VR・デビル・ストーリー 真・女神転生   作:アリス大好き

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餃子

イズミが依頼人の指定したホテルの部屋の扉を叩くと、彼はゆっくりと扉を開けてくれた。

 

「狭いところですまないね。二人とも。依頼を受けてくれて感謝するよ。」

 

彼は疲れ切っているようで、目の下にはひどい隈ができていた。傍のソファーにはフードを深くかぶった小柄な女性が座っており、彼は慈しむような眼で彼女を一瞥した。

 

「私の名前は一条(イチジョウ)という、そしてこの子が君たちに預けたい妹の舞歌(マイカ)だ。」

 

マイカはフードの下からイズミに視線を向けたがゾンビであるためか一言もしゃべることはない。

 

「少し前に、私たちは恐るべき悪魔に遭遇してしまったのさ。奴は私たちを打ちのめした後、妹に呪いをかけ殺しもせずに去っていった。ネクロマと呼んでいたその呪いは妹を生きたままゾンビに変えてしまった。」

「その悪魔の名前は聞かなかったのですか。名乗ることもなかったと。」

「奴は初めは礼儀正しく接してきたよ。娘を探しているとそう言っていた。そうして妹を目にした瞬間豹変した。」

「何をしたんですか。」

「見つけたといった。その言葉を聞いた瞬間、心臓を鷲掴みにされたかと思った。思わずつかみかかったが腕の一振りで私は動けなくなり、奴は恐怖で動けない妹を抱え上げた。」

「そうして呪いをかけた。」

「ああ、奴は妹の顔を覗き込み、違うとだけ一言言って、ゾンビに変えてしまった。私は奴を追うつもりだ、これ以上被害者を出さないためにもね。だが妹までこれ以上巻き込むことはできない。」

 

そういうとあー、うーとうめきながらマイカはイチジョウの服を引っ張った。イチジョウはマイカの頭を優しくなで、服を引っ張る手をそっと引きはがした。

 

「本当にそれでいいのですか。マイカちゃんは一緒にいたいみたいですが。」

「別に死にに行くわけではないですから、生きていればいつか会えます。それにあなた達にも頼みがありますから。」

「依頼とは別にということですか。イチジョウさん。」

「マイカをゾンビからきちんと思考できる悪魔に転生させてほしいのです。業魔館の設備を使えばマイカの存在の格のみを上げることもできるそうですから、マイカの存在が消えるということはないですし、その代価としてマイカを助手として扱ってくれても構いません。マイカの転生料は此方で持つのでこの依頼を受けてくれないでしょうか。」

「少しアズサさんと相談させてもらってもいいでしょうか。」

「わかりました、少しの間マイカと外に出ているので、お二人で相談してください。」

 

イチジョウはマイカを連れて、部屋を出た。今いるのは口を挟まずに見ていたアズサとフー、イズミの三人のみである。

 

「店長さんからの依頼内容じゃあ、口出し禁止っすけど。相談は禁止されてないっすからね。何から話すっすか。」

『ホー。イズミさんの安全を考えるなら断ったほうがいいホー。』

「例の悪魔の事ね。実際どれくらい危険だと思う。」

『マリンカリンとかで魅了するなら下級の悪魔でもできるホ、人間のままゾンビにするのはそれなり以上の格をもった悪魔じゃなければ無理だホー。』

「私はマイカちゃんを連れているだけなら危険はないと思うっす。どう考えても興味を持たれてないっすから、こっちから暴き立てない限りは狙われることはないんじゃないっすか。」

『念には念をだホー。監視があってもレベル差次第では気づけないホー。いきなり爆弾抱えるのは危険だホ。』

「フー君の心配はありがたいけど、マイカちゃんを連れていくことはもう決めてるんだ。問題は追加依頼のほうだよ。」

 

マイカを仲魔にすることはここに来た時点でもう決めていたことだった。それに次に依頼を受けるサマナーが善良な存在かはわからないのだ、これでダークサマナーにでも預けられようならマイカがどのような目に合うかわからない。

それならいっそイズミ自身で預かったほうが、夢見がいいだろう。

 

「転生料金こちら持ちなら、やめとけって言うっすけど、そうじゃないなら転生オンリーも悪くはないっす。」

 

アズサは机をディスプレイ代わりに利用してホワイトボードのように文字を次々に映し出していく。

 

転生>合体=魔晶合体 業魔館価格比較

 

合体>転生>魔晶合体 合体事故率

 

転生>合体 悪魔強化率

 

「大まかにいうと、転生のほうが合体より事故率は低く、強化率も高いっす。でも専用の素材が必要だったり、機材が高価だったりとややハードルが高いのが難点っす。」

 

転生 素体側の意識が残る。

 

合体 基本的には意識が混ざり合う。どちらかが名付け、分霊である場合はそちらの意識が残る。

 

「悪魔を名前で縛っていない限りは、合体は意識が残らないっす。パートナーが別人になることに耐えられないなら、名付けをして格を上げておくっす。」

 

ハイレベルアップ 悪魔がより上位の悪魔に昇華すること。

 

「この方式だと意識はそのまま保たれるっす。欠点はどの悪魔になるかはなってみないと分からないってことっす。悪魔の強化手段は基本的にはこんなものっす。正直に言うと新人が転生のみで悪魔強化をするのはおすすめ出来ないっす。でも高額な料金を負担しないで済むなら、許容範囲ではあるっすよ。」

『ゾンビならそこら辺にいるから素材集めも比較的楽なほうだホー。』

「そちらの依頼も特に問題はなさそうね。むしろメリットが多いわ。無理そうなら約束はできないから、預かるだけしかできないけどこれなら仲魔として扱っても特に困ることはなさそうよ。」

 

そもそもの依頼内容はマイカを預かってほしいであったため、追加依頼を受けない場合、仲魔としては扱えない状態だった。そうなれば護衛として連れていくことはできないので、必然的にハロウィンランタン君を仲魔にする必要がある。

イズミのキャパシティがどれぐらいあるかは不明なので、危ない橋を渡ることにならなさそうなのは朗報だったともいえる。

概ねマイカを仲魔にするのには賛成の方向で進んでいた。後はイチジョウたちが帰ってくるのを待つだけになる。

 

「お待たせしました。それで依頼は受けていただけるのでしょうか。」

「マイカちゃんを正式に仲魔として受け入れるつもりです。」

「それでは、依頼のほうは。」

「追加依頼のほうを受けさせてもらいます、マイカちゃんの自分を取り戻す手伝い、しっかりやらせてもらいますよイチジョウさん。」

「ありがとうございます。あなたに主の導きがあらんことを。」

 

イチジョウは涙ながらに十字を切った、マイカも習慣として身についていたのか、イチジョウの真似をしている。

 

「何か困りごとがあるときは、メシア教会にテンプルナイトイチジョウの名前を出してください、きっと力になってくれます。ただマイカのことについては話さないようにしてください。」

『あー、うー、にーにー。』

「マイカも元気でな、彼女たちの手伝い頑張るんだぞ。お兄ちゃんとの約束だ。」

『まーてーりゅー、にー。』

「待ってるそうですよ。」

「必ず帰ってきますよ。これから他のテンプルナイトとともに悪魔の追跡を行います。私のパスコードを渡しておくので、進展があれば連絡することもあるでしょう。」

 

イズミはイチジョウのパスコードを手に入れた。例の悪魔について、情報を流してくれるようだ。安全のためにも時々確認するといいだろう。

ゾンビ:マイカが登録悪魔になったので店長の依頼は報告しに行けるようになった。

 

ホテルから出ると5時を過ぎていた。悪魔コンサートは深夜まで行われているので、まだ間にあうだろう。

 

「悪魔コンサートは夜からが本番らしいっす。悪魔らしいっちゃらしいっすよね。」

『今日の演目は婚活(仲魔契約)みたいだホー。独身サマナーとフリー悪魔がいっぱいだホー。』

「コンサート久しぶりっす。まねき犬へゴーっすよイズミさん。」

『ごー、すー?いずー。』

「行くってことだよ、マイカちゃん。」

『まー、いーくー。』

 

サマナー二人に、悪魔二人が仲良くカラオケ店に入るのが目撃された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アリス、まだ見つからないのか。』




転生
御霊合体のように素体のみをそのまま強化する方法。素材を取り込むことでスキルやステータスなどを強化できる。玄人向け。金がかかる。
魔晶合体
武器や防具と悪魔を合体できる。絆が限界に達した悪魔が装備化する魔晶化という現象もある。一度なると悪魔には戻らない。
ネクロマ
ゾンビ化魔法、この作品内では戻すことが出来ないイベント用の魔法に近い。一度かかると思考がだんだん鈍化し、最後はただのゾンビになる。
マイカ
ネクロマ被害者、ほかのゾンビのように腐っていない。現在中症状、転生を繰り返さないとただのゾンビになる。元メシア教徒。
毒ひっかき(物理単体・小)、暴れまわり(物理全体・小)、火炎弱点、破魔耐性

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