最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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第九十話バイオハザード・パガンダ(前編)

5日後 イルネティア島 メーリーン航空基地 執務室

「長官。ウラン鉱山の報告書です」

 

「あぁ」

 

早いもので、イルネティア島の解放から5日が経った。現在は残敵の掃討に移りつつも、新政府樹立に向けて動いている。既に皇国軍の出番は、殆ど終わった様な物だ。

だが今回は、ウラン鉱山の探索がある。戦闘から2日後には当該鉱山の調査に部隊を派遣し、かなりの情報が集まったとは聞いているが詳細はまだ神谷も知らない。

 

「採掘されていたのはウラン235と238であり、まず間違いなくヒロシマのリトル・ボーイと同じ、ウラン型原子爆弾でしょう。どうやらウランは既に帝国本土に大部分が輸送されているらしく、恐らく濃縮も本国で行っているのでしょう。輸送経路に関する文書も発見しましたので、分析すれば恐らく秘密基地の場所も判明するものと思われます。

しかし当面の問題は、こちらです」

 

「おいおいコイツは.......」

 

神谷の目の前に広げられたのは、数十枚の写真であった。その写真に収められているのは、ウラン採掘に従事させられたイルネティア王国の国民達。髪は完全に抜け落ち、黒い血を吐き、皮膚はパンパンに膨れていたり爛れてたりと、明らかに重度の放射能被曝を引き起こしている症状だ。しかもこれは、まず助からないレベルの重症。ここまで来たら、悪いがサクッと殺してあげる位が当人には楽な位、死ぬまで苦しみ続ける事になる。

 

「ご覧の通りです。島内各地にある、村から人が1人残らず消えたという話。どうやら、その答えがこれの様です。男はウラン採掘、他は人体実験に使われる様です。本部の資料を確認した所、本国の研究施設への輸送記録がありました。恐らく、ナチスドイツの様に様々な実験が施されるのでしょう」

 

「死んでいると思われているのが、果たして幸運なのか不運なのか。取り敢えず、ウチの部隊の軍医を連れてこい。出来れば放射能被曝に強い奴」

 

「対策会議ですね」

 

「あぁ.......」

 

形式上はそういう体裁を取るが、正直神谷としては皆殺しを視野に入れている。流石に本職の医者には負けるが、それでも放射能被曝の脅威は仕事柄独学で学んでいる。そんな偏った知識を持つ神谷から見ても、彼らの生存は絶望的なのが見てとれた。

今回の場合、ここにいる人間を王国は死んだと思っている。認識が早かっただけで、別に今死んだとしても結果は殆ど変わらない。ならば苦しまない様に、サクリと殺してやるのが彼らの為だとも思う。幸いこのイルネティア島は不安定かつ、今はまだ王国も皇国も目が行き届いていない。殺しても、その証拠の抹消や改竄は容易だろう。

 

「お呼びですか団長」

 

「来たな。早速だが、これを見てもらいたい」

 

「これは酷い。もう手遅れですね」

 

「あー。やっぱりそう言い切れるか」

 

軍医は写真を見るなり淡々と、そう告げた。最早、何も考えてないだろうと言わんばかりの高速解答である。

 

「これだけ皮膚が爛れてるっていう事は、既に染色体がやられてる証拠です。もう新しい皮膚が作れません。となれば、血液やら組織液やらの体液が体外に溢れ出し、あっという間に失血死です。輸血しようにも、今から間に合うかどうか。それならば、違法でも安楽死をお勧めします」

 

皇国の法律で、安楽死は既に解禁されている。だがそれは本人が望むか、一年以上の昏睡状態ないし植物状態かつ近親者の過半数が望み、尚且つ担当医師と担当外の医師、それから病院外の専門医が助かる見込みがないと判断した場合に限られる。

軍法では軍医の判断により、戦闘中はトリアージの一環として自決様の手榴弾等の配布、場合によっては他の兵士による殺害が許可される。だがそれはあくまでまで、大日本皇国軍人のみ。皇国臣民は該当するわけがない。まして他国の国民を殺すなんて、単なる殺人である。

 

「やはりな。.......お前、覚悟はあるか?」

 

「医者としては不合格でしょうし、人間としても外道でしょう。ですが彼らをもう、楽にしてやりたいです」

 

「いいだろう。哀れなウラン鉱山の鉱夫は、グラ・バルカス帝国が殺害した。せめてもの情けに、楽に苦しませずにな。君には軍医として、現場の確認をお願いしたい」

 

「了解!」

 

無論これは、神谷からの実質的な殺害命令である。普通に軍規違反かつ単なる殺人と殺人教唆だ。だがそうだとしても、その汚名を背負うだけの覚悟がある。

軍医は神谷の命令を遂行し、鉱山労働者達に安楽死で使われる毒薬を注入し殺害。死体は念の為、火葬の上で骨は近くの大木の根元に埋めた。せめてもの手向として、花と酒も添えてある。

 

「そうか。処置完了か」

 

『はい。成仏してくれる事を祈りますよ』

 

これでイルネティアでの諸問題は一先ず終わった。次に考えるべきは、パガンダ島。忘れている読者もいるかもしれないが、現在パガンダ島ではゾンビパンデミック擬きが発生している。これの調査、場合によっては鎮圧が今後の神谷戦闘団の目的になる。

既に皇国本土より放射能、生物兵器、化学兵器のスペシャリストである中央特殊武器防護隊が進出してきており、パガンダ島に投入予定だった第四海兵師団、究極超戦艦『日ノ本』が待機中である。また皇国本土から、もう一つの切り札も持ってきている。もしもの場合の最終手段まで準備してある辺り、神谷の身長っぷりがよく分かる。

 

「こーきゅん!全員準備完了よ!!」

 

「よーし。そんじゃ、バイオハザードの世界を探検するとしようか」

 

今回は神谷戦闘団全軍を投入する。白亜衆含む歩兵部隊はAVC1突空でパガンダ島に向かい、一部の機甲戦力も空路から空挺降下で向かう。だが大半は海路でHLCACやALCACといった舟艇に乗せて輸送する事になっている。

 

 

 

同時刻 パガンダ島 王都パーミンガム

「コイツら何なんだよ!!」

 

1週間ほど前から、パガンダ島は地獄になってしまった。人間や動物が突如凶暴化し、人を襲い始めたのだ。凶暴化した暴徒は、マトモな人間に噛み付いて攻撃してくる。噛みつかれれば最後、その者も暴徒と化し、さっきまで隣で共に戦っていた戦友だろうと、一緒に逃げてきた親や子であろうと、噛みついてくるのだ。

こんなゾンビ物のパニック小説の様な事態を前に、パガンダ島駐留部隊は効果的な対処はできず、司令官以下、幕僚達や各部隊の指揮官は軒並み戦死するか暴徒化するかして消息不明であり、今や判明している最高級者は第6歩兵中隊の中隊長、バーディー・ボイル大尉に委ねられる始末である。

 

「大尉殿!!ここはもうダメです!!!!」

 

「一旦退くぞ!!司令部なら取り敢えずは強固な筈だ!!!!」

 

「了解!!」

 

ボイルは部下達を引き連れて、壊滅した司令部に立て篭もる。中を掃除さえしてしまえば、軍用拠点なだけあって頑丈だ。それにボイルには直属の部下以外にも、ここに来る途中で合流した他部隊の兵士達に加え、行く先々で保護してきた帝国臣民と少数だがパガンダ島の現地民もいる。

今のボイルには元からの部下159名、合流した残存兵631名、帝国臣民及び現地民といった民間人126名の命が肩にのしかかっている。正直かなり重いが、そんな事をどうこう言える時ではない。指揮官として、軍人としての責務を果たすだけだ。

 

「大尉!軍曹!!早くこっちに!!!!」

 

「援護するぞ!!前進!!!!」

 

司令部から数人の兵士がボイルらの撤退を援護するために出てきて、適当にボイルの後ろを追いかけてくるゾンビに向かって撃つ。ボイルと軍曹が中に入ったのを確認すると、援護に出ていた兵士達も中へと戻り扉を固く閉ざした。

 

「大尉殿。その、街の方は?」

 

「ダメだ。どこもかしこもゾンビだらけだ。生存者も見つからなかった。他のチームは?」

 

「他もダメですよ。全く、このゾンビ共は一体.......」

 

「現地民も分からないんだったな?」

 

「そ、そうです。こんな事、生まれて初めてです。言い伝えにも無かった筈です。私共が知らないだけで他の集落に存在していたのか、記録が長年を掛けて消えたのか、それも今となっては.......」

 

現地民の男がそう言うのも無理はない。かつてパガンダ王国は、帝国の皇族を殺した。それも外交のために平和的にやってきたのだが、結局、色々吹っ掛けられた挙句処刑されてしまった。それ以降、帝国は積極的な拡大政策を取る様に今に至る。言ってしまえば今の世界で起きている世界大戦とでも言うべき戦争の、直接的な引き金となった事態を引き起こした国なのだ。

そんな訳でパガンダ王国は最初に攻め滅ぼされ、以来王国民は虐殺の憂き目にあった。だがその中でも、王国民に差別されていた側の原住民族達だけは、逆に帝国の臣民として生かされていた。元々、パガンダ王国に於けるヒエラルキーは王国民が上だった訳だが、今や帝国臣民、原住民族、旧王国民の順にひっくり返ってしまったのだ。

 

「少尉!この司令部に立て篭れるのは、後どのくらいだ?」

 

「建物自体はまだまだ持ちますが、食料が持って3日です。補給の目処がないとなると生存は絶望的かと.......」

 

「イルネティア島への連絡は?」

 

「ダメですね。どうやらイルネティア島はイルネティア島で、例の大日本皇国に攻め込まれた様でして」

 

援軍も補給も見込めないこの状況で、未だに反乱や暴動が発生しないのは、食料がしっかり配給されているからである。その希望の食料がなくなれば最後、内部で争って最終的に自滅するだろう。

 

「脱出するしかないか.......。使える兵器は?」

 

「幸い、車両と燃料は大量にあります。ここにいる全員を乗せても余裕があるくらいに。しかし問題は、ここから脱出できたとして、どうやって島から脱出するかですよ。所詮は島ですから、どの方向に進んでも必ず海に行き着く。そこから船で逃げられるかどうか」

 

パガンダ島は島だ。その為、その外に行くには船か航空機しかない。勿論この島にも両方ある。飛行場は大きいのと小さいのが1箇所ずつ、港は漁港が2つと大型の帝国が作り上げたのが1つだ。

ゾンビ発生時、この5箇所は即座に部隊が派遣され防衛体勢が引かれたのだが、飛行場は陥落し基地機能は喪失。航空機も燃えたらしく、飛行場の機能は完全に潰れた。漁港はそもそも派遣した時には既にゾンビだらけで近づけず、残る港は一時は防衛に成功するも結局は崩壊し生き残りもどうなったかは分からないらしい。

 

「偵察隊を出す余裕はないか.......。こうなったら見切り発車で、全員をトラックに乗せて港に逃げる。準備にかかれ」

 

「しかし、それでは例の変異体に襲われる可能性が!」

 

「どうせここにいても破滅を待つだけだ。ならば少しでも、生存の可能性がある方に賭ける。それに変異体と言えど、倒せない訳じゃない。やるしかない!!」

 

このゾンビウイルスにもそういう変異体は、ご多聞に漏れずしっかり存在する。例えば人型でありながら翼が生えてたり、一部が肥大化していたり、人型でありながら人間らしからぬ見た目だったりと、総じて気持ち悪い見た目な上に普通のゾンビよりも数段強い。物によっては、単騎で戦車を破壊する程だ。

 

「最新鋭の兵器が配備されてたのは、こちらとしても不幸中の幸いでしたね」

 

「そうだな。では諸君、旅の準備を始めよう」

 

「はい大尉殿」

 

司令部の地下駐車場から大量のシェパード装甲車とトラックを準備し、適当な武器や装甲を装備していく。特に今回は相手がゾンビなので、機関銃を大量に増設していき、ついでに有刺鉄線を張り巡らせたり、使わなくなった刀剣類を溶接したりして、突貫作業で対ゾンビ車両を作り上げた。彼らはこのトラックとシェパード装甲車に乗り込み、港を目指して司令部から飛び出した。

この数時間後、奇しくも目的地の港に彼らは上陸した。世界唯一の実戦経験を持つ中央特殊武器防護隊、世界最強にして転移以来、数多の戦場を駆け抜けている神谷戦闘団、海軍陸戦隊内の最恐部隊たる第四海兵師団。彼らはこの港を前線拠点とする事を決めたのだ。

 

「案の定と言いますか、何というか」

 

「ゾンビだらけだな」

 

「じゃあゾンビハントするか!」

 

帝国軍は手を焼いたゾンビだが、皇国の場合はゲームで嫌というほどゾンビの生態は学んでいる。無論それが本当かどうかは別として、戦闘のイメージは付きやすい。それ故に、かなり簡単に掃除ができてしまうのだ。

 

「あ、そっち行った」

 

「おりゃぁ!!!!!」

 

「わーお装甲歩兵恐ろしいー」

 

「頭かち割られてやんの」

 

「ひぃー、怖い怖い」

 

普通映画の中でもゾンビが現れたら……

 

大尉「ノーーーン!ゾンビだ!!!!!!」

 

軍曹「ジャック二等兵!!こっちだ早く!!!!」

 

ジャック「あわわわ」

 

ゾンビ「あ"あ"あ"あ"!!」

 

ジャック「ぎゃぁ!!いだい、いだいよぉ!!」

 

軍曹「ジャーーーック!!!!」

 

大尉「あいつはもうダメだ!!軍曹、退くぞ!!!!」

 

とまあ、こんな感じに歴戦の軍人でもパニックになったり、仲間が噛まれてゾンビ化したりと、かなり大騒ぎとなる。だがご覧の通り皇国の場合はまるで射撃演習の的を倒すかの如く、サクサクとゾンビを倒してしまう。というか何なら、味方の装甲歩兵の近接装備に倒されたゾンビの死に様がグロすぎて、逆にダメージを受けるとかいう訳のわからない事態が発生する始末だ。

 

「どうだこの、まぁゾンビでいっか。このゾンビくんの生態というか習性は?」

 

『我々の知るゾンビのイメージと変わりません。腕や胴体を撃った程度では死なず、首を切り落とすか頭を破壊せねば死なぬ化け物。武器は持たず噛み付くか、腕を振り回して薙ぎ払うかです。尤も、噛まれた後にどうなるかは分かりませんが』

 

「噛まれてゾンビになりゃ、目も当てられんからな」

 

『しかし検体は確保済みです。お客人に渡せば、何か分かりましょう』

 

五反田の報告を聞く限りでは、バイオバザードやらゲームのゾンビモードにあるイメージ通りのゾンビらしい。

 

「おーし野郎共ー。死体は1箇所に集めて燃やしとけー。融合して巨大ゾンビにでもなられたら、目も当てらんねーからな」

 

無いとは思いたいが、ゾンビが融合してデカいゾンビになるパターンは少なからず存在する。映画やゲームとは違い、今回は完全武装な上に戦車と戦艦すら備える戦力を持ってきている以上、全滅なんて事は無いと思う。

だがそれでも、そんな巨大ゾンビに出てこられては面倒だ。何より、何人死んでゾンビ化するか見当も付かない。

 

『こちらブラックスターロード。帝国軍部隊を補足した』

 

「ジェネラルマスターより、ブラックスターロード。編成は分かるか?」

 

『例のハーフトラックにトラック。かなりの数ですね。港湾地区に向かっています。どうやら、馬ゾンビに追いかけ回されてる様で』

 

「勝手に自滅してくれるなら、それで構わないんだが連れて来るのはアレだな。掃除するかな」

 

今回の目的はゾンビとこの原因を突き止める事。帝国軍との戦闘は積極的には行わない。だが、拠点に向かってくるというのなら潜在的脅威の排除として攻撃を行う。幸い、こちらにはグラディエイターヴィーナスの51式510mm自走砲を始めとした砲兵器が待機中だ。遠距離から一方的に対処できる。

 

「海原先生。お仕事のお時間ですよー」

 

「ほう。この雄山に仕事とな?よろしい、どの様な仕事かな?」

 

『ッ!?攻撃中止!!民間人を確認した!!!!』

 

「どういう事だ?」

 

『接近中の車両には多数の民間人を乗せている模様!!繰り返す!接近中の車両に民間人を認む!!指示を!!』

 

この世界にジュネーブ条約は存在しないし、こんな辺鄙な島で民間人に誤射しても誰も分からない。だが民間人がいると知っていながら引き金を引くのは、基本的にあってはならない。それを皇国軍がやれば、その時からもう皇国の軍隊でなくなってしまう。

 

「だそうだ。海原!攻撃準備のまま待機!!援護射撃に備えよ。全軍に告ぐ。戦闘用意だ。当港湾地区を暫定的な防衛ラインにて区切り、戦闘に備えよ。『日ノ本』にも連絡。戦闘配置のまま待機の上、こちらの要請に備えよ。ブラックスターロードは状況を動画にて共有し、追って指示あるまで待機せよ」

 

神谷の指示に各部隊が一斉に動き出す。幸い防衛線は帝国軍が残していったと思われる塹壕があったので、これを流用すれば問題ない。すぐに歩兵達が滑り込み、装甲歩兵がその前や後ろに陣取って備える。

 

「長官。ブラックスター隊からの映像ですが、かなり切迫した状況の様です」

 

向上から渡されたタブレットの映像では、かなりの数のゾンビに追いかけられている車列が映っていた。しかも普通のゾンビではなく、馬や狼、それから変異種と思われる翼が生えたタイプ、それに尻尾にサソリの尾を持ったデカい蚊のような虫、デカいバッタもいる。

そんなクリーチャー軍団がトラックを襲い、そのまま中にいる人間を貪り食っている。ゾンビに噛まれればゾンビらしいが、虫の場合は血を吸っているみたいで死体がゾンビになれないのもある様だ。

 

「エイティシックス、アサルトタイガー、ラグナロク出撃準備。救出に向かう」

 

「配置はどうされますか?」

 

「スピード命だ。ブラックスター隊を初手で突っ込ませ、アサルトタイガーが突撃。エイティシックスは右翼と左翼から遊撃しろ。ラグナロクはジェットパックで車列に近い奴のみを排除するんだ」

 

指示を受けた各部隊は直ちに前進。車列の救出に向かう。

一方その頃、ボイル率いる車列はそんな救援が来ているなんて梅雨知らず、とにかくゾンビに向かって銃を乱射しまくっていた。

 

「クソクソクソ!!撃ちまくれ!!!!」

 

「弾幕を絶やすな!!とにかく近づかさせたらダメだ!!!!」

 

「大尉殿!ダット曹長のトラックがやられました!!!!」

 

「クソッ!!!!!!」

 

ボイルは壁に拳を打ち付ける。既に8台のトラック、若しくは装甲車が襲われた。それに乗っているのが戦友だろうが民間人だろうが、助けを求める声を見捨てて車を前に進めさせてきた。

だが既に、万策尽きたも同然だ。何せこんなに追ってこられては、例え港についても到着した瞬間に襲われていくのが関の山だろう。かと言って、どうにかする方策もない。

 

「た、大尉!上空にオートジャイロです!!」

 

「オートジャイロだと!?」

 

帝国軍にもオートジャイロは存在する。だがそれは哨戒用の機体であり、航続距離も短くこんな所にいる筈がない。ボイルが双眼鏡で部下の指差す方法を見るとそこには、帝国のオートジャイロよりも遥かに洗練された黒いオートジャイロがいた。しかも胴体には、赤い日の丸が輝いている。

 

「大日本皇国軍が何故こんな所に!!!!!!」

 

ボイルは困惑するのと同時に、脳内にある一つの疑惑が生まれた。この惨状は大日本皇国による攻撃なのではないかと、そう思ってしまったのだ。

だがそんな事を考えている間に、上空のオートジャイロは高度をぐんぐん下げてこちらに突っ込んでくる。

 

「迎撃用意!!!!」

 

ボイルがそう命じた瞬間、オートジャイロは攻撃を開始した。後方に迫る、ゾンビの集団に向けて。

 

「な!?」

 

「大日本皇国軍機、ゾンビ集団に向けて攻撃を開始!!」

 

「我々を.......助けている?」

 

「そんなことがあるのか?だって彼らは、我々とは戦争状態なんだぞ?」

 

ボイル含め全員が困惑していると、車列の前方から兵士が空を飛んで接近してくる。すぐさま兵士達は銃を向けるが、ボイルは何か変な感じがして、攻撃を止めさせた。

 

「こないなゾンビ相手に、ようここまで大立ち回りをしたな。助けたるさかい安心しい」

 

「あ、アンタらは一体.......」

 

「大日本皇国統合軍神谷戦闘団白亜衆。アンタらには『修羅の軍』って言うた方伝わるかいな?」

 

全員が余計に困惑した。神谷戦闘団と言えば本格的に戦端が開かれる前に帝国領内に強襲して宣戦布告を行い、第二文明圏に出現して以降は戦線を押し上げ、更にはその指揮官はグラ・カバル皇太子殿下を殺害した帝国の敵だ。そんな帝国最大の敵が助けてくれるというのは、中々に怪しい。

 

「なんも助けた後に殺しはしいひんし、捕虜にもしいひん。ちゅうか殺すんやったら最初から、ちゃっちゃと大砲でゾンビごと焼き払うてる」

 

「なら何故、我々を助ける!!」

 

「わてらの仕事は戦争をする事。軍人は殺しても、民間人を喜んで殺す事しいひん。それになんか情報を持ってるかもしれへんやろ?」

 

「.......わかった。信じよう」

 

「大尉殿!それは流石に反対です!!」

 

ボイルの決定に、他の兵士達も意を唱える。だがそれでも、この状況下では敵だろうが何だろうが利用しなくては助からない。指揮官としてプライドよりも実利を優先したのだ。

 

「お前達の気持ちも分かる。だが、この状況で我々がなすべき事は民間人を助ける事だろ!!ならば敵だろうが何だろうが、プライドを捨てでも利用できるものは利用する!!!!」

 

「ええ判断や。アンタ、団長も気にいんで。ほなこのまま、港を目指して進め。殿はこっちで引き受ける。前だけ見て、なりふり構わへんで突っ走るんや」

 

「分かった。信じるぞ!!」

 

「うっとこ名に誓うて、背中から撃つ様な卑怯な真似はしいひん。行け!!」

 

車列は加速して、港を目指して突き進む。それをラグナロクの兵士達は見送るとゾンビに向き直る。

 

「にしても揃いに揃うて、きしょい見た目やな。美しないものは、死あるのみ」

 

「隊長。それ、どこの悪役ですか?」

 

「なんや似合わへんか?」

 

「俺達の白い機動甲冑はどっちかっていうと、そういう連中を倒す聖騎士側でしょうよ。悪役ムーブは他の奴に任せましょうや」

 

逃亡中の車列はゾンビに攻撃されれば最後。一溜まりもない。というか突進でもされれば吹き飛ばされて、そのままなす術なくバリボリやられるだろう。

ならば、そうさせなければいい。

 

「皆の者、準備はええか?」

 

「「「「「「「応!!!!!」」」」」」

 

「散開!!!!」

 

馬にしろ狼にしろ、厄介なのはその機動力。だがそれは基本的に、直進に限定される。こうも高速で動くと遠心力や単純に間接強度で、そこまで急ターンは出来ない。

ならばこちらは、散開の上で真横から攻撃してやれば向こうは対応できない。

 

「横にはガラ空きかコイツら!!!!」

 

「足を狙って転けさせろ!!玉突き事故みたいに動きが止まるぞ!!!!」

 

「おっしゃぁ!!!」

 

脚を撃って転けさせれば、そのまま数十頭が一気に巻き込まれて身動きが取れなくなる。他の身体に頭が潰されて死ぬ場合もあるが、大半が起きあがろうと踠く。だがそうはさせない。

 

「ゾンビってのは、総じて炎に弱いんだよ!!!!」

 

29式擲弾銃にナパーム弾を装填し、それを蠢くゾンビの集団に叩き込む。着弾して信管が作動すれば、面白いように燃え上がってくれる。場合によっては火が付いたまま他のゾンビに突進し、そのまま仲良く燃えてくれたりとかなり有効な戦法である。

 

「戦隊各員。攻撃を開始する。いつもの様に付いてこい」

 

『スノウウィッチ。こっちから援護するから、面制圧いける?』

 

『任せて。クレナちゃん。背中は任せるわよ?』

 

『任せといて!』

 

エイティシックス達が右翼と左翼から挟撃する形で動くのと同時、帝国軍の車列の前にはモンスターが現れた。陸上最強のモンスター軍団、アサルトタイガーである。

 

「どけどけどけ!!!!!」

 

「なんだありゃ!?」

 

「戦車だ!!なんてデカさだ.......」

 

『あー!あー!こちらはアサルトタイガー!!帝国軍のトラック!!道開けろ!!戦車のお通りだ!!!!』

 

拡声器片手に奈良山が自らが駆る戦車から身を乗り出して、車列に向かって叫ぶ。慌てて車列は道を開け、そのど真ん中を戦車隊が通過していった。

 

「よっしゃ行くぞ!弾種、榴弾!!撃て!!!!!

 

「てぇ!!!」

 

46式戦車と34式戦車改による砲撃に、ゾンビの集団もたちまち吹き飛ばされ一帯の掃討が行われて行く。それを尻目に、帝国軍の車列は森を抜けて港を目指す。

 

「た、大尉殿!!アレを!!」

 

「あんな陣地をもう作り上げたのか!?」

 

既に港には無数の旗が翻っており、煙も立ち上っているが、兵士達が防衛線をしっかりと引いた上で、本陣には多数のテントや小屋まで建てられていた。こんな事、帝国ではできない。

 

「帝国軍!!こっちだ!!付いてこい!!!!」

 

偵察用のオートバイが車列の横に誘導する為に付き、そのまま防衛線の隙間を縫って本陣を目指す。ここまで来ればもう安心である。彼らはどうにか、あの地獄から生き延びたのだ。

 

 

 

 

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