数時間後 19:10 リュウセイ基地 ハンガー
「全体、気をぉ付け!!」
リュウセイ基地内には、神谷戦闘団に割り当てられたハンガー区画がある。今そのハンガー内には、完全武装の兵士達が整然と並んでいた。出立ちだけでも、目の前の集団が精鋭部隊であることは素人でも分かるだろう。
「楽にしろ。今夜の任務は、ぶっちゃけ我々の練度では演習にもならない。実戦の形を模した実弾演習の体裁をとっている、お遊びとすら言える。本来なら我々以外の通常部隊や、第二文明圏連合軍が対応する筈だった。だが状況は我々の想定を超えて最悪であった。既に現地民の中には餓死者が出るくらいには、この世の地獄と化しているらしい。
そんな状況を憂い、ヒノマワリ王国第3王女、フレイア・タカツカサ・ヒノマワリ殿下は王国を脱出。第二文明圏連合軍と我々、大日本皇国統合軍に支援を直談判しに来た。だが両軍共に動けない。そりゃそうだ。我々も連合軍も、足並み揃えなくちゃ勝てる戦も勝てない。でもな、俺達は違う。俺達神谷戦闘団は国家のしがらみなんざ関係なしに、俺達が正しいと思える事をやる。『国境なき軍団』とは、そんな軍団の筈だ。さぁ、お前達。この世界でも、俺達の名を世界中に轟かせるぞ!!!!」
神谷の言葉に兵士達は自らの手に持つ銃を高く掲げ、雄叫びを上げる。ハンガーの壁とか屋根に反響し、その声は何倍にも増幅され基地中に轟いた。
「いいぞお前達。こうでなくてはな。さて、作戦の概要を説明する。今回の作戦は至ってシンプル。敵の重要施設を精密爆撃による空爆で潰して、後は我々が空挺強襲で敵地に侵入。敵を掃討しつつ、統制府内部に囚われているとされる王と王子を救出する。それだけだ。
敵の規模は占領軍とは言え、機甲師団を含む10個師団相当だ。オマケに『夜彪』部隊の連中が、王女のエスコート中に相手の精鋭特殊部隊と思われる部隊と戦闘もしている。装備こそ我々よりも貧弱とは言え、練度は一般兵とは一線を画す。足元を掬われないようにしろ。何か質問はあるか!」
誰も手を挙げない。質問はないらしい。
「ないようだな。では解散!!然る後、出撃する!!!!」
神谷の宣言で兵士達はすぐに、外に駐機してあるAVC1突空に向かって走る。突空の方も機体のチェックを行い、完了した機体からエンジンに火を入れていく。
さらに今回共同で任務にあたる第123戦術飛行隊のストライダー隊、サイクロプス隊、第366飛行隊『ガルム』、第408飛行隊『ガルーダ』、そして神谷戦闘団直属の飛行隊たる、ラーズグリーズ特別戦闘飛行隊が飛び立って行く。これに続くは神谷戦闘団の機甲師団と砲兵師団を乗せた、トランサー特別輸送航空隊である。
「神谷様!」
「王女殿下。なんだ、見送りにでも来てくれたのか?」
「い、いえ。1つ、お願いがあります。どうか私と、フィームとアキナを連れて行ってください!!」
どうやら王女殿下は相当ご冗談が好きらしい。笑い飛ばしてやる気満々だったが、フレイアは深々と頭を下げている。
「.......なぁ王女殿下。アンタ、馬鹿だろ」
「どうか!」
「あのねぇ、帝国はフレイア・タカツカサ・ヒノマワリ第3王女を殺そうとしていた。そのターゲットが態々戦地に行けば、確実に殺されるぞ。アンタが強いならいざ知らず、精々が護身術程度の素人が俺達と共に戦場に出るなんて愚かも良いところだ」
「ですが私は.......」
「分かった。なら分かりやすく言おう。邪魔だ付いてくるな足手纏い王女!!!!!!」
神谷はこういう、頭お花畑な奴は大嫌いである。側から見たりするのは良いが、こういう命が掛かってる場面でこういう行為をされるのは一番嫌いだ。幾ら神谷戦闘団が強く、装備が敵弾を弾くとは言っても、今から向かうのは戦場。いつ死んだって全くおかしくない、そんな狂った世界に行く。そこにこういう部外者のエゴで仲間の命が危険に晒されるのは、指揮官としても個人としても最も嫌う行為だ。
「な、何故ですか神谷様!!私は民を救いたいだけなのに.......」
「だーもー面倒臭え!!!!護衛騎士2人、俺の命令に絶対服従が条件で連れて行ってもいい。だが、お前はダメだ」
「何故です!!!!」
「だっかっらっ!!!!テメェがしゃしゃり出てきても邪魔でしかないし、テメェが殺されるとウチの国の立場ないの!!!!そもそもテメェは相手のターゲットだってのに、なんで態々お前を餌にせにゃならん!!!!」
尚も食い下がるフレイアに、一度刀チラ見せさせて脅してやろうかと思う位には神谷もイライラしてきた。だが幸い、その辺りでフレイアが渋々引いてくれたので良かった。
「あー、神谷殿。これは我々が同行しても良いのか?」
「正直邪魔ではあるが、まあ「王女付きの騎士が王女の命で国を救う」って筋書きは、国民が気に入りそうなストーリーだろ?」
「それで、私たちが付いていく条件は?」
「俺の命令には絶対服従の上、俺の周囲に必ずいること。そしてこの戦闘でお前達が死んでも、皇国は一切の責任を負わない。これを確約しろ」
フィームもアキナも今でこそフレイア付きの騎士だが、元はバリバリの軍人。幾ら戦力となっても、参加する軍の規律や戦術を知らない者が参加するのは邪魔でしかない。そんな無茶振りを受けても、条件付きとは言え参加させる決断ができる神谷に脱帽物であった。
「無論、異論はない」
「文句ないよ」
「分かった。それじゃ一先ず…」
次の瞬間、神谷は愛刀の二太刀を素早く抜いて2人に切り掛かった。普通なら反応できないだろうが、そこは流石、王女の護衛を務めるだけはある。しっかり反応し、腰に下げているサーベルで止めて見せた。
「2人とも合格だ。俺の太刀を受け止められた。少なくとも最低限は、使えるだろう。時間が推している、行くぞ」
2人はわたわたと神谷の後を付いていく。3人は駐機している数十機の突空の中を進む訳だが、突空の近くでは整備兵や搭乗中の兵士達がいる。その誰もが手を止め、不動の姿勢で敬礼してくる。外にいるものばかりか、機体の中のパイロットもガラス越しから敬礼していた。
一方の神谷も左に刺した2本の太刀に左手を添えながら、右手で敬礼して堂々と進んでいる。まだ自分達とあまり変わらないであろう年でありながら、既にその立ち居振る舞いは歴戦の将軍と遜色ない。
「神谷殿、この飛行機械は我々が乗った物とはかなり違うようだが.......」
「AVC1突空。我が軍の配備する新世代のVTOL輸送機であり、重武装・重装甲を施した機体だ。敵支配地域に突撃し、地上部隊の速やか展開と援護が可能な機体で、現状は俺の率いる神谷戦闘団にしか配備されていない機体でもある。
お前達が乗ってきたUH60天神よりも速力、積載量、航続距離、攻撃力、防御力で優っている。今回の様な敵支配地域への電撃的な奇襲作戦に於いては、最も適した機体だ」
「じゃあ色のちがいは?もしかして、赤いのは速いとか!?」
「アレは単純に乗り込む部隊の違いだ。黒に右翼の金の旭日旗と白の部隊章は通常の神谷戦闘団の隊員、白に右翼の赤の旭日旗と金の部隊章は白亜衆、赤に右翼の白の旭日旗と金の部隊章は赤衣鉄砲隊、そして…」
突空の列の最奥。他は左右に機体が並べられているのに、その機体だけはど真ん中に1機だけ駐機していた。カラーリングも真っ黒だが、さっきの機体よりも更に黒い。
「漆黒の機体カラー、金の旭日旗と部隊章、そして至極色のエンジンカウル。これが俺専用の輸送機だ。一応コイツは他の機体よりも通信設備にアップグレードが入っていて、所謂、指揮官機仕様になっている」
「長官!」
「向上、状況は?」
「全部隊間も無く準備完了します。間も無く我々も、出撃となるでしょう。所で、何故そちらのお2人が?」
「あー、なんかまあ、アレだ。ゲストだ。一応俺の剣を止めたし、俺の命令には絶対服従。ついでに死んだって文句は出ないから、色々面倒になって連れて来た」
向上はこの一言で、大方、あの王女辺りが無理矢理着いてこようとしたのを止めたが、それでも止まらず面倒になって妥協案として2人の同行を認めた辺りだろうと、そう悟った。
「そういう事ですか。お二方、会談の場でもお会いしましたが、改めてご挨拶を。統合軍司令長官秘書官、そしてこの神谷戦闘団の副長と赤衣鉄砲隊の隊長を勤めております、向上六郎大佐と申します。今回はよろしくお願いします」
「ヒノマワリ王国斯衛軍、筆頭護衛騎士、フィーム・ツクヨミだ」
「同じくヒノマワリ王国斯衛軍、第3王女殿下付き護衛騎士、アキナ・ナカジマです!」
「おーい団長!そろそろ閉めますぜー!!」
機長がコックピットでスイッチを弄りながら、そう伝えてくる。すぐに機体に乗り込むと、宣言通り扉が閉まった。神谷はコックピット、向上はアキナとフィームを予備座席に触らせて、自分も座席に座る。
「団長!全機、出撃準備完了!いつでも行けます!!」
「よし。神谷戦闘団、出陣ッ!!!!」
「よっしゃぁ!ジェネラルトランサーより、オールトランサー!!出撃する、我に続け!!」
機長の宣言と共に、機長と副機長がエンジンのスロットルを上げて、機体を浮かび上がらせる。それに合わせて後ろにいる他の突空達も飛び上がり、高度を徐々に上げて行く。
「頑張れー!!!!」
「絶対に生きて帰ってこいよー!!!!!!」
「戦果を楽しみにしてるぞー!!!!!!」
整備兵達が日の丸の旗や旭日旗を振り、それが無いものは帽子や腰に引っ掛けているタオルを振って、空に上がっていく突空を見送った。
突空はある程度の高度まで上がると、回転数を更に上げつつティルトを水平にして通常飛行に移る。そしてそのまま、先に上がった他のトランサー所属の輸送機や戦闘機隊と合流し、巨大なエシュロン編隊を組んでキールセキやアルーの上空を飛んでいく。
「あ、おヒゲのおじさんだ!」
「おヒゲのおじさーん!!」
神谷戦闘団が飛び立った夜、おヒゲのおじさんと子供達から慕われているアルー駐留軍の軍曹は、いつもの様に仕事帰りに孤児院に寄っていた。親戚が経営しているのもあって、最近は非番の日やこういうまだ夜の早い時間帯であれば孤児院に顔を出し、子供達の遊び相手になってやるのだ。
オタハイトには愛すべき妻と5歳の息子、2歳になったばかりの娘がいるが人の親として、せめて今くらいは身寄りの無い子供達の父親役代わりになってもバチは当たらないだろう。
「あのねあのね!きょうね、でっかいチョウチョつかまえたんだよ!!」
「ぼくはねぼくはね、かわにおちちゃったのね!!」
「OKOK。チョウチョはいいよ、あぁ平和だな。うん。だがお前、川に落ちたって大丈夫か?」
「うん!ちょっとハナからみずがでてくるけど元気だよ!!」
「風邪引いてるじゃねーか。病院にでも行きなさい」
こんな風に子供達の話し相手になっているだけで、不思議とかなり疲れが取れる。やはり子供と接すると、リラックスできるようだ。少なくともこんな無垢な子供達が何気ない事を、さも世界を冒険して来たかのように目をキラキラさせて話している姿は、見ていて心が洗われるようだ。
そんな中、窓の外を見ていた女の子が「ながれぼし!」と騒ぎ出した。何事かと外の庭に出てみると、真っ暗な空を何かオレンジ色の光の尾がこちらに向かって来ている。
「あれ、なにかな?」
「ながれぼしなの?」
「ちょっと待ってろよー」
軍曹はバッグの中から双眼鏡を取り出し、光の尾の方へレンズを向けてみる。薄々分かっていたが、これは流れ星では無い。動きが違いすぎる。
「見えた!あれは.......航空機だな。双発、ジェット機だ。皇国の機体だな」
「こうこく?」
「わたししってる!シュラのいるくにだよね!!」
この女の子の言う「シュラ」とは、勿論神谷の事である。流石に子供達含む、現地民の一部にはまだ『修羅』の名前は色濃く残っている。
「そうだぞー。ん?あのマーク.......」
軍曹は戦闘を駆る双発の無骨な見た目をした輸送機の下に、何やら金色の紋様を見つけた。その紋様は何かの地図を背にしたアリコーンと、その下にある2本の刀と一挺の拳銃という物。見間違いようが無い。この世界で、そんな紋様を掲げているのは1つしかない。
「アレは神谷戦闘団の機体だぞ.......!」
「かみやせんとうだん?」
「修羅の軍だよ!お前達が大好きな神谷浩三・修羅が率いる、世界で一番強くて、カッコよくて、自由な軍団だ」
「あのひこうき、シュラが乗ってるの!?」
「あぁ!アレだけの大編隊だ。絶対に乗ってる!!」
軍曹がそう言うと、子供達は喜んだ。みんなが編隊に向かって手を振る。その姿は、神谷の乗る機体が確認していた。
「お、団長団長。これ、見てくださいよ」
「なんだどうした?」
「アルーの街に、ほら。子供達が我々に手を振ってくれていますよ」
この時、偶々攻撃士官がマニュアル照準用のカメラを操作しており、そこに運良く子供達の姿が映り込んで、それを攻撃士官が見つけたのだ。それを神谷が聞いてしまうと、今度はサービス精神が顔を見せる。
「機長、もう少し高度は下げられるか?できれば子供達が、我々をしっかり見える高度がいい」
「お安い御用ですぜ。あ、そうだ。どうせなら、子供達の上でロールでもキメやしょう!」
「よーし、やっちゃえ機長!!」
「ウィールコ!あージェネラルトランサーより、全ての突空へ。下で子供達が目を輝かせながら、我が編隊を見ている。という訳でサービスタイムだ。俺の合図で全機ロールしろ」
機長もノリッノリで無線で指示を出し、他のパイロット達からも聞くからに悪戯を仕掛ける前の子供のような声色で返事をする。神谷戦闘団は色んな意味で自由なのだ。
「よーしそんじゃ5秒前!4、3、2、1、Cue!!!!」
機長の合図で全ての突空が、寸分の狂いなく右にロールした。それを見た子供達は大興奮である。
「すごーーい!!!!!」
「クルッてまわったよ!!!」
「わたしたちがみえたのかな!?」
「ははは.......まさか.......」
この軍曹はアルー奪還作戦に於いて、皇国と共に戦っている。神谷戦闘団と直接共闘はしていないが、それでも遠目から神谷戦闘団の戦いぶりも、一時的に駐屯していた日常も見ている。あの軍団なら、なんかやりかねないと思いながら子供達を部屋へと戻すのだった。
さて。ちょっとしたサービスという名のお遊びを挟んだが、今は曲がりなりにも作戦中。その後は特にふざける事はなく、神谷と向上は情報整理や最終的な戦術の確認をしていたが、他の護衛剣士の2人を含む兵士達は、適当に雑談をしながらヒノマワリ王国を目指していた。だがそんな空気も、神谷が入って来た事で一気に切り替わる。
「野郎共、時間だ。間も無く攻撃が開始される。装備、武器の最終チェックを行え」
その一言で兵士達の目つきが変わった。さっきまでの和やかな空気はどこへ行ったのか、今は張り詰めた糸のような緊張感が漂っている。この空気の変わりように、護衛剣士の2人も内心では驚いていた。
「お嬢さん方。まずはコイツを耳に付けてくれ」
「これは?」
「小型のマイクフォンだ。コイツがあれば戦場で、俺達と相互に通信できる。もしも互いに不測の事態が起きたとしても、連携できるって寸法だ」
2人の白亜衆の隊員が、フィームとアキナに最低限の装備を付けていく。因みに2人の自前の装備は白を基調とした金のラインが入った、スタイリッシュなデザインをした鎧で、背中には真紅のマントを羽織っている。武器は金の装飾が入ったロングサーベルである。尚2人には、インカムとメットのAR投影機能を装備したコンタクトレンズを装備してもらう。
他の兵士達は自らが装備する銃にマガジンを差し込んで初弾を装填し、グラップリングフックとジェットパックの動作をチェックする。白亜のワルキューレ達も自らの装備をチェックし、神谷も自身の装備チェックに入る。
「.......データリンク完了。問題無し。グラップリング、正常に稼働。ジェットパック、問題ない」
神谷は全てのチェックが完了すると、座席の下から桐箱を取り出した。紫色の紐を解き、中からいつもの羽織を取り出して機動甲冑の上から羽織る。
「ねぇねぇ団長さん。その紫色のはなに?」
「羽織だ。この羽織は大日本皇国が主、天皇陛下より賜った品であり、皇国一の剣の使い手に贈られる物だ。
なんて、かなり重苦しく言ったが、これは旗印だ」
「旗印?」
「この羽織を俺が纏う限り、そこが神谷戦闘団の居場所だ。そして団長たる俺が先頭に立ってこそ、後に続く団員達は力を発揮できる。将軍とか長官とか団長とかの前に、1人の戦士として戦場に立ち仲間を鼓舞する。それが俺の役目だ。この羽織はその導となる」
神谷が前に立って戦い続ける限り、神谷戦闘団は負けていない。例えの途中に戦死者が続出していようと、たった1人になろうと、戦い続ける限り神谷戦闘団は永久に負けは無い。いつもの羽織は、その導となるべく神谷が着用しているのだ。
他の突空でも準備がなされる中、戦闘機隊は一足先にハルナガ京へと前進。爆撃に移る。同時刻 ヒノマワリ王国 ハルナガ京
「明かりが少なすぎる。これが首都か?まったく、早く帝都の本省勤務になりたいものだな」
制統府を訪れていたグラ・バルカス帝国外務省のダラスは仕事を終え宿泊先のホテルへ歩いて向かっていた。ハルナガ京は首都というのにグラ・バルカス帝国に比べると遙かに明かりが少ない。空気は澄み、星は夜空にちりばめた宝石のように美しかった。しかも今宵は月が明るいため、町は月明かりに照らされる。だが、いかんせん街灯なんかの灯りは無く、帝国の片田舎の辺鄙な農村でも街灯くらいはあるのに、かたや蛮族の首都はこの有様。哀れでならない。
「しかし、やはり帝国はすごい。辺りの建物に対して遙かに重厚で、品がある」
支配後に作られた統制府庁舎はハルナガ京の中では異質だが、ダラスとしては慣れ親しんだ帝国式の建造物。重厚感の中に気品を備えたデザインは、一種のアートとすら形容できる。野蛮な現地民には到底理解できないだろうが、この世で最も優れた建築様式であろう。
そんな事を考えながら1人ニタニタしていると、街のあちこちで爆音と閃光が轟いた。
「な、なんなのだ!!」
逃げ惑う市民の中、ダラスはただ1人呆然と立ち尽くしていた。ただぼうっと、爆発の煙と赤く照らされる夜空を見る事しか出来なかったのだ。
だが暫くすれば、ショックから立ち直り思考が巡りだす。方向から見て、恐らく爆破されたのは全部対空砲のある辺り。しかも一斉に爆発しているので、何かしらの事故とは考えにくい。となればこれは攻撃。そしてこんな事を出来るのは、世界広しといえどたった一国。大日本皇国である。
「.......逃げなくては」
そう結論が出ると同時に、ダラスは走り出した。人に弾き飛ばされ、石段に躓いて転んで、泥と血に塗れた踏んだり蹴ったりの状況でも、生き残る為に恥も外聞もかなぐり捨てて森へと走った。
『ロングレンジ部隊!上出来だ、対空砲は全て煙を吐いているだろうな。全く、窓がないのが残念でならないよ』
「それなら俺達が、高解像度カメラで映像を送ってやろうか?」
『カウント、俺の食欲を減らしたいのか?』
『アンタは食欲減らした方がいいんじゃないか?』
『確かに、この間も「手頃なフィンガーフードがない」って愚痴っていたもんな』
ロングレンジ部隊恒例、誰かをいじり倒す時間がやって来たらしい。いつもはカウント辺りがターゲットになるが、本日はロングキャスターらしい。ロングキャスターいじりに他部隊の連中も加わって、空の上はかなり賑やかになった。
だが地上はもっと賑やかになる。何せ、彼らが暴れるのだ。地上は鉄風雷火吹き荒れる、お祭り騒ぎとなるだろう。
「ジェネラルトランサーよりオールトランサー!突撃開始だ!!全ての突空は我に続け!!!!!」
ここでC2鐘馗、C3屠龍は編隊から離れる。流石に街中にとかを降ろすと、確実に一般人も巻き込んでしまう。砲兵隊と機甲部隊はハルナガ京付近の平原に降下し、そのままハルナガ京へ進撃する手筈だ。
一方の歩兵部隊はそのままハルナガ京内部へ突空で乗り付けて、そのまま都市を制圧する作戦を選択している。
「見えた!ハルナガ京だ!!」
「よーし野郎共、時間だ。暴れるぞ。後部ハッチ解放!」
突空はハルナガ京外縁部に降り立ち、ここで歩兵部隊を展開する。降下した神谷戦闘団の面々は各々の担当地区を制圧次第、一斉に統制府へと進撃する事になっている。
「行くぞ続け!!」
「団長に続けぇ!!!!」
「突撃ぃぃぃぃ!!!!!」
神谷を先頭に、白亜衆と赤衣鉄砲隊の面々が突っ走る。このまま搭載は庁舎まで走って行ければ苦労はないが、そこは帝国も迎撃の部隊を展開している。流石に何の抵抗もせずに統制府を明け渡すほど、帝国軍兵士も馬鹿じゃない。
「突っ込んでくるぞ!!」
「バカめ!!!!重機関銃で蜂の巣にしてやる!!!!!」
最初に接敵したのは、重機関銃と軽機関銃を数多く保有する機関銃小隊である。しかも短時間で築き上げた簡易的な物ではあるが、しっかりとした要塞陣地もオマケで付いてきている。普通の歩兵なら圧倒的弾幕の前に倒れて、屍の山を築き上げる事だろう。
「撃てぇ!!!!」
だが皇国ならその限りではない。発砲される前に装甲歩兵が前に出て、後続の歩兵部隊の盾となる。
「HAHAHAHAHAHA!奴ら、何も知らずに撃ってきやがるぜ!!」
「装甲歩兵を舐めるなよ!!!!」
装甲歩兵が装備する装甲甲冑であれば、たかだか重機関銃の7.7mm弾程度は単なる豆鉄砲。精々装甲をカンキン鳴らす楽器位にしかならない。
「お返しだ!!!!」
帝国兵が使った重機関銃は大口径機関銃ではなく、小口径の固定式機関銃の方である。先述の通り、弾丸は7.7mmのライフル弾だ。一方の装甲歩兵が装備しているのは、35式七銃身5.7mmバルカン砲である。所謂ミニガンな訳で火力、速射性、威力の全てで帝国の重機関銃を凌駕する。
「うおぉぉ!!!!」
「伏せろ伏せろ!土嚢に身を隠せ!!」
即座に帝国兵も土嚢の後ろに隠れるが、生憎と攻撃しているのはミニガン。これがアサルトライフルや軽機関銃だったなら、それでもよかっただろう。だがミニガンは圧倒的な速射性を誇る。例え土嚢に隠れていようと、その土嚢が防ぎきれない量の弾丸が襲い掛かる。1発1発は威力が低くとも、それが秒間で数千、数万、あるいはそれ以上の数が一斉に着弾すれば、土嚢も意味を為さない。
「ガッ.......」
「なんだよこの弾幕!!」
「土嚢を貫通するなんて聞いてないぞ!!」
「クソっ!」
1人の兵士が土嚢の隙間から、ライフルを構えて装甲歩兵の戦列に向かって撃つ。だがその弾丸が当たったのか、そもそも届いたのかわからず、逆に何万倍もの弾丸が襲い掛かる。
「ッ」
「ひいぃぃぃ!!!!」
勇敢な兵士は頭を、顎の上から全部失って、土嚢が仕切る奥側へと力なく滑り込んできた。脳髄と血肉と血液が両隣の戦友に降り注ぎ、彼らは悲鳴をあげる。だが数刻後にはその悲鳴ごと、弾丸の嵐に掻き消されて遂に聞こえることはなかった。
「装甲歩兵はこのまま派手に暴れて敵を引きつけろ。歩兵はこのまま、機動遊撃戦を持って敵を各個に撃破する。行くぞ!!」
神谷の指示に白亜衆と赤衣はグラップリングフックを用いて屋根に上がり、一般の兵士達はジェットパックで空を飛ぶ。フィームとアキナはアーシャとミーシャが担いで、屋根まで登らせた。
「あ、あはは。人が生身で空を飛んでる.......」
「あれは魔法.......なのか?」
「魔法じゃないよ。科学の産物で、ジェットパックって言うんだよ詳しい仕組みは知らないけどねー」
レイチェルのあっけらかんとした回答に、2人はただただ混乱していた。流石にムーに加え、グラ・バルカス帝国と大日本皇国という存在により、科学技術が魔法技術よりも格下という発想はない。だがそれでも、生身で人が空を飛ぶのは魔法としか言いようがないのだ。
まだ尻の下に箒があったなら、どうにか説明ができた。実際、第一文明圏のアガルタ法国には、箒で空を飛ぶ熟練魔導士達がいる。だがその彼らも「箒だと魔力の燃費が悪いから、ワイバーンに乗った方が楽」と言う。更に言えば魔法を使って生身で空を飛ぶのは、まず不可能であると言っていい。種族的特徴として翼を持つ種族でもないと生身で空を飛ぶなんて芸当はできない。だが目の前に広がるのは、精鋭とは言えど一般の兵士が空を飛び交っている姿。もう無茶苦茶である。
「ちょっと、何ボーッとしてるのよ!おいて行くわよ!!」
「あ、あぁ!」
「ごめんねエリスちゃん!」
呆気に取られていた2人もエリスの声で現実に戻り、ついでに気も引き締め直す。これ以上戦場で無様は晒せられない。
「おっとぉ、下にお客様だ」
神谷の一言で全員の空気感が変わった。見れば下に、200人ばかしの帝国兵がいる。どういう指示が出るのかフィームとアキナが待っていると、神谷と向上だけが何も言わずに屋根から飛び降りていった。
「ヒャッフゥゥゥゥゥ!!!!」
セリフだけ見ればマリオだが、マリオとは似ても似つかない叫び声を上げながら、神谷が1人目に喰らいつく。真上から全体重×重力の加速で強化された一撃が、1人の兵士の脳天に突き刺さった。
更に向上もお得意の2挺拳銃で4人を即座に撃ち抜き、帝国兵にパニックを引き起こさせる。
「正義の味方御一行様のご到着だ」
「帝国兵は直ちに道を開けなさい。もしくは自決なさい」
「.......殺せぇ!!!!」
少し遅れて、帝国兵の誰かがそう叫んだ。次の瞬間、一斉に弾丸が飛び交い出す。だがそれを2人は諸共しない。
「狙いが粗い。素人丸出しは、早死にの元だ!!」
「んなへなちょこ弾で修羅のタマが取れるか!!!!」
神谷は敵を切り伏せ、向上は26式拳銃を乱射して敵を瞬く間に喰らい尽くす。既に初動で2人を取り囲んでいた20人は、もう物を言わぬ死体となっている。対する2人は返り血に塗れ、まるで地獄の悪鬼そのものだ。
「さぁ、次は誰が相手をするんだ?」
「我々を前に、無駄な抵抗は無意味な事。さっさと自決なさい。若しくは戦って死ね」
「コイツら.......人間じゃねぇ。化け物だ.......」
帝国兵の誰かが、ボソりとそう呟いた。帝国兵は全員が無意識のうちに、一歩二歩後ずさってしまう。生物が天敵を見つけたり、命の危機に瀕した時に発動する防衛本能が、目の前の2人を天敵ないし命の危機を与える存在だと認識したのだ。
この夜、ハルナガ京において、後に帝国の戦史に『地獄の一夜』として記録される戦闘に帝国兵は身を投じる事になった。断末魔の悲鳴が木霊し、鮮血の雨が降り注ぐ。その中でどの程度の帝国兵が生き残るかは、まだ誰にも分からない。