2030年、VR(ヴァーチャル・リアリティー)技術はついに仮想現実に意識のみを没入させることを可能とした。
それまでのゴーグル式とは異なり、電子脳(デジタル・ブレイン)形式と呼ばれるそれは、疑似的に作った自分の脳のコピーと自分自身の脳波パターンをリンクさせることで、意識した通りにアバターを操作することが出来る。
また五感も電子的に再現することで、現実と見間違えるほどのリアリティーを使用者に与えることに成功していた。
しかしこの技術だけでは、極めて限定的にしか運用できず、主に医療現場などでのみ使用されていた。これらが民間にまで浸透するためには、スーパーコンピュータクラスのサーバーがかなりの数必要になるという試算が出たためだ。
政府や各企業は新たなネットワークシステムの構築を目指し、次世代コンピュータの開発に乗り出した。
<プロジェクト・NW>と呼ばれたそれは、一つの結果を出すことに成功した。C・Cy(キューブ・コンピュータユニット)の開発である。スーパーコンピュータの欠点であった大きさと必要電力などを可能な限り抑え、ユニット同士の連結を可能としたC・Cyは瞬く間に一般にも運用されるようになり、様々な分野で使われるようになった。
そして2040年、多くのゲーマーが待ち望んだことが叶うことに事になる。
VRMMOの正規運用が各ゲーム会社から発表されたことだ。いわゆる歴史ある所からベンチャーまでが共同で出したそれは、まさにゲーム新時代を告げるものであった。
C・Cy完全対応型ハード(スリーピング・ブレイン)は複数のゲーム会社と最先端IT企業数社が共同で開発し、各社の専用サーバーを連結して運用されることになった。
2042年7月 東京某所にて
「泉、お前女神転生って知っているか。」
柊 泉(ヒイラギ イズミ)に天城 優正(アマギ ユウセイ)はゲーム雑誌を放り渡して、そう言った。
「昔、親父がやってたゲームだろ。デビルサモナーとか言いうのが主人公のやつ。それがどうかしたのか。」
「デビルサマナーな。今度それのVRが出るんだけど、一緒にやらないかってお誘いだ。」
天城は一見優等生に見えるがバリバリのゲーマーである。特にVRに今は嵌まっているらしく、たびたびお誘いをかけてきていた。
あだ名は、がり勉眼鏡だが眼鏡以外かすっているところのない典型的なあだ名詐欺師のたぐいだ。
「そもそも、ハード持ってないが面白いのか。」
「たまたまβの抽選が当たってな、ここんところ二週間ぐらいやってたが面白いぞ。それに当選者用のハードが余ってんだ。お前持ってないって言うし、それならソフト代だけで済むだろ。」
「完全に初心者の俺に誘いかけるのはそれが目的か。」
「俺の友人で持ってないの、お前ぐらいだぞ。たまたま手に入れたハードの使い道としてはちょうどいいと思ってな。」
「そうゆうことならありがたく受け取るが、ゲームの腕には期待するなよ。」
「どっちかっつーと、お前向けだと思うがなVRゲー。」
天城は新品のハードを渡してきた。スリーピング・ブレインは接続専用の機体であり、それほど大きいものではない。専用のヘッドギアと合わせても一般的なレトロ機と同じぐらいかもっと軽いもので、置き場に困るような大きさでは無かった。
スリーピング・ブレインにはバイタルデータとデジタル・ブレイン作成用のデータ、それとその保存領域があり、それにサーバ接続用のソフトをインストールすることでそれぞれのゲームサーバに接続できるようになっている。ゲームデータはスリーピング・ブレインとサーバの両方に保存されるようになっており、データの違法操作や紛失などの対策になっている。
「事前に調べておいたほうがいいのか。このゲーム。」
「別にそこまでする必要はないな。しいて言えば職業だけは注意したほうがいいかもしれんが。」
「あれな職業でもあるのか。地雷的な奴が。」
「戦闘職どっちかで取らないと序盤きついから、そこだけ注意ってことだ。」
その後天城に軽く説明された限りでは、初心者はサマナーかバスターを入れておくのがおすすめらしい。逆に玄人向けなのが管使いやガーディアンなどであとは横一線でメリット・デメリットが釣り合っているらしい。
職業は変更できないのでメインかサブのどちらかは戦える職業を選ぶのが基本だそうだ。
「この辺はβでの話だから、もしかしたら多少修正が入ってるかもしれないがな。キャラの使い勝手なんて作ってみなければわからんから、いろいろやってみればいいんじゃないか。」
また後でな。といって天城は手をひらひらさせながら帰っていった。
「まさか、これ渡すためだけに来たのかあいつ。」
泉の手には天城に渡されたゲーム機入りの紙袋がある。泉も興味がないわけでは無かったが、いまいち買う機会もなくてスルーしていただけなのだが、あのお節介焼の友人は一緒にゲームしたいらしい。
「たまには、あいつの趣味に付き合うのもいいか。」
財布の中にはソフトを買う程度のお金ならばあった。
あれでいて天城はゲームに厳しい。だからこそ面白いという言葉にはある程度説得力があった。
駅前の電化製品店を回るとソフトはすぐに見つかった。真・女神転生とパッケージに書かれたVRソフトは禍々しいイラストに彩られており、この門をくぐるもの、全ての希望を捨てよ。とどこかで見たような煽り文句が書かれている。
手に取った瞬間、得体のしれない視線を感じたが、気のせいだろうと思った。
そもそもゲームはゲームである。噂には事欠かない女神転生であろうと所詮はゲームなのだ。恐れるものなどないと購入した。
「セッティングはこの紙だな。」
スリーピング・ブレイン(S・B)はC・Cy用の回線と電源につなぐことで起動できる、ヘッドセットを繋ぎサーバ接続用ソフトを入れ、ヘッドセットの声紋認証のスイッチを入れる。
S・B起動中は強制睡眠状態になるため、ベットなどで横になって使用するのが一般的だ。
ヘッドセットを被り、深呼吸をした。
「ブレインリンク・スタート。」
起動コードを発声すると、泉の意識は急に遠のいた。
<デジタル・ブレイン起動を確認。プレイヤーコード発行。アクセス。真・女神転生サーバへ接続可能。バイタルデータに異常なし。ブレインスキャナ完了。デジタル・ブレインに反映後、プレイヤーとリンク。リンク成功。真・女神転生を起動します。>
「生死の狭間、地獄の門へようこそ。」
泉が目を覚ますとそこは巨大な門の前だった。泉は椅子に腰かけており。机を挟んで正面には美しい金色の髪をした少女が座っている。
「君は誰。」
「挨拶が遅れたようだね、イズミ君。私はルイ・サイファー。此処で人間を観察しているものだ。」
他作品がスランプに入ったので新連載です。
プロットあってもペンは止まるもんですね。字数がまるで足りない。
感想よろしくお願いします。