"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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実際のシステムとは違う点がありますが、二次創作だから…と優しい目で見てくれると嬉しいです


Fishing

「……暇だな、意外と。もっと忙しくなるモンかと思ってたんだが」

 

 学校の終わった放課後。校門の前で、一樹はポツリと呟いた。

 

 新島パレスの攻略を3日後に構えた今日、一樹は暇を持て余していた。無論パレスでの戦闘に備えた訓練も怠っていないが、それでも尚暇であった。学校も終わり、帰る前に喫茶店にでも行ってコーヒーを飲みながら読書でもと考えたが、その気分にならない。

 

 この数日、雨宮とルブランでラノベの読書会をしたり、春と新宿の映画館でホラー映画を見たり随分と充実していたせいで、一人でいるのが何となく寂しい。

 

「んー、こういうの、キャラじゃねぇんだけどなぁ……」

 

  ラノベで言えば、自分は戦えればそれでハッピーの戦闘狂キャラだろうに。一樹はボヤきながら、スマホを取り出した。

 

 

 

 

 

 

「おーい! こっちだこっち!」

 

 一樹は学校帰りに『市ヶ谷』に来ていた。始めて訪れた街だが、()()()は駅前に有ったので、一樹でも迷う事はなかった。

 

「おっ! チースッ!」

「一樹から誘ってくるのは、珍しいな」

「そうか? ……あー、そういや始めてかもな。迷惑だったか?」

「まさか」

 

 暇を飽かした一樹が呼んだのは、竜司と祐介だった。確かに思い返してみれば何度か誘われてゲーセンなりダーツなりで遊んだ事はあるが、蓮と春以外を自分から誘った記憶はない。また今日こうして2人を遊びに誘った理由もまたなかった。ようは何となくである。

 

「一樹は怪盗団の中で常に一歩引いていると思っていたが……、こうして釣りに誘われるとはな」

「バトルなら初っ端に突っ込んでくケドな」

「違いない」

 

 一樹も怪盗団の連中と壁を作っている自覚はあった。以前、裏切ってしまった罪悪感が、いまだ一樹の内側で(くすぶ)っているのかもしれない。そんなことを考えながら、一樹は自分の背にある目的地……、『釣り堀』を指差して言う。

 

「暇だったし、新しい事を試してみようと思ってな。折角だから誘ってみた。竜司はここの経験者なんだろ? 色々と教えてくれると、助かる」

「おお、任しときな!」

「頼もしいな。……つか、誘っといてアレだが祐介は大丈夫なのか? その……金銭的に」

「うむ、問題ない。七輪と塩は持参した。干物にすれば一週間は持つ!」

「……なあ、コイツここがキャッチ&リリースだってこと分かってんのか?」

「えっ、いやあ……」

 

 祐介はあまり金を持ってきていないらしい。このままでは釣り餌を今日の夕飯にしかねない祐介の使用料は、一樹が奢ってやることにした。この恩は魚拓で返すとのことだが、それは普通に断った。

 

 

 

「ははっ、釣れねー」

 

 また餌を落とした釣り竿の先を見ながら、一樹は笑う。

 

 平日だからか、一樹ら以外にほぼ人がいない釣り堀で、逆さにしたビールケースに座って釣りをする。一樹の背にある釣り堀に、竜司と祐介は糸を垂らしている。

 

 不器用な一樹はそもそも針に餌を取り付ける事すら難儀(なんぎ)したが、経験者の竜司に教えられて何とか釣り糸を垂らす所までは成功した。 しかし竜司本人もあまり釣りは上手くないらしく、三人合わせて成果は小魚数匹だ。

 

 一樹自身が釣れないのはやる前から分かりきっていたし、竜司の腕もまあ正直予想はついたが、器用な祐介があまり釣れていないのは正直意外だった。食えないと聞いてからあからさまにテンションがだだ下がりしていたが、そのせいだろう。

 

「──あっ、クソ!」

「……む」

 

 一樹の後ろに座る二人も、一樹が釣り餌の付け直しに手間取っている内に魚を逃してしまったらしい。一樹は些か集中が途切れたのを感じ、雑談をふる。

 

「まったく釣れないな。蓮がいりゃあ釣り方教えて貰えたんだろうけど」

 

 竜司によると、“超魔術”的に器用な蓮はゲーセンのクレーンゲームや物作りだけでなく、釣りも上手いらしい。以前器用になる秘結を聞いた所、侵入道具を作っている内に器用になったと言っていたが、本当だろうか。

 

「蓮も誘っていたのか?」

「ん?まあ用事があるって断られたけどな」

 

 蓮は怪盗団リーダーだからか、普段から結構忙しくしている。遊びに誘っても、乗ってくれるのは3回に1回程度だ。

 

「あー、そういや、昼飯の時にカウンセリングのセンセに合いに行くって言ってたわ」

「カウンセリングの先生とは、丸喜先生か?」

「そーそー。あの頼りなさそーな」

「へぇ。あいつ、そんなトコとも友好があんだな」

 

 ミリタリーショップの店長やらゴシップ記者やらと仲が良いのは知っていたが、蓮の顔の広さには時折驚かされる。この調子だと、政治家や天才棋士なんかと顔見知りだったとしても不思議ではない。

 

「あっ! あーあ……。餌は後1つか。二人は?」

 

 話に夢中になってしまい、付けるのに梃摺(てこず)っていた練り餌を落としてしまった。この釣り堀では、最初に小さな練り餌を7つ渡される。大きい魚は釣れないが、素人の一樹にはこれで充分なサイズだ。もっとも、一樹の成果は0だが。

 

「俺はあと3つだな」

「俺も」

「やっぱそんなモンだよなぁ……」 

 

 釣り糸を垂らしたまま、二人が答える。消費が激しいのは、一樹だけらしい。一応練り餌は受付で購入できるが、あまりその気にもなれない。

 

「そろそろ終わりにすっか?」

 

 魚を逃し、餌だけ持って行かれた竜司が提案する。確かに、入ってから雑談合わせて90分程経っている。もう既に空は紅くなっており、帰るには充分な時間だ。祐介ももう終わらせるつもりらしく、釣り竿を片付けて指で構図を切り何処かを観察している。

 

「……いや、どうせなら小魚一匹くらいは釣りたい。悪ぃけど、付き合ってくれっか?」

「おっ、そうだな挑戦すっか! どうせならヌシ釣ろうぜヌシ!!」

「釣り堀のヌシか。魚影すら金色(こんじき)に輝くと聞くその姿、是非とも描いてみたい!! よし、釣ってくれ!」

「この釣り竿じゃ釣れねぇんじゃねえかなぁ」

 

 全長百センチを超えると言う釣り堀のヌシを釣るには、貸し出される普通の釣り竿では心許ない。それに、ヌシはこんな小さな餌には食いつかないだろう。

 

「……いや、」

 

 いつもの一樹ならここで諦めている。しかし、今日の一樹は挑戦したい気分なのだ。無謀だと分かっていても、どうせならやってみようと思える心意気だった。

 

「よっし、いっちょそのヌシだかなんだかを釣ってやろうじゃねぇか!」

「よっしゃいいぜ一樹!!」

「その勇姿、しかと見届けよう」

 

 餌をしっかりと付け、竿を振って糸を飛ばす。着水したら、竿を左右に振って魚がかかるのを待つ。この時、なるべく練り餌が生き物の様に見えるよう振るのがいいと、何処かで聞いたのでなるべく実践する。

 

「──っ! 来た!!」

 

 突如、ビクッと竿が動き、一気に引っ張られる。

 

「よし、慎重にだぞ」

「分かってるッ!……あ? 何か、引きが強くないか!?」

 

 やたらと力強く、しっかりと握っていた一樹の腕から、釣り竿が持って行かれそうになる程だ。

 

「オイオイオイ小魚の引きじゃねーぞこれ! ホントにヌシがかかったのか?!」 

 

 明らかに、小さな練り餌で釣れる“ザラブナ”や“紅魚”の引っ張り方ではない。気を抜けば、一気に釣り竿を持って行かれそうで、一樹は立ち上がって釣り竿を引く。一樹の使っているカジュアルロッドにはリールなんて便利な物は付いていない。ゆえに一樹は力任せに釣り竿を引っ張って抵抗するしかない。

 

「オイ一樹、進行方向と反対に竿を引け! 魚を疲弊させろ!」

「いや糸が切れるって! 魚と合わせた方がいいだろ!」

「どっち……だよ!!」

 

 釣り竿を抱える様に持ち、必死に耐える一樹に正反対のアドバイスをかける祐介と竜司。どちらに従うかを考える余裕など、一樹にはない。

 

「ここは──力尽くで!!」

 

 フンゴァ!!と声にならない声を上げ、思いっ切り釣り竿を引っ張る。

 

「ガアァァッ……!!」

「スゲェ!! こっちきたぞ!」

「力勝負に勝ったのか…!! すさまじいな……」

 

 少しずつ、ルアーが一樹の元へと寄ってくる。一樹は歯を食いしばり、腕と脚、そして全身に力を込める。

 

「──! 魚影が見えてきたぞ! しかし、ヌシではないな……」

「いやでもデケェぞ!」

 

 百センチは超えていないが、それでも60センチよりは確実に大きい。徐々に明らかになる魚影に、祐介がハッとする。

 

「あの大型のヒレ、青銀のウロコ……デリシャスタナゴか!」

「タナゴ……?」

「コイ科コイ目の淡水魚だ。塩焼きや煮付けが美味く……、(いま)が旬だ!!」

「いや……、食えねーからな?」

「漫才やってねぇでいいから……、手伝ってくんねぇかぁ!!」

 

 ここにきてようやく、一樹は周りに手助けを求める事を思いついた。

 

「お、おう!」

「よし、息を合わせろ」

「グゥッ……、三人掛かりでようやくか……!」

 

 左右から後輩二人が釣り竿を握り、三人で力を合わせて釣り竿を引く。抵抗は強いが、それでも魚影は段々と近寄ってくる。魚影は、もう目前まで寄ってきた。

 

「もう一息だ!! せーので引くぞ!」

「よし来た!」

 

 いっせーの!!と声を合わせ、尚のこと力を込め、竿を引く。

 

 

「──!! 釣れた!」

 

 ザバンと釣り堀が波打ち、青い鱗を持った大きな魚が(ちゅう)を舞う。

 

「おお……」

「美しい……」 

 

 一樹も、後輩二人も、空を飛ぶ魚に目を奪われる。特に一樹は、この光景が、自分の手で成し遂げられたと言う事実に見惚れていた。

 

 

「……ん? おいおいオイオイこれ……?!」

 

 見惚れて数秒、魚、デリシャスタナゴは未だ宙を舞っていた。つまり……

 

「落っこちる! 竜司拾え!!」

「いや無理だわ!!」

 

 一樹らがいるのは溜池と溜池の間。タナゴは飛び続け、釣った溜池の反対の溜池に向かって飛んでいく。

 

「クソ!」

「いや危ねえって落ちる!」

「クッ、お前もだ!」

 

 一樹は咄嗟に飛びだそうとするのを、坂本が飛び付いて一樹を押さえ、その二人を喜多川が押さえる。しかし一樹の勢いに負けて、まとめて倒れてしまう。

 

 

 ──ポチャン

 

 

「あっ!」

 

 タナゴは静かに釣り堀へ落ちていき、静寂だけが残った。三人は絡まった奇妙な体勢で、それを見届ける。起き上がって後、妙な沈黙が流れる。

 

「フフ、フフフ……」

「ハハッ」

「ハーハッハッ!!」

 

 誰からともなく笑い出し、笑いは三人にうつっていく。散々梃摺(てこず)って、結構骨折り損。ばかばかしくも、何となく自分らしいと、一樹は思った。

 

 

「ハハッ……、あー、笑った」

 

 数分笑い続け、ようやく笑いが収まった時には、一樹の目には涙すら浮かんでいた。

 

「…よし、帰るか」

「そーだな」

「二人とも、飯奢ってやるよ」

「むっ! いいのか?」

「いーよいーよ。気分良いしな」

 

 今日は挑戦してよかった。一樹は素直に喜んだ。

 

DRのスキルで残りの1枠は何がいい?(五月雨斬りは止めました)

  • 万能ブースター系
  • 万能見切り系
  • 心得系
  • カウンター系
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