今、彼女たちの想いが......ぶつかる!
「可奈美......」
私の目の前に今私たちが追っている可奈美と十条さんがいる。少し驚いたけど、何でいるのかは何となく理解できた。驚いて逆に冷静になったからかもね。
「二人とも......?何でここに?」
「そっちも同じなんでしょ?荒魂が出たからここに来たって理由が?」
「う......うん......」
そう可奈美は答えるが、どうにも歯切れが悪い。でも、とりあえずここで会えたことは大きい。このチャンスを物にしようと私は二人に向かって問いかけた。
「二人とも、もし抵抗しないで来てもらえるなら危害は加えるつもりはないよ。だから、ここは大人しく一緒に来てもらえると嬉しいんだけど?」
「そうだよ可奈美ちゃん!今一緒に来れば罪を軽くしてくれるって羽島学長も言ってくれてたし、戻ろうよ!ねっ!?」
そっか......学長も来てたんだね。久しぶりに会いたいな〜......ってそんなこと考えてる場合じゃないか。でも、それを聞いても二人は首を縦に振る様子はなかった。むしろ十条さんに至ってはすでに臨戦態勢に入ろうとしていた。まぁ、こっちも舞衣はすでに御刀は抜いていて、私もいつでも蒼月を抜ける状態にはしてるんだけどね。
「そう言うのなら......何故御刀を向けている?お前は可奈美の親友なんだろ?」
「親友だからこそだよ!親友だからこそ私は貴方から可奈美ちゃんを救ってみせる!覚悟して!」
そう言うと同時に舞衣は【写シ】を張り、十条さん向けて斬りかかった。だが、その剣が十条さんに届くことはなかった......。何故ならーーー
「っ!?可奈美ちゃん!?......何で!?」
その舞衣の振り下ろした剣を横から可奈美が割って入り、御刀で防いだからだ。その行動に舞衣も私も少なからず驚いた。......だが、その後に可奈美から出た一つの発言に、さらに私たちは驚かされることになった。
「ごめん!舞衣ちゃん......。でも......私見ちゃったんだ......。あの時姫和ちゃんの攻撃を躱した時に......正確には御刀を紫様が取り出した時に......大きな禍々しい大きな眼みたいのが。......まるで荒魂みたいな」
「!!?」「っ......」
その可奈美の発言に私達は言葉を無くしていた。紫様が......荒魂?そんなわけ......。
「そんなわけ......だって紫様は20年前の大荒魂を鎮めた大英雄で現折神家当主の凄い人なんだよ?そんな人が荒魂なんて......」
「それは違う!!」
舞衣の言った事を全力で否定した十条さん。......何が言いたいんだ?
「奴は......折神紫という皮をかぶった大荒魂なんだ!」
「......」
「だからごめん!舞衣ちゃん!一緒にはいけない。このまま姫和ちゃんを一人にはしておけないよ!私はついていく!これは譲れない!」
「......」
「......本気......なんだね?可奈美ちゃん......」
「うん!!」
あの顔だと......多分舞衣は二人のことを逃すだろうな......。でも......私は......。
「......分かった。可奈美ちゃんを信用するよ」
「ありがとう!じゃあ姫和ちゃん、早くこの辺の荒魂をーーー」
「......ちょっと待ってよ」
「「「......」」」
今までほとんど空気になってた私が口を挟んできたことに気づいた三人は、私の方を見た。
「誰が......見逃すって言ったの?舞衣は言ったかもしれないけど
「ちっ......」
私の発言に十条さんは御刀をこちらに向けて来た。......どうやらやる気みたいだね?
「お前......さっき私が言ったことを聞いてなかったのか?お前達親衛隊が従っているのは荒魂だ!」
「......逆賊の言うことなんて信用できないよ」
「「紫音......ちゃん?」」
何か戸惑ってるような声をあげた可奈美と舞衣。私だって......できれば友達にこんな真似はしたくない。でも......私は親衛隊第五席、芹代紫音だ。今は友達の情けなんて物は......捨てる!!でも......最後くらいの情けはいいよね?そう思い、私は再び二人に言った。
「最終警告、抵抗せずについて来るなら危害は加えない。もし抵抗するなら......分かってるね?」
私は蒼月の鞘部分に手をかけながら言った。その時、私の右眼が不気味に金色に変化した。そのことは自分にも察知できた。むしろ好都合だ......。でも......できれば戦いたくない。お願い......自首して?
「それでも......私は姫和ちゃんについていく!わかってよ!紫音ちゃん!」
「......はぁ〜」
そっか......残念だよ。......仕方ない、手荒な真似はしたくなかったけど。私は静かに蒼月を抜き、【写シ】を張った......。
「なら、遠慮はしないよ?私は、貴方達を敵と認識する。強引にでも連れて帰るから......」
「「......っ」」
「紫音ちゃん!やめて!友達同士で争うなんてだめだよ!」
「舞衣、今ここにいるのは可奈美の友達の紫音じゃない。いるのは......親衛隊第五席、芹代紫音なんだ。もう二人にかける情けは無いよ?」
さっきのが最後にかけた情けだったんだ。あれを断られた以上、もうこっちのやることは確定した。あの二人、紫様にあだなす逆賊を拘束する!
「でも......!?紫音ちゃん!後ろ!」
「......」
舞衣の叫び声にも私は反応しなかった。大方後ろに荒魂がいるんでしょ?わかってるよ......視えたんだから。だから......。
「ふっ!」
私は素早く後ろを向き、【迅移】の勢いを使ってそのまま蒼月を荒魂の胴に向かって一閃した。そして、また私が二人の方を見るのと同時に荒魂の身体は真っ二つに斬り裂かれた。
「さて、邪魔者もいなくなったんだし、二人とも?覚悟はいい?」
「紫音ちゃん......」
私が一歩近づくごとに二人は後退していった。御刀を構えてるけどその手は震えていた。そんなんじゃ私を止めることは出来なさそうだけどな?
「(姫和ちゃん......どうする?多分今私達が戦ったら......)」
「(......確実に負けるな。さっきの攻撃だけでもわかる。奴は......強い)」
何かこそこそ話してるけど、そんな余裕あるの?そっちが来ないなら......。
「こっちから行くよ?......はっ!!」
「なっ!?」
「姫和ちゃん!!」
私は再び【迅移】を使って、二人の背後にまわった。そして十条さんの首筋に静かに蒼月を突き付けた。二人は何が起こったのかわからなかったみたいで、驚きを隠せていなかった。
「どうする?このまま【写シ】ごと斬ってあげてもいいんだけど?」
「駄目っ!!」
隣にいた可奈美がそれに一拍遅く反応し、私の御刀を弾こうと御刀を私に向かって振り下ろしてきた。でも、それも
「っ!!」
「!?素手で御刀を!?」
「可奈美?成長したのは可奈美だけじゃないんだよ?私だって親衛隊としてこの一年間、前線に立って何度も何度も荒魂と戦ってきたんだから!」
「っ......」
可奈美はなんとか御刀を私の手から外そうとしているが、私の手はびくともしてない。【八幡力】で強化してあるからそう簡単には解くことはできない。闇雲に手を出した可奈美の落ち度だね。
「はぁっ!!」
「......っと」
私が可奈美の方に意識を向けていると、今度は十条さんの方から仕掛けて来た。私が突きつけていた蒼月を素早い反転で御刀を使って払い除け、私に一撃を入れようとして来た。......でも。
「(真希さんとかに比べたら大したことないな......しかも......)はぁっ!」
「ぐっ!!」
十条さんが攻撃に移るほんの一瞬の隙を見逃さなかった私は、その隙を狙ってそのまま強烈な足蹴りを鳩尾にくれてやった。相手は一応、御前試合決勝までくる実力者みたいだけど、真希さんたち親衛隊ほど強くはない。私も何度か立ち合いをしてみたことがあるけど、本当に強かった。さすが、親衛隊に選ばれるだけはあるって思えたんだ。その人達と比べちゃうと......やっぱり...ね?
私の蹴りをまともに食らった十条さんは、数メートルほど吹き飛び、その衝撃で【写シ】が剥がれてしまっていた。私は可奈美の御刀を持っている手を離し、十条さんの元に静かに歩み寄った。
「ねえ?もういいでしょ?お願いだから自首してよ?私もこれ以上......手荒な真似はしたくないから......」
「ぐっ......だ、誰が......」
「はぁ〜〜、強情なんだから。......しょうがない。こうなったら気絶させてでも連れてくからね?」
自首してくれればそれで終わりなのに、この人はまだ諦めてない。この人のこれだけの執念って何なの?......やっぱり紫様は本当に荒魂......いやいや!何考えてるの私!?そんなわけないでしょ!でも......。
「(あの時、紫様から感じ取れた空気の流れ、そして雰囲気。あれが私の気のせいじゃないなら......)」
「はぁっ!!」
「......っ!可奈美!?」
余計なことを考えていたせいか、集中を欠いてしまってたみたいだ。可奈美が向かって来てることに気づかないなんて......。
「ふんっ!」
「くっ......ううっ......」
可奈美の攻撃を蒼月で受け止めた私は、そのまま鍔迫り合いに持ち込んだ。
「......可奈美。まさか
「うん......。でも、こうするしか......こうしなきゃ姫和ちゃんを守れないって思ったから!」
「もうやめにしよう?こんな形で可奈美と戦いたくなんてないよ?......これが本当に最後の通告。一緒に戻ろう?」
「......ごめん」
最後まで自分の意思を貫いた可奈美。そっか......可奈美も覚悟を決めたんだね。私の警告も耳を通らないほどの......。
分かったよ......。
なら......。
「もういいよ......。可奈美の覚悟は伝わったから。逃げるなら逃げていいよ?ただし......」
「......ただし?」
「私に勝つことが出来たらね!はぁっ!!!」
「ひゃあっ!!!」
今までよりもはるかに強い力で可奈美を御刀ごと吹き飛ばした。吹き飛んだ可奈美は先ほどの十条さんと同じように、すでに【写シ】が剥がれてしまっていた。
「二人とも、逃げるんだったら早めにした方がいいよ?早くしないと真希さん達......他の親衛隊の人たちも来ちゃうからね?」
「「......」」
「紫音ちゃん......」
疲れか、絶望か、ともかく私のその発言に二人は声すら出せずにいた。
「まぁ、でもその前に決着はつきそうだけど......。ここからはギア上げていくよ!!」
「っ!!?消えっ......」
今までの倍近い【迅移】で私はまた二人に向かっていった。今度はさっきまでの手加減の攻撃じゃない。食らえば死にはしないけど怪我くらいはする。その攻撃を二人に対して使おうとした......その時だった。
『紫音、聞こえるか?』
「......?」
突然無線機が鳴り、真希さんの声が聞こえたから、私は攻撃を中断しその場で無線機に耳を傾けた。その様子を二人と舞衣は静かに見つめていた。
「聞こえてます。何かありましたか?」
『ああ、聞くが君のいる場所の荒魂はすでに討伐したか?』
「はい、全て討伐完了してます」
「そうか、では......悪いんだがすぐにそのまま原宿方面に向かってくれないか?どうやらまた荒魂が出たらしい」
「そうですか......。今回も捜索よりも
「ああ、それで構わない。では、直ちに向かってくれ。僕たちもすぐに向かう」
「了解です」
どうやら新たな任務みたいだ。私は今すぐに原宿に向かわなければならない。今行ってることを中断して......。
「紫音ちゃん......?」
いまだに御刀を向けて警戒を強めている二人に対して私は、【写シ】を解き、蒼月を戻した。そして二人に言った。
「さっき親衛隊から連絡があって、これから私は原宿に行って荒魂を討伐しにいかなくちゃいけないことになったの。
「え、え〜っと?」
私の言いたいことがまだ理解できてないみたいだね......。しょうがない......。
「つまり、”襲撃犯の捜索及び拘束を一時中断して荒魂討伐に行け”って言われたんだよ。だから今はすぐにでも原宿に行かなくちゃいけない......」
「それって......つまり......」
「はぁ〜、運が良かったね。今回は逃げていいよ。この事については私がうまく説明しとくから......」
「「!!!」」
私のこの一言に二人は揃って驚いていた。
「......いいの?」
「そう命令されたんだからしょうがないでしょ?ほら、早く行きなよ。それに......私だってこれ以上こんな戦いしたくなかったし、ちょうど良かったよ」
「うん......ありがと、紫音ちゃん......」
そう言うと、二人は御刀を戻し、そのまま神社を後にしていった。普通なら襲撃犯達を逃したって言われるかもだけど、今回はそれよりも優先する任務があったからって言い訳できるから問題はないよね?
「舞衣はどうする?このまま鎌倉に帰る?」
「私も行くよ。荒魂が出たのに放ってはおけないよ!」
「分かった。じゃあ行こう!」
私達は、今度は原宿方面に向かって移動を始めたのだった......。
次回、【逃亡者の切なる想い】
お楽しみに!