさせて頂きます!』

 

 

 パチパチパチ。とそれなりに多くの拍手の音が体育館を包んだ。いつの間にか終わっていたらしい。やっぱりよく分からなかったが、春は満足気だからよしとする。

 

 

 

 

「ケッコー面白かったな!」

 

「うむ。あれも1つの美だろう。俺の目指す方向とは違うが」

 

「そーゆうモンだったのか…?」

 

 

 劇はわりと好評だった。あとで雨宮にでもストーリーを聞いておこう、と一樹は決めた。

 

 

 

「とりま、これでひと通り回った感じ?」

 

「だな。学園祭らしい出し物は大体見ただろ」

 

「私的一番の思い出は、『特別』を食べた探偵の挙動だ」

 

 

 佐倉の言葉で光景をフラッシュバックしたのか、何人かがニヤニヤ笑っている。

 

 

「春、どうする? もう少し回る?」

 

「ありがとう。もう満足。一樹君は?」

 

 

 一樹自身も今まで完全に忘れていたが、そう言えば今日は春の歓迎会兼『一樹の歓迎会』でもあったのだ。

 

 見るに、春以外皆忘れていたようだが。

 

 

「いや、俺もいい」

 

「じゃあ、今日は早めに帰って休もう? 明日は…明智くんだし」

 

「ワガハイは賛成だ」

 

 

 モルガナの賛同が鶴の一声となり、今日は解散になった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 帰り道。

 

 

「ん? 喜多川どこいった?」

 

 

 同じ方向に向かっていたはずの喜多川がいつの間にか消えていた。

 

 

「戻って模擬店でもまわってんのか…?」

 

「あっ、さっき秀尽のカウンセラーの先生に会いたいって言ってたような…」

 

「カウンセラーって… ああ、あの…」

 

 

 以前ルブランで会った、あのおっとりとしたおっさんの顔を思い出す。

 

 

「イツキもあの先生のカウンセリングを受けたのか?」

 

「あー、三年生の一斉受診と、あとはたまたま会った時に軽く話したくらいだな」

 

「ほう。と言う事は、怪盗団のメンバーは大体カウンセリングを受けているんだな!」

 

「へー」

 

 いつの間にか喜多川の事からカウンセリングの事に話は変わり、だからどうしたということもなく皆帰路についた。


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