Pinch
新島冴。
一樹はその女性について、たいした情報をもっていない。生徒会長である新島真の姉にして検事。ついでに言えば、この前春の家に家宅捜査の名目で訪れていた女検事がその人らしい。
一樹が知っているのはそれだけだ。
しかしあの新島真の姉であれば真面目で合理的な性格だろうと予測できたし、新島冴の知り合いだという連もそんな性格だと言っていた。
故に……
「やっぱ、これはおかしいよなぁ……」
ここが彼女のパレスだとは、どうにも信じられない。
一樹は真正面から
怪盗団の強制捜査を阻止するため、今日からここを攻略しなくてはならない。一樹は協力者である明智に怪盗団の一員である証拠を掴まれないように、裁判所近くの駐車場から他のメンバーよりも30分程早くパレスに突入していた。
「何でこんなことになってんのかな、っと」
昨日小一時間かけて見つけた侵入経路を目指しながら一樹は疑問をぼやく。
裁判所がパレスなのは聞いていた為、神殿か処刑所、もっと想像力を働かせて墓場かと予想していたのだが、まさかカジノとは。何故裁判所をカジノと思い込んだのか? しかし正直な所、一樹はそんな事に興味はない。考察はモルガナや真にでも任せておけばいいのだ。
「……と、いけない いけない」
警戒されていないカジノへの入り口を前にして、一樹は口元が緩んでいる事に気がついた。
一樹が最も興味有ること。つまり、命を賭した戦い。
だが今は一樹1人であり、一樹は怪盗団の一員なのだ。単独での闘争に酔うのも乙なものだが、制止する者がいないこの状況では性癖にかまけてうっかり死んでしまうかもしれない。それはそれで昂るモノがあるが、仲間に迷惑をかけるのは一樹にとっても本意ではない。
「だから落ち着けェ、俺……」
昂る気持ちを鎮め、一樹は扉を開けた。
■
真っ白な貴公子服にカラスの様なペストマスク。その目を引く明智の格好に、ついスカルがツッコむ。
「お前、隠れて盗む自覚ねえだろ?」
「こいつにとっての『反逆者』のイメージが、それってことなんだろうぜ」
「『正義』を貫く人ってイメージだけどね」
「たしかに、貫きそうな仮面……」
「……」
明智……クロウの怪盗姿に皆の意識が向く中で、クイーンだけが深刻気な顔をして辺りを見回していた。ここはニイジマパレスのカジノの中。侵入口すぐ近くで、シャドウが警戒している気配はない。
「どうかしたのかい?」
「いや、なんでもないわ……」
(──おかしい。DRとここで落ち合わせる予定だったのに……)
目敏いクロウに困惑を悟られたが、クイーンは言葉を濁す。クイーンは昨日、このパレスの下見をしたDRとこの場所で待ち合わせる約束をしていた。だが、DRの姿が見つからない。
(──"暴走"して独走した? でも……)
少し前までのDRであれば、シャドウとの戦闘を我慢できずに一人突き進んでしまった可能性を考慮する必要があった。しかし今では、メメントスでの特訓の成果もあってペルソナに搭乗していようと指示を聞けるように成長している。
であれば、彼の身に何かあった。クイーンはそう判断する。
「ワガハイらの足、引っ張るなよ? クロウ」
「僕に限って、それはない」
「兎に角、先に進みましょう」
「……? そうだね」
少し、焦りが表に出て不自然になってしまった。クイーンは誤魔化しつつ、先へ進んだ。
■
「ぶっ壊せよファントム! ──<メギド>!」
5分か、10分か。それとももしかして1時間か。戦い続けていると、時間の感覚が無くなってくる。戦い始めてから随分と敵の数が減ったのは、少なくとも事実だが。
「楽しいなぁ! あ? 一日中やってられるぞ!」
一番近くにいたパンイチのチーターに光の球を叩き付け、怯んで後退した隙にユニコーンの顔を戦鎚でぶん殴る。大量のダメージを負って興奮状態にあるDRの一撃はそのダメージに比例するように強化されており、ユニコーンはそれを耐えられずに消滅した。
「最ッッ高の時間だァッ!」
──ファントムの特性:【荒々しき挙動…ペルソナ搭乗時、ステータス50%上昇】
ファントムに乗り込み、シャドウ2、3体をまとめて戦鎚で薙ぎ払う。ちまちまとダメージを与えていた為、更に強化されたDRの攻撃を喰らったシャドウどもは消滅した。
「グゥッ……ハハッ!」
今の攻撃で、最初には十数体もいたDRを取り囲むシャドウはあと2体まで減った。しかし、DRの体力もそれほど残っていない。ファントムに搭乗している間は徐々に魔力が削られていく。魔力は魔法スキルを発動する時にも減ってしまう。つまり、今のDRは体力も魔力もほとんど残っていない。
ファントムを降りたDRと残っているシャドウが睨み合いながら間合いを測る。お互い、そろそろ決着が付くことを理解しているのだ。
(──なんで、こんなことになってるんだっけか?)
それは、DRが扉を開け、カジノに侵入した途端にこのパレスの主であるシャドウニイジマに発見されてしまったからだ。シャドウニイジマから情報を得ることができたものの、その引き換えに大量のシャドウとの戦闘になってしまったのだ。
「アアッ……。楽しいなァおい」
ファントムを降りて些か冷製になったDRは逃走も視野に入れる。が、パンイチのチーターと大きな鷲だか鷹のシャドウがそれを許すようには見えない。どうやらこのシャドウは他のシャドウに比べて優秀らしく、DRの雑な猛攻を軽々といなしてしまう。
逃げるにはこの2体をどうにかしなければならないが、DRの頭ではそんな策は浮かばない。これならドロン玉でも持ってくればよかったと、DRは少し後悔する。
「……ハッ! ヤメだヤメ。臆病者のクソッタレが逃げるんだ! ───<キラーファング>! 」
傷付いた身体で考えるのが面倒になり、DRは思うがままにパンイチチーターにスキルを発動する。倒すには至らなかったが、牽制にはなっただろうか。
───<闇夜の閃光>!!
「──ッ!?」
様子を伺っていた大鳥が、突如
───<チャージ>&<鬼神楽>!!
(──あ、死ぬな、これ)
大鳥シャドウにより目が潰され動けなくなった瞬間に、パンイチチーターがスキルを発動させた。この攻撃は、当たれば耐えられない。そう察しながら、DRは恐怖しない。諦めたのでも、覚悟したからでもない。
「一樹君!」
当たらないと、分かっていたからだ。DRに迫っていたシャドウを、突如現れた人影が吹き飛ばした。
「ごめんなさい。遅くなったみたいね」
「ありがとよ。助かった。……ハッ!この状況で助けられるのは2度目だな、クイーン」
「オクムラパレスでの事?気にしないでちょうだい。私たちは、仲間でしょう?」
ギリギリの所でDRを救ったのは、クイーンだった。DRは戦闘中で目は見えずとも、慣れ親しんだ気配達が近付いている事に気が付いていたのだ。
「DR……」
「ノワールか? 悪い、目をやられて何も見えん」
「──! じゃあ、<アムリタドロップ>!」
「体力も回復させておくぞ。<ディアラハン>!」
「ん、楽になった。ありがとな、ノワール、モナ」
「──! 君は……」
「……? あ、やっべ」
いつの間にか、DRの前に貴公子の様な服とふざけたペストマスクを身につけた男が立っていた。恐らく、こいつが明智だろう。別にパレスの中で正体がバレても問題はないのだが、出来れば身バレしたくなかった。
「あの文化祭の時にいた──」
『話は後! 強敵2体、みんな気をつけて!』
「おっ!俺も出るぜ!」
「DRは魔力が底をついているんでしょう?!DRは待機、他のみんなでシャドウを叩く!」
「……ッ! また後で!」
(──さて、どうするかな……)
明智はしょうがなくシャドウに向かっていったが、後で追及されるだろう。大人しく正体を明かすか、それともしらばっくれるべきか。考える事はあったが仲間が来たことで気が抜けたDRの思考は纏まらず、座り込んでジョーカーの淹れたコーヒーを飲んだ。
【(久々の)ゲーム的設定】
キラーファング…敵単体に物理で中ダメージを与え、高確率で『重傷』化。(回復無効・3ターンで回復)
SSでどれを読みたいですか?
-
もし裏切ったDRが勝っていたら…if
-
もし覚醒一樹が最初からいたら…if
-
春と一樹の人格が入れ替わったら(妄想)
-
【美少女怪盗の奮闘記】第4話