"役立たず"の奮闘記   作:緑川翼

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Bystander

「──で、どうするの?」

「……っ! え? 何が?」

「何がって……、聞いてなかったの? 返事もしてたのに?」

「あ……、ゴメン。空返事」

 

 何してんだか…。と新島が頭をふった。一樹が不意に芽生えた新島への嫌悪感を抑えている間に、話は進んでいたようだ。

 

 一樹はポン、ポン、と胸を軽く叩き、息を吐いて気を落ち着かせる。

 

「ゴメン……。もっかいお願い」

「まったく……。 要は、貴方がどうするか。って事よ」

「俺が…?」

 

 何の話か、あまり一樹に入ってこない。

 

「貴方は、私たちの正体も、力の事も知っているわ。だから、ここでハイさようなら。とはいかないの」

 

 それは、まあ当然の事だろう。無理やり教えられた、という点には文句を言いたいが。

 

「別に、何処かにチクろうなん……」

「だから、君が仲間になるか、ならないか。ってこと」

「……、ん?」

 

 再び、一樹の思考が止まる。まさか、俺は今勧誘されている、のか?と。

 

「でも、俺、ペルソナ使えないぞ……?」

「多分その内使えるようになるだろうってモルガナが」

「あ、そう……」 

 

 一樹は迷う。今さっき生徒会長への敵意を確かにしたばかりだし、再び彼女の下に就くなど考えたくもない。だがしかし、何の特徴も無い一樹にとって、あの世間を騒がせる怪盗団の一員になれるチャンスは、危険を承知で肯きたくなる魅力があった。

 

「戦闘技術は私たちで教えられるし、何より信用出来る仲間が増えるなら有難いの」

「あ、そう……」

 

 あの生徒会長に認められている事を喜ぶべきか、「取り敢えず数が欲しい」とも聞こえる勧誘に怒るべきか。

 

 いやそもそも怪盗なんて危ない事をやるべきでは無いのでは? いやそんな日見寄りな考えではやはり……。

 

 一樹の頭の中で賛成と反対がグルグル回り、一樹が出した答えは……

 

 

「………、ほっ、保留で」

「は?」

 

 

 結局、何時ものように一樹は日寄った。「何言ってんだ、コイツ?」を意味しているだろう生徒会長の「は?」にビビった一樹は慌てて弁解を始める。

 

「あ、いや、ほら。俺まだシャドウ?の姿とか見れてないし、今直ぐ決めるのは短絡的かなって……」

 

 即興にしては、上手い言い訳を一樹は思い付いた。まんまと生徒会長は顎に手をやって考える。

 

「まあ、確かにそうね……」

「え、いや……あ、うん」

 

 急に、一樹は不安になってきた。これでもし生徒会長が「やっぱ仲間にするの無し」等と言い出したら元も子も無い。

 

「あ、いや、俺、裏切る気なんて全然無いし、その、どっちにしても協力はする、から」

 

 狼狽えて、おかしなことを言いそうになっている事に、一樹は気付いていない。

 

「出来る事なら何でも……いや、何も出来ないけど、あ、買い出しくらいなら……。でも、やれる限りはやるし、その……うん」

「えっ、と。そう……」

 

 唐突にアピールになっていないアピールを始めた一樹に若干引きつつも、生徒会長はそれを顔に出さずに対応する。

 

「まあ、それならもう一度メメントスに行ってからね。今日は止めておいた方がいいだろうし、次に空いてるのは何時?」

「あっと、……俺は、何時でも、あっなんなら明日も空いてる、から」

「明日……は、ちょっと私たちの予定が合わないわね……」

 

 

 何でそんなキツいスケジュールで動いてんだろう? と一樹は不思議に思ったが、盗賊団ならそんなモノか。と納得した。

 

 不意に、少し気になっていた事を思い出した。

 

「な、なあ……そう言えば、随分俺を呼ぶのに時間かかったよな。忙しかったのか?」

 

 あの怪盗団の秘密と結びついたような世界。理屈を知らないとはいえ、余所者たる一樹に知られて放置していていい話でもあるまい。

 

 まあ、時期的にハッカー集団(名前は忘れた)と決着をつけようのしていた頃だし、他にも理由は思い付く。

 

 だから、一樹がこれを聞いたのはただの興味だった。

 

「えっと、まあ……そう、忙しかったのよ……」

 

 生徒会長の目が泳ぐ。

 

 

(──忘れてたな。こいつら。)

 

 

 忙しかったのも本当だろうが,おそらく闘いは2、3日前には解決していたのだろう。そしてようやく昨日辺りで一樹の事を思い出し、やっと連絡してきた。──とかなんだろうな。と一樹は推理した。

 

 まったく怪盗団として危機管理能力が低いと言うかそもそも人としてどうなんだとか、諸々の文句を一樹は飲み込んだ。

 

「まあ……俺は明日でも明後日でも構わないから。それに、何か必要な物が有れば連絡してくれ。買える物なら、買ってここへ持ってくるよ」

 

 一樹の言葉に、生徒会長が笑った。

 

「そう。なんにせよ、これからよろしくね。住吉君」

 

 

 

 

 

    我は汝…汝は

 汝、ここにたなる契りを得たり

 

 

      契りはち、

 囚われをらんとする反逆の翼なり

 

 

我、「傍観者」のペルソナの生誕に福の風を得たり

    自由へと至る、なる力とならん…

 

 

 

 

 

 住吉 一樹

 

ARCANA 『傍観者』 

 

 ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆ RANK 1

 

【役立たずの仕事】消費アイテムを買ってきてくれる

 

 

 

 

 一樹がペルソナ使いとして覚醒し、新島と問答を行ったあの夏の日から暫く経ったある日。

 

 取調室らしき薄暗い部屋。そこに、怪盗団のリーダーたる雨宮蓮はいた。

 

 尋問を行う側ではなく、行われる側として。

 

 腫れた頬。生気の無い目。彼を一目見れば、彼が非道な尋問を受けただろうことは簡単に解る。

 

 草臥れた彼の前に座るのは灰色の長髪にスーツを着こなした女検事。

 

 新島冴。

 

 怪盗団の一員である新島真の姉であり、怪盗団を追い続けた女傑。

 

 その女傑が、雨宮を厳しい目で睨む。

 

「あの怪盗団人気の中で、貴方たちにシンパがいても不思議なことじゃない。いや、いたと考える方が妥当ね。

 

 つまり、資金的援助なり情報提供なりの協力者がいたはずよ。学校の関係者か、まったく別か……、ネット上の知り合いの可能性も有るわね。

 

 そこら辺の事も、しっかり話して貰いましょうか」

 

 新島の尋問は、まだ続く。

 

 

 

 

 

 

 場面はある夏の日、喫茶店ルブランの屋根裏部屋に戻る。

 

 メガネの黒髪店員、怪盗団リーダーの雨宮のベッドに腰かけた一樹が発言する。

 

「それで、今日はこの後どうするんだ?」

 

 一樹は生徒会長の呼び出しでどれ程時間を使うか分からなかった為、この後の予定を入れていない。

 

 

 日はまだ暮れていない。帰るにしては中途半端な時間だ。

 

「まだお互いの事を良く知ってる訳じゃ無いんだし、色々お喋りでもしましょうか」

「お喋りって……。どんな事を?」

「それは、こう……、天気の事とか、好きな食べ物の事とか?」

「私の時の使い回しだな」

 

 赤髪の長髪少女が呟くと、生徒会長が気不味そうに言い訳をする。

 

「あんまり、こういう機会が無かったのよ」

 

 まあ、彼女の様な人間が、自分みたいな根暗と話す機会はそう有るまい。

 

「おい」

 

 一樹がそう納得していると、一樹はいきなり雨宮に話しかけられた。

 

「ん? どーした」

 

 一樹が反応すると、雨宮は戯けた笑顔を浮かべてわざとらしい口調で言う。

 

「モンタ。買ってこい」

「……はい?」

 

(──まさか、コイツ俺にパシらせようってか?)

 

「ウォォイ! お前学校の先輩に何言ってんだよ!」

 

 モルガナが混乱して何も言えない一樹の代わりに突っ込みをいれる。

 

「アハハハ。じゃあ私紅茶で!」

「お! じゃ1UPオナシャス!」

 

 金髪ヤンキーと金髪ツインテール女子の、金髪後輩組まで乗っかってきた。

 

「貴方たち! まったくもう……」

「……ああ、いや、いいよ。うん。分かった。買ってくるよ……」

「えっ?! マジで?」

 

 金髪後輩ツインテールが驚く。一応、冗談のつもりだったらしい。

 

 一樹はベッドから立ち上がり、ドアへ向かう。

 

「いいよ、別に。確か近所に業務スーパーがあったよな? 全員分何か買ってくるから、ちょっと待ってて」

「む。俺は……」

「いいよ。俺の奢り。今回は」

 

 貧乏らしい芸術家君を止めて、一樹は階段を下る。屋根裏には聞こえないだろう階段の中間で、一樹はぼやく。

 

「ああクソ。変わんねえなぁ……」

 

 貢がなければ、仲良くなれない。そう思い込んだ一樹の癖である。

 

 一樹は後悔しながら喫茶店を出た。

  




住吉一樹の対応アルカナ
『傍観者』
大アルカナでも小アルカナでもないブランク・カード。
つまりはただのタロットの予備カードであり、それ自体は何の意味も暗示せず、当然対応するペルソナも存在しない。
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