桃なる桜   作:しぃ君

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 今回は普通盛りです。


友達ってなに

 十咎さんと初めて寄り道をした日の翌日。

 私たちは、今日も昨日と同じように下校路を歩いていた。

 少しづつ縮まる距離感に、内心嬉しくて堪らないが、それは秘めよう。

 あくまでいつも通りに、そう思っていたのだが……どこからか視線を感じ、トラウマが蘇り体が震える。

 

 

 件の視線に乗せられている感情は、嫌悪や軽蔑といった黒いものではなく、好奇や敵意が混ざりあったような灰色のもの。

 薄々、十咎さんも気付いていたのだろう。

 人通りの少ない道やくねりが多い道を選んで撒こうとしてるが、中々上手くはいかない。

 

 

「はぁ……。桜、付けてるヤツらをとっちめるけど、良いよな?」

 

「私に聞かなくても、勝手にやっていいよ? 動くのは十咎さんなんだし」

 

「一応だよ、一応。……じゃあ、ちょっと待っててくれ」

 

 

 そう言った彼女が、視線の方向に向かうと、短い悲鳴のあとに二人の少女が私の前に連れてこられた。

 赤茶の髪に茶色の目の子が秋野(あきの)かえでさんで、水色の髪に青色の目の子が水波(みなみ)レナさんだという。

 制服を見て分かったが、同じ学校に通ってる後輩らしい。

 水波さんが一個下で、秋野さんが二個下。

 

 

「あ、えっと、桜咲です。十咎さんとは同じクラスの……同じクラスの……」

 

「同じクラスの、なんなのよ!?」

 

「知り合い……じゃないし。と、友達? かな」

 

「ふゆぅ。ぎ、疑問形なんだ」

 

「だ、だって、そうとしか言えないんだもん! しょうがないでしょ!?」

 

 

 本当にしょうがないんだ。

 だって、ボディガードだとか護衛役だとか、そんなまどろっこしいことを抜きにした、私と十咎さんな関係性は、どう頑張ってもそこ止まり。

 正直、そこに辿り着けてるかすら怪しい。

 彼女も何か言ってくれればいいのに、ぼーっとした様子で私と水波さんたちとのやり取りを見ていた。

 

 

「最近付き合いが悪いと思って付けてみたら、アンタみたいな友達がいたなんて……聞いてないんだけど、ももこ?」

 

「ん? ……あぁ、悪かったよ。ちょっと色々立て込んでたんだ。収まりがついたら話そうと──」

 

「濁すのね」

 

「アタシだけの問題じゃないからな」

 

「ふーん、そっ」

 

「ももこちゃん!? レナちゃんも止めようよ〜!」

 

 

 険悪とはいかないまでも、あまり良くない雰囲気がこの場を支配していく。

 秋野さんが間に入って宥めてはいるものの、一触即発の事態なのは間違いない。

 傍から見ていれば分かるが、三人には簡単には切れない──いや、切ってはいけない絆があるように感じる。

 

 

 それは、私と十咎さんの間にはないもので、羨ましかったが……壊すわけにはいかない。

 メッセージアプリで、本当の事伝えても良いと送ると、短く「ごめん」と返信が来た。

 彼女の「ごめん」の意味が分からない私じゃない。

 

 

 軽はずみに他人に言える事じゃないのをちゃんと理解して、自分の友達でもそれを考えるあなたは本当に優しい。

 そこまでしなくても良いのに、お節介を焼いてくるところが、本当に大嫌い(大好き)だ。

 

 ◇

 

 桜との関係をレナたちに話すと、意外とすんなりと納得してくれた。

 もう少しへそが曲がったままだと思っていたから、アタシとしては嬉しい誤算だ。

 二人ともしっかりと謝って、改めて帰路に着く。

 かえでと桜は相性がいいのか、話が弾んでいる。

 笑顔で前を歩く彼女たちを見ながら、アタシはレナと並んで歩いていた。

 

 

「ねぇ、ももこ? 結局、ももこと桜の関係ってなんなの?」

 

「あ〜……わかんないな、正直」

 

「わかんないって、なによ」

 

「桜の言う通り、友達が一番近いのかな? そんな感じだ」

 

 

 やっぱり、曖昧にしか返せない。

 いっつも、三歩進んで二歩下がってる感覚だ。

 変わらないようで変わった距離感に、戸惑う時が多い。

 

 

 食い下がらないレナの追求を受け流しつつ、考える。

 どれくらい仲が良くなったら友達なのか? 

 どれくらい一緒に居たら友達なのか? 

 どれくらい相手を好きだと思えたら友達なのか? 

 わからない。

 

 

 いくら考えても、答えが出てこない。

 いつの間にか、家の目の前まで帰ってきてしまった。

 最近わかったことだが、桜の家はアタシの家の真ん前にある。

 偶然か、はたまた必然か、世の中にはわからないことが多過ぎる。

 

 

「またな」

 

「またね」

 

「…………また」

 

「じゃあね〜」

 

 

 そう言って、玄関をくぐり家の中に入っていく。

 父さんと兄貴たちはまだ帰ってきてないのか、アタシのも含めて、スリッパが四人分置いてある。

 自分のやつを取って靴から履き替えると、リビングに向かった。

 

 

 中では、テレビゲームを遊ぶ弟たちと、スマホと睨めっこしている母さんの姿があった。

 十歳と八歳のやんちゃな弟と、五人も子供を産んだとは思えない、ほわほわした雰囲気の母さん。

 部屋に入るなり、弟たちは元気良くアタシ抱き着いてきて、母さんもその声でアタシが帰ってきたことに気付く。

 

 

「お帰りねーちゃん!」

 

「スマブラやろねーちゃん! スマブラ!!」

 

「はいはい、あとで一緒にやるから。少し待ってろ」

 

『やったー!!』

 

「お帰りなさい、ももこ。今日は早かったのね」

 

「まぁね。ただいま、母さん」

 

 

 鞄をテーブルに置き、母さんも座ってるソファに体を預ける。

 少し休憩したらゲームに参加しようかと考えていると、母さんが思い出したと言わんばかりの表情で話しかけてきた。

 

 

「そう言えば、新しくできた彼氏さんとは上手くいってるの?」

 

「彼氏じゃない、友達……うん、友達だよ」

 

「そっかぁ、母さん早とちりしちゃったわ。折角お赤飯でも炊こうかと思ってたのに」

 

「頼むから止めてくれ。少し前にも、それで父さんに問い詰められたんだからな?」

 

「やぁねえ、冗談よ、冗談」

 

「なら、良いけど……」

 

 

 冗談言ってるのか、イマイチわかり辛いんだよな、母さんは。

 飄々としてるというか、掴みどころのない性格だ。

 ポーカーフェイスも上手いし、どうやって母さんの心を射止めたのか一度父さんに聞いてみたいよ、全く。

 いや、母さんから近付いた可能性の方が高い…のか? 

 

 

 まぁ、どうでもいいか。

 そろそろやんちゃ坊主の所に行かないと暴れられそうだし。

 ……でも、その前に一つだけ聞いておこう。

 人生の先輩な母さんに。

 

 

「母さん。他人同士って、どこまで行ったら友達になれると思う?」

 

「さぁ? どこまで行ったらなれるのかしらねぇ。わからないわ」

 

「……そっか」

 

「──でも、その人のことが好きで、一緒に居て楽しいと思えたら、その時点で友達なんじゃないかしら?」

 

 

 じゃあ、アタシはもう──桜と友達なのかな? 

 出た答えを上手く飲み込めないけど……友達だったら、良いな。

 

 

 そうやって、無意識に漏れた笑みに、アタシは気付かなかった。

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