「貴様ら……ッ!!」
本会議場。シャッターとロックされた大扉によって封鎖されたそこで、DRと明智は獅童の認知上の明智と対峙していた。認知の明智の周りには警備員姿のシャドウが大勢で武器を握っており、危機的状況だと言える。
明智に一杯食わされて怪盗団を取り逃した認知の明智は怒髪天を衝いた様子で2人を睨んでいる。
「……ハァ。まったく、まさかまんまと逃げられるとはね。僕を騙すとは恐れ入った。君たちを甘く見ていたよ」
「ププッ……!」
「……何笑ってんだよ」
「いや、別に?」
認知の明智の言葉に、DRはついつい笑う。DRが渡した宝玉で体力と気力を回復させた明智には突っ込まれたが、今の言葉は先ほどの戦いでクロウが怪盗団に言った台詞そのままである。言葉が被る程に、獅童の観察眼は鋭いのだろう。
「まあ、騙されたのはいいさ。どうせここで、貴様らを始末しちまえば、済むハナシだもんなぁ!!」
認知の明智がそう叫んで黒い泥をまとえば、次の瞬間には赤い悪魔へと変身していた。
「ッ!! ベリアルか! 正真正銘、獅童の切り札らしい!」
「へえ。確かに、ヤクザ者の
周りのシャドウたちも、カーリーやガルーダなどの、このパレスで何度も戦ってきた強敵へと変身する。
『ぶっ殺してやるよ……ッ! 獅童船長のためにさァ!!』
「敵は6体! やれるな、DR!!」
「当然! ナビは任せるぜ、
こうして、DRとクロウの共闘戦が始まった。
■
「顕現しやがれッ……! ロキィィ!!」
『テメェの攻撃なんざ……、効かねえんだよォォ!!』
「何ッ!? コイツ、呪怨も無効化するのか!」
「ホントに、獅童がクロウ対策で用意したシャドウらしいな!!」
スレッジハンマーを振り回して周囲のシャドウを威嚇しながら、DRは言う。認知上の明智が変身したベリアルは、クロウの主な攻撃手段である物理属性と呪怨属性を無効化する、厄介な敵である。
カーリーやガルーダといった周りのシャドウたちもベリアルに比べれば一段も二段も弱いが、油断できる相手ではない。
単独で囲まれれば、ジョーカーやクロウでもやられてしまうだろう。
「攻撃が効かなきゃ勝てるってか? 考えが甘えんだよッ…! ≪メギドラオン≫!!」
「ハッ! 俺も楽しくなってきた! さァ虐殺タイムと行こうぜ、トウコツ!! 」
ファントムから進化したペルソナのトウコツは大型の全身鎧サイズであったファントムと比べても更に大柄である。そんなトウコツに搭乗すれば、目線が高くなり、身体中から力があふれてくる。
「ハハッ! ハーハッハッハッ!!」
今なら何でも出来そうな万能感が湧き上がり、DRはその万能感のままに搭乗したトウコツの腕部を変形させ、気力の弾丸を発射する。
───≪PL・ガン≫!!
パラララッ!!とミニガン状に変形させた腕部から乱射された気力の弾丸は2人を取り囲むシャドウに命中し、クロウの放ったメギドラオンのダメージと合わさって シャドウを1匹消滅させる。
「敵あと5体! まだ相手が優勢だ、気を抜くなよ!」
「まだまだ、トウコツの力はこんなモンじゃねえんだぜクロウ!!」
「ハッ! 心配するまでもなかったか」
DRはスレッジハンマーを片手で振るい、銃撃が弱点であり今の≪PL・ガン≫によってダウンしているガルーダを攻撃する。ただの物理攻撃でありながらその威力は凄まじく、一撃でガルーダを消滅させる。
──トウコツの特性:【神々しき挙動】ペルソナ搭乗時、ステータス100%上昇!!
『チィ…ッ!? やってくれたな……!!』
だがまだベリアルは健在であり、≪呪怨ハイブースター≫で強化された猛烈な呪怨スキルでDRに反撃した。
トウコツに超覚醒しようと、DRのペルソナが物理と銃撃の他に耐性がないのは変化がなく、トウコツに搭乗しながらもDRはそれなり以上のダメージを負う。
「グオッ! ……ハハッ、いい痛みだ!! もっとくれよォォ!!」
「DR! こんな所で死んだら殺すからな!」
「心配してくれるったァ優しいなあ、クロウ! 安心しろ、こんな楽しい所で死ねるかよ!」
「ハァ?! 俺がいつ心配した! 迷惑だから止めろと言っただけだ!」
そんな言葉を交わしながらも、2人のコンビネーションは適切である。時にはDRが死角からの攻撃を受け止め、クロウがその隙を突く。また時にはクロウがシャドウの動きを牽制して、DRがチャージした大技でトドメをさす。
そんな風に2人はシャドウの数を減らしていったが、まだ敵の数は多い。ベリアルが脅威なのは依然変わらず、また敵の増援が来るのも時間の問題だろう。
背中合わせでシャドウの動きを伺いながら、クロウはDRに問う。
「……このままだとジリ貧だ。敵の数は減っているんだし、悔しいけど、撤退を視野に入れるべきじゃない?」
「なら、最後に試したい事がある。駄目で元々だが、上手くいきゃあ逃げる必要もなくなるぜ」
クロウは背中越しにトウコツへ搭乗したDRを見て、その反応から今の言葉が出鱈目や強がりでは無さそうだと確信する。
「……で、何がいる?」
「時間だな。30秒は敵を寄せ付けないで欲しい」
「乗った。 顕現せよ、ロビンフッド!」
クロウがベリアルに攻撃の通るロビンフッドと銃器でベリアルと取り巻きのシャドウを引き付ける中で、DRがまるで瞑想するかのように全身の気力を練っていく。
(──俺のペルソナは気力を直接的に操る。ペルソナが進化して操作率の上がった今なら、≪ペルソナ・フィスト≫以上の威力を出せるはず……)
10秒経過。それは土壇場の思いつきであり、成功する確証もない。しかし成功させるのだと、1人でシャドウと戦うクロウを見て、トウコツに乗るDRは決意する
(──もっとだ。もっと溜め込め。全身の気力を振り絞れ!!)
15秒経過。≪PL・ガン≫を撃つときよりも広く、≪ペルソナ・フィスト≫を放つときよりも深く。そう意識しながら、DRは腕部に己の気力をチャージする。
(──ッ!? 来た来た来た来たッ!!)
そして、30秒経過。注ぎ続けた水がコップから漏れ出すように、DRの腕から気力の光が溢れ出す。DRはそれを何とか制御して、それを球体状に圧縮する。
「成功したぜクロウ! 場所を空けな!!」
「へえ。期待はしてなかったんだけど、なッ!」
『グッ、キサマ……、何ッ!?』
単独でシャドウをあしらっていたクロウにDRがそう告げれば、クロウはベリアルを蹴り飛ばして距離を取る。それを見計らってDRが光の弾を投擲すれば、ようやくベリアルが危機に気付く。だが、もう遅い。
「新技なんだろ。名前は決めたのかい?」
「そうだな。名付けて……」
───≪ペルソナ・グレネード≫!!!
瞬間、途方もない熱と閃光が、本会議場を覆い尽くした。
『ガハッ……! バ、バカな……! 今の一撃で……、全滅したってのか!?』
そしてその数秒間にも渡る閃光が途絶えた時、爆心地に残っているのは、認知上の明智の姿に戻ったベリアルだけであった。
「うっし上手くいったな。ソイツにトドメを刺して、さっさと脱出しようぜ」
「ああ、そうしよう」
そう言って、クロウは認知の明智に銃口を向ける。先ほどとは立場が逆転した形だ。違うのは、認知の明智に助けは来ない事くらいか。
『……フン。どうせ怪盗団を逃がした時点で、獅童船長からの信頼は失墜してるんだ。好きにすればいいさ』
「明智が生きるも死ぬも獅童次第ってか? ふざけた認知だぜ」
「……でも、違いない。違いなかった」
DRが獅童の思想を皮肉れば、クロウが自虐するように呟く。だが銃を握る手に迷いはなく、言葉で動揺させて隙を作る事は出来なさそうだと認知の明智は諦める。
『まあせいぜい、見捨てないでと怪盗団に尻尾を振ることだね。……今まで、船長にやってたみたいにさァ!!』
──どうせ誰も、お前を認めない。
その捨て台詞を遮るかのように銃声が響き渡り、認知の明智は消滅した。
「……終わったな」
認知の明智の頭蓋を撃ち抜いたクロウを黙って見ていたDRがポツリと呟く。終わったのがこの戦闘なのか、それとも何か別の因縁なのか。それは言ったDR自身にも分からない。
『銃声がしたぞ! 早くシャッターを開けろ!!』
『中はどうなっているんだ?! 獅童船長はご無事なのか!!』
「チッ。もう増援が来たか。どうする? シャッターを開けて、もう一回大暴れといくか?」
「……いや、そんな気分にはなれないね。周囲を捜索しよう。用心深い獅童のことだし、本会議場にも秘密の脱出路くらい用意してるだろ」
こうして無事に勝利した2人は、怪盗団に続いて脱出を開始したのだった。
■
「よし! ここまで来りゃ、あとは現実世界に帰るだけだな!」
DRとクロウはなんとか本会議場を抜けて、警戒度の爆増したシャドウの目をかい潜ったり面倒な警備システムの穴を抜けたりして、ようやくメインデッキまで到達した。ここまで来れば、シャドウに襲われる心配もなく現実世界へ帰還できる。
「で、これからお前はどうすんだ?」
「……どうすんだ、って?」
「いやだから、一緒に獅童を改心させるのか、って話だよ。スカルやパンサーも誘ってただろ?」
侵入口が違うので、現実世界に戻ればDRとクロウは別れ離れになる。故に今の内にクロウの意向を聞いておかねばと、DRは尋ねたのだった。
「……ホント、怪盗団はお人好しばっかりだな。君もやっぱり、怪盗団の一員だよ」
「あー、アイツらのが移ったかもな。で?」
「止めとくよ。獅童の改心は、怪盗団に託す。……俺までお人好しにはなりたくないからさ」
ふざけた理由に聞こえるが、それはクロウの真意なのだろうとDRは思った。今まで犯してきた罪への罪悪感が、ようやく憎悪と承認欲求を乗り越えたのだと。
これなら再び罪を犯すことも、断罪から逃れるようなこともしないだろうと、DRは確信する。ならば、好きにすればいい。
「じゃ、伝言があるなら聞いとくぜ。怪盗団あてでも、獅童あてでもな」
「ホント、お人好しだよ。なら──」
こうしてDRとクロウの、奇妙なパーティーは解散したのだった。
■
「「「一樹(君)!!」」」
一樹が現実世界の議事堂前に帰還すれば、そこでは怪盗団の仲間たちが待っていた。彼らまた脱出できていたらしい。
「よっ、無事だったんだな」
「こっちのセリフ!」
「大丈夫だったのか?! アケチのヤローは?!」
脱出早々に一樹は怪盗団に詰め寄られるが、それは心配から来るものであるのは表情から分かり、一樹も悪い気はしない。
「明智とは一緒にパレスから出たからな。まぁ……、アイツも無事だろ」
「そっか……」
「……アイツがやった事は許せねぇど、死んで欲しいわけじゃなかったしな」
「ええ、そんな彼の気持ちを理解して犯罪に巻き込んだ獅童は、絶対に改心させなくちゃ」
以前から明智と親交のあった新島などは、明智の本性を知った上で獅童に怒っている。甘い奴だと思いながらも、その気持ちは一樹も同じ。
「ああそうだ。アイツから伝言を預かってるぜ、リーダー」
「……伝言?」
「ああ。『
「……そうか。なら、それでいい」
一樹には何の事かさっぱりだが、蓮には明智の意図がしっかりと伝わったらしい。内容が気にならないと言えば嘘になるが、それを訊くのは野暮だろうと一樹は自重する。
だが 、それはそうとこれからどうにかしなければならない問題もある。
「改心させるにしても、予告状はどうする? まさか、直接渡す訳にもいくまい」
祐介の言う通り、怪盗団には獅童に予告状を渡す術がない。斑目や金城にやったような、相手のテリトリーに予告状をばら撒く戦術も、獅童の居場所が議事堂である以上は不可能に近い。
ただでさえ、今の時点で議事堂に相応しくない高校生の集団という事で警備員から不審がられているのに、選挙前で警戒している警備員の目を掻い潜るのは無理だろう。
「ムフフフ……ッ!」
メディアに送るか、それとも新島冴を頼るか。そんな意見を出し合っていれば、いきなり双葉が笑い出した。
「フッフッフ。……私に案がある」
「……本当か?」
「ホントだって! フタバ砲はもうすぐ完成だぞ!」
「フタバ砲……?」
よく分からないが、予告状を出す手立てがない以上、双葉の準備を待とう。そう結論付けで、今日は解散となった。
■
──11月28日。渋谷にて。
『まずは、全国のニュースからです。怪盗団を名乗るグループの主犯と見られる少年が──』
渋谷の象徴とも言えるスクランブル交差点。そこに面したビルに設置された街頭ビジョンでは、企業の広告とともにニュース番組が放送されている。
忙しく交差点を渡る民衆のどれだけが番組に意識を向けているのかは不明だが、街頭ビジョンの中のアナウンサーはそんな事を気にもせず原稿を読み上げ続ける。
『──拘束中に死亡した事を受け、警察は犯行の終息したとミ……、られるとの正式見…、カイォケェェンオォ──』
「な、何だ?」
「見ろよ、あそこッ……!」
突如、街頭ビジョンにノイズが走り、アナウンサーの言葉が途切れた。何事かと道行く民衆目を向けた瞬間、画面が切り替わる。そこには、TAKE Your Heartの文字とともに、怪盗団のマークが映っていた。
『ハイ皆さん、こんばんは~』
『我々は皆さんに、『怪盗団』の名で知られている者です』
画面から聞こえてくるのは、怪盗団を名乗る加工された声。しかもその声は1箇所からではなく、アチコチから聞こえてくる。いつの間にか、街中にあるありとあらゆる街頭ビジョンが乗っ取られていた。
『オイオイ、怪盗団は壊滅しただろって?』
『俺たち全員、こうしてピンピンしてるぜ? けど権力者どもが、情報操作して真実を塗り潰そうとしやがったんだ』
『てワケで、次なる獲物をハイシャクする前に……、まず皆さんのお時間をハイシャクしちゃいま~す!』
画面から聞こえてくる声は次々入れ替わる。街行く人々は興味を持ち、ジャックされた画面の前に次々と集まっていく。
『最近の要人の立て続けの不祥事、突然の乱心で起こる事故や廃人化……』
『それは、原因不明なんかじゃねえ!』
『これらはすべて、ある1人の男が欲を満たす為に企てた『犯罪』だ!』
『その男は犯罪の露見を恐れて、私たちに罪を被せた。卑怯にも、警察まで操ってね』
その内容はタイムリーであり過激であり、耳目を集めていく。中にはスマホを構えてネットに上げる者もあり、それはまさに怪盗団の作戦通り。
『その卑劣な男の正体は……』
『現職の官僚! 特命担当大臣……、獅童正義!!』
その言葉とともに、スクリーンに獅童の写真が貼り付けられる。今もっともホットな人間である男の名に、民衆の注目とざわめきは否応なしに大きくなっていく。
『コイツの言葉はぜ~んぶウソ! その証拠に……』
『この通り、私たちは誰も死んでなんかないわ!』
そしてスクリーンに映されるのは、8人の特異な恰好をした男女と1匹のマスコット。その姿は見えれど顔は見えず、正体は掴めそうにない。
だがイタズラにしても規模が大きく、見ている民衆の中には本当かもしれないと思う者も現れるだろう。
『私たちの言葉が嘘かどうか、分かる人には分かるよね?』
『彼がどんな罪を犯してきたかは、近く本人の口から語られる事になるでしょう。どうぞ、お楽しみに』
『悪党がテメェ勝手に国ごと沈めちまうのを、俺たちは黙って見ているつもりはねぇ。だろ、リーダー?』
スクランブル交差点では警察の規制が入るが、街頭ビジョンを見る人々は動かない。そんな状況を察しているかのように、画面内で1人の男が前に出る。
『その前に、我々がこの国を頂戴する!!』
死んだと思われていた怪盗団のリーダーらしき男によるその予告は、事情の分からない民衆たちすら湧き上がらせ、怪盗団の復活を刻んだのであった。
■
「たっく……。電波法違反にテレビ局への業務妨害。内容が本当でも、この規模だと獅童への名誉毀損罪と脅迫罪もセットか? 立派な犯罪だぜ、これは」
「ま、まあ、今回ばかりは大目に見てもらいましょ。こうでもしないと、獅童に予告なんてできないもの」
一樹は双葉の実行した電波ジャックに呆れ返っていた。それを真が宥めているが、普段と立場が逆である。
そんな怪盗団がいるのは、獅童のパレスがある国会議事堂前。日も落ちた時間帯に高校生の集団がたむろするには不自然な場所だが、今日ばかりは議事堂前に人だかりができており、目立たない。
議事堂前の人だかりは予告状を受けて動き出したメディアだけでなく、老若男女問わない野次馬で構成されている。それを見て、一樹は呆れを抑える。
「まあでも、見るかぎりそんだけムチャした効果はあって何よりだよ」
「人、集まってるね……」
「予告状の効果は絶大だな」
「でも、獅童を応援する声ばかり……。あれだけのことがあっても、獅童の改心を望む声は多くないのね……」
私たちのやろうとしている事は本当に『正義』なのかしら……?と真が気弱に呟く。
「……みんなが、獅童の本性を知らないだけだ」
「そもそも、怪盗団は大衆の意向に添うのは止めたんだろ? 自分の『正義』に従うってよ」
「レンとイツキの言う通りだ。とっととシドーを改心させてやろうぜ!」
蓮のカバンに入ったモルガナの号令で、怪盗団はパレスに侵入するのだった。