戦姫絶唱シンフォギア~First kiss tastes like iron~   作:六界の魔術師

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第1楽章 夕焼けの出会い

オレンジ色の夕焼けが、更に色を濃くしながら辺りを照らす中、

「はぁぁ、せいやぁぁ!」

青い髪の女性が、刃を振るいながら、人型の“何か”を切り裂いていた。

(くっ、どうしてこうなったの!)

青い髪の女性ー風鳴翼は、そう心の中で呟きながら、目の前の先ほどとは違う人型の何かーノイズを一刀両断した。

 

事の発端は、彼女達のグループーツヴァイウィングのライブの裏で同時に行われていた、ネフシュタンの鎧の起動実験の失敗であった。

いや、起動そのものはしているので、実験は成功といえば成功であった。

が、突如ネフシュタンの鎧が暴走、更にノイズまで現れ、内も外も大混乱を起こしていた。

ステージの上で、ノイズを確認したツヴァイウィングの二人、翼と天羽奏は、対ノイズ用武装ーシンフォギアを纏い、ノイズに立ち向かっていた。

「せい!」

気合いと共に刃を振るい、一匹、また一匹と、ノイズを切り裂いていく翼であったが、

(…くっ、まだいるの?

キリがない!)

如何せん数が多く、疲労感がじわりじわりと溜まってきる上、一向に数が減らないことに、焦りを感じ始めていた。

更に、

 

ードゴーンー

 

「くっ、また!!」

先ほどから壁が壊される音と振動が、スタジアムの外から断続的に伝わってきており、そちらに向かいたいのだが、目の前のノイズ達がそれを許さない。

また、先ほどから指令部に連絡しても通じず、状況を把握できないでいることも、翼の焦りを助長していた。

人は、自分の思い通りに行かない時、切羽詰まった時、心乱された時、どうしても苛立ち、焦りだしやすい。

そして、往々にして、そういう時ほどミスをしやすいものである。

「っ、はぁぁ!」

焦る心を抑えながら、刃を振るい続ける翼。

だが、数体のノイズを斬り、次に斬りかかろうとした、その時、彼女は砂利に足を取られ、体勢を崩してしまう。

なんとか体は残せたものの、これを好機と見たのか、周りの数体のノイズが、一斉に襲いかかってきた。

「くっ!」

体勢が崩れながらも刃を振り、なんとか前方のノイズは倒したものの、後方への対処が出来ず、彼女がダメージを負う覚悟した、その瞬間、

「おりゃぁ!!!」

という気合いの込もったかけ声と共に、オレンジ色の髪の女性が槍を振るい、ノイズを一掃する。

「大丈夫かい?

翼。」

「ええ、ありがとう、奏。」

微笑みながらそう返答する翼に対し、オレンジ色の髪の女性ー天羽 奏は、にかっと笑みを見せた後、翼と背中合わせになりながら、槍を構えた。

「…指令部とは連絡は?」

「未だに取れていない。

奏の方は?」

「あたしの方も駄目だ。

呼び掛けても、うんとも、すんとも言わない。」

「…指令部の方で、なにかあったのかな?」

「……かもしれない。

とはいえ、あっちは風鳴司令がいるし、多分大丈夫さ。」

「…確かに。」

下手すると、装者とも素手で戦えそうな叔父のことを思い出し、表情をひくつかせながら翼は頷いた。

「それより、さっきから聞こえている音の方が気になる。」

「スタジアムの外から聞こえてくる、あの音だね?

それは私も気にはなっているけど、ノイズの数が多すぎて、外へ向かうことができないよ?」

「確かに、さっきまでのあたし達じゃ無理かもね。

実際、あたしも行こうとしたけど、抜けられなかったし。

でも、今なら間違いなく抜けられるよ。」

「…なんでそう思うの?」

「さっきまで出来なかったのは、翼もあたしも一人だったからさ。

でも、今は二人一緒にいるだろ?

あたし達が一緒だったら、間違いなくやれるさ。

いつも言っているだろ?

あたし達ツヴァイウィング、両翼揃えば?」

「どこまででも、高く飛べる、か。

…そうだね、やろう、奏。」

「決まりだね。

なら、あたしはいつも通り前を走るよ。」

「なら、私もいつも通り、その後ろを追いかけるよ。

周りの敵は任せて!」

「ああ、頼んだよ。

じゃあ、行くよ!」

その言葉と共に駆け出す二人。

奏が前方の敵を駆けながら打ち払い、横や後ろから襲おうとする敵は、翼が剣や蹴りで斬り払いながら奏に続く。

無数のノイズを払いのけながら進む様は、まるで一本の突撃槍(ランサー)だった。

順調に進み、スタジアムの端までもう少しというところで、それは起きた。

 

ーズンー

 

という音と共に、辺りに振動を響いた。

今までと違うのは、その音と振動がスタジアム内、もっと正確に言うなら、

『なっ!?』

彼女達の真横で、鳴り響いた。

「キシャァァァァ!!!」

強襲型(ギガノイズ)!?

いつの間に!?」

「なんで、こいつがここに!?」

突然のことに、一瞬混乱する二人。

だがギガノイズは、そんな二人に考慮することなく、襲いかかってきた。

『くっ!?』

二人はその攻撃を素早く避けるが、そのせいで分断されてしまう。

「くっ、この!」

翼が素早く体勢を立て直し、気合いを込めて斬りかかるが、それに合わせる様にギガノイズは首を振り、翼を迎え撃つ。

「なっ!?

がはっ!?」

「翼ぁぁぁ!!!」

シンフォギアは対ノイズ用武装であるが、流石にサイズの違いまではどうしょうもなく、翼はその一撃で弾き飛ばされていまう。

落下地点には人型ノイズがうようよと、翼が落ちてくるのを待っている様に、蠢いていたのだが、

「くっ、負けるかぁぁ!」

翼がそう叫び、足のフォバーで体勢の整えるのと同時に、青色のエネルギーが無数の刃になって展開する。

「千ノ落涙!!」

技名と共に刃は、下にいた無数のノイズ達に降り注ぎ、多数のノイズが姿を消した。

(…それでも、まだこんなにいるのか。)

誰も居なくなった場所に難なく着地しながらも、未だに残るノイズの数に、翼は苦い顔浮かべる。

「翼!

大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫だ!

すぐに戻る!」

だが、奏の声で一瞬で思考を切り替えると、目の前のノイズを切り払いながら、奏の元へと猛然と突き進む。

それと合わせる様に、ギガノイズも動き出し、奏を襲おうとするが、それに反応した奏は、当然の様に避ける為に動き出した。

 

 

 

 

 

 

動き出すつもりだった。

 

ーカタンー

 

動き出す直前に音がし、反射的にそちらを見て、愕然とする。

「…あ、…あ。」

逃げ遅れたのか、一人の少女が青い顔をしながら座り込み、ギガノイズのことを見上げていた。

「な!?

馬鹿!!

逃げろ!!!」

奏がそう叫ぶも、少女は恐怖で足が竦み上がり、涙目で後ずさるのが精一杯だった。

そうこうしている内に首を振り上げ、なにかを吐き出そうとしていた。

「くっ!」

(駄目だ、避ければ少女に攻撃がぶつかる!)

瞬時にそう判断した奏は、その場で構えながら、ノイズの攻撃を受け止め、少女の盾になりることを覚悟したその瞬間、ギガノイズの口から無数の塊が吐き出された。

「くぅぅ!」

槍を回しながら、ギガノイズの攻撃を払うが、いかんせん数が多すぎて捌ききれず、少しずつダメージが蓄積していく。

それでも気力で持ちこたえていたのだが、

「くぅ、あぁぁぁ!」

「奏ぇぇ!!!」

遂に耐えきれず、奏は装甲を破損させながら膝をついてしまう。

破損した装甲は、彼女の後方へ物凄い速度で飛んでいき、

 

ーどしゅー

 

「あっ。」

その一つが後ろにいた少女に、運悪く当たってしまった。

「なっ!?」

目の光を無くしながら、ゆっくりと力なく横たわっていく少女の元へ、奏は駆け寄っていく。

「おい。

おい!

しっかりしろ!!

目を開けろぉぉ!!!」

少女の体を揺すりながら、必死に呼びかける奏であったが、少女の目は今にも閉じてしまいそうだった。

地鳴りを響かせながら近づいてくるギガノイズ。

これまでの戦闘とダメージで、奏の息も絶え絶えであった。

「奏ぇぇ!

くぅぅ、私の邪魔をするなぁぁ!

奏ぇ!」

翼は必死に奏の元へと行こうとするが、周りのノイズが邪魔をし、近づくことするらままならない状況だった。

(…あたしは、また守れないのか?)

ゆっくりと、だが確実に死に向かう少女を見ながら、奏はそんな絶望感を感じていた。

かつて、自分の家族の敵を討ちたくて、文字通り血を吐きながら手にした力。

その力を手にして尚、目の前の命を守ることが出来ず、今また失いかけていることへ、気が落ち、目を伏せてしまう。

「………めるな。

生きることを、諦めるなぁぁぁ!!!」

だが、ここで諦めれば、それこそ今までやってきたことが無意味になると、奏は歯を食い縛り、顔を上げながら叫んだ。

奏のその叫びに、少女の眉がピクリと反応すると、落ちかけていた目はゆっくりと上がり、光を無くしていた目は、光を取り戻して奏を見つめていた。

それを見て、少しほっとする奏であったが、それも束の間、後ろから振動を感じ、振り返ると、ギガノイズがもう間近まで迫っていた。

それを見た後、少女に目を移しながら奏は、ある一つの覚悟を決めた。

「……ここで待ってな。

直ぐに終わらせるからさ。」

少女に微笑みながらそう言うと、瓦礫に背を預けさせる様に座らせた。

そして、再び表情を引き締めながらギガノイズを見上げる。

「……あたしさ、一度で良いから、おもいっきり歌ってみたかったんた。」

そう言いながら、奏は嗜虐的な笑み浮かべて、歌い始めた。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

「なっ!?」

この歌を聞き、奏がなにをしようとしているかを察した翼は絶句した。

「奏、駄目!!!

その歌はただでさえ命を削るのに、今のあなたが歌ったら!」

翼のその言葉に、奏はただ優しく、それでいて悲しげに微笑みだけだった。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

「くっ!」

歌こと止めない奏の元へと、再度近づこうとする翼だったが、今まで溜まった疲労とダメージで、ノイズの壁を抜けることが出来ずにいた。

「直ぐにそっちに行くから。

助けに行くから!

だから、だから!

その歌を歌っちゃ駄目ぇぇぇぇぇ!!!」

(…ごめんね、翼。)

今にも泣きそうな翼の声に、奏は罪悪感を覚えるが、それでも歌うのを止める気はなかった。

そして、後半のフレーズを歌おうとした、その時。

「……ぉぉぉぉぉ。」

「え?」

「?」

妙な声が聞こえた気がした二人は、同時に顔を上げると、

「おりぃゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

という叫び声と共に見知らぬ青年が、空高くからこちらへ急降下しているのが見えたかと思えば、その勢いのまま、手に持ったなにかでギガノイズを頭から両断する。

だが、彼自身の勢いも止まることなく、そのままの勢いで地面に追突し、地面を破壊する音と僅かに肉が潰れる様な音と共に、辺りに土煙が舞った。

『…………。』

唐突に起きた出来事に、その場の全員ーノイズでさえも、その場に固まったまま、青年の落ちた方を見ていたのだが、

「……あいたたた。

ひでえ目にあったな。」

ガラガラッと、瓦礫をどかす音が響いたかと思うと、そんなぼやきが土煙の中から聞こえてきた。

「ったく、死ぬかと思ったぞ。」

『でも、最短、最速だっただろ?』

「それはそうだったけど、あれはもう勘弁だ。」

そんな会話と共に、土煙の中に人影が浮かび上がり、パンパンと土を払い始めた。

土煙がゆっくりと晴れる中、その人影は土を払い続け、彼が手に持ったソフト帽を被り直した時には、土煙は完全に晴れていた。

土煙の中から現れた青年は、ボタンダウンシャツにシュガーパンツという姿で、右手に古めかしい三叉槍を持っている以外は、特におかしな様子はなかった。

その事に若干の違和感を感じる奏達だったが、それを深く考えるより早く、周りのノイズ達が青年に襲いかかるために、一斉に動き出した。

「!!

危ない!!」

それに気づいた奏が叫ぶが、それよりも速くノイズが腕を振り上げ、

 

ーボシュー

 

青年の持っていた三叉槍に貫かれ、そんな音と共に灰に変わってしまった。

『なっ!?』

驚愕している二人を尻目に、青年は貫いた三叉槍を横に振り回し、周りにいたノイズを一掃する。

流石のノイズ達も、その行為に突撃するのを止め、周りを囲む様に青年を取り囲む。

「……どうした?

俺は装者じゃない、ただの人間だぞ?

びびってないで、かかってこいよ。」

さっさと来い、と言わんばかりの嗜虐的な笑みを浮かべながら、人差し指をくいくいと動かして挑発する青年。

その行為をした次の瞬間、ノイズ達は弾かれる様に青年に襲いかかり、それを青年は嬉々として迎え撃った。

ノイズが先ほどの行為を理解出来ているかは、いささか疑問ではあるが、襲いかかってきている現状、そんなことは些細なことなのかもしれない。

(……やっぱりおかしい。)

(どういうことだ?)

一方、ノイズ相手に無双する青年に、奏達は先ほど自分達の感じた違和感の正体に気付き始めていた。

先ほども書いた様に、青年におかしな様子はない。

今も淀みなくノイズを灰に返し続けている。

まあ、その時点でおかしいだろ、と言われそうであるが、問題点はそこではない。

彼は先ほど床を破壊するほどの勢いで落ちたにもかかわらず、未だに傷一つ負った様子が、微塵も感じられないほど、その動きにおかしな様子が一切ないのだ。

なぜ?

どうして?

と二人が考えている間にも、青年は次々とノイズを殲滅していく。

その様を二人は歌のを忘れて魅入っていた。

そう、奏が絶唱を歌のを忘れてしまうほどに。

「……っ!

ガバッ!!!」

「奏!?」

歌のを止めたお陰(せい)で絶唱は発動しなかったものの、激しい反動(バックファイア)で奏はその場に膝から崩れ落ちた。

そんな彼女をノイズ達が見逃すはずもなく、彼女に向かってノイズが一斉に襲いかかる。

「くっ。」

直ぐに反応しようとする奏だったが、体が一切動かず、ノイズが迫るのをただ見てるだけしかできないでいた。

だから、

「どっせい!!!」

青年が三叉槍を振り回しながら奏の周りのノイズを倒さなければ、少し不味いことになっていたに違いない。

「はぁはぁ、すまないね。

助かっ、…ケホッ!」

「お、おい!

あんた、大丈…っ!?」

割って入った青年は、そう言いながら奏を見ると、驚きの表情をしながら固まった。

「…?

どうかしたかい?」

「……あんた、いや、あなた様はもしかして、天羽 奏さん?」

「…あ、ああ、そうだけど?」

「……マジか。」

そう言いながら青年は、ソフト帽で深く目元を被せて、頭を垂れたかと思うと、次の瞬間には迫りくるノイズを、先ほど以上の勢いで払いのけていく。

「……てめえら、邪魔。」

そう言うのと同時に、彼の持つ三叉槍の穂の辺りが光に包まれたかと思うと、その光を刃状に変化する。

「消え去れ!」

それを青年が気合いを込めながら振ると、刀身はみるみる伸びて、広範囲のノイズをそれで切り裂いた。

「……これで良し。」

そう言うが早いか、青年は奏を抱き抱える(お姫様抱っこ)と、とっと駆け出す。

「へ?へ?ええぇ!?」

突撃のことにわたわたと慌てる奏を他所に、青年は先ほど少女を座らせた所へと運ぶと、同じように壁に背を預けさせた。

「あ、あんた、いきなりなに「すみません。」…を?」

「直ぐに終わらせます。

少しここで休んでいてください。」

「え、…あ、…ああ。」

そう言いながら柔らかく微笑む青年に、奏は頬を紅くしながら頷く。

青年はその姿を見て笑みを強くした後、自分を追ってきたノイズを素早く屠ると、少女の方に向いて首筋を触る。

「……この子もちょっとやべえな。

急ぐか。」

そう呟いてノイズの方へ再び向くと、穂に光を集め出した。

「…これ、疲れるから、そうそうやらないやつなんだぜ?

出血大サービスだ、感謝して受けやがれ、てめえら!!!」

そう叫ぶと光は膨らみ出し、バルーン大になったそれを、ハンマーの様に叩きつけた。

すると、光が弾けて無数の光の玉になってノイズを襲う。

(……凄いな。)

そんな青年の戦いぶりを後ろから眺めながら、奏は素直にそう感じていた。

「っ!

ケホッ!ケホッ!」

そして、力が抜けていく感覚と、今ではほのかにしか感じられない()の味に、自分の命の終わりが近いていることも悟った。

(…まあ、適正率の低いあたしが絶唱をやろうとすれば、当然こうなるか。)

青年が、自身の放った攻撃の結果を確認せずに振り返り、少女の元へと駆け寄る姿を眺めながら、奏は自嘲的な笑みを浮かべる。

青年の乱入により、結果的に奏は絶唱を放たずに済んだが、それでも反動(バックファイア)のダメージは大きかったらしく、徐々に奏の命の火を削っていた。

むしろ、ここまで持ちこたえたのは、そのお陰と言っても良かった。

そうでなければ、こうやって見ることも、話すことも、ましてやマトモに考えることも出来なかっただろう。

だが、それももう限界まできていた。

視奏は界が薄れる中、青年が少女の横に座り、なにかをしていることまでは把握できたが、次の瞬間には彼女の目から色彩が抜け落ちた。

(……いよいよ最後かな?)

四肢の感覚が途切れ、意識が少しずつ消え失せていくのを感じていたのだが、唐突にお腹が少し鳴った気がした。

(……こんな時でも、お腹は減るもんだね。)

正直な自身の体に苦笑しつつも、ため息が漏れるのと同時に、ある考えが頭をよぎった。

(……聞こえてないといいな。)

それが誰に対して思ったのか、奏自身もわからないまま、ゆっくりと意識が沈んでいくのと同時に、力を失った体が横に倒れていく。

「ーーー!?」

倒れた音で、こちらの異変に気づいたのか、青年が慌ててこちらへ駆け寄り、奏の上半身を抱き抱えながらなにかを言っていた。

既に耳は聞こえず、視覚も触覚もほとんど失っているので、彼がなにを言っているのかは、もうわからないでいた。

しかし、

(…なんだろう、……すごく、……安心する。)

自身の状況とは裏腹に、僅かに感じる青年の体温と、意外と逞しい腕の力に、奏は久しく感じてなかった感覚を覚えていた。

思えば、家族を失ってからは訓練や戦いに明け暮れ、姉御肌な性格のせいか、(主に翼から)甘えられることはあっても、こちらが全幅に甘えるっということは、皆無と言って良いほど無かった。

だからだろうか、会って数分しか経っていない彼に、こうして抱き抱えられていることに、奏は安心感と幸福感を感じていた。

(……やれやれ、あたしがこんなにチョロかったとはね。

………でもまあ、………悪い気は、……………しない、…………………か、…………………な。)

徐々に消えていく彼の温もりを名残惜しく思いながら、奏は最後の意識を手放した。

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