「んァ……、うん?」
一樹が目が覚めた時、そこには知らない天井があった。
(──どこだ。ここ。)
状況が掴めない。一樹がキョロキョロと首を動かしてと、青髪の男と目が会った。
「む? おい、起きたぞ」
「あっ、住吉君。具合はどう? ……うん。大丈夫そうね」
「ん、ああ……、そうか。俺……」
ボンヤリとしていた一樹だが、新島の顔を見たら記憶がハッキリしてきた。
怪盗団と対面した事。認知世界なる場所に行った事。そこで(一応)ペルソナ使いに覚醒した事。そして……、ロケットランチャーをぶっぱなして、自爆した事。
一樹は、自分が渋谷駅から戻り喫茶店ルブランの二階、メガネの黒髪店員の部屋のベッドに横になっていた事に気が付いた。
一樹を覗く様に見ている新島の他、猫モドキのモルガナや黒髪店員など、怪盗団全員がこの部屋にいるらしい。
「……ごめん。迷惑かけた。その、調子乗ってた」
「別にいいわよ。どっちかと言えば、こっちが悪いんだし」
「へい……。マジでサーセン……」
新島に睨まれて金髪ヤンキーがションボリと謝罪してくる。相当新島に絞られたらしい。
「あ、いや、大丈…って、あれ?」
謝罪を否定していると、一樹は体の違和感に気付く。
「なんか、体、痛くない。あんなにおもいっきり打ったのに」
試しに手を振り体を曲げても、何時もとなんら変わらない感触しか無かった。
「ワガハイが回復スキルを使ったからな! なに、気にする事はない。困っている人を助けるのも義賊の嗜みだからな! 」
「えっ? あ、うん。ありが、とう?」
モルガナが、猫の姿でどや顔をかましてきた。猫の表情筋にそんな顔を作る能力が有ったとは。
一樹は微妙な顔でお礼をした。
「アハハ。そんな真面目に受け取んなくて良かったのに」
金髪ツインテールの女が朗らかに笑う。笑い慣れている笑顔だと、一樹は思った。
「さっきも思ったけど、真面目だよねー。生徒会員なんだっけ?」
「え、いや……、生徒会やってたのは、一年の時だけで……」
この陽気なノリは、一樹に合わないモノだ。しどろもどろになって応答する。
すると、新島がハッと何かに気付いた。
「そう言えば、私たちまだ自己紹介もしてなかったわね」
「あァ……、そうだ、な。そう言えば……」
思い返せば一樹は此処で名乗った覚えが無いし、名乗られた記憶も無い。メメントスでペルソナに目覚めた経緯は軽く聞かされたが、それだけだ。お互い、スッカリと忘れていた様だ。
「なら、取り敢えず簡単に自己紹介しちゃいましょうか」
コホン、と新島は一息ついた。
「覚えてるみたいだけど、秀尽学園三年、新島 真よ。今は生徒会長もやってるわ」
自分の事は忘れてたクセに、ヌケヌケと。一樹は腹がたったが、口にはしなかった。
「コードネームは"クイーン"で……」
「えっ? ちょ、ちょっと待…」
唐突に、一樹の想像もしていなかった単語が飛び出してきた。
「なに? いきなり」
「え? いや、……なに? コードネーム? って、クイーン……?」
一樹の頭は混乱している。コードネームは、まあ理解出来る。怪盗なら、認知世界でも本名で呼び合う訳にはいかないだろうから。
だがクイーンとは?
まさか新島のコードネームか?
(──こいつ、自分の事を"女王様"って呼ばせてるのか?あの世紀末な格好で?)
一樹の持つ、一年生の時の「超有能文武両道生徒会員」のイメージとはかけ離れた新島に、一樹の頭はショートしそうになる。
「コードネームの事はあまり気にしないで」
混乱している一樹を傍目に、新島がため息をついている。何かしら思う所が有るのだろうか。
「それよりも、私以外の紹介も済ましちゃわないと。まずは……、私たちのリーダーからかな」
「え? リーダーって新島じゃないのか?」
今までてっきり、新島がリーダーだと一樹は思っていた。彼女ほどカリスマと知性を兼ね備えた高校生はそう居ないだろうから。
「リーダーは彼よ。そこの、黒髪の」
「……雨宮蓮だ」
メガネの黒髪店員──雨宮は、それだけ言うとそっぽを向いてしまった。一樹に興味がないというよりは、それ以上何か言う気が無いだけのように見える。
「ああゴメン。彼、何て言うか、淡白なのよ」
淡白と新島は言うか、一応先輩に対して失礼な気もするが、まあいい。一樹が敬われないのは何時もの事だ。一樹は胸に手を当てて、息を吐いてそう割り切った。
「彼について補足すると、秀尽学園の二年生で、彼のコードネームは"ジョーカー"よ」
「ジョーカー?」
「そう。私たちの切り札。彼、"ワイルド"だから」
またもや一樹が聞かされていない単語が出てきた。
「えっと、ワイルド、ってのは?」
「ペルソナが複数使えるペルソナ使いの事よ」
「へぇ?」
ペルソナとは、『もう一人の自分』だか何だかではなかったのか。一樹にはよく分からなかったが、そう言うモノだと取り敢えず飲み込んだ。
飲み込んでいる間に、他のメンバーの自己紹介が終わってしまった。
そのせいで、元より人の名前と顔を覚えるのが苦手な一樹が名前を聞き流してしまった。正直、もうリーダー君の名前すら怪しいのだ。
(──ア
メンバーに関しては、その内頑張って覚えるしか無いだろう。一樹はため息をついた。
「驚きだ、な。まさか世間騒がしてる怪盗の、半分と学校一緒だったんだ」
「まあ、普通想像もしないわよね」
そんなことより。と新島は続ける。一樹は「そんなこと」レベルの話だとは思わないが。
「次は貴方の番でしょ」
「……、?」
「だから、自己紹介」
一樹が新島の言葉を咀嚼して、飲み込むまで少し時間がかかった。
「えっ!? 俺もやんの?!」
「当然でしょ。貴方ももう関係者なんだから」
「げぇぇ……」
一樹は自己紹介が嫌いだ。趣味も、特技も、誇れる事も無い自分の無能さを暴露する行為が、好きになれる訳がない。
それでも。新島やその仲間に見られては、やるしかない。
「えっと、住吉一樹……です。秀尽学園の三年、帰宅部、です。一年だけ生徒会やってまし……、た」
嫌いなだけあって、いざ始めると変な自虐的暴露趣味が沸いてきた。
一樹は言ってから後悔した。何時もこうだ。言わなくていいことまでいってしまう。と。
「先パイは、生徒会で何の仕事をしてたんデスか?」
金髪ツインテール(名前は諦めた)が取って付けた様な敬語で楽しそうに手を挙げて質問してきた。
「えっと……、あ…、うん。俺の仕事は……雑用ゥ、だったかな……」
「雑用?」
「プリント印刷したり重い荷物運んだり……」
「へぇ」
(──ははは。やったぞ。言ってやった。)
一樹の心に薄暗い喜びが生まれる。何時か誰かに聞かれたら絶対にそう答えようと思っていたのだ。
秀尽学園の生徒会に雑用などと言う役職など無い。一樹も元は広報として生徒会に入った。
しかしその仕事は優秀な現生徒会長サマに片手間で盗られてしまった。だから仕事のなくなった一樹は、やることもなく雑用をしていた。
その、下らない当て付けの様なモノだ。
一樹はチラリと新島の反応を見る。
「まあ、そんな感じだったかな。確か、元は広報だったっけ?」
おそらく、新島は一樹の悪意に感ずいたのでも無く、何か思惑が有るのでも無く、ただ単純に、素で一樹にそう言い返した。
「えっ、アッ、ああ。正確には……。ソウです」
想定外の返しに、一樹はなんとか返事をする。
そして……
(──あァやっぱ俺は、コイツが大嫌いだ。)
己の認識を確かにしたのだった。