"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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久々の投稿が書き直しですいません…
気に入らなさすぎて思いっきり書き直しました(また書き直すかもです)


50話突破SS『もし覚醒一樹が最初からいたら…if』《下》【再投稿】

「俺ら、どうなった…?」

『現実世界に帰還しました。お疲れ様でした』

「現実…? 取り敢えず、戻ってこれたみたいだな…」

「……多分」 

 

 通気孔を抜けた三人は、いつの間にか元の世界に戻っていた。

 

「もう何が何だかッスよ……。城とか、鴨志田とか妙な猫とか!」

「落ち着け坂本。俺は色々聞いたから、話を共有してやるよ。……まあ、情報源はその妙な猫だが」

「マジッスか先輩!」

「静かにしろって。補導されたらめんどう……、って、もうこんな時間かよ……」

 

 坂本を宥めながら携帯を見れば、時間は既に昼を越えていた。今から行っても、既に学校は昼休みに入っている。

 

「まあ、お前らはこんな時間からでも行かなくちゃマズイんだろ?」

 

 不良として先生に目を付けられている坂本と、そもそも転校一日目の雨宮は行かない訳にはいかないだろう。

 

 

「……あんたは行かないのか?」

「一応出席日数は足りてるからな。適当に喫茶店ででも時間潰して──いや、やっぱ俺も行くわ」

「……?」

 

 雨宮にジト目で見られつつも学校をサボろうとした一樹だが、スマホのチャットを見て気が変わった。

 

 訝しむ後輩二人に頭をかきながら事情を話す。

 

「『途中からでいいから来て』ってさ。()()()は怒らせると怖いからな……」

 

 

 

 

 

「もう。心配したんだからね?」

 

 クラスメイトに怖がられながらも出席した五、六限の後の放課後。一樹は、学校の屋上で薄茶の髪をショートボブにした女子に叱られていた。

 

「連絡もできないで悪かったよ、春。スマホも見れる状況じゃなかったんだ」

 

 一樹が言い訳を交えながらも真意(しんずい)に謝罪している女子の名は、奥村春。オクムラフーズと言う大企業のご令嬢でありながら、色々と縁が重なって一樹と仲良くしている奇特な女子だ。

 

「あー、ほら、親戚の爺さんが入院しちまってな?人手が足りなくて色々と手伝わされてたんだよ。今日は危険な事はやってない」

「それでも……、また監禁されてたらって怖かったのよ? ……あの時みたいに」

 

 一樹は、春を無理に口説いていた婚約者を名乗るどこぞの御曹司(ボンボン)を少し強めにとっちめた為に、その御曹司に廃ビルの地下室に監禁された経験がある。

 その時は何とか脱出したし、その件の証拠をしっかりと握って御曹司を脅し春が高校を卒業したら自主的に婚約破棄することを約束させた為、トントンな結果だと一樹は思っているが、春の中では嫌な記憶として残っているらしい。

 ちなみに、何処からかこの話が漏れ、『住吉はどこかの御曹司を脅している』と噂が立ったが一樹は気にしていない。

  

「兎に角! こんな時は連絡して欲しいの……」

「分かった。ホントに心配かけて悪かったよ……」

 

 ゆるふわ系の女子に対して包帯を身体中に巻いた大男が平謝りする様子は珍妙だが、二人はそれに気にしない。二人は何時もこんな感じだからだ。

 

「あんまり……、危ない事はしないでね?」

「もちろん。危険な事は控えるさ。……少しは」

「もう!」

 

 ひたすらに謝り続け、なんとか一樹は春の許しを勝ち取った。

 

「そういや……、今日ここ屋上使う予定あるか?」

「今日? 先生が何も言わなければ、使わないかな」

 

 春は屋上で野菜を育てている為、生徒立ち入り禁止の屋上の扉を開ける権利を持っている。後輩二人との話はなるべく人目につかない場所でしたい。貸してくれるなら有難いが……

 

「使いたいの? じゃあ、また後で閉めにくるね」

「ありがとな」

 

 相変わらず、春は一樹の言いたいことを読み取ってくれる。口下手すぎて言葉より先に手が出るようになった一樹には有難い人だ。

 

「じゃあ、またね」

 

 それからまた少し話して、春は下に降りていった。

 

 

 

 

 

 

「よう。場所は確保しといたぜ」

「アザッス!」

 

 春が降りていってから少し待てば、後輩二人が共に上がってきた。クラスが一緒なのかと思ったが、廊下で偶々会っただけらしい。

 

「んじゃ、何から話すか……」

 

 認知世界、パレス、シャドウ、ペルソナ……。一樹はモルガナから聞いた事全てを二人に伝える。なるべく取り零しの無い様に話したつもりだが、一樹もモルガナと話したあの時は混乱していた為、いくつか伝え忘れているかもしれない。

 

「ま、俺が聞いたのはこんな感じだな」

「えっと、つまりあそこは、鴨志田の野郎が認知?してるこの学校、ってことッスか……?」

「……捕まっていた生徒も認知の存在?」

「ああ。『変な猫』が言った事を信じるならな」

 

 正直、一樹はそんな異世界どうこうよりも集団幻覚なりの方がまだ現実味があると思っていた。が、後輩二人は実際に鴨志田のシャドウと会話し、雨宮はペルソナにすら目覚めたと聞いてはそんな考えを改めざるをえない。あそこは本当に別世界なのだろう。

 

 知らず、一樹の頬が歪む。

 

「やっぱあのクソ野郎、学校を自分の城だと思い込んでんのかよ!」

「……なあ坂本。今まで聞かなかったけどよ、お前と鴨志田、どんな因縁があるんだよ?」

 

 一樹は金髪に染めてグレてからの坂本しか知らない。昔は陸上部に打ち込んでいたとは聞いたが、詳しい事は何も知らないのだ。先輩に訊かれては、と渋々といった様子で坂本が語りだす。

 

「鴨志田のヤツがバレー部の臨時顧問になった後──」

 

 坂本が語ったのは、他者にそれほど興味の無い一樹でも「うわぁ…」とつい呟いてしまう程にドン引きな話しだった。体罰、理不尽な練習、厭らしい罠。なるほどたしかに、グレてもおかしくない話だ。

 

「そりゃ恨んで当然だわな。むしろ月の無い晩に後ろから刺してないだけ凄いと思うぞ。俺なら刺してた」

「……アザッス」

「……なあ、お前ら」

 

 少し考えて、一樹は言うか言うまいか決め損ねていた事を言う。

 

「あの城…パレスを使えば、鴨志田を『改心』させられる、って言ったらどうする?」

「えっ?」

「……できるのか?」

 

 坂本だけでなく、雨宮まで反応した。それも、懐疑的ではあっても好感触だ。

 

「さあな。だが、モルガナの話を聞く限り可能性は高いと思ってる。もう一度、パレスに行ければな」

 

 パレスとは個人の歪んだ欲望が認知に影響を及ぼした場所。故に、その場が無くなれば歪んだ欲望も消える可能性が高い。

 

「──って事だ。だから改心できる確証は無いし危険も当然にある。で、どうする?」

 

 率直に言えば、一樹は鴨志田の事などどうでもいい。一樹はただ、もう一度あのパレスに行きたいだけだ。改心を餌に二人を誘ったのは、気心の知れた坂本と向こうで戦える雨宮がいれば()()()の時に便利だと思ったからに過ぎない。

 

 二人は熟考して、先に坂本が、そのすぐ後に雨宮が頷いた。肯定の意だ。

 

 また、一樹の頬がこっそりと歪んだ。

 

「よし。じゃあ、明日の放課後に校門前の裏路地に集合だ」 

「明日ッスか?」

「今日は色々と詰め込み過ぎただろ? このままもう一回はしんどいぜ。今日は家でゆっくり休んでろ」

「……了解」

 

 そのまま別れようと思ったが、一樹が1つ思い出して降りようとする坂本を呼び止める。

 

「お前ってたしか、モデルガン持ってたよな?」

「え? 安モンのピストルとショットガンなら……」

「よし。明日持ってきてくれ。先生に見られんなよ?」

 

 それじゃ、と言って今度こそ別れた。

 

 

 

 

 

 

「チッス!」

「よし。揃ったな」

 

 次の日の放課後。一樹、坂本、雨宮の三人は校門前の路地に集まっていた。

 

「ん?先輩、なんスか? その袋」

「 あ? ああ。後で分かるだろうから気にすんな。つか、例の物持ってきてくれたか?」

「あ、はい!」

「サンキュ。んじゃ、ショットガンは俺に、ピストルは…雨宮に貸してくれ」

「どぞッス」

 

 受け取ったショットガン(のモデルガン)を袋を持つ腕の小脇に抱え、一樹はパレスへ行く為の準備を始めた。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

「お、おお…」

 

 『何か』が歪んだ次の瞬間、一樹と坂本と、マジシャンの様な衣装に身をくるんだ雨宮は昨日と同じ城の前に立っていた。

 

 

「……本当に来れるとは」

「言った通りだったろ?」

 

 様々な推測により、一樹はここへ迷い込んだ原因はいつの間にか三人ともがインストールしていた謎のアプリにあると睨んでいた。

 それで色々とアプリを弄くった結果、再びパレスに訪れることを成功したのだ。

 正直、パレスに来れる確証は無かった為一樹はホッとした。

 

 

「服が変わってる…、 その格好なら、ペルソナとやらが出せるのか?」

「……羨ましいか?」

「まあ、面白そうではあるな」

 

──ギャアァァァッ!

───ブギャギャギャッ!

 

 喋りながら城の近くまで移動すれば、昨日も聞こえた悲鳴や鳴き声が聞こえてくる。

 

「悲鳴は部活の奴等だとして、鳴き声は何の認知なんだろうな?」

「おい!」

「っ! …モルガナか。そっちも無事だったんだな」

 

 城の影から姿を現したのは、奇妙な猫の様な生物、モルガナだった。

 

「シャドウが急にザワつきだしてもしやと思って来てみれば…せっかく逃げ延びたのに、また正面から来るなんてな。

 ま、ザワついた理由はオマエらだけじゃないみたいだが」

「酔狂で遊びに来たんじゃねえよ。俺たちは鴨志田を……『改心』させに来た」

「……へえ」

 

 モルガナが、面白そうに笑った。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

 

「パレスではなんでも主の思い通りに歪む。防ぐには強い『叛逆の意思』を持つしかない」

「その叛逆の意思とやらが、今の雨宮の格好でありペルソナなんだな?」

「まあそんな所だ」

 

 

 一樹たち三人は、一樹が昨日聞き洩らした情報をモルガナから聞きつつ城を探索していた。

 

 一樹らの目的は鴨志田を改心させること。モルガナの目的はオタカラとやらを盗むこと。別々に見えて、実際は同じ事らしい。

 

 オタカラはパレスの中核。それを盗めばパレスは崩壊して主は改心する。モルガナはそう説明した。

 

 情報を教え、手を貸す代わりに手を貸せ。モルガナの提示した取引はそれだった。

 怪しい猫モドキではあるが、鴨志田に捕まっていたなら敵ではあるまいと、一樹らは取引に応じた。

 

 

「──っ!シャドウだ!」

 

 咄嗟に隠れて向こうを伺えば、確かに鎧を着た大男、シャドウが巡回している。

 

──嗚呼、ようやく…

 

「ここはワガハイとレンがやる。戦えないオマエらはここにいろ」

「……ああ。そうするさ」

「──?」

 

 一樹の含みを持たせた言葉に多少の疑問を抱きながらも、モルガナはシャドウを始末する為に奇襲をかけた。

 

「正体を見せろ」

『グッ、グワアァ!』

 

 モルガナの指示に従い雨宮がシャドウの仮面を引っ剥がせば、シャドウは鎧姿からカボチャ頭の化け物ジャックランタンと二足歩行の植物マンドレイクに姿を変える。

 あれが、シャドウの本性らしい。

 

 戦闘が始まって即モルガナは風の魔法でカボチャ頭を始末したが、歩く植物の弱点をつく魔法は雨宮もモルガナも持っていない。

 

「弱点は突けないな… 力業でいくぞ!」

「その必要はない、ぜ!」

「なっ…!」

 

 雨宮が威力のある銃に持ち代えたその時、一樹が飛び出し意気揚々と唐突に投げたビンがシャドウを焼いた。

 

「か、火炎瓶っ!?」

 

 隠れている坂本が驚いた通り、並々に液体を入れられた瓶に火のつけられた白い布が巻き付けられている。()()()()()()()()一樹が投げたのは火炎瓶であった。

 

「今は気にすんな! 敵がコケたぞ、畳み掛けろ!」

「っ、おう!」

 

 戸惑いながらも、モルガナが前後不覚になったシャドウにトドメを差し、シャドウは消滅した。

 

 

「で、何なんだそれは?」

「見ての通り火炎瓶だが? 夜なべして作ったんだ、いい出来だろ?」

「んなヤベーモン学校に持ってきてたんスか!?」

「冗談だよ。中身はただの水だ」

 

 見た目は物騒だが、中身は色水で布は外側を巻いているだけ。つまり、認知世界内ではモデルガンが弾を撃てるのと同じ原理だ。

 本物にそっくりだが、ドッキリ用の道具で通じる程度の偽物もここで投げれば引火する。

 

「流石にモンスターと超人?の戦いには混じれないからな。こんな感じでサポートするぜ」

「しかしだな…」

「ん? おい雨宮、怪我してんじゃねーか。ちょっとこっち来い。手当てしてやんよ」

 

 渋そうな顔をするモルガナを努めて無視し、一樹は手慣れた様子で雨宮に包帯を巻く。

 

 一樹は現実味のないスリルを求めてこんな所まで来たのだ。見てるだけでお預けなど、我慢できる筈がない。

 色々と考えた結果、火炎瓶やら傷薬やらによるサポートに行き着いたのだ。

 

「ほいできた」

「……上手いな」

「そりゃ毎日自分で巻いてるからな」

 

 一樹は自分の身体中を被う包帯を見せながら自慢気に言う。それにしても流石は別世界と言うべきか、雨宮の擦り傷はもう消えて無くなってしまった。

 

 

「火炎瓶も傷薬もダース単位で持ってきたし、なんなら煙玉なんかも持ってる。色々とサポートしてやれるぞ?」

「むむむ… 仕方ない。ただし、自分の身は自分で守れよ!」

「当然!」

 

 モルガナの説得に成功してから、一樹は銃で火炎瓶で雨宮達の戦闘をサポート楽しんだ。戦闘慣れしている事もあり、引き際も弁えているため怪我もしない。

 

 取り敢えずの目的地に決めていた『悲鳴の出所』に向かいながらも、直接命懸けの戦いに交われないのは一樹的に少しばかり不満だったが、一撃でも喰らえば死にかねない魔法の飛び交う戦場は一樹を大いに満足させていた。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

「鴨志田の奴…! 許しておけねぇ!」

「気持ちは分かるが落ち着け。ここで見つかりゃ元も子も無いだろうが」

「……ス」

 

 城中に響き渡っていた叫び声の出所は、『鴨志田 愛の修練場』なるふざけた施設で行われていた体罰による生徒の悲鳴であった。

 

「……痛みってのは人を黙らせんのに一番手っ取り早い方法だ。ここでやってる事がホントなら、部活の連中に真実喋らせんのは無理だろうな」

「……詳しいな。実体験か?」

「……さあ? てか、早く動いた方がいいんじゃね?」

 

 体罰の情景を見た正義感の強いらしい雨宮と、そもそも鴨志田を嫌い情にも篤い坂本は非常に憤った。それこそ、シャドウにバレて追われる程に。

 

 

『いないな…』

『よく探せ! こっちに逃げたのは確かな筈だ』 

 

 今は積んである木箱の影に隠れてやり過ごしているが、いつ見つかって戦闘になってもおかしくない。

 流石に、一樹も自分たちより多い敵との戦いは避ける。そこら辺は、冷静であった。

 

(こうなりゃ、先に仕掛けて…)

『おい! あっちに例の奴が現れたらしい! 救援を!』

『なに!? 分かった、すぐ向かう!』

「──? よく分からんが、俺たちを探してた奴等は全員いなくなったな」

「よし、出口はすぐそこだ。急ぐぞ!」

 

 橋を渡り、暗い石畳の道を進み、後は昨日迷い込んだエントランスを抜ければ脱出できる所まで来た。しかし…

 

「また貴様らとはな」

「鴨志田ァ…!」

(あれが、鴨志田のシャドウか…) 

 

 一樹らの道を遮ったのは、大量のシャドウを引き連れた『王様』の様な格好をした鴨志田であった。 

 

 気配を察知して物陰に隠れる事が出来たのは一樹のみ。他の三人は、軍勢を引き連れたシャドウ鴨志田と正面から対峙してしまっている。 

 

(アイツら、まだ俺に気づいてねえ。なら隙を突いて、鴨志田を撃つ。シャドウどもがそれに動揺した隙に全員で逃げる)

 

 命懸けと自殺は違うのだ。一樹はあれほど大量の敵と戦う気はない。作戦とも言えない作戦だが、皆で()()()逃げるにはこれしかない。

 

 

「くっ…」

(雨宮、モルガナ…! クソ…)

 

 シャドウが、坂本を守っているが為に全力を出せない雨宮とモルガナをなぶり、踏みつけにしている。

 

 しかし、一樹はまだ動けない。鴨志田もシャドウも雨宮たちに注目している。今動いても死体が1つ増えるだけだ。

 だから、仕方ない。一樹はそう()()()()()、隠れ続ける。

 

 

 

 ──ニヤけたツラで、こっち見てんじゃねぇよ!

──「ぶっ放せよ…『キャプテン・キッド』!!」

 

「……はは、マジかよ」

 

 ──坂本が、己の本心と向き合い、ペルソナに覚醒した。

 

 守る事に気を使わなくてすむようになった雨宮とモルガナが加わり、隊長格のシャドウを撃破した。─してしまった。

 

──隠れていた一樹が、何をする間でもなく。

 

 

 

「ふん! まだ分からんようだな。ここは俺様の城だと!」

「なに!?」

 

 シャドウ鴨志田の一声により、再び大量のシャドウが召喚された。流石のペルソナ使いも、あの数と戦えばタダでは済むまい。

 

 ──しかし、好機。

 

 バン! バン!と銃声が響く。一樹が、物陰から姿を表し鴨志田をショットガンで狙撃したのだ。

 

「ぐっ… 貴様住吉…」

『鴨志田様ッ…!』 

 

 狙い通りにシャドウは動揺したが、想像以上に銃撃が効いていない。せめて鴨志田を倒せるだろう思ったが、よろけるだけで終わってしまった。

 そのせいでシャドウの動揺が少ない。これでは、すぐに立ち直ってしまうだろう。

 

「お前ら、早く逃げ──」

「何をしている衛兵ども! そいつを──」

 

──グギャギャギャギャッッ!!

 

 一樹が仲間を助けるよりも早く、鴨志田が号令をかけるよりも早く、エントランスの中央に飾られた肖像画を突き破って()()は現れた。

 

『【侵入者】だ! 侵入者が出たぞ!』

「なっ、んだあれは…!」

 

 

 それは、鳴き声通りの獣だった。イノシシと大猿を組み合わせた様な、異様の獣。四足で走り回り、目には知能の光の欠片も見当たらない。

 

 その獣は、明らかに鴨志田の認知による存在でありながらシャドウを蹴散らし、鴨志田にすら牙を剥こうとしている。 

 

「ワガハイもアイツについてはよく分からん。ただ一つ分かるのは、アイツは敵味方の見境無く襲うヤベェ奴って事だ!」

「てヤバイぞ! アイツ、こっちに目付けやがった!」

 

──ギャシャァッ!!

 

 

 鴨志田の呼び出したシャドウをもう始末してしまったその獣は一樹達へ突っ込んできた。

 いつの間にか鴨志田がいなくなっている。どうやらこ、の獣や坂本らよりも命を優先して逃げたらしい。

 

 

──【突撃】!!

「クソ… イツキは下がってろ! 撃退するぞ!」

「くっ…」

「おうよ! キッドォッッ!」

 

 唐突に始まった第二ラウンド。直線的な動きしかしない獣の対し、モルガナ達は序盤有利に動いていた。が…

 

──【暴れまくり】!!

「ぐうっ… 【ディア】! コイツ、なんて攻撃力だ…!」

 

 一撃一撃が重く、体力も多いらしい獣は何発攻撃を喰らおうと倒れず、逆に一撃でモルガナたちを瀕死へと追い込んでいく。

 今はモルガナの回復スキルで凌いでいるが、それももう限界が近い。

 

「……なあ、多分正体が分かった」

「なに!? なにか倒すヒントが有るかもしれん! 教えてくれ!」

「ああ… お前は──

 

 

 ──()()()? なあ、住吉一樹!!」

 

 ブギギギ、と、獣が嗤った。やはり、正解らしい。知能が有る様には見えないが、言葉を理解する程度の脳は有るようだ。

 

(ああ、成る程な。『誰彼構わず、先生にすら手を上げるヤバイ奴』って所か)

 

 別に間違っちゃいない。今は裏路地にたむろしている不良やオイタをする酔っ払いを相手に喧嘩をしているが、きっかけがあればきっと一樹は教師でも殴るだろう。

 

 結局、正体が分かった所で攻略の助けにはならなかった。シャドウ一樹は戦えない一樹には興味がないらしく、一樹に危険はないようだ。

 

 ──それ故、余計に笑いたくなる。

 

「クフッ フフフ…」

「な、なあイツキ?」

ハーハッハッハッ!!

 

 雨宮と坂本が獣と戦っている。頭を抱えて笑っている一樹には見えないが、爆音と怒号、その音が戦闘の激しさを物語っていた。

 

 

 安全圏からアシスト?

 死なないように気を付けながら立ち回る?

 

──下らない。

 

 一樹は、先ほどまでの腰の抜けた動きを鼻で笑う。そもそも、自分は何を求めて此処へ来たのか?

 

 戦う為だ。なのにどうして命を惜しんで隠れていたのか。馬鹿らしい。

 

 認知の自分を前に、一樹の思考はあちこちに飛ぶ。だが、笑いは止まらない。

 

「下らねぇ。全部やめだ! 自分の身なんざ知ったこっちゃねぇ! ただ単純に…楽しもうかァ!!

 

 

 急に叫んだ一樹に戦っている二人は変な物を見る様な目を向けてくるが、一樹は別に構わない。周りの目など、元から気にする(たち)じゃない。

 

 ──ただ、やりたい事をやるだけだ。

 

 

ほぉ… よォやくお気付きか?

「アァ? アアア、ガァッ!」

「なっ…! このタイミングで…?!」

 

 突然、頭の中で声が響いた。頭が、割れる様に痛む。だが、愉快だ。

 

 

「狂人で結構! 何で大嫌いな自分の身、なぁんで守らなくちゃなんねぇ? 盛大に暴れていこうじゃねぇか!」

クッ カッカッカッ

  それでいい。元より役者でも無いその身。何処に演じる必要がある? ここは舞台の外。好きに振る舞えばいい!

 

 顔に現れた仮面に、手をかける。先ほどの坂本が覚醒した時の事など一樹は忘れている。だが、感覚で分かる。これを、剥がさなくてはならない、と。

 

「ああ。そうするとも。俺ごと全部…ぶっ壊そうか!」

素晴らしい。我は汝、汝は我…

  台本は既に破られた。どうするかは……お前次第だ

 

 

 一樹は仮面の端を掴み、一思いに引き離す。不思議と、痛みは無かった。

 

 ゴォォォ、と青い光が一樹を包む。光が消えた時、一樹は己の服が変わった事に気が付いた。そして、後ろに現れたもう一人の自分にも。

 

「成る程なぁ。これがペルソナか!」

 

 もう一人の自分が、こんな鉄像のような見た目だとは。鉄塊を削って作った彫像の様な、不思議な見た目。だが、それもまた己だ。

 

「さあいこうか! ファントム!」

 

 まずこの気持ち悪い認知イツキを殴り、次に鴨志田を殴る。

 

 

「いいねぇ! 楽しみが増えた!」

 

 一樹は思いっきり笑った。

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