数週間後 パガンダ島沖25km 特務艦『スターダスト』
「後どのくらいだ?」
「およそ1時間。準備を、アルバート大尉」
「あぁ」
特務艦『スターダスト』。ぱっと見は帝国内にありふれた極普通の輸送船である。だがその正体はグラ・バルカス帝国情報省管轄の国家情報局の所有する工作船である。
通常の貨物船は大体平均13〜15ノットしか出せない所を、この工作船は軍艦と同様の30ノットを出せる。機銃弾程度には耐えうる装甲を施し、内部には漁船に偽装したボートを格納できる格納庫を有し、野戦砲や対空砲、機関銃架を装備している。
「おぉ、大尉殿」
「ウォスカー。時間だ、準備しろ」
「はいはい。にしても今回の任務、薬を打つだけって逆に怪しいぜ?」
アルバートとウォスカー。この2人に課せられた任務は、例のアンブレラ作戦で使用する秘薬、もう面倒なので便宜上ゾンビウイルスとしておくが、このゾンビウイルスを適当な民間人に投与する事である。
このコンビはこれまで様々な困難な任務を切り抜けてきたベテラン工作員であり、常に危険度の高い任務や優先度の高い任務に割り当てられてきた。しかし今回は、言ってしまえば適当に市民とっ捕まえて注射プス。これで任務完了である。簡単すぎて、逆に色々考えてしまうのだ。
「ウォスカー。気持ちはわかるが、俺達は工作員だ。命令通りに仕事をこなすだけだ。そこに関してとやかく言う権利はない」
「まぁ、そりゃそうだ。ほんじゃま、とっとと終わらせて帰るかな」
「あぁ。俺達なら簡単な任務だ。早く終わらせよう」
アルバートとウォスカーはボートに乗り込み、パガンダ島内の有りふれた漁港に暗くなるのを待って入港した。そのまま近くの村に忍び込み、機会を待つ。
「はぁ〜ぁ。はよー帰りゃにゃ、おっかぁにしかられっぺ」
恐らく猟師か何かなのだろう。弓を持った老人が、まあまあの大きさの鳥を2羽担いで歩いてきた。即座にアルバートが背後に忍び寄り、首を締め上げる。
「ぐげぇぇぇ.......」
「お見事」
「ウォスカー、このまま運んでくれ。俺は後、10人ばかし狩ってくる」
アルバートはそう言い残すと、夜闇に消えていった。数時間後、アルバートは荷車に人をまるで物の様に乱雑に乗せて合流地点に現れた。
「これはまた、かなり大量に持ってきたな」
「当然だ。そういう任務だろう?」
「そりゃそうか。そんじゃとっとと、そこら辺に並べてくれ。コイツを投与する。後はコイツらを適当な街道に放置して、俺達はトンズラだ」
2人は手早く注射でゾンビウイルスを投与すると、適当な街道に昏睡している市民を配置してから離脱し、ボートに乗って『スターダスト』に帰還。
帰還後、イルネティア島に進出していたベガ型爆撃機が飛び立ち、パガンダ島の指定座標にゾンビウイルスを搭載したガス弾を投下していく。当初は噴霧機を使う予定だったが、これでは効果範囲が狭いため、より広範囲をカバーできるガス爆弾を使用することになったのだ。これによりパガンダ島は完全なる地獄と化し、各地でゾンビ化した市民や一部軍人は暴徒となって無差別に襲い始めた。
数日後 究極超戦艦『日ノ本』 中央作戦室
「ジョー、配置艦隊の状況は?」
「はっ。既に第三主力艦隊から派遣された艦艇が近海を封鎖しており、援軍及び脱出を阻止できる体制が整っております」
「よろしい」
パガンダ島がゾンビパンデミックで地獄になってるなんて知る由もない神谷ら攻略部隊は、揚陸艦や『日ノ本』に分乗しイルネティア島南西50kmの海域を航行していた。
「最終偵察の報告は?」
「間も無く無線が入る予定です」
なんて言っていると、丁度偵察機からの報告が来たのだが、その声は何かよからぬ物を見つけてしまった時の様な声である。
『か、閣下。パガンダ島にて、暴動が発生しています』
「暴動?反乱が発生しているのは好機じゃないか」
『い、いえ。それが、どういう訳か一部の住民と軍人が、同じ住民と軍人を襲っているのです!しかも片方は武器を持っていますが、大半が殴るとか蹴るではなく、噛みつきにかかっていて』
送られてきた映像には、確かに報告通りの惨状であった。片方は軍人であれば当然銃を持ち、民間人はそこら辺に転がっていたであろう角材や材木、恐らく何かのパーツであったろう鉄棒なんかで戦っている。が、もう片方の勢力は殴る蹴るではなく獣の様に噛み付いて攻撃し、腕をムチの様にしならせてはたく様に攻撃しており、その様はまるでゾンビ映画のそれだ。
『CICより中央作戦室!パガンダ島より無線傍受!島内にて狂人化した軍民間人による暴動が発生しており、傷を負った者も暴徒化するとの事です!!』
この2つの報告に、部屋にいた全員が顔を見合わせた。明らかにこの感じ、ゾンビ映画かバイオハザードのそれである。
「長官。これって、アレですよね?ゾンビパンデミック、バイオハザード的なアレですよね?」
「そうだよなぁ。明らかにそれだよなぁ.......」
生憎と、今日に至るまでゾンビパンデミックは二次元世界でしか発生していない。こっちのリアルワールドでのゾンビパンデミックなんて、いくらなんでも想定していない訳で流石の神谷と向上、そして『日ノ本』の幕僚達も頭を抱えていた。
「取り敢えず、だ。何が原因にしろ、大体こういう時は生化学兵器とか、未知のウイルス兵器とか、古代ウイルスの変異体とかが原因だ。今回は何が原因かは知らんが、負傷した者からゾンビ化、いや。暴徒化するって言うなら、ウイルスとかの可能性が高い。
どういう感染経路が分からない以上、パガンダ島への上陸作戦は延期だな。向上、大宮の中央特殊武器防護隊。アレこっちに回せ」
「了解!」
「ジョー。封鎖線を更に強固にしておきたい。仮に船舶、航空機がキャリアーにでもなれば事だ。以降、パガンダ島から出発する機体、船舶は引き返させろ。もしもの場合、武力を持って阻止して構わん」
「アイ・サー!」
「加藤。艦載機部隊で周辺を哨戒させろ。怪しい船舶、航空機、何か見つけられるかもしれん。そこから情報を手に入れられれば万々歳だ」
「アイ・サー!」
「宗谷。予定を変更し、上陸後はそのまま海中に身を隠せ。緊急時はこの艦が頼りだ」
「アイ・サー!」
指示を受けた幕僚達は、素早く動く。とは言え神谷も含め、かなり不安を抱えている。それを少しでも薄れさせる為、仕事に打ち込むのだ。
「戦略切り替えるかなぁ」
こうなってしまった以上、戦略も切り替える他ない。神谷は現有戦力と後方に残している戦力と敵戦力を見比べて、戦略と今回の作戦に参加する兵力を調節していく。
「こんな所か?」
参加兵力
大日本皇国軍
◯イルネティア島攻略部隊
・神谷戦闘団
・第二海兵師団
◯パガンダ島攻略部隊→待機部隊
・第七海兵師団
◯攻略支援艦隊
・究極超戦艦『日ノ本』
・第三、第八揚陸艦隊
・鳳翔型 3隻
・摩耶型 3隻
・浦風型 6隻
・神風型 6隻
・第三前衛潜水戦隊
◯封鎖艦隊
・第一、第二、第五潜水戦隊
・第三前衛遊撃艦隊
◯支援航空隊
・AC140 10機
・第九○八〜第九一一航空隊
・第一○○三〜第一○○九航空隊
◯現地部隊
・ICIBエージェント 60名
・JMIBパラミリチーム 20名
グラ・バルカス帝国軍
◯イルネティア守備隊
・ブル軽戦車 120両
・軽戦車シェイファーII 320両
・レトレバー中戦車 80両
・中戦車ハウンド 230両
・ドーベル重戦車 45両
・自走砲アシッド 180両
・シェパード装甲車 200両
・シェパード装甲車対空型 70両
・シェパード装甲車ロケット砲型 50両
・シェパード装甲車自走砲型 85両
・シェパード装甲車指揮通信型 10両
・トラック 120台
・ジープ 284台
・バイク 80台
・側車 35台
・150mm榴弾砲*1 60門
・105mmカノン砲*2 80門
・80mm野砲*3 129門
・80mm機動野砲*4 78門
・長75mm野砲*5 112門
・47mm対戦車砲*6 157門
・25mm機銃 147基
・25mm連装機銃 84基
・25mm三連装機銃 98基
・12.7mm重機関銃 146挺
・7.7mm重機関銃 285挺
◯イルネティア航空隊
・アンタレス型戦闘機 120機
・シリウス型爆撃機 150機
・リゲル型雷撃機 90機
・シュリアク型爆撃機 20機
◯イルネティア防衛艦隊
・オリオン級 2隻
・ペガスス級 1隻
・アルドラ級 1隻
・タウルス級 4隻
・レオ級 6隻
・エクレウス級 3隻
・キャニス・メジャー級 15隻
・水雷艇 30隻
・駆潜艇 20隻
・輸送船 15隻
・タンカー 20隻
ご覧の通り、お互いガチ編成である。衛星と偵察機からの情報では、沿岸部にはシェイファーIIとハウンドが固定砲台として運用されているらしく、さしもの皇国軍とて無策に突っ込めばかなりの被害を被るだろう。
皇国軍が最も危険に晒されるとすれば、それは上陸中である。幾ら歩兵戦闘車程度の戦車でも、歩兵には十二分に通用する上、例え46式戦車だろうと上陸用舟艇ごと沈められては手も足も出ない。しかし戦艦は今回連れてきていない上、この『日ノ本』も上陸部隊を展開したら海中に身を隠す。となると航空機で徹底的に爆撃する他ない。
「失礼します」
「どうした向上?」
「防護隊からの報告をお持ちしました。展開までは、最短でも4日から1週間は掛かるとの事です」
「そんなに掛かるか?」
幾ら中央特殊武器防護隊が他よりも特殊とは言え、流石にちょっとかかりすぎである。ムーまでは空路で1日あれば到着するので、準備を含めても2日か3日あれば到着できる筈だ。
「いえ。戦線への到達自体は2日もあれば完了するらしいのですが、そこから除染準備やパンデミックへの対応などを考慮すると、その位は掛かるそうです。向こうとしても、未知の生化学兵器の可能性が高い以上、万全の準備と支援体制を取りたいとの事でして」
「まあ背に腹は変えられない。そういう事なら、こちらは一度イルネティア島解放に注力するとしよう。裏を返せば、1週間もイルネティア島攻略に使えるんだ。ラッキーと思おう」
1週間もあれば、イルネティア島程度の島、簡単に解放できる。しかも今回は現地民の多くは、こちら側についてくれている。JMIBのパラミリチームが既に軍事教練を施し、こちら側についている各集落や街にはICIBエージェントが先んじて潜入し、連絡役を担ってくれる。
作戦が開始されれば元々中枢に潜り込んでるエージェントが動く手筈だし、パラミリチームも全ては無理でも1チーム位は動ける筈だ。それに現地民ゲリラは撹乱に使え、ゲリラでなくとも普通の一般人も買い物ついでに情報を集めて来てもらう事も出来る。「どこどこの街に、なんか軍人が多く出入りしていた」とか「こんな連中を見かけた」なんて情報でも、こちらとしては大助かりである。運が良ければ、食料や医薬品の支援も受けられる可能性すらある。この戦争、これ程やりやすい事はない。
『艦橋より中央作戦室。間も無く作戦ポイントです』
「どうやら時間らしい。行くぞ」
神谷と向上は艦艇部にある、ウェルドック区画へと降りる。既にウェルドックの上にある車両格納区画から、ウェルドック区画に車両が降ろされており、現在は艦艇への積み込み作業と固定作業が行われていた。
「オーライオーライオーライ、ストーップ」
「戦車入れるぞ下がれ下がれ」
「よし。コイツはオーケーだ!次の来い!」
その上では天井に吊り下げられたLCHHに、装甲車と兵員の搭載作業が行われている。このLCHHは新たに開発されたLCUの後継であり、LCUと同程度の搭載量と、それ以上の速度と武装を備えた所謂水中翼船である。
更に今回は新兵器、ALCACとHLCACも搭載してきている。ALCACは重武装重装甲のLCACというかホバークラフト艦とでも言うべき兵器であり、70mm機関砲も全方位多目的ミサイルランチャーすら備えたLCACである。HLCACはぶっちゃけ巨大化しただけのLCACなのだが、コイツは一つだけヤベェ機能がある。それが…
「オラ退け退け!!46式のお通りだぁ!!」
皇国最強の陸の王者、46式戦車が搭載可能なのである。これまで海兵隊では34式戦車は運用できていたが、46式とその相方である34式戦車改はLCACに搭載できなかった。しかしHLCACの登場により、海兵隊でも46式の打撃力を運用できる様になったのだ。
ただでさえ戦車は厄介だと言うのに、その戦車を破壊どころか踏み潰し、戦車砲を軽々と弾き、戦艦並みの大砲を備えた戦車が上陸してくるとか控えめに言って最悪この上ない。尚、HLCACの武装は機関銃程度な上、洋上から流石に主砲をぶっ放せないので、もし46式が乗ったHLCACが現れたらHLCACごと沈めよう。ALCACに乗せられていた場合は、まあ、辞世の句を詠んだ上で現実逃避しよう。
「浩三よ、遅いぞ」
「アーシャか。準備は?」
「無論できている。他の姉妹達も準備完了だ。さぁ、早く行こう」
アーシャを先頭に、今回乗り込むALCACに向かう。途中、乗り込み作業中の兵士達が敬礼で3人を迎えてくれる。それに歩きながら返礼する訳だが、進むごとに道が勝手に開けられていくのでまるで観閲式みたいになる。だがそんな普通では、なんだか神谷戦闘団らしくない。神谷はALCACのタラップに足を掛けた時、後ろを向いて兵士達の顔を見る。
「野郎共!!準備はいいか!!!!!!」
「「「「「応!!!!!!」」」」」
「戦意は十分か!!!!!!」
「「「「「応!!!!!!」」」」」
「暴れるぞ!!!!!!!!!!!!」
「「「「「応ぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」」」
これでこそ神谷戦闘団である。兵士達の顔付きが一気に自信に満ち溢れた顔付きになり、心なしか作業能率も上がっている様に思える。神谷がALCACに乗り込むと、奥から奈良山がやってくる。
「流石ですぜ団長。兵士の士気が上がってる」
「あぁ、これこそ神谷戦闘団の真髄だろう?」
「ははっ。違ぇねぇや」
奈良山は当然ではあるが、機動甲冑ではなくデジタル迷彩が施された通称『戦車服』を着用している。この服は装甲車、戦車、自走砲の搭乗員が着る服であり、大破した時に引っ張り出せる様、服自体に取っ手が付いている。更に長時間座っていても疲れない様、電気マッサージ機能が付いていたり、不意の衝撃から保護する為にプロテクターも入っている。
靴も緊急時に脱ぎやすい様に、ファスナーとマジックテープで止める戦車靴という特殊な物だし、ヘルメットも首まで覆い枕がわりにもなる特別性である。ゴーグルには甲冑と同じ様に車両のダメージなんかの分かるHUD機能が搭載されており、性能的には甲冑にも劣らない代物だ。
「それで、何か用か?」
「.......パガンダ島、何が起きました?」
「マジな話、何が何やら。取り敢えず様子見だ。だが俺達は、イルネティアの後はその何が何やら分からない戦場の、その最前線に殴り込むだろう」
「おぉおぉ、怖い怖い。怖いんで俺は、戦車に引っ込んでますよ」
神谷戦闘団の中でも、奈良山と海原の2人は勘が鋭い。副官で最も近くにいる向上ですら気づかない事でも、この2人は普通に気付く事がある。今回のパガンダ島の件も、神谷戦闘団の人間で知ってるのは向上だけで、他はまだ伝えていない。上陸後に伝えはするが、今は知るよしがない。にも関わらず、神谷に聞いてくる辺り軽く恐ろしいすらある。
だが2人とも言えるのは、必ずneed not to knowの原則を一応は守ってくれる。知りたがりで聞きはするが、あくまでそれだけ。そこから話を広める事も、こちらが本当に隠したい時は聞いてくる事もない。
「長官、そろそろ」
「もうそんな時間か。そんじゃま、始めるか!」
神谷と向上は、ALCACの艦橋に上がる。艦橋では既に艇長以下、乗組員達が配置についている。
「閣下、よろしくお願い致します」
「あぁ、こちらこそ頼む。俺達を地上に無事送り届けてくれ。君の責任は重いよ?もし途中で死んだら、二階級降格な」
「閣下。それは無理な話です。もし死んだら、今ここにいる者全員漏れなく三途の川を仲良く渡る羽目になるでしょうからな」
二階級降格なんて勿論冗談である。それを察した艇長は、すぐにそれに乗ってきて更なる冗談で返した。その結果、艦橋にいる人間からも笑みが溢れる。
「さぁ閣下。では、出航致しますよ。機関始動!空気注入開始!!」
「機関始動、エンジンプロペラ逆回転」
「空気注入口解放。コンプレッサー作動」
ALCACの後方から甲高くも、物凄い轟音が鳴り響き、徐々に船体が持ち上がっていく。エンジンの方は聞き慣れてはいるが、この艦がフワリと持ち上がっていく感覚はかなり変な感じだ。エレベーターとかで上に上がる感じではなく、結構不規則に持ち上がっていくのだ。バランス崩して倒れたりはないが、それでもやはり謎の浮遊感は違和感がある。
「こちらALCAC1号。出撃準備完了した」
『コントロール了解。ハッチを解放する』
通常の揚陸艦の後部ハッチと違い、この『日ノ本』は潜水機能が付いていたり単純に装甲が分厚かったりするので、ハッチは何枚も折り重なっている。まず観音開きで1番外が開き、そこから上下開きのハッチ、左右開きのハッチ、四隅開きのハッチが開いて、最後にスロープになるハッチが開くという、かなり大掛かりなプロセスを挟む。
だがそのハッチが開いていく様は、まるでSFのワンシーンの様にカッコいいというかロマン溢れるので、実はかなり燃えるシーン故か乗組員達には人気だったりする。
「ALCAC1号、出撃!!」
ALCACとHLCACがバックで続々と出撃していく。その数、ALCACが600隻、HLCACが800隻である。エアクッション艇の展開が完了すると、次は天井からレールがせり出してくる。レールが伸び切ると、天井に吊るされていたLCHHが射出されていく。着水寸前で水中翼を展開しながら海上に着水し、そのまま加速して上陸地点を目指す。
さらにこれに呼応して、他の揚陸艦隊からも同様に上陸部隊が出撃し、空母と強襲揚陸艦からは戦闘機隊とヘリコプター部隊、そして『日ノ本』からはトランサーのAVC1突空が飛び立つ。ヘリコプターとトランサーの目的は語るべくもないが、戦闘機隊に関してはかなり重要な役目を帯びている。というのもこの上陸作戦で、皇国が最も警戒するのは水際防衛と艦隊である。再三語っている通り、上陸用舟艇、今回で言えばHLCACやLCHHに搭乗している間は基本身動きが取れないな上、そもそもの船が装甲も薄ければ武装も貧弱である。ALCACは別だが、それでも防衛艦隊が出張ってきたら流石に、大立ち回りして掻い潜る事はまず不可能だ。そこでまずは、この艦隊と沿岸の防衛設備を一掃する。
『デッドアイより全機。仕事の時間だ。港の全てを破壊せよ。どうせ皇国とは技術レベルが違いすぎて、残ったところでマトモに使えるのは殆どない。先にこちらで壊してやろう』
「聞いたな馬鹿共。攻撃開始だ、続け!!」
戦闘機隊が群れをなして、イルネティア島東部のイースティリア港に殺到する。その翼下や胴体には、ミサイル、爆弾、ロケットが大量に抱えられており、イースティリア港程度であれば簡単に血祭りに挙げられる装備だ。
同時刻 イースティリア港 監視塔
「最近、ムーの方はヤバいらしいな」
「えぇ。噂じゃ、ここを拠点に反攻作戦に出るとか」
「そんな余力があるのかねぇ?」
「上はカバル殿下の敵討だって燃えてるらしいです。最も、陛下や軍の高官の殆どは防衛戦に舵を切るつもりらしいですけどね」
「おぉ、流石は方面総監の息子だ。その手の話は情報が集めやすいらしいな」
2人がいるのは港の監視塔であり、本来なら双眼鏡片手に海や空を見張らなくてはならない。だがこの2人は普通に仕事そっちのけで雑談をしており、完全に弛みきっていた。次の瞬間、GB8流星が命中。500kgの爆弾が、監視塔の上部フロアを完全に吹き飛ばし2人は何が起こったか知る間も無く消し飛んだ。
この攻撃を合図にするかの様に、港には空母艦載機隊が雲霞の如く殺到。いつも通りの日常が続くはずだった港を、一瞬で地獄の戦場に変えた。
「敵襲ー!!!!!」
「対空戦闘用意!!!!」
「走れ走れ!!銃座に取り付け!!!!」
港では怒号とサイレンと対空戦闘用意のラッパが鳴り響き、一気に大騒ぎとなる。兵士達は兵舎から飛び出して銃座に滑り込み、弾薬庫を開けて換えのマガジンやら何やらを引っ張り出す。
陸で大騒ぎの中、洋上に浮かぶ艦隊も同様に動き出す。こちらもラッパが鳴り響き、水兵達が銃座に滑り込む。
「缶の出力上がらずとも、ここで戦うぞ!!給電急げ!!!!」
「艦長!上陸してる者はどうされますか!?」
「もう間に合わん!艦内の手空きの者は、直ちに銃座に付けろ!!上陸してる者は各自の判断で、港湾守備隊の指揮下に入り全力で港を守るのだ!!!!」
「了解!!」
動くまでに時間が掛かる大型艦と違い、駆逐艦や水雷艇の様な小型艇はすぐに動き出し、戦闘を開始する。だが音速を超えて飛ぶジェット機相手に、手動の機関砲では照準が追いつかない。
「手始めに駆逐艦からやるか」
駆逐艦程度であればASM4の様な対艦ミサイルを使わずとも、AGM103旋風の様な対地ミサイルで事足りる。素早く主砲と魚雷発射管、それから煙突と艦橋に照準をロックして旋風を撃ち込む。
「ふ、噴進だ——」
「ヒュー、ビンゴだ」
元は戦車を破壊する為のミサイル。駆逐艦程度であれば、武装を破壊する事だって余裕だ。しかも主砲と魚雷という、火薬てんこ盛りの部分がやられたのだ。大爆発を起こした上に、艦橋が吹き飛んだ事で艦長以下、幹部連中は軒並み戦死。更に煙突がやられた事で機関室にはガスが充満し、たった数秒で駆逐艦は地獄となる。
「は、班長!!」
「情けねぇ声出すな!!まだコイツは沈まな、うおっとぉ!?」
「また爆発してます!魚雷の方がやられてるんですよ!!艦も傾斜してますって!!」
水兵達は右往左往するばかりで、教科書通りの混乱を引き起こしていた。その内、弾薬庫にも火が回り、着弾から1分としないうちに大爆発を起こした。
「駆逐艦がやられた!!」
「正面から来るぞ!!!!撃て撃て!!!!!」
駆逐艦以下の装甲しか持たない、というか何ならほぼゼロと言っていい水雷艇や駆潜艇は、機銃掃射で事足りる。20mm機関砲弾が毎秒何百発とばら撒かれるのだ。一溜まりもない。
「おー、意外と綺麗な物だな。海に花が咲いた」
『いやいや。その下、ミンチと化した兵士の遺体ありますからね?』
「ミンチは遺体って言えんのかねぇ?」
パイロットの言う通り、爆発の下ではミンチや焦げた肉片となった水兵達が泳いでいる。お陰で魚が嬉々として集まって食べ始めており、かなりのトラウマ映像となっている。まあ戦闘の最中なのだ。敵も味方も、そこまで気にする奴はまずいないし、海中の中は見えない。
「燃料貯蔵施設を守り抜け!!ここがやられたら大爆発するぞ!!!そしたらみんなお陀仏だ!!!!!」
港北部には巨大な石油タンクがあり、艦艇に搭載するための重油や航空機、車両の燃料がぎっしり詰まっている。つい数日前にタンカーが入港した事で文字通り満タンになっており、今ここで流れ弾でも当たれば大爆発を引き起こし、パイプで隣接しているタンカーも爆発する可能性すらある。
だから帝国兵も何が何でも守ろうとするが、そんな美味しい獲物をパイロット達は見逃さない。
「キャンプファイアーの時間だぜ!!へへっ、食らってみろや!!!!!」
翼に取り付けられた100mmロケット弾が、燃料タンクに突き刺さる。大量の可燃物およびガソリンの様な爆発物の中に、ロケット弾が突入すれば大爆発を起こすわけで、攻撃を受けた燃料タンク爆発。そのまま周囲の他の燃料タンクやオイルフィルターなんかにも連鎖的に爆発を起こし、タンクとパイプで繋がっていたタンカーにも炎が逆流して爆発。今度はその爆発が周りの輸送艦にも飛び火し、ラッキーパンチが続いて大戦果を挙げた。
「消化急げ!!!!」
「うおっ弾けた!!」
「油だ!!この炎、油なんだ!!!!水じゃだめだ!!!!!」
「どうすんだよこれ!!!!!」
油に引火した場合、水をかけると逆に弾けて炎が飛び散る。ご家庭でももし揚げ物中に引火した場合は、鍋や蓋で蓋をするか、濡れたタオルなんかを押し当てて消火するといい。
だがこれは、揚げ物程度の規模だから行える技な訳で、船を覆う火災ではそんな事は出来ない。もうボヤとかそんなレベルの話では無いくらい大炎上している。本来なら泡とかで消火するのだが、そんなご大層な物は輸送船には無い。
「あっちぃ!!!」
「壁や手すりに触るな!!!!火傷するぞ!!!!!」
しかもこれ最悪なことに被弾ではなくとばっちりの火災、言うなれば貰い火なので、船自体に沈む程のダメージはない。無論、機関室とかに巡って爆発を起こせばその限りでは無いが、現状はそこまででは無い。
だが輸送船だろうと、所詮は海に浮かぶ鉄の塊。金属には熱を伝える性質があるので、既に艦の鉄製の部分は大体灼熱のオーブンの様に超熱々に熱せられている。既に靴の底のゴムが溶け始めている始末で、状況は最悪である。
「タンカーがまた爆発したぞ!!!!」
更にタンカーが爆発したことで、錨と舫い綱が破損。そのまま輸送船は海流に合わせて、海を漂い始める。
「ッ!!!?舵故障!操舵不能です!!」
「何だとッ!?!?」
しかもよりにもよって、舵が壊れてしまった。今の輸送船の状況は機関停止状態で舵が効かない、艦の此方彼方に炎を纏った船である。
何の因果か不幸は続く物で、なんと海流の流れ的に戦艦に進路が固定されてしまった。舵が動けば回避できるかもしれないが、舵はぶっ壊れ機関は動くまでにそもそも半日掛かる。もうどうしようもない。
「お、おいっ!!アレこっちに来てないか!?!?」
「うおっ!!マジだ!!!!」
戦艦の方もそれに気付いたらしいが、もうどうしようもない。戦艦も今すぐには動けず、回避は間に合わない。お互い何もできず数分後、輸送船と戦艦は衝突。そのままお互いに破口が形成され、海水が艦内に流入。沈み始める。
「戦艦と輸送船が沈むぞ」
『こりゃスクラップ会社の株を買うべきかもな』
『あ、サルベージ会社も買っとけ。多分引き上げんだろ。世界にとっては、宝の山だしな』
パイロット達は呑気な会話を無線で言い合っている。襲撃からものの15分足らずで、イースティリア港は既に壊滅状態である。海には油が流入した上で引火し、文字通りの炎の海が完成する始末。軽く地獄だ。特に水雷艇と駆潜艇乗りは最悪である。
「ア“ ア“ ア“ ア“ ア“!!!!!!」
「あぢぃ!!あぢぃよぉ!!!!」
服や船自体に引火し、反射的に海に飛び込むが炎の海である以上、飛び込んだ側から重油に塗れながら焼かれる。そのまま火を消そうと海の中に潜っても、全く消えない上に油がまとわりついて身動きが取れない。これに加えて火傷で肌が引き攣って、余計に動けず沈んでいく。完全に地獄の責苦だ。
『フィナーレだ。幕を下ろせ』
「了解だデッドアイ。全機、海山のロック解除。撃ち尽くせぇ!!!!」
8機のF8C震電IIから、合計48発のASM4海山が放たれる。極超音速の異次元の速度で艦隊に迫る。当たれば最後、一撃で巡洋艦クラスなら轟沈せしめる威力のミサイルが群を成して襲いかかっていく。極超音速にミサイルという小型の目標を、人の目では捉える事はまず不可能だ。しかもステルス性能がついている上に、海面スレスレを飛翔してくるので、帝国のレーダーでは捉える事もまず不可能。帝国には存在しないが、仮にECM戦を用いてもECCMで無効化できる。
オマケに今回は、弾頭を月華弾に換装している。エコ・ニュークの異名を持つ、伊邪那美弾頭にも使われているデモリッシャーガスを封入した燃料気化弾だ。その熱は戦艦の装甲だろうと、ドロドロに融解せしめる。ASM4は港にいた艦艇に着弾し、次々に起爆。周辺施設諸共灰燼に帰し、海に沈んでいく。
『ミッションコンプリート、RTB』
デッドアイからの無線に、全機が高度を取りつつ編隊を組み直し、他の航空隊よりも一足先に空母への帰還の途につく。
一方、南部のサーザン港には、第三潜水戦隊が迫っていた。
「潜望鏡深度まで浮上」
「メインタンクブロー」
艦長が潜望鏡を覗き込む。周りに敵艦は居らず、目の前の港に情報通り艦隊が勢揃いであった。しかも全艦、魚雷の攻撃範囲にしっかりいる。
「魚雷戦用意。発射雷数10」
「アイ・サー。魚雷戦よーい、魚雷戦よーい。発射雷数10」
魚雷室では魚雷が発射管に装填され、蓋が閉まる。後は注水してしまえば、いつでも撃てる状態だ。
「発射管注水、完了!」
「撃て」
放たれた魚雷は有線誘導で、港に停泊中の艦艇目掛けて疾走する。内燃機関を備えた魚雷は窒素が排出され航跡が見え、酸素魚雷だったとしても最初の方なんかは航跡が見えてしまう。だが皇国の場合「俺達のひい祖父さんとかひいひい爺さんは、酸素魚雷を作ったんだ。なら俺達は、水素魚雷作ろうぜ」となり、マジで水素魚雷を作り上げてしまった。その為、排出されるのは水であり、航跡は一切見えない。そんなチート魚雷を放たれては、攻撃されたことに気付く事はない。
「続けてミサイル発射管解放。10発撃つ」
「アイ・サー。ミサイル発射管、解放!」
「撃て」
魚雷に続き今度は艦後部に搭載しているミサイル発射管が開き、中からカプセルに収まった対艦ミサイル虎徹が飛び出す。海面に出るとカプセルが割れ、虎徹のエンジンに点火。飛翔を開始する。
魚雷の着弾より遅れる事数秒、虎徹も港に着弾しサーザン港の機能は完全に喪失。イルネティア解放の狼煙はイースティリア港、サーザン港の壊滅と、そこに駐留する防衛艦隊の全滅を持って上がった。
今回新たに登場した兵器群は、設定中に追加してありますのでぜひご覧ください。また、今後時期を見て設定集の中規模アップデートを計画中です。新たに部隊規模項目の追加を検討しておりまして、現在鋭意製作中です!続報をお待ちください。