「……えっと、ゴメン。何言ってるのか分からない」
「そう? そんな変な事は言ってないと思うけど」
表情を見るに、新島は本気で言っているらしい。なら、なお質が悪い。一樹はため息を吐いた。
「ホントに、うん……、ワルいんだけど、取り敢えず状況を整理させてくれ」
「別にいいけど?」
「えっと……、ここはメメントスとか言う異世界。で、戦ってる敵は悪魔的な何か。てことまでは合ってるか?」
「まあ、そうね」
それで、と一樹は続ける。
「その悪魔……、あーっと、シャドウだっけ? と戦うには『ペルソナ』ってのが必要、なんだよな?」
「その認識で間違いないわ」
いい歳こいて何の話をしてるんだ、俺は。と一樹は気恥ずかしくなったが、新島の後ろに立っている怪盗団の空気は真剣だったし、何よりこの異様な空間……、メメントスがこのゲームの様な話に現実味を与えていた。
「あー、新島が言ってる話は分かったんだけど、その、なんて言うか、なんで、俺に……その、ペルソナ?が使えると?」
特別な力だとか隠された力が自分に有るとは、中学二年生の時にすら考えなかった。一樹が恐る恐る聞けば、新島は一瞬キョトンとした顔をしたが、直ぐに思い至ったらしい。
「ごめんなさい。ちょっと想定外の事だったから、気が急いじゃったみたい」
「あ、いや。ゴメン、別に……」
新島はゴホン。と一息ついて説明を始める。
「根拠は色々あるんだけど。まず、あなたがモルガナの言葉が分かったこと」
「モルガナ?」
「えっと…。そこの、猫みたいな……」
「ああ……」
あの喋る二頭身の化け黒猫はモルガナと言うらしい。
「なんなんだ、あれ? えっと、シャドウってやつの一種なのか?」
「いや。本人は元人間だって言ってる。パレスの影響でどうとか」
珍しく新島の歯切れが悪い。あの化け黒猫のことは仲間内でも良く分かっていないのかもしれない。
「それで、化けね……、モルガナ? がなんの関係が?」
「あ、そうそう。現実世界でモルガナの言葉が分かるのはペルソナ使いだけ。だから、声が聞こえた君にも適性があるはず」
「なるほど?」
「まあ、他にも聞こえる条件は有るみたいだから、それだけじゃわからないけど」
「なるほど?」
今の所、ある程度は理解出来ているように思う。一樹は注意しながら新島の話を聞く。
「一番の証拠は、貴方がイセカイナビを持っていたこと」
「……やっぱり、アレが関係有るんだな」
赤い目の様なアイコンのアプリを思い浮かべる。正直、一樹には己が勧誘された要因などそれくらいしか思い付かなかった。
「なんなんだ? あのアプリ。持ってるとその……、ペルソナ? が使えるようになるとか?」
「いや、逆ね。"異世界に入った"、"素質有る"人にインストールされるらしいの。まあ、よく分からないんだけど」
「ふーん?」
あまり、一樹には実感が湧かなかった。
「やっぱり、一回見てもらった方がいいよね。でも私のはちょっと特殊だし……」
新島は一人で顎に手を当ててぶつぶつ言うと、後ろに固まっているメンバーの所に行ってしまう。
一樹がキョロキョロと物珍しいメメントスの廃駅のホームを見回していると、唐突に金髪のヤンキーっぽい男が怒鳴り付けてきた。
「よっしゃパイセン! 今からスゲーもん見せてやんよ!目玉かっぽじってよく見てろよ!」
「ハイ?」
「ハァァァァ、ペルソナァァ!!」
金髪ヤンキーが気合いをためて吠えると、その背後にいつぞやかも見た骸骨巨人が現れた。
一樹は金髪不ヤンキーの言い間違いを指摘するのも忘れてそれに見惚れる。
船に乗ったその骸骨巨人は海賊の様な格好をして、一樹が見ていることなど気にする素振りをせずに金髪ヤンキーの後ろで動き回っている。
「……凄い」
「でしょ。これがペルソナよ」
「あぁ……」
とっくに慣れているのか、新島は骸骨巨人に目を向けずに一樹の元へ戻ってきた。一樹はその時、新島の世紀末風の格好から1つの事に気がつく。
「ん? そういえば新島のペルソナって、まさかあのバイクなのか?」
あの砂漠(今思えば、あれがパレスなのだろうか)で、新島が一樹を助けた時に跨がっていたあのバイクは骸骨巨人と同じ雰囲気がした。
「……まぁ、そうね」
「へぇ……。なんか、新島のキャラと違、ってそう言えばペルソナってもう一人のじぶ──ヒッ?!」
「あんまり、それには触れないで」
「お、おう。分かった……」
いらない事を言ってしまった一樹は、新島に睨まれて黙らされる。服装にピッタリの行動だと一樹は思ったが、流石にそれは言わなかった。
ゴホン、と一息ついて一樹は話を戻す。非現実的な事に巻き込まれ、珍しく一樹は積極的だ。
「それで、えっと、どうすりゃペルソナを呼び出せるんだ? また……、そのアプリを使うのか?」
「どう、やって……? なんて言うか。こう、ハァー! って感じで?」
「……? 何言ってんだ?」
急に新島がしどろもどろになる。才色兼備の生徒会長サマは後ろの仲間に助けを求めるが、彼らもあまり分かっていないようだ。
アプリの事といい、何故そんななあなあで済ませられるのか。一樹は何となく怪盗団が心配になってきた。
その時、静視していた猫モドキ…モルガナが少々怒りながら喋りだした。
「まったくしょうがない奴等だな!」
モルガナはビシッと一樹を指差して解説を始める。
「いいか? ペルソナってのはお前自身であり、お前の反逆の意志だ」
「う、うん」
「即ち、此処でお前の秘めたる感情を爆発させ、それを受け入れろ! そうすればお前のペルソナは覚醒する!」
半分くらい説明と言うより演説だったが、それでも言いたいことは大体一樹に伝わった。
だが、
「……あの、秘めたる感情…って、何?」
そこだけ、いまいち一樹には分からなかった。
「あるだろ? こう、理不尽な大人や環境に対する怒り。それを封じ込めずに認識すれば……」
再びモルガナが説明を始めたが、怪盗団の仲間が会話に割って入ってきた。
「めっちゃくちゃイテェ頭痛と一緒に仮面が出てくるから……」
「滅茶苦茶痛い頭痛?!」
「それを顔の皮と一緒に剥がせばいい」
「仮面を?! 顔の皮と一緒にひっぺ剥がすのか?!」
どう考えても、途轍もなく痛そうな事を要求された。そんな痛そうな事を此処に居る全員がやったのだろうか。
やはり、この現代社会で怪盗などをやるような奴等は感覚が違うのだろうか。
一樹が色々と恐れ戦いていると、新島がため息を吐いた。
「なんで皆脅すのよ……」
「だって、まあホントの事だしなぁ……」
「うむ。嘘はついてない」
「だからって、あんな風に言ったら誰だって挑戦したくなくなるわよ……」
新島は振り向いて一樹に落ち着かせるような口調で言った。
「大丈夫。本当はそこまで痛くないから」
それは本当なんだろうな、と一樹は疑う。一樹は血が流れることすら慣れてないのだ。空手だが古武術だかの有段者らしい新島と同じ感覚だとは思えなかった。
それでも一樹は一応覚悟を決め、ペルソナを呼び出すべく目を瞑った。