路地裏を出ると太陽の光がイズミの体に強く降り注いだ。
並木についた蝉が元気よく鳴き、歩くサラリーマン達が汗をハンカチで拭いている。コンビニ前にたむろしている学生はアイス片手におしゃべりをしていた。
気温は現実よりもやや低く、建物もイズミが知るものよりやや古いが、正しくトウキョウの夏場の風景がそこにはある。
イズミはCONPのナビゲートに従い、見知ったような街中を歩いていった。
ぺるそなさまって知ってる。
この前、公園で脳みそがない死体が見つかったんだって。
今月入ってもう五人目だぜ、やべえよな復讐屋って。
アベック死すべし慈悲はない。
ゾンビの目撃例があったのこっちか。
街中には様々な噂が飛び交っており、イズミは所持品に入っていたメモ帳に時々立ち止まっては記していた。
『目的地に到着しました。』
メモ帳が5ページほど埋まる頃に、イズミはようやくその店にたどり着いた。
とある古びた駅ビルの地下に向けて階段が伸びている。一般人対策なのか階段を降り始めると何か幕のようなものを通り抜けた感覚があった。
「見えていないのか、気にしていないのか。少し不気味だな。」
道路にはかなりの数の人間がいるのに、誰一人こちらに目を向けることはない。
コツコツと階段を下へ下へと下っていくと黒塗りの武骨な金属扉に突き当たった。扉にはBARとだけペンキで殴り書きされており、ひんやりとした取っ手をつかむと鍵などはかかって無いようで簡単に開いた。
「いらっしゃい。」
カランカランとドアベルが鳴り、ワイングラスを磨いていたマスターが落ち着いた声で声をかけた。部屋は意外と広く雀卓で煙草をふかしながら賭け事をしているくたびれたおっさんや雪だるまのような悪魔を抱き枕にして寝ている女子高生、電話相手に何やら怒鳴っているどっかの外国人などそこそこの人数がいる。
「何かようかい。お客人。」
「そうね。紅茶を一杯頼もうかしら。」
「うちはバーであってカフェではないんだがね。まあそうだ、アールグレイならあるから少し待つといい。」
イズミはカウンター席に座ると今まで確認していなかったCONPを開いた。
現在登録されている機能はハーモナイザー、悪魔召喚プログラム、DDS-NET、アナライズとプロファイラーという自己の状態を確認できるアプリの五つ、悪魔登録はされておらずサマナーなのに仲魔がいない。
スキルは戦闘向けが一つと補助スキルが一つ。初期装備は浄化されたメスという名のナイフが一本のみ。
「囲まれたら死ぬわね。一対一で奇襲しなきゃスライム相手でも危ないかもしれない。」
イズミの頭にはスライムに集団で袋叩きにされる自分の姿が浮かんできた。初の死亡がスライムとか割と嫌すぎる、ナイフ一本でどうしろというのか。
「ご注文の紅茶だよ。それで、わざわざこんなところまで来たんだ。新人さんは何か聞きたいことはあるのかい。」
「初めからわかっていたのね。こっち側だって。」
「巻き込まれたか、自分から踏み込んだかはわからないけれど、結界を抜けてきた時点である程度は予想が付くさ。」
目ざといのか、それともイズミが正直すぎるのか。すでにルーキーであることはバレバレであるらしい。
「ここには情報を集めに来たわ。紅茶はそのついでよ。」
「今時珍しいな、依頼をするでもなく、受けるでもなく、ここに来る異能者は。」
「なるべく正しい情報を得るためなら、その専門家に聞くべきでしょう。情報は時に命を左右するのだから。」
「気に入ったよあんた。いいサマナーになりそうだ。」
主人はその受け答えに気をよくしたのか、野獣のような笑顔を浮かべた。
「サマナー初心者におすすめの悪魔の情報とサマナー用の宿泊施設か不動産が知りたいの。」
「住居の申請ならここでもできるぞ、問題は悪魔のほうだな。あんた仲間はいるのかい。」
「仲間も仲魔もいないわ。」
「じゃあ教えられないな。一人で行くには危険すぎる。せめてきちんとした装備と仲間を一人でもいいから連れてこい。話はそれからだ。」
主人はそれ以上言うつもりはないらしい。イズミの身を案じてのことであるため、説得に応じるかも難しいだろう。
「ご主人、それ私が付いて行ってもいいっすよ。」
二人の緊迫感のある空間は朗らかなどこか抜けたような声で霧散した。
名乗りを上げたのは、さっきまで眠りこけていた雪だるま女子高生である。
「どうせ、交渉が終わるまでの見張りでしょ。そんぐらいだったら私とフ―ちゃんでどうにかなるし。」
「アズサ、お前だって見習いだろうに。」
「見習いだろうが玄人だろうが、やること変わらないっしょ。いっちょ依頼出してよ、受注するからさ。」
「新人さん、あんたの名前は。」
「イズミです。」
「依頼名は新人サマナーを救え。イズミの依頼でアズサが受ける形になる。依頼達成条件はイズミの登録悪魔が一体以上になること。禁止事項はイズミの悪魔交渉の直接的な干渉の禁止。つまり交渉そのものはイズミにやらせることだ。双方ともにこれでいいか。」
「問題ないです。」
「問題ないっす。」
「依頼料は今回はうちで出してやる。正規依頼を出すときはマッカやアイテムなどが必要になるから用意しておくように。ターゲットの悪魔はいくつか見繕って二人のCONPにデータを送る。どれでもいいから仲魔にしたら連れてこい。」
「挨拶がまだっすね。私は九重 梓(ココノエ アズサ)、おねーさんのちょっとだけ先輩っす。」
『おいらはジャックフロストのフー。姐さんの舎弟兼パートナーだホー。』
「私は代紋 泉(ダイモン イズミ)、二人とも短い間だけどよろしくね。」
アズサとイズミが握手をしている横で、フーはホーホーと笑い声をあげた。
依頼
達成するとマッカもしくはアイテムが入手できる。またプレイヤー側が依頼することもできるがその場合は依頼料が必要となる。
雪だるま
みんな大好きジャックフロスト。