「ふぅ〜、今日も疲れたな〜......」
今日の任務と仕事を終えた私は、部屋に戻る廊下でそう呟いていた。私が親衛隊に配属されてから1週間が経ち、私は親衛隊の任務と書類整理や確認の仕事などとずっと格闘していた。
「それにしても......相変わらず私のことをよく思わない人の視線が痛い......」
この事は今もなお問題となってる。私の初任務の時の活躍を知っているのは、その場に居合わせた刀使と親衛隊の皆さんのみ。それ以外の人たちは討伐完了書を見て知ってる人もいるはずなんだけど、それでも信じられないのか相変わらず冷たい視線を向けて来ていた。
「信用を得るって言うのも難しいもんなんだな〜......明日、獅童さんとかに相談してみよ......」
親衛隊が刀使からの信用を得てないのは問題だ。だから明日、同じ親衛隊の皆さんに相談することを決めて部屋に戻った。
ーーー翌朝ーーー
「なるほど、他の刀使達の信用を得たい......か」
翌朝、私は早速相談をしに執務室に向かった。早めに行ったから誰もいないかなって思ったけど、執務室には既に獅童さんと此花さんが何かしらの作業をしていた。私に気づいた2人に、早速私が最近悩んでいることを相談した。あ、任務中はそんな暇はないから任務が始まる前に聞きにいったよ?もちろん。
「親衛隊は選ばれた刀使のみ所属を許される隊ですからね......。その中に入ると言う事は周りからもそれなりの実力を求められますわ」
「やっぱりそうですよね......。何か皆さんに一気に認めてもらえるような機会でもあれば良いんですが......」
「機会か......。よし、これから紫様に相談しに行ってみよう。もしかすると何か良い案を出してもらえるかもしれない」
そう言う獅童さんだけど、紫様はいろいろ忙しいんじゃ......?
「紫様は今局長室にいますの?」
「ああ、さっき局長室に行って来たところだけど、ちゃんといたよ。どうやら今は休憩中らしいし、ちょうど良いだろう」
ああ、それなら問題ないね。良かった。
「では、時間も勿体ないし、局長室に行こう」
「なるほどな。それならば皆の前で立ち合いをすれば良い話だ」
「立ち合い?」
局長室に入り、紫様にこのことを相談したところ、出て来た案は立ち合いだった。まぁ......いわゆる手合わせだね。
「そうだ、同じ親衛隊の者とお前が立ち合いをしてお前の実力を見せれば、お前のことをとやかく言う輩はいなくなるだろう。......勝敗は問わずにな」
「なるほど......それは名案ですね。ですが、誰が相手を?」
「そうだな......」
紫様は手を顎に当ててどうするか考えていた。考えが出るまで私達が待ってる間、静寂の空気が流れた。だが、その静寂な空気は突然開かれた扉の轟音によって打ち消された。
「おねーさん達〜!なんか楽しそうなこと話してたけど、私にも聞かせてよ〜!」
「「「結芽?」」」「燕さん?」
入って来たのは燕さんだった。さっきの話、燕さんは聞いてたのかな?
「紫音の周りの評価を変えるために、親衛隊の誰かと立ち合いを行うと言う話になったんだ。そこで相手を紫様に決めてもらってたところだよ」
「へ〜〜......」
それを聞いた燕さんはニヤァ〜〜と笑いながら私を見つめて来た。まるで子供が面白そうなおもちゃを見つけた時みたいに.......。あ、この展開はもしかしなくても......。
「紫様〜!その相手、私がやる〜!」
......やっぱりね。
「ではこれより、親衛隊第四席、燕結芽と親衛隊第五席、芹代紫音による試合を始めたいと思います」
結局、あの後紫様は相手に不足はないなと燕さんを相手に決め、すぐさま試合の手続きと準備をしてもらった。試合会場は御前試合でも使われた練武場で、結構広さもある場所だった。周りにはこの試合のことを聞きつけて来た折神家所属の刀使や職員さんが大勢いた。この中の大半の人が私に不服を抱いてる人だろう。......だったらこの試合でその気持ちをひっくり返してあげるよ!
「こうやって紫音おねーさんとちゃんと戦うの初めてだね。えへへ〜、やっと戦える!」
「ほんとにちゃんとは初めてだよ。いつも燕さんの方から不意打ちで斬りかかってくるんだから......」
これまで燕さんに襲われたのは十数回以上。1週間でその数はやばいでしょ......。でも、私もこの試合は少し楽しみでもあった。だって、燕さんの実力が知れる絶好の機会なんだから。
「(あ、あそこに紫様がいる。獅童さんも此花さんも皐月さんもいる。皆さん見に来てくれたんですね)」
御前試合の時は紫様や親衛隊は練武場を見渡せる屋敷の玉座にいるらしいけど、今回は紫様達はダックアウトから観戦していた。紫様の目は私のことをしっかりと捉えていた。全て見ているぞ!と言わんばかりに。......これは無様な姿は晒せないね。
「双方、構え!【写シ】!......始め!」
審判の人が開始の合図を出した。それと同時にーーー
「紫音おねーさん!行くよー!!」
燕さんがいきなり仕掛けて来た。【迅移】で距離を詰めた後、御刀を左上段から振り下ろして来た。確かに速いけど、見極められないほどじゃない。一旦受けて受け流そう......。そうとっさに判断して受け身の構えをとった。だが、その瞬間、燕さんの振り下ろしていた御刀が......消えた。
「くっ......フェイントか!」
「へ〜?よく受け止めたじゃん!」
消えたように見えた御刀は、実際には一瞬で攻撃を右上段からの攻撃を左斜め下からの下段斬りに変わっていたんだ。あまりの切り替えの速さに一瞬消えたかと思ったのはそのせいだった。何とか私はその攻撃を防ぐことができたけど、結構危なかった......。燕さんってこんなに強かったんだ。少なくとも此花さんより強い......。
「いいね!楽しい!やっぱり紫音おねーさんって強いね〜!」
「ふっ......そんなこと言ってる暇あるの?......でやっ!!」
「わっ!」
......なんか腹部が無防備だったから、【八幡力】で強化した足で、腹部に重い一撃を入れた。私の一撃を受けた燕さんは、吹っ飛ばされたけど空中で受け身をとって華麗に着地していた。
「今度はこっちから!はっ!!」
燕さんが着地したと同時に、私は攻撃を仕掛けた。【迅移】で燕さんの背後に回り込み、無防備な背中を狙って蒼月を一閃した。だが......。
「くっ......速いな......」
「そう言う紫音おねーさんもね!私が背後取られたのなんて久しぶりかも」
私の一撃を燕さんも同じ【迅移】で躱した。やっぱり燕さんも相当速い。ことが今改めてわかった。......死角だと思ったんだけどな〜。
「それでも攻撃が当たらなきゃ意味ないでしょ?」
「きひっ、そうだね〜!」
それからしばらくは膠着状態が続いた。私と燕さんはお互いに攻撃を繰り出すものの、すんでの所で見切られ、決定打を相手に叩きつけることができないでいた。
「すごい......あの燕さんと互角に戦えているなんて......」「やっぱり親衛隊に選ばれたのは間違いではなかったのね......」
周りからの評価も徐々に変わりつつあるのだが、それを気にしているほど私には余裕は無かった。少しでも気を抜けば一瞬で勝敗が決してしまう。そんな予感が私の中に過っているからだ。
「まさか、結芽とここまでの試合をするとは......驚きましたわね」
「そうだね......。僕でもあそこまで結芽と渡り合えるかどうか......。紫音は本当に末恐ろしいね......」
「はい、親衛隊に配属というのも納得できます」
私の評価が変わったのは親衛隊の皆さんも同じみたいだった。
「......」
そんな中、紫様は相変わらず涼しい顔で私たちの試合を観戦していた。
「(やはり力が覚醒するのは......まだ先か......)」
試合が始まってどのくらいが経ったんだろ?少なくとも三十分は経ったと思うけど、いまだに試合の勝敗はついてない。早く勝負をつけたいんだけど、ほんとに燕さんには隙がないんだよ。眼があれば対策はあるんだけど、今日はでなさそうだったから諦めた。燕さんにはどこから攻めても必ず最後には弾かれて終わっちゃう。だから攻め手がないのが現状なんだよね......。でもそれは、燕さんも一緒だ。
「はぁ......はぁ......はぁ。つ......燕さん?そ、そろそろ決着つけない?いい加減体力的にも辛くなって来た......」
「はぁ......はぁ......はぁ、そう?私はもっとやりたいけど?」
「そんなこと言わないでよ......ほんとに私限界なんだから......」
そういう燕さんもかなり疲れてるように見える。状態としてはイーブンだ。いつもの眼が出ない以上、これ以上長引かせないためにも、次の一撃で決めたいな......。
「燕さん......これで最後にするよ。......はぁぁ!!!」
最後の力を振り絞って私は【迅移】を使い、今までの中でも最速の突きを燕さんに向けて放った。
「いいじゃんいいじゃん!最後まで楽しもーね!紫音おねーさん!」
燕さんは私のこの突きを躱しに行くどころか、真っ向からねじ伏せようとして来た。でも、この突きは真っ向からねじ伏せられるほど軽い攻撃ではない。一体何を考えてるの......?
「やぁぁ!!......!?」
一つの閃光が練武場に走り、私の渾身の突きは、見事に燕さんの胸部を貫いていた。それならば私の勝ちなんだけど......肝心の燕さんの御刀は......私と同じように私の......胸部を貫いていた。
「燕さん......」
「きひっ......相討ちだね......」
燕さんは笑いながらそう言った。おそらく私の突きを誘って攻撃の隙を狙おうとしたんだろう。でも、結局それができないで相討ちに持ち込んだんだ。......一杯食わせられたね......。お互いに笑いかけながら、ゆっくりと胸部に刺した御刀を私たちは抜いた。
「次は負けない......よ?」
「また......やろーね?」
そう呟き、【写シ】が剥がれた後、私たちの意識はそこで途絶えた。駆けつけた医療班によって医務室に運ばれた私たちだったが、翌日には元通りに元気になっていた。若いっていいね!
燕さんとの立ち合いの後の私への風当たりはガラリと変わった。私とすれ違う人がいれば必ずあちらから挨拶をしてくるようになったり、陰口も聞こえなくなった。どうやら周りからも正式に私のことを親衛隊として認めてくれたみたいだ。というのも、後から聞いた話、燕さんって実は親衛隊の中でも随一の剣の才と実力を秘めた刀使だったみたい。それは獅童さんを凌ぐほどの......。だからその燕さん相手に一歩も退かないで互角の勝負を繰り広げた私の評価が変わるのは当然のことだったらしい。
「立ち合いっていう機会を設けてくれた紫様には感謝しないと......」
紫様のあの提案がなければこうはならなかったし、そもそも親衛隊の皆さんが紫様に相談しに行ってくれなかったら今も私のことは誰も認めてくれて無かっただろう。
「獅童さん、此花さん、皐月さん、燕さん、ありがとうございます。この恩は任務でお返しします!」
そして今日も私は親衛隊としての使命を果たすため、仲間のもとに向かう。私だけでは困難な任務も5人揃えば怖いものはない。これからも、私はこの人たちと一緒に紫様のために荒魂を討伐していくことになる。気を引き締めなくちゃね!......よし!
私はいつもの親衛隊の集合場所の扉を開けた。
「おはようございます!今日もがんばりましょうね!」
......この時の私は、一年後、あんな事件が起こることなど思ってもいなかった......。
次回、胎動編開幕【御前試合】
お楽しみに!
親衛隊の実力の比較
紫音通常時
結芽>紫音=真希>寿々花>夜見
眼が開眼状態(この状態では親衛隊と戦ったことが無いため、あくまで仮定です)
紫音>結芽>真希>寿々花>夜見