「イズミさんはフーちゃん以外に悪魔を見たことはあるっすか。」
悪魔を仲魔にするにあたって、アズサはまず装備を整えることを提案した。異能者用の装備は服型、鎧型などを問わずある程度の防御力があり、ただの服では貫通する攻撃も耐えられるのが特徴だそうだ。
金額的にはピンからキリまであり、その中でも比較的リーズナブルなものを今回は買うことになった。
その道中、アズサがしてきた質問は悪魔を見たかというシンプルなものである。
「他のサマナーが連れたポルターガイストなら見たことがあるわ。」
「それってもしかしてタカツキさんのことっすか。リーゼント頭のサマナーの。」
「アズサさんもイッセイ君を知っているのね。」
『イストちゃんのサマナーさんだったら、姐さんと同じ学校に通ってるホー。顔見知り程度だけど面識はあるホー。』
「うちの高校の番長のことを知らない学生はいないっすよ。なんせ五代続く番長全員が悪魔使いっす。しかも学校にはびこっている悪魔を締め上げては、学校からたたき出してるっす。」
「いったいまたなんでそんなことを。」
「そこまで詳しいことは知らないっすが、初代が悪魔使いになった際に決めたことらしいっす。学校七不思議が悪魔召喚の儀式になってたらしく、都市伝説悪魔が出やすいとか言ってたっす。」
イッセイはかなり有名人のようだ、そもそもポルターガイストを仲魔として連れているサマナーがあまりいないからか、その一体だけでほぼ特定されている。
「こっちでの評判自体はかなりいいっすね。あれでいて責任感も正義感も強い方だから、よくヘルプ頼まれているっす。」
イズミの脳裏に数多の学校都市伝説を学校の外にたたき出している様子が浮かぶ、イッセイの姿も相まって鬼か悪魔の所業としか思えない。存在意義的に下手をすれば消滅でもするのではなかろうか。
「それ以外だと見たことはないわね。実際、交渉の仕方もいまいちわからないから出たとこ勝負になりそうよ。」
「そうっすねえ。コツって程ではないけど、一般的なやり方であれば、裏ゲーセンで勉強するのもいいっすよ。悪魔交渉シミュレーションはなかなか便利っす。たしかここらへんだとソドムって店がやってたはずっす。」
「すごい名前の店ね。入るのに躊躇しそうだわ。」
「ちなみにソドムの前にはゴモラっていう食堂があって、悪魔が着ぐるみのふりして接客しているっす。こっちは悪魔の肉を買い取ってくれるんで、フード狩って小遣い稼ぎしている人もいるっすね。」
ははは、末世末世とアズサは笑っている。
もはや悪魔的ジョークである。実際に悪魔がいるからこその精神性はなかなかに狂っていた。ホーホー笑っているフーには大変受けていたが。
トウキョウはいつからこんな魔境になってしまったのか、イズミはヤベーなこの世界とつくづく思った。
「此処っすよ。今から裏に案内するっす。」
アズサはスーツの赤山のすぐ横の隙間をするすると入っていった。隙間の幅はちょうど人が一人分通れるかどうかで、アズサの後を見失わないようにやや駆け足でついていった。
道は曲がりくねっており頻繁にアズサの姿は見えなくなるが、時々立ち止まって待っていることもあり何とか出口までたどり着けた。
「はぐれずに着いたっすね。ここが衣類の専門店、ビューティー国分寺っす。」
「なんというかすごいね。」
「皆そういうんすよね、ハイカラでいい店だと思うっすけど。」
その店は赤かった。モチーフは寺だろうか、形そのものは一般的なお寺をしているが、屋根から壁まで赤く染められており、さらには電飾でライトアップされていることもありとても目に悪い。招き猫のように入口傍のテーブルには、いらっしゃいませと書かれたプラカードを首に下げたネコマタが座っており、異様な空気を身にまとっている。
『いらっしゃいませニャー、ただいまセール中にゃー。』
彼女はいつからあそこにいるのだろうか、夏の暑さもあってかぐったりしており、やけくそ気味に客寄せをしている。
「らっしゃいませー、今日もビューティー、国分寺へようこそー。」
「オショーさん、新人さん連れてきたっす。彼女に合いそうなの見繕ってほしいっす。」
「アラー随分キレイどころじゃないかしら。お姉さんのお好きな色は何かしら。」
「黒と赤が好きですが、貴方は和尚さんでいいんですよね。」
「そうよ、私がこの国分寺の和尚、人呼んでビューティーオショーよ。メインのお仕事はデザイナーだけどね。」
目の前で踊る変人は和尚であっているらしい。フリル付きの袈裟を見事に着こなしているが、いまいち年齢と性別がはっきりしない人物である。オショーは棚の一角につるされた服の中からいくつか見繕って店の中央にある机の上に広げていた。
「これなんかどうかしら、耐火符を編み込んだレディスーツ一式ね。ワインレッドの色合いと少しゆったりめの動きやすい作りが特徴の一品よ。」
オショーがまず出したのは、美しい銀色の刺繍が施された女性向けスーツである。
赤のレディスーツ
オショー手製の素敵なスーツ
体+1、速+1、防+12、火炎耐性
装備ステータスは上下合わせて初期装備の防御力を6上回り、着心地の良さからか若干だが速度も上昇する。
ちなみに今着ている服だとこうなる。
黒の白衣(閣下仕様)
閣下が編んだ大変冒涜的な白衣。未覚醒。
速+2、防+6、呪殺耐性
即死を避けられる点では現在の装備のほうが良いが、耐久性では赤のスーツ一式のほうが上である。
「他には氷結耐性の青、電撃耐性の黄、衝撃耐性の緑があるわ。編み込んである耐性符以外は色の違いしかないから、好みで選んで頂戴。」
「オショーさんの洋服は弱点が付かないっす。その分少し割高っすけど、仲魔が増えるまでは安心して戦えるっす。」
「試着してみていいですか。」
「どんどん試着して下さいな。自分に合ったものを探すのも、ビューティーなひと時よ。」
オショーは他にも星屑のワンピース、ワイルドジャケット、カモフラTシャツなどを机に並べた。
星屑のワンピース
一体型のワンピース、黒を基調とした生地に星屑のように糸状の鋼が編み込んである。
体+2、防+12、物理耐性
ワイルドジャケット
ダークグリーンの色が野生を引き立たせるユニセックスジャケット。
力+1、体+1、防+6、銃撃耐性
カモフラTシャツ
背景に溶け込むような柄のTシャツ。相手を惑わせることがある。
体+1、防+6、稀に相手にパニック付与
「この三つはこのデザインのみよ。ジャケットやTシャツはズボンやスカートと合わせてね。それから試着室は入口から見て右の奥にあるわ。」
イズミはとりあえず一通り試着するため、試着室に入った。審査員はアズサとフーの二人に任せ、服を脱いでは着替えるを繰り返すこと4回、ようやく買う服が決まった。
アズサが高評価をしたのは、スーツとワンピース、フーはワンピースとジャケットが似合っているといっていたため、意見が一致したワンピースとスパッツ、同系色の靴を購入した。
ダークブーツ
黒一色の編み上げブーツ。頑丈性とグリップの良さからバスター人気が高い。
速+1、防+3
『イズミさん、すごくクールだホー。』
「とてもよく似合ってるっすよ、イズミさん。まるで女王様みたいっす。」
「いいわね、いいわね。まさにエキサイティングよ。」
「そこまで褒められると、少し照れますね。」
イズミは黒の白衣を上に着こんだ。こういった装備は直接触れている物のみが装備扱いされているらしく、白衣はステータスに反映されていない。要は服として着ているだけの状態になっているということだ。黒い白衣、ワンピース、編み上げブーツを着た姿はなかなかに様になっており、少しは悪魔関係者らしくなったものだと思う。
「ありがとうございました、またのお越しを。」
『ありがとにゃー。また来てにゃー。』
会計を済ませると、オショーとネコマタが見送ってくれた。お客さんが買い物をするたびにご褒美の鰹節が増えるらしく、ネコマタはぴょんぴょんと跳ねながら両手を振って見送っていた。
「さてと、装備も用意できたことですし、ターゲットの悪魔を決めましょうか。」
「今、仲魔に出来そうなのはこの辺っすかね。」
アズサが自分のCONPを操作すると近くの壁に依頼ボードの映像が映し出された。
・いたずら好きな妖精を懲らしめてくれ。
・警察署で捨て魔獣を預かっています、里親募集中。
・コダマ大量発生です、増援をお願いします。
・悪魔コンサート開催、歌声に自信のある方はどうぞお越しください。
・ハロウィンだホー、サマナー募集中だホー。
・俺の妹を誰か預かってくれ。妹はゾンビだ。
「今あるのはこの六つっすね。このうち妖精とコダマは戦闘になるっす。捨て魔獣はレベルによっては仲魔に出来ないっすね。ハロウィンとゾンビは交渉次第で問題なく仲魔に出来そうっす。悪魔コンサートは音痴じゃないなら行く価値はありそうっす。どうするっすか。いっそ全部回るのもありっすけど。」
『補足だホー。妖精はピクシーとは限らないホー、ハロウィンはジャックランタンだと思うホ。』
・いたずら好きな妖精を懲らしめてくれ。→ピクシーかもしれないしヴィヴィアンかもしれない。危険度:中
・警察署で捨て魔獣を預かっています、里親募集中。→カーシー、ネコマタぐらいなら何とかなるかも。危険度:小
・コダマ大量発生です、増援をお願いします。→仲魔がいないなら避けましょう。危険度:中
・悪魔コンサート開催、歌声に自信のある方はどうぞお越しください。→相性のいい悪魔に会えるかも。危険度:小
・ハロウィンだホー、サマナー募集中だホー。→ジャックランタンでほぼ確定。危険度:小
・俺の妹を誰か預かってくれ。妹はゾンビだ。→ゾンビです。危険度:小
「そうそう、マグネタイト量には気を付けてっす。レベルが低いうちにあんまり多く仲魔にするとマグネタイトが枯渇して、戦闘どころじゃなくなるっす。だから初めは二体までで抑えとくっす。」
「それなら、ランタン、ゾンビか悪魔コンサートがいいかしら。アズサさんとフー君みたいに相性がいい方が対等のパートナーになれるでしょうし、たくさんの悪魔に会えるかもしれないわ。」
悪魔コンサートを調べると、カラオケまねき犬、シンジュク店の管理異界で定期的に行っているとのこと。途中参加もオッケーで、出入りは自由、(悪魔と)歌うも良し(悪魔を)ナンパするのも良しのライブ会場になっているらしい。
今も開催しており、入ることは可能だろう。試しにランタンかゾンビを仲魔にしてから乗り込んでみようかと方針を決めた。
「その二択なら、ゾンビがいいっすね。前線を支えられるし、いざという時は盾になってもらうこともできるっす。」
『オイラはランタンがいいと思うホー、ランタンのアギがあれば敵をかく乱できるホ。遠距離から狙えるのは大きな利点だホー。』
イズミは二人の意見を聞き、考えた。どちらの意見も一理ある、だからこそイズミが決める必要があった。そしてイズミは一つの依頼を達成した。
性別互換自動翻訳調整機能
電子脳を介することで性差の違和感を薄め、より仮想空間を楽しめるようにハード側に搭載された機能。元々は別の性別のアバターを操作する際に生じるギャップを埋めることを目的として作られたが、ネカマ、ネナベが一定数流行ったことで正式に基本機能の一つとして追加された。この機能をオンにすることでより自然に異性を演じることが出来る。要するに電子脳を異性側に調整することでリアル側からの脳波に変化を与える機能。
歴代番長
現在五代目、初代は超人にまで届いた凄腕の悪魔使いだった。高校の乱れまくった霊場を管理している。
ステータス
力、魔、体、速、運と防、攻、HP、MPからなる、属性は耐性、無効、反射、吸収、弱点、等倍(無地)のいずれかが付く。
ハロウィン
いったい何者なんだ。