数時間後 メーリーン航空基地 正面ゲート
「止まれ!!」
もうすぐ夜明けだろうという頃、1台の車が神谷戦闘団によって占領されているメーリーン航空基地にやって来た。その車は帝国が使う、ジープに相当する車だ。機関銃が据え付けられている訳ではないが、それでも敵の可能性はある。
門兵の叫びに、ゲート近くで待機していた兵士達が続々と中から飛び出し、即座にライフルを車に向け、スポットライトの光も向けられた。
『そこの車のドライバー。エンジンを切り、ゆっくり降りてこい。敵対行動を取った場合、即時射殺する』
車のドアが開けられ、中から人が降りて来た。だがその格好は帝国兵や現地民でもなく、明らかに皇国軍兵士の格好であった。
「私はJMIBエージェント、エフィメラ!直ちに神谷閣下とお会いしたい!!」
その言葉に兵士達も驚いていたが、1人が判断を仰ぐ為に神谷の元に走った。普通に睡眠中であり、爆睡していたが叩き起こされてこの状況の報告を受ける。
「どうされますか?」
「取り敢えず会議室に通せ。俺はぁぁぁ。着替えるわ.......」
未だ頭が回転してないが、取り敢えず自動運転でコーヒーを淹れてカフェインをキメる。苦味で少しは目が覚めるが、それでもやはり本調子ではない。
だがそれでもどうにか頭を回し、素早く着替えて会議室へと向かう。会議室前にいた兵士に、コーヒーを頼んでから部屋に入る。
「閣下、朝早くから申し訳ありません」
「全くだ。折角夢の中に居たんだだがなぁ?
なんて、嫌味を言うつもりはないさ。お前が来たってことは、作戦中に何かあったんだろ?それもとびきり重要な事が」
「はい。これをご覧ください」
そう言ってエフィメラが取り出した、例の二つの書類である。作戦当初のお目当てだったアンブレラ作戦概要書、それから見つけてしまったプラミティーバ・フランマ計画の書類である。
「アンブレラ作戦はいいとして、なんだこのプラミティーバ・フランマ計画というのは」
「解読員に頼まなければ詳細は分かりませんが、とどのつまりウラン採掘計画です」
エフィメラの報告に、神谷は言葉を失った。だが一方で、神谷の思考回路が即座に繋がり考え始める。だがこれは、かなり厄介な代物だ。三英傑で話し合いを持たなくてはならないだろう。
「誰か!解読員叩き起こしてこい!!コイツをすぐに翻訳させろ!!!!」
「了解!」
「エフィメラ、何か掴んでいる事はないか?」
「いえ。ただ分かるのは、このイルネティア島にウラン鉱山があり、帝国はウランを集めている。これしか分かりません」
この後エフィメラからもう少し報告を聞き、それから捕虜を引き渡されて、1時間程度で自分の分隊に戻っていった。更に数十分後、ハスタム・ソリス計画についても報告が上がり、すぐに三英傑会議を行う事となった。
「グッドモーニング、お前達」
『国の為とはいえ、一応さっきまで俺寝てたからな?今日朝イチで閣議があんのに』
『俺、徹夜明け』
「悪いが、最悪その辺の予定はキャンセルだ。かなりヤバい事になってる」
『なんだぁ?ゾンビパニックがそっちでも発生したか?』
一色の半分冗談の発言に、神谷は静かに首を振る。この行動だけで2人も、マジの案件でありおふざけ要素を突っ込む隙すらない事案であると分かり、顔色が変わった。
「昨夜、JMIBのエージェントが作戦を行った。当初はゾンビパニックについての情報収集だったが、その時にヤバいものを見つけた。帝国はこのイルネティア島でウラン鉱石を採掘し、核を開発しているそうだ」
『おいおいそいつは.......』
『道理で朝早く起こす訳だ』
普段軍事に疎過ぎる一色も、ヤバい事はわかる。というか一色の場合、核抑止論だけはしっかり理解している。核のトリガーを任せられているだけあって、こと核兵器関連に関してはちゃんと知っているのだ。
「流石に設計だとかは分からなかったが、どうやら奴らはイルネティア島でウランを採掘し、本土に輸送。本土の極秘施設で作っているそうだ。とは言えまだ何処までの代物かは分からないが、恐らくかなり完成に近いだろう」
『おいちょっと待て。それは少しあり得ないんじゃないか?』
『健太郎、どういう事だ?』
『アメリカのマンハッタン計画に於いても、本格始動したのは42年。手探りではあったとは言え、あの工業力チートのアメリカを持ってしても約3年の月日を掛けて漸く完成させている。
だが帝国は負け続きかつ、資源もかなり他の部分に持っていかれてるはずだ。にも関わらず、イルネティア島占領から暫く経ってからと言っても、もう完成できる代物か?』
マンハッタン計画では多数の人員、資源、資金を投じても、本格的にプロジェクトがスタートして3年掛けての完成であった。確かに帝国も出来なくは無いだろうが、恐らくウランもイルネティア本来の文明レベルから考えても占領後暫くして発見したものと思われる。となれば少しばかり勘定が合わなくなってくる。
「健太郎の言う通りだ。恐らく本来なら、まだ完成にまで漕ぎ着けてないだろう。だが奴らには教材があった。傍迷惑国家こと、ラヴァナール帝国。あそこが使っていたとされるコア魔法の実物を、奴ら何処かで入手していたらしい。
後はそれをリバースエンジニアリングで構造を解析し、それを魔法から科学に置き換えていったそうだ」
『またあそこか.......』
『ホント、何してくれてんだ』
そう。ハスタム・ソリス計画の書類によると、帝国の核開発計画は何処かから掻っ払って来たコア魔法を分解、解析し、それを元に原爆を作るという物らしい。そのコア魔法がどの程度の技術レベルかは分からないが、それでも恐らく原子爆弾系統ではあるだろう。
『浩三。もし完成したとして、考えられる攻撃地は?』
「東京、オタハイト、ルーンポリス。慎太郎なら、言わずとも分かるだろう?」
『.......あぁ』
介入以来、常に全戦全敗させられて来た最強国家たる大日本皇国。現在の最前線がある第二文明圏の盟主的存在であり、皇国を除けば軍事面での主敵たるムー。世界を我が物顔で牛耳る、この世界に於けるアメリカ的存在たる神聖ミリシアル帝国。この3国の首都である以上、狙う理由としては充分だ。
「とは言え、恐らく東京というか本土はあり得ない。帝国相手では完璧にして鉄壁の防衛網がある上、奴らは一度大編隊を向かわせるも殲滅させられている。流石にリベンジしてくるなんて展開はまず無いだろう。
となると可能性として高いのは、ミリシアルとムーだ。ミリシアルに落とせば「あの世界の盟主ですら、灰燼と化してしまうのか」的な世論が各国で巻き起こり、一気に戦意を失わす事が出来るだろう。ムーならば、単純に前線に穴が開く。そこを攻めれば、戦線の打開とか色々できるだろう」
『慎太郎、外交官としてはどうする?』
『無論ムーとミリシアルとは言わず、主要各国に周知させるべきではある。とはいえ、現状では余りに情報が少なすぎる。どの程度完成しているか分からない以上、イタズラに情報を広めては混乱して逆効果だろうな』
『浩三。奴らが核を使うとして、考えられるプラットフォームは?』
「空爆、自爆、砲撃、後は専用の超大型魚雷を作るか。考えられるのはこの辺だろう。流石にICBMやらSLBMはない筈だ。尤も、パーパルディアの時みたいな遺産を発掘していたら、流石にその限りじゃないがな」
コア魔法に関しては前例がある。かつてのパーパルディア戦役では、切り札としてICBM型コア魔法が秘密裏に隠されており、それを皇国に対して放っている。転移国家であり異世界の土地は占領地しか無いとはいえ、パーパルディア皇国にあったのと同じ遺跡がある可能性も低い確率ではあるが存在する。
「念の為に確認だが、もし仮に皇国に核攻撃を仕掛けて来た場合はどうする?」
『結果に関わらず即報復するつもりだ。常にケースは持ち歩いているしな』
皇国には現在『核の四本柱』と言うのが存在する。第一に本土に配備されているICBM。第二にローテーションで近海に24時間365日潜んでいるSLBM搭載タイプの伊1500号型原子力潜水艦。第三にA9ストライク心神、若しくは超重爆撃機富嶽IIに搭載する航空機搭載型の核爆弾。そして第四に日本近海に配備されている提灯と伊2000号型原子力潜水艦の核砲弾である。
更にこれに加えて、皇軍増強計画にて建造中の宇宙軍事要塞にも核は搭載される予定であり、完成すれば五本柱として報復を行う事が出来る様になるのだ。
『.......なぁ、お前ら。俺ちょっと、考え付いた事がある。だがこれ、これでは言いたく無い。直接会って、話したいんだが』
『こっちは別に国内にいるし、外交で動く事もないが浩三が問題だな』
「少なくともイルネティアとパガンダが片付かないと、そっちに帰還できないだろう。その後でいいか?」
『あぁ。別に今日明日落ちる訳じゃ無いんだ。構わない』
一色が何を思い付いたかは知らないが、取り敢えず方針は決まった。となればこちらは、急いでイルネティアとパガンダの問題を片付けなくてはならない。
回線を切り、すぐに幹部達を招集。無論寝てるものもいるが、他の兵士に頼んで文字通り叩き起こすなり、冷や水をぶっかけるなりして無理矢理起こして集めた。
「全員、揃ったな?」
「あのですねぇ団長。朝っぱらから部下に氷水ぶっかけられ、ついでに犬のうんこを鼻の周りでぶらんぶらんされた俺の気持ち分かりますか?」
「.......海田?」
「はい.......」
海田宗吾。遠藤の部下であり、かなり腕の良いロケラン使いである。が、かなりドS。ドSが服を着て歩いてる様な男である。おふざけ要員筆頭であり、日常のゴタゴタに首突っ込んでたり問題の元凶だったりすることの多い奴だ。
名前が銀魂の沖田総悟と似ている事も拍車をかけており、稀に沖田と言われる事もある。
「まあ、お疲れ。うん。だが今回文字通り叩き起こしてでも集まって貰ったのは、お前達に共有しておきたい情報があるからだ。
昨夜のエージェントによる作戦の結果、帝国がウランを採掘し核を開発していることが発覚した」
さっきの遠藤の話で明るかった空気は一片し、全員が驚愕と少しの恐怖を混ぜたような顔をしている。軍人としてこの世界に身を置いている以上、核の恐ろしさは嫌というほど知っている。それを開発しているという話は、流石に驚くなと言う方が酷という物だろう。
「ほな団長。作戦を何処か変えるんどすか?」
「いや、このまま行く。ウラン鉱山の調査も解放後、もし時間があればパガンダ島上陸前にやるって感じだ。核自体も当然だが帝国本国でやってるみたいだし、流石の俺たちも手出しはできない。そもそも何も今日明日落とす訳でもないしな。
とは言え、開発施設の場所、戦況、進み具合によっては、俺達神谷戦闘団が殴り込む可能性も有り得なくはない。気にするな、と言うつもりはないが、取り敢えずイルネティアとパガンダの一件が片付くまでは、頭の片隅に追いやるなり忘れるなりしてくれ」
この後いくつか質問が出たりしたが、会議はそのまま今日の作戦に関する話へとシフトしていき、朝食を摂りながらの会議となった。因みにメニューは至ってシンプル。トーストとバター、それにダブルエッグの目玉焼きにウィンナー4本である。
どうやら目玉焼きに何をかけるかの話になり、塩派、コショウ派、塩胡椒派、醤油派、ケチャップ派、ソース派、何もかけない派で別れたとか何とか。
数時間後 メーリーン航空基地より数十キロ パラティア村
「大変だ大変だ!!!!」
「どうした?」
1人の中年農夫が、村の集会所に飛び込んできた。中には大勢の人間がおり、机には周辺の地図が広げられている。中にいる男達も皆、鎧やら防弾チョッキを着ており、かなり重武装だ。
彼らは反乱軍、キルクラス同盟のメンバー達だ。本日正午、各地で一斉に反乱を起こす手筈となっている。今はその最後の作戦会議中なのだ。
「む、向こうの丘に、帝国の連中が大量にいるぞ!!しかも例のセンシャを持ってやがる!!」
彼らの脳裏に、数ヶ月前にやってきた皇国のエージェントを名乗る男が行った訓練の座学の記憶が蘇る。
『いいですか。この戦車という兵器を見つけたら、直ちに逃げなさい。歩兵は太刀打ちできません』
『何故だ?』
『弾丸を弾く装甲に、人を轢き潰すには十分な重さ。それに戦車を破壊できる大砲。これと戦うのは愚かな行為。どんなに聞き分けのない駄犬だろうと、必ず避ける存在。それが戦車です』
授業の中で彼。コードネーム、オープンフェイスはそう語った。オープンフェイスはかなりキツイ、というか偉く見下した言い方をしてくる男であったが、その指導は効率的かつ合理的であり、一才の無駄が無かった。ただ、毎回かなりイラついた。
それは置いておいて、オープンフェイスは同じ授業の中でこうも言っていた。
『しかし、もし万が一、逃げられない場合。その際は死ぬ覚悟で戦いなさい。対戦車ミサイルを撃ち込むか、爆弾を投げ込むか、もしもの場合は爆弾を抱えて戦車の下に滑り込み、自爆すると良いでしょう。そうでもしなければ、勝てる相手ではありません』
幸い、対戦車ミサイルとやらをオープンフェイスの部下、アイスワームという男が持ってきてくれた。弾薬もたんまりある。アイスワーム曰く「コイツなら例え正面から撃ち込んでも、物によれば一撃で破壊できるだろう」と言っていた。つまり倒せる可能性は0ではない。
「やろう。戦車を壊すんだ!!」
「そうだ!彼が俺たちの、祖国を取り戻す第一歩だ!!」
男達は口々にそう言うと、拳を高く掲げる。これまで帝国には何度も苦しめられてきた。友人、親兄弟、恋人、妻、我が子。殺されたもの、慰み者にされた者、追い詰められて自殺した者、苦しめられて人としての尊厳もなく死んでいった者。たくさん見てきた。今更自分が死ぬくらいで躊躇する様な、そんな正常な判断を下さる時ではない。戦って、例え自分が死のうと仲間に希望を託し、王国から帝国を叩き出さねば、明日はないのだ。
「待って!」
その時、このむさ苦しい集団の中にいた可憐な少女が声を上げた。金色の長い髪を後ろで結び、軽い化粧をしているが防弾チョッキを見にまとった勇ましい姿の少女である。
「どうしたんだライカ?」
「そのセンシャ、わたし。いや!わたし達に任せてくれないかな?」
「まさか、イルクスを使うのか?」
「そうだよ。イルクスなら、センシャでも倒せる!!」
ライカの言うイルクスとは、彼女が保護して育てた竜の事である。イルネティア王国侵攻時、共に飛び立ちアンタレス戦闘機を6機撃墜する戦果を上げるも、多勢に無勢で迎撃されてしまい、生き残りはしたがお互い重傷を負った。
しかし今では完治し、イルクスもさらに成長して強くなっている。それに元より戦車自体、航空機からの攻撃には弱い物だ。流石にライカ含め、それは知らないが戦術的にもイルクスという航空戦力を用いた戦車への対応は正解と言えるだろう。
「.......わかった。だが無茶はするなよ」
「分かってるよ。じゃあ、行くね!」
ライカは集会所を飛び出し、村の通りを抜けて裏手の山の方へと走る。この山の麓にある洞窟に、イルクスは身を隠しているのだ。ライカは洞窟に入ると、一切の迷いなく奥へと突き進む。
『ライカ。どうしたの?』
「イルクス、あのね。村の近くにセンシャが一杯いるの。センシャを倒さないと、わたしの村が滅んじゃうかもしれない。お願い、また力を貸して」
『わかった。さぁ、背中に乗って!』
イルクスはのそのそと外へと這う様に出ると、翼を大きく広げた。ライカはその背中に飛び乗り、いつもの跨る場所に鞍を付けて固定し手綱の代わりに握るロープをイルクスの身体に巻き付ける。
「準備できたよ!」
『わかった。行くよ!!』
イルクスは助走をつけるべく地面を蹴り、そのまま大空へと飛び立つ。その姿は伝承に聞く極帝と見違う程に美しく、また同じくらい勇ましい姿であった。
『それで、センシャは何処にいるの?』
「えーと確か.......向こうの丘の方!」
『わかった。じゃあそっちに行くよ』
農夫の言っていた丘の方に向かうと、そこには無数の戦車軍団がいた。戦車だけではない。兵士は勿論、装甲車やテントなんかもある。だがそんな普通に目視で見える距離に竜が来たとなれば、兵士達も対空砲や機関銃に滑り込み、そのまま攻撃を開始する。
「撃ってきた!」
『少し荒っぽいけど、突っ込むよ!しっかり掴まって!!』
イルクスは翼を翻し、急降下しながら近づく。そして口から雷属性のビームを吐き出し、一帯を焼き払う。数千℃のプラズマは離れた戦車にも感電し、内部の搭乗員を蒸し焼きにし、塹壕にいた兵士達も感電する地獄絵図と化し、ほぼ一撃の下に完封して見せた。
「前よりも威力が上がってる.......。すごいよイルクス!!」
『ありがとう。でもまだ、終わってないよ』
イルクスの視線の先から、独特の甲高くも地響きの様に重い音が聞こえてくる。ライカもイルクスも、この音によく似た音を知っている。自分達を撃墜した、帝国の戦闘機のエンジン音だ。
イルクス自身、前の戦いから数年経ち、身体もより大きく頑強になり、新たに雷属性の魔法も使える様になった。これまでの風魔法もより強力な物になっているし、そもそもの魔法を制御する技術も格段に上がり、例えまたあの戦闘機が相手であろうと遅れを取るつもりはない。しかしそれでも、イルクスとて生物。かつて自分を死の淵に追いやった物への恐怖は、拭いきれてなかった。
「大丈夫だよ、イルクス」
微かに震えている事に気付いたライカはそっと背中に触れ、そのまま抱き締める。さっきまで心を恐怖が支配していたが、ライカが触れて抱き締めてくれると、不思議とそういうのは消えていった。
「わたし達なら、きっと大丈夫。今度こそ、アイツらを倒そう!」
『うん。そうだね、行こう!』
イルクスは音のする方へ向き、そのまま加速する。だがイルクスとライカが強くなった様に、相手もまた強くなっているのだ。アンタレスよりも武装、速力、強度、機動性の全てに於いて性能が向上したアンタレス改がイルクス達の相手だ。向こうもそう簡単にやられる相手ではない。
暫く進むと、お互いの目視圏内に姿が入ってきた。戦闘機隊も、イルクスとライカも、互いにヘッドオンで始めるつもりだったらしく、そのまま真正面から突っ込み合う。だが次の瞬間、アンタレス改のいる場所に水色のビームが降って来た。
「なに今の!?」
『そんな.......あり得ない.......。何でここに.......』
「イルクス!?ねぇ、どうしたのイルクス!?」
今の攻撃で前衛の4機は消し炭となり、残る機体も散り散りに散開してとにかく距離を取る。4機が消し炭になった場所には、真上から真っ赤な巨大な竜が突っ込んできて、そのまま次の獲物を狙うべくアンタレス改の真後ろに食らい付く。
「友よ!!後ろから狙われておる!!!!」
「任せろ!!」
戦場に飛び込む無茶を仕出かしたのは他でもない。この世にいる全ての竜を統べ、竜種の頂点に君臨し続ける最強にして唯一無二の神竜。竜神皇帝『極帝』と、その盟友たる神谷のコンビだ。
正面の機体は極帝が担当し、後方等の死角は神谷が担当する。今回は大量の33式携行式対空ミサイルを持って来ており、これを使えばほぼ確実にアンタレス改を叩き落とせる。
「ロック!堕ちろ!!」
「我がブレス、心して食らうが良い!!!!!!」
極帝のブレスはいつもの魔力ビームではなく、より高スパンで放てる炎、雷、風の魔法を使ったブレスである。威力は弱まるが、当たれば所詮はジュラルミンの塊でしかないアンタレス改は一溜りもない。
神谷の使う33式もロックオンすれば最後、アンタレス改程度の機動性では避ける事も不可能だ。例え奇跡的に最初を回避できても、そのまま追いかけて来るので最終的には命中するだろう。
「友よ!こうも数が多いと、中々勝負が付かんぞ!!」
「魔力ビームを使え!拡散させる!!」
「アレだな?心得た!!」
極帝はアンタレス改から少し離れると反転し、そのまま魔力ビームを放つ。その瞬間、神谷が手を伸ばして魔法を行使する。
「
魔力ビームの射線上に、巨大な半球の水晶の様な物が生成され、そこにビームが触れると一気に拡散し、正確にアンタレス改を追いかけて貫いていく。
「イルクス。あの竜は何なの?」
『あの竜は、きっと極帝様だよ。全ての竜を統べる、竜の皇帝。でも何で、極帝様は人間と共にいるんだろう?』
「そんなにおかしな事?」
『うん。極帝様は気高く孤高で、人間は勿論、同じ竜とも関わらない。だから凄く珍しい事なんだ』
神谷の前や神谷戦闘団の兵士達からはぶっちゃけ「喋る竜」位にしか思われてないが、この世界に於ける極帝とはエモール王国の面々の反応を見てもらえれば分かる通り神様同然なのだ。
同じ竜の中でも極帝は別格であり、一度極帝が号令すれば例え地の果てであろうと、全ての竜が極帝の元に馳せ参じる位には尊敬を集めている。イルクスからすれば、夢の様な一時でもあるのだ。
「掃除は済んだな。おっ、あそこにもお仲間がいるぞ」
「む?アレは神竜種か」
「神竜?」
「そうだった、お主は竜の事を知らぬのだったな。竜にも様々な種類がいてな。1番下がワイバーン。これが最も多い。その次が風竜等の属性竜。その次に亜神竜というのがおる。確かエモールの小童共が切り札として持っておる極みの雷炎竜とやらは、この亜神竜だ。
ここまでは番いから産まれるが、神竜からは自然に発生する。それ故にとても稀少であり、知能も人間のそれを上回る。その上には火、土、水、風、雷、光、闇の属性神王竜がおる。この属性神王竜は7匹しかおらん。そしてその竜達の頂点には、この我。竜神皇帝『極帝』がおる」
初めて竜の階級を聞いてみたが、かなり種類がいるらしい。他にも亜竜やら水竜やら、かなりの種類がいるらしく竜世界も色々あるそうだ。
「なぁ。今思ったんだが、その属性神王竜。会えたりするか?」
「友よ。既に我という最強がおるというのに、よもや属性神王竜に手を出すつもりか?」
「あー、まあ間違ってない、のか?俺が契約するんじゃなくて、アイツらに契約させたら良いんじゃねって思ったんだよ」
「ほう、それなら話は早い。ひと段落すれば試してみるとするか」
神谷の言うアイツらとは勿論、エルフ五等分の花嫁と三英傑の事である。エルフ五等分の花嫁は魔法という土俵で戦う以上、どうしても他の兵士達よりも科学技術の恩恵を受け難い。竜を味方につければ戦力アップにもつながるだろう。
三英傑の場合は、単純な抑止力として使える。近い将来。それも数年後の未来で、皇国はこの世界の表舞台の頂点に君臨する事になるだろう。だが生憎と皇国には魔法が無い以上、ミリシアルの様な分かりやすい魔法的な面の指標がない。ならば作ればいい。その属性神王竜とやらを詳しくは知らないが、きっと国際社会では旧世界での核兵器の様な抑止効果を期待できる。それに極帝を呼び出せたのだ。その格下であれば、恐らくまた呼び出せるであろう。
「そんじゃ帰るか」
「そうだな。この後も暴れるのだろう?」
「あぁ。こんなのは前菜ですらない。言うなれば食前酒の様な物だ。これからの戦闘こそ、フルコースの真の始まりだ」
その言葉に極帝は笑う。2人は当面の拠点であるメーリーン基地へと帰るべく、進路を変える。イルクスとライカは遂に極帝と、その背中に騎乗する者の正体は分からなかった。だがそれでも、一つだけ分かったことがある。騎乗していた者の背中には、金色の文字が書かれていた。しかもその文字自体は、村に来たエージェント達が使っていた者によく似ている。
「決めた。私、きっとあの人とまた会う。そして弟子にしてもらう」
『そっか。じゃあ今は、王国を解放しよう!』
「うん!戻ろう、イルクス!」
ライカとイルクス。後の世に『伝説の聖騎士と高貴なる神竜』として伝承に残るコンビの、初勝利はこうして幕を下ろした。