戦姫絶唱シンフォギア~First kiss tastes like iron~   作:六界の魔術師

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第四楽章 変わった運命、変わらなかった運命(中)

「…………ん。」

その言葉と共に、奏はゆっくりと目を開けると、目の前に見知らぬ白い天井が見えた。

カタっという音が聞こえ、横を見ると、そこには翼がホッとした表情で奏を見ていた。

「良かった、目を覚ましたんだ。

大丈夫?

どこか痛くない?」

「翼?

……ここは?」

「病院だよ。

救急車に乗った数分後に気を失った。って聞いたから、心配したんだよ?」

翼にそう言われ、奏はゆっくりと思い返してみるが、救急車に乗った後からの記憶が若干曖昧であった。

「……どうやら、少し気が揺るんだみたいだね。

よっと。」

「か、奏!?

起き上がって、大丈夫なの!?」

「ん?

ああ、問題なさそうだよ。」

上半身を起こし、手を閉じたり、開いたりしながら自身の調子を確かめていた奏だったが、ふっと窓に目をやると、辺りは真っ暗になっていた。

「あたしはどれくらい寝ていたんだ?」

「丸一日だよ。

目を覚まさないから、本当に心配したんだから。」

「……あ~、それは悪かったね。

心配かけて、ごめん。」

「本当だよ。

でも、無事で良かったよ。」

笑顔でそう言う翼に、奏も自然と笑みが浮かんだ。

「それはそうと、あの後のことを教えてくれよ。」

「え?

あ、うん、わかった。

……え~と、まずは一緒に運ばれたあの子だけど、無事に一命をとりとめたらしいよ。」

「ほ、本当か!?」

「うん、看護婦さんの話だと、容態も大分落ち着いて、今は静かに眠っているみたい。」

「そうか、それは良かったよ。」

翼の言葉に心底ホッとした表情をする奏であったが、翼の心中は暗かった。

何故ならば、容態は安定したものの、胸を貫いたギアは心臓に深々と刺さっており、今の医療技術では取り除くことは不可能であった。

一部からは、この状態でなぜ生きていられるのか?

と疑問符を浮かべる人がいるくらいだった。

少女が現在も生きていることから、恐らくギアが良い方向に関与しているとは予測はできたが、少女に爆弾を植え付けた様なものには変わりなく、そのことを今の奏に話すのは、正直憚れた。

また、それ以外にも翼の心に影を落とす事柄があった。

「あと、ノイズなんだけど、私が現場に着いた時には全員倒されいて、灰しか残っていなかった。」

「……まあ、そうだろうね。」

「…………驚かないの?」

「驚いてはいるさ。

でも、なんとなくだけど、彼ならそれぐらいやりそうな気はしてたからね。」

最初は奏の反応の薄さに、不思議そうな表情をしていた翼だったが、奏のその言葉にムスッとした表情に変わった。

「……あいつのこと、随分と買っているんだね。」

「ん?そうかな?

そんなつもりはないけどね?

それで、彼は?」

「……あいつも姿を消していた。

なにか痕跡でも、って思って、色々と周りを見てみたけど、ステージ内には戦いの跡以外には、なにも残っていなかったよ。」

「……そ…っか。

…でも、防犯カメラとか、センサー等になにか残って無かったのか?」

奏のもっともな疑問に、翼は悲しそうな表情をしながら静かに首を横に振った。

「なにも残って無かった。と言うより、そういう機器が作動して無かったの。」

「……どういうことだ?」

「スタジアム内で、通信ができなかったこと、覚えてる?」

「ああ、覚えてるよ。」

「あれは、ネフシュタンの鎧が暴走した時に強烈な電波が発生して、一時的に電波障害が起きていたんだって。

電波自体は一瞬で、人体には影響はほぼ無かったらしいけど、周辺の電子機器には駄目だったらしく、スタッフ、観客の携帯やカメラも含めて、ほとんどの機器が機能不全を起こしてたの。

特に、近くにあった機器は全滅で、高いやつも完全に壊れてたせいか、了子さんと司令が頭を抑えながら嘆いてた。」

「それは…………、御愁傷様だね。」

翼の言葉に、奏は頭を抱える二人の姿を想像しながら苦笑を浮かべ、翼もそんな奏を見ながら苦笑を一瞬浮かべるが、直ぐに悲しそうな表情に変わり、俯いてしまった。

「……他にも、なにかあったんだね?」

奏の問いに、翼は俯いたままコクンと一つ頷く。

そのまま少しの間、口をモゴモゴさせて言い淀む翼だったが、グッと一度口を引き締めると、ゆっくり口を開いた。

「実はネフシュタンの鎧が盗まれたの。」

「…………なんだって?」

まったく予想していなかった言葉に、驚きの声を上げる奏に対し、翼は俯いたまま言葉を続ける。

「さっき、近くにあった機器は全滅した、って言ったでしょ?

その中には防犯装置も含まれていて、それも壊れてしまったから、盗まれるのを防ぐことができなかったみたい。

盗んだ人物の手がかりはないか、調べている最中だけど、カメラやセンサーは駄目になっているから、記録は残ってなかったし、あの状況だったから、目撃者も望み薄みたい。」

「……なるほどね。

なら、今回のことは計画的に進められていた可能性が高い、ということだね。」

「それがそうでもないみたいなの。

了子さんの話だと数値自体は、途中まで異常は無かったし、機器も了子さんがチェックしたから、そちらも問題無し。

ネフシュタンの鎧になにか仕掛けがあった可能性はなきにしもあらずだけど、なにが起こるかわからない物に仕掛けをするより、直接盗んだ方が早いはずだから、その線は限りなく薄く、なんらかの外的要因で起きた可能性が一番高い、って了子さんも言ってた。」

「…………なるほど。

確かにそうかもね。」

奏がそう言って黙った後、二人の間にしばらく沈黙が流れたが、今度は奏は口をモゴモゴとさせたかと思うと、翼から目を反らしながら口を開けた。

「…………犠牲者は、……どれくらい出たんだい?」

「……まだわかってないけど、かなり出てしまったみたい。

ノイズに襲われた人もいたけど、ノイズから逃げようとした人達によって引き起こされた、二次災害で亡くなった方も多かったって。」

「……そうかい。」

翼の言葉に、奏は悲痛の表情をしながら、自身の左腕を強く握りしめる。

奏の胸中はノイズへの怒りと、目の前で起きたことなのに守れなかったことへの自責の念、そして無力感で一杯だった。

無論、全ての人を守れるなどと自惚れる気は毛頭無いが、それでも守れたはずの命はあったのでは無いか?と、思ってしまう。

そして、そう思う度に握りしめた手に力が込もって腕に爪が食い込み、今にも血が出てきてしまいそうだった。

「…………でも、本来ならもっといてもおかしくなかった。って司令が言ってた。」

「…………どういうこと?」

「入口が壊れていたこと、覚えてる?」

「ああ、あれには驚いたよ。

それがどうしたんだ?」

「……これは観客の証言なんだけど、扉にも逃げる人が集中して、その人も逃げる人達に押し潰されそうになったんだけど、突然破壊音が聞こえたかと思ったら、壁に穴が空いて通れる様になったんだって。

その人が困惑していると、別の場所でも穴がどんどん空いて、そこから多くの人達が逃げたおかげで、その人は助かっだって。

で、同じ様なことを言ってる人が多数いたんだけど、その内の何人かが、「中折れ帽をかぶり、棒を持った青年が壁に触れた瞬間、壁が壊れた。」って証言しているの。」

「……それって?」

「うん、多分あいつのことだと思う。

あと、通路の件も、あいつが関わってたみたい。

通路で倒れている人に、手でなにかを飲ませているのを見た。って証言する人が何人かいたし、意識が朦朧としていたから、なにを飲まされたかまではわからないけど、実際にあいつの手から飲まされた。って、証言した人もいたらしいから、間違いないよ。

それ以外にも、ノイズに襲われそうなところを助けたり、ケガで動けなかった人を運んだり、色んな人があいつに助けてもらったみたい。

もし、それが無かったらこの事件は、史上最悪の事件と言われていたかもしれない。って、司令が言ってた。」

「………そっか。

彼は、そんなことまでやってくれてたんだな。」

奏はそう呟きながら、自身の心がほんの少しだけ、本当に少しだけ軽くなった気がした。

別にノイズの怒りが晴れたわけではない。

自責の念や、自身の無力感が消えたわけでもない。

むしろ、青年への申し訳なさから、その想いが増大したぐらいだ。

「……たい。」

「……え?」

だけど、それと同じ位に嬉しかった。

自分の守りたかった人達を、守ってくれたことが。

司令に彼の行動を評価されていたことが、自分のことの様に嬉しかった。

だが、それと同時に、それではいけないとも感じていた。

だから、

「もっと強くなりたい。

いや、違う。

二度とこんな悲しい想いをしないために、二度とこんな悔しい気持ちを味わないために!」

(そして、次に会う時は彼の後ろではなく、隣に立って戦うために!)

「もっと強くなるんだ!

絶対に!」

(守られてばっかりなんて、あたしの柄じゃないからね。)

そんな決意を込めながら、奏がぎゅっと手を握り締めると、その手にそっと翼の手が重ねてきた。

そのことに少し驚きながら、奏が翼の方を見ると、真剣な眼差しを奏に向けていた。

翼もまた悔しかった。

今回、青年の蛮行(奏への口移し)に対し、大変腹立たしい気持ちがあるものの、彼が居なければ、バックファイアの影響で命を落としていただろう。

それ以前に、彼の乱入がなければ奏はあのまま旋律を歌いきり、絶唱が発動していただろう。

中断した状態でのバックファイアでも、あれほどのダメージがあったのだ。

発動していたら、例え彼が同じ様に処置したとしても、奏は命を落としていたに違いなかった。

そういう意味では、彼は奏の命の恩人であることには違いなかった。

だけどもし、あの時、自分が強襲型(ギガノイズ)に吹き飛ばされなければ?

仮に飛ばされても、あの場にいた人型(ヒューマノイド)ノイズを直ぐに倒し、奏の元へ行ていれば、奏は絶唱を歌うことはなかったかもしれない。

無論、これはたらればの話であるし、例え合流できたとしても、絶唱を使っていた可能性はある。

そのことは頭では理解していたが、納得はできなかった。

だから誓う。

(今度こそ守りきってみせる。

私の大事な人を!

そのために、)

「私も強くなりたい。

こんな悔しい気持ち、二度と味わわないために。

なにも奪われないために、強くなってみせる。

ううん、奏と一緒だったら、絶対に強くなれる!

だって私達ツヴァイウィングは、両翼が揃えば、どこまでも高く飛べるんだから!」

笑みを浮かべながらそう言う翼に、奏は一瞬目を丸くしたが、直ぐに笑みを浮かべながら、強く頷いた。

「ああ、その通りさ。

一緒に強くなろう、翼!」

「うん!」

(……ありがとうな、翼。)

笑顔で力強く頷く翼に、奏は心の中で感謝を告げる。

きっと、自分一人では立ち直ることは難しかっただろう。

例え立ち直れたとしても、歌うことも自身の命も諦め、捨てっ鉢になりながら戦うといった、そんな酷い有り様になったに違いない。

何故か確信をもって、そう言えた。

(きちんと立ち直ったわけではないし、なにも成していないから、今はまだ感謝の言葉を伝えられないけど、いつか必ず伝えるよ。

……そして、あの人にも必ず。)

それぞれ違う想いを胸に抱きながら、同じ願いを誓う二人。

そんな二人を見守る様に、満月が病室の窓から覗いていた。

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