最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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第九十一話バイオハザード・パガンダ(後編)

「こっちだ!!行け!行け!!」

 

「負傷者をチェックしろ!!」

 

「負傷者はテントに運び込む!!必ず、バディで運べ!!感染者かつゾンビ化した者は、直ちに排除しろ!!!!」

 

このゾンビウイルスに潜伏期間があるのか定かでは無いが、取り敢えず噛まれたら感染する事は分かっている。ゾンビ化した者は、大半が何処かに噛み跡があった。明確な判断方法が確立されていない以上、まずは噛み跡があるか無いかを判断基準とし、噛み跡があった者は罹患疑惑として24時間の監視付きで隔離するしかない。

 

「民間人は良いとして、問題は.......」

 

「流石に武装解除を「はいそうですか」で受け入れてくれる訳ないわな」

 

民間人は意外とすんなり指示に従ってくれたが、帝国兵に関しては当然だが命令に従う気配はない。流石に「ここに移動してくれ」位は聞くが、やはり兵士の生命線であり命綱でもある武装の解除は応じてくれない。

まあ向こうからしたら、そのまま殺される可能性も普通に考えられる状況下なのだ。態々自らの生存の可能性を捨て去るアホはいない。

 

「あー、取り敢えずだな。できれば武装を解除して.......くれないよなぁ。幾らこっちが殺さないって言っても、信じてくれる訳ないもんなぁ」

 

「.......救助には感謝している。だが、それとこれは別問題だ」

 

「だよなぁ。どうしたもんか」

 

遠藤は頭を抱える。勿論できれば武装解除しておきたいのが本音だが、当然彼らの話も理解できる。何せ神谷戦闘団はこの戦争に介入して以降、行く先々で帝国軍と交戦し勝利してきた。その過程で殺した数は想像もつかない。

そんな言うなれば仇とすら言える存在を前に、反抗することなく武器を向けることもしない彼らの行動は、彼らなりの最大限の譲歩だろう。

 

「よしわかった!ならこうしよう。俺達は君達の噛み跡、つまりゾンビ化の兆候があるかどうかを知りたい。2人一組でテントに入ってもらい、片方が検査されてる間、もう片方は我々を最大限警戒すればいい。

勿論我々は君達に危害は加えない。流石に君達が反抗したり、いきなり攻撃してきたり、或いはゾンビ化すればその限りじゃ無いが、それさえしなければ攻撃はしない。これでどうだ?」

 

遠藤の提案に、現在の帝国軍残存部隊の指揮官であるボイルは、頷く他なかった。向こうも向こうなりに譲歩してくれたのだ。ここはお互い譲歩するしか無いだろう。

 

「軍曹、一緒に来てくれ」

 

「お背中をお守りさせて貰います」

 

ボイルと副官の軍曹はテントに入る。中は特段、可笑しな点はなかった。だが中には完全武装の兵士2名と、防護服を纏った兵士が居る。

 

「.......処刑するつもりじゃないよな?」

 

「勿論、と言ってやりたいが、アンタがゾンビ化して襲ってきたら処刑させて貰う」

 

「大尉殿はゾンビではない!!!!」

 

「悪いが、こっちもそれを「はいそうですか」で信じる程、甘くはないよ。こっちもゾンビに関しちゃ、何もかもが手探りだ。今この瞬間、アンタらや俺らがゾンビ化したって何の不思議もない。だが、噛み跡さえなければ気休め程度でも信じられる」

 

「では噛み跡があれば?」

 

「隔離するだけだ。ゾンビ化して人を襲い出したら殺すが、噛み跡があってもゾンビ化してなければ殺しはしない。とは言えゾンビ化する可能性は他よりも高い以上、隔離はしとかないとならない。保険ってヤツだ」

 

この状況下においては帝国軍も皇国軍もお互いを疑うし、自らの仲間も疑わざるを得ない。このゾンビ化の原因や感染経路が発覚するまでは、どうしてもそうなるだろう。

 

「ではこれより検査を実行します。まずは服を全て脱いで頂きます」

 

「そ、そこまでするのか?」

 

「当然です。外部からやってきた上、パンデミックの発生当初からいるあなた方は感染が最も疑われる存在です。その疑いを払拭する為、何よりお互いの安全の為にも無理矢理にでも確認させて頂きます」

 

防護服姿の兵士の圧は凄まじく、ボイルと軍曹も従わざるを得なかった。確認の結果、当然だが2人には噛み跡は確認されず、すぐに解放された。

テントの外に出ると、2人の前に銀髪の褐色エルフがやって来た。ただ他の兵士達とは全く違う出立ちであり、この世界の現地民の女騎士の様な鎧を纏っている。皇国の陣地内にいる以上、皇国軍の関係者だろうと仮定し取り敢えず敬礼する2人。それに応じて、褐色エルフの方も答礼する。

 

「貴様らが帝国軍の指揮官だな?」

 

「そうだ。私はバーディー・ボイル大尉。こっちは私の副官、バンク・サージェット軍曹」

 

「ボイル大尉にサージェット軍曹だな。付いてこい、団長殿がお呼びだ」

 

銀髪の褐色エルフの後を付いていくと、数あるテント群の中でも最も巨大なテントの前に連れて来られた。テントの周囲には警衛に当たる完全武装の兵士が配置され、皇国の国旗や恐らく部隊旗と思われる旗が飾られている。間違いなく、この中にいるのはこの軍の指揮官。つまりが帝国最大の敵、神谷浩三である。

 

「アナスタシアだ。帝国の指揮官を連れて来た」

 

「入れ」

 

テントの中に入ると、案の定あの男が座っていた。皇国の参戦以来、大規模作戦の際には必ず最前線に出てくる皇国の最重要人物にして最強戦力であり、グラ・カバル皇太子殿下を殺害した帝国の敵。神谷浩三・修羅が、堂々と座っていたのだ。その隣には副官の男もいる。

ボイルもサージェットも飛び掛かって襲いそうになるのを抑え、軍人として一応の最低限の敬意を払う。

 

「グラ・バルカス帝国軍パガンダ島守備隊、第6歩兵中隊、中隊長のバーディー・ボイル大尉だ」

 

「同じく、バンク・サージェット軍曹であります」

 

「神谷浩三だ。自己紹介せずとも、アンタらは俺の事をよく知っている筈だ」

 

「私は神谷長官の秘書官兼、神谷戦闘団の副長。向上六郎大佐だ」

 

「まずは救助の手を差し伸べてくれた事、深く感謝する。数百人の命が救われた。本当にありがとう」

 

ボイルとサージェットは深く頭を下げた。実際問題、あの時助けが来なかったら民間人含めて、避難していた全員が死んでいただろう。その事への感謝は、帝国軍人として、1人の人間としてすべきだと考えていた。

 

「だが!この惨状については説明を求める!!戦争してるのは百も承知だが、皇国はこんな手を使うのか!?!?」

 

「どういうことですか大尉殿!?」

 

「考えてもみろ軍曹!コイツらはこんな大群でやって来て、態々、化学系の兵士まで連れてきてる!!どうみても実験結果を確認しにきてるだろ!!!!」

 

ボイルはこのゾンビパンデミックの原因は皇国ではないかと、そう疑っていた。何もかもが出来すぎているのだ。皇国のイルネティア島侵攻と合わせるかの様なゾンビパンデミックに、島に蔓延しきり生存者が激減したこのタイミングでいきなりやってきた皇国の精鋭部隊と化学系の兵士と装備。何もかもが出来すぎている。

 

「大尉。君の意見は分からなくもない。タイミングとしては、君の予想が正しいだろう。イルネティア攻略に合わせる形で攻撃を仕掛け、蔓延し切った所で調査に入る。だが、もしそうなら我々が出張ってくる事がない。別の部隊が化学系の兵士達、中央特殊武器防護隊を護衛する。

信じる信じないは別として、こっちの立場はこの謎のゾンビパンデミックの調査だ。そもそもこちらは、こんな攻撃を仕掛けてないばかりか、人間をゾンビにするウイルスやら細菌といった代物が存在しない。こんな攻撃、できないんだよ」

 

「それを信じるとでも?」

 

「だろうな。だから証拠を用意させてもらった」

 

神谷は向上に目配せすると、例の書類を用意させる。イルネティア島の秘密バンカーから盗んできた、このゾンビウイルスの原因であるアンブレラ作戦の書類だ。

 

「なんだこれは?」

 

「君達は知らないだろうが、イルネティア島では帝国の諜報組織が作った地下バンカーが存在する。そのバンカーから盗んできた、帝国の極秘作戦の書類だ。

その書類にはこのゾンビパンデミックの原因が載っている。読めばわかる筈だ」

 

渡された書類をめくっていくと、出るわ出るわ陰謀の数々。グラ・バイツ、リザレクション計画、Dr.マグーラ、アンブレラ作戦、謎の魔法薬という名のゾンビウイルス等々。これだけで陰謀論として本が書ける量だ。

とは言え、本来なら「こんなの敵である貴様らの仕立て上げた嘘だ!!」とでも叫ぶだろう。だが現在の帝国がキナ臭いというのは、現場の一下っ端士官に過ぎないボイルでも知る噂だ。政府は皇帝率いる防衛戦派とバイツの率いる徹底抗戦派に別れ、狂人科学者と呼ばれるDr.マグーラがバイツに接近しているのは有名な話だ。あのマッドサイエンティストなら、味方である自分達を巻き込むのも頷ける。

 

「.......信じられないな。だが、一方で信じられなくもない」

 

「そりゃそうだろ。いきなり敵にこんなの見せられても、信じろって方が無理だ。証拠とは言ったが、これで信じてくれるとは思っちゃいない。ならここは、お互い実利を考えないか?」

 

「実利だと?」

 

「まずは君達への利を提示しよう。現在こちらの保護下にある避難民達。帝国本土に渡りたい者は本土へ行かせるし、イルネティア島その他に行きたい者は、そうなる様に取り計らおう。無論、国家間の関係上、無理な場合もあるがな。加えて君達も捕虜になる事を望むなら捕虜にするが、そうでないなら避難民達と共に帝国本土へ送還させる」

 

余りに破格の条件にボイルもサージェットも、顔を見合わせて驚いた。普通なら捕虜にされ、収容所に入れられるのがオチである。この陣地に来た時点で、その覚悟はあった。だがこうも良い条件だと、求められる物が怖い。

 

「そちらは何を求めるんだ?」

 

「第一に君達の経験を教えて貰いたい。この1週間、君達はゾンビと戦った。その経験を全て教えて貰いたい。第二に避難民の避難完了まで、警備と防衛を手伝って貰いたい。武装も解除しなくていい」

 

「それだけか?」

 

「これだけだ。ゾンビ襲撃時に君たちの身体に爆弾を巻き付けて、そのままゾンビ集団に突っ込ませる様な真似もしない。あくまで戦友の様に、共に戦ってもらいたい。必要なら弾薬は勿論、こちらの装備も戦況に応じて貸与する。どうだ?」

 

帝国の軍人としてなら、この提案は断るべきだろう。だが、これまでの惨状を見てきたからこそ、彼らとの、帝国の仇との共闘こそが唯一の道だとも思う。

 

「.......一つ聞きたい。戦いが終わり、いつかまた何処かの戦場で会った時。アンタらはどうするんだ?」

 

「叩き潰すのみ。戦友だからこそ、最大限の敬意と畏怖を持って戦うだけだ」

 

「それが聞けて安心した。いいだろう、提案を受け入れる」

 

「懸命な判断に感謝しよう」

 

ここに神谷戦闘団、第四海兵師団とパガンダ島防衛部隊残存部隊の共同戦線が構築された。早速両軍に通達され、主に帝国兵の方から不満が出たが、そこはボイルとサージェットがどうにかしてくれた。

 

「それで、輸送船の到着はどのくらいだ?」

 

『後2時間もすれば到着予定だ。全く、港の惨状を見た時は入港できるのか冷や冷や物だったぞ』

 

神谷は今回のバイオハザード受けて応援にやって来た第八主力艦隊の提督、東野電介と私的な連絡を交わしていた。この東野という男、何を隠そう神谷の同期生である。神谷は西日本の福岡、一方の東野は千葉出身であった事から『東の鬼才東野、西のサムライ神谷』なんて呼ばれていた。

ライバルでもあるが、それと同時に掛け替えのない戦友でもある。艦隊司令官としては、ある意味で1番信頼しているのが東野だ。

 

「まさか敵方の輸送船が炎上して、そのまま岸壁に乗り上げてるとはな。まるでハリウッドのアクションシーンだ」

 

『.......あー神谷さん?なんかですね、ゾンビが大量にそっち向かっちゃってるんですけど........』

 

「.......なんで?」

 

東野から送られてきたレーダー情報を確認すると、確かにゾンビが向かってきている。しかも島全体のゾンビが、全部ここに移動してきている様で『ゾンビ・スタンピード』とか『ゾンビ・トレイン』とか『デスマーチ』とでも名付けれそうな、そんな大量の数が移動してきている。

 

「ひがちゃん、すぐに戦艦を近海に配置してくれ。輸送船の到着も急がせて欲しい」

 

『迎撃するつもりだな?』

 

「あぁ。この数だ、流石に俺達だけじゃ抑えきれない。火力支援が必要だ」

 

『任せておけ!すぐに急行すっから、それまで何が何でも持たせろよ!!』

 

「あぁ!」

 

神谷はすぐに幕僚団を召集。ついでにボイルも呼んで、簡単な作戦会議を行う。今回の相手はこれまでの様な人間ではなく、完全なる化け物。化け物相手の戦争は、全員がアウェーとなる。これまでゾンビ映画やらゲームやらで散々使われ続けたゾンビネタの、その中でも最悪な物を想定して作戦を練る必要があるだろう。

 

「お前達、状況はかなり不味いぞ。現在島内のゾンビは、恐らくその全てがここに集結しつつある。これがUAVからの映像だ」

 

モニターにUAVから中継されている映像が映し出される。見る限りのゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。地面がゾンビで埋め尽くされていて、文字通りの地獄絵図だ。

 

「こ、こんな技術があるのか!?」

 

「大尉、これが皇国だ。恐らく帝国ではSFだとかファンタジーの扱いになっている物が、我が国では一般市民が気軽に買えるくらいまで普及している。だが今は技術云々ではなく、このゾンビ共を見て欲しい」

 

「わ、分かっている」

 

まだ帝国のレベルでは白黒のフィルムが精一杯で、カラーは大掛かりな機械を使って初めて撮影できる代物だ。それに生の映像を中継する技術は、まだ「こんな技術があればいいな」の域を出ていない。ボイルからしてみれば、タイムスリップした様な物なのだ。

 

「帝国兵のヒアリングから分かったことだが、ゾンビと言っても俺達が思い付く死体が動くソレ以外にも、かなり色々とあるらしい。そこはボイル大尉に話してもらおう。

あー、そういや紹介してなかった。コイツが帝国軍部隊の暫定指揮官、バーディー・ボイル大尉だ」

 

「ボイル大尉だ。よろしく頼む。早速だが、ゾンビに付いて解説する。ゾンビは人間以外にも、どうやら生物なら何でもかんでも感染するらしい。確認されているだけでも犬に猫、馬や牛等の家畜、山に居たであろう熊とかイノシシ、鹿に鳥、池の中だが魚もゾンビになっていた。

これに加えて、我々が変異体や変異種と呼ぶ種類もいる。翼が生えた者、2、3体が融合して1つの個体の様に動く者、腕が肥大化している者、太って膿を溜め込んでいる者と、見ただけでゾンビの中でも異質な存在だ。総じてこの変異体は厄介で、我々も仲間が何人も殺された。

オマケにデカい昆虫もいる。蚊、ハエ、蜂、カマキリなんかがいて、こっちはかなり凶悪だ。通常の歩兵火器じゃ攻撃も通らない。倒すには戦闘機か、皇国が持ってるオートジャイロ位だろう」

 

状況は思ったよりも最悪らしい。どう考えても、普通のゾンビ物フィクションよりも相手が段違いに強い。だが、今回はこっちも強い。フィクションじゃ最強の主人公VSゾンビ軍団だが、今回の場合は世界最強の精鋭軍団&最恐海兵師団&第八主力艦隊with『日ノ本』VSゾンビ軍団である。装備の質、兵士の練度、兵力、投射できる火力、選択できる戦術。どれをとっても、ゾンビ物主人公を遥かに超えている。できなくはない。

 

「とまあ、この様に我が戦闘団でも類を見ない困難だ。だがしかし!ゾンビ映画やゲームよろしく、全滅してやるつもりはない。大体あの手の作品は、最初の主人公出てくる前か主人公と一緒に軍隊とか警察が出てきて、序盤で全滅するのが定番だ。

だが俺達が、そんな雑魚集団と同じ末路になるか?そんな訳ない。今回のゾンビ物の主人公は他でも無い!俺達が主人公だ!!さぁ、いっちょバイオハザードとかハリウッド並みの大立ち回りをやってやろうじゃないか!!!!」

 

幕僚達は別に拳を掲げる訳でもなく、立ち上がって敬礼するべくでもなく、ただ「おう」とか「はい!」とか言うだけだった。だが幕僚達の目には闘志が宿っており、言葉や態度の割にやる気は十分である。

 

「ではこれより作戦を説明する。まず初めに言っておくが、我々の勝利条件は避難民の脱出だ。こうなった以上、もうここは放棄する。一度撤退だ。だが避難民が脱出するまで、ゾンビ共をこの港に近付けちゃダメだ。

そこで我々はアクティブディフェンスを行う。こっちから積極的に仕掛け、迎撃戦と遅滞戦闘を同時に展開。ゾンビを抑える。いつも通り装甲歩兵を配置し、その間に戦車。歩兵はこの後ろに配置する。最後方に砲を置いて、上空はブラックスターと突空で固める。更に第八主力艦隊の航空隊と戦艦からの砲撃も加われば、どうにか出来るはずだ。尚、ボイル大尉ら帝国軍にも迎撃に参加して貰う。君達には、この地点を頼みたい。本隊から離れているが、その分数は少ない。君達でも充分相手どれる筈だ」

 

「了解した。任せて欲しい」

 

こうは言っているが、実際の所は邪魔だから港に居てもらうだけだ。幾ら装備を貸与しようと、所詮彼らの使う兵器や戦術の発想、常識というのは110年以上前の第二次世界大戦当時のそれだ。一世紀も離れていれば、戦い方も全く違う。第一、例え同じレベルの軍隊でも他国同士では合同訓練なしでは流石にキツい。そもそものドクトリンが違ったり、得意とする戦術が違う。そんな現実があるというのに合わせろなんて、お互い無理な話だ。ならば住み分けてしまった方が、色々と楽かつ何も考えなくて済む。

幕僚達は自分が指揮する部隊へと戻り、神谷も前線に出るべくAVC1『突空』に乗り込む。すでに中にはワルキューレ達が乗り込んでおり、武器の最終チェックを行っている。

 

「お前達、準備はいいな?」

 

「えぇ。みんな、早く戦いたくてウズウズしてるわ」

 

「うむ。どうやら我らの知るゾンビと、このパンデミックのゾンビは違うようだからな。楽しみだ」

 

「魔法が効くといいんですけどね。効かなかったら、回復とか妨害に徹します」

 

「バイオハザード各シリーズ、累計1000時間越えのゲーマー魂見せてあげる!」

 

「こーきゅんがいれば、ゾンビでもドラゴンでもどうにかなるわ」

 

出会った時はこうも戦闘狂ではなかった気もするのだが、なんか最近どんどん戦闘狂になりつつある。こんな好みどストライクのエルフ美女5人と結婚した以上、浮気するつもりはサラサラないが、そういう疑いが出よう物なら対話よりも先に、額に剣が突き立てられそうで気が気じゃ無い。

 

「頼もしい限りだな、うん。よし、じゃあ出撃」

 

神谷の号令で航空隊は空へと飛び上がり、陸路で進出する部隊は続々と港を後にする。それに続くのは、ボイル率いる帝国軍残存部隊。ハーフトラックや古びたトラックに乗り込み、指定されたポイントへと向かう。勿論、この帝国部隊には神谷戦闘団の隊員達も同伴している。

 

 

 

数十分後 迎撃ポイント

「.......ゾンビ集団、目視にて発見!!」

 

「グラディエイターヴィーナス、第七、第八砲兵連隊!砲撃開始!!」

 

「撃て!!!!」

 

迎撃陣形の最後尾に位置する砲兵隊が一斉に砲弾を放つ。51式510mm自走砲を備える混製砲兵連隊は、その顕限りの火力をゾンビ軍団に叩き込む。しかも今回は榴弾ではなく、フレシェット弾を装填している。鉄の矢が雨の様に降り注ぎ、ゾンビをズタズタに引き裂いていく。

 

「機甲部隊!あの砲弾の雨を抜けて来たら、今度はお前達のターンだ。準備しておけ!!!!」

 

『野郎共!!団長のご下命だ!!気合いいれろ!!!!!』

 

奈良山の号令に、戦車兵達は雄叫びを上げる。士気は十分だ。来るなら来い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…なんて言って、もう20分は経つだろうか。砲撃は今も続いている。のだが、ゾンビが一向に爆炎の外に出てこない。ゾンビどころか他の虫とか動物ゾンビもだ。

 

『.......団長。コイツは、一体全体どうしたんです?』

 

「大神田校長!!」

 

『はいはい確認して来ますよー』

 

大神田のAH32薩摩が、爆炎が登り続けている着弾地点上空を飛ぶ。上から見るとゾンビ達は爆炎の中へ考えなしに突っ込み、どうやらそのままフレシェットの鉄の矢に貫かれて殲滅されている様だ。これでは出て来るわけがない。

 

『ゾンビ達、砲弾の雨で軒並み死んでますね。あっ、最後の集団が入りましたよ』

 

「.......神谷閣下。これ、私達は必要だったんですかね?」

 

「やめて堂島会長。それ、言わないで」

 

第四海兵師団の師団長である堂島からも、何とも言えない目でコチラを見てくるが、流石に予想外だと思う。まさかゾンビがこんなにも弱くて、たかが510mm砲含む数百門の火砲の対人砲弾で砲撃しただけ程度で全滅するなんて、思っていなかったのだ。

 

「長官。殲滅してしまった訳ですが、どうされますか?」

 

「どうしようか。取り敢えず砲撃止め。後はまあ、帝国軍に恩を売るとしようか」

 

なんて言っていると、その帝国軍について行った部隊から無線が入った。どうやら融合し巨大化したゾンビの集団が現れたそうで、歩兵火器どころか皇国の火砲でも歯が立たないらしい。

 

「直ちに救援に向かう!!準備出来次第、即時急行!!急げ!!!!」

 

神谷は適当な大型トラックに飛び乗り、そのまま救援に向かう。少し走ればすぐに目視で確認できるほど巨大であり、一目で目標だと分かった。

 

「極帝!!」

 

「心得た!!!!」

 

取り敢えず挨拶代わりに極帝の魔力ビームを使ってみるが、なんとビームを避けた。避けた、というよりは意図的に自分の身体に穴を開けてやり過ごしたのだ。

 

「そんなのありかよ!?」

 

「浩三!ロケットランチャーはどうだ!?」

 

アナスタシアの策をすぐに実行するべく、38式携行式対戦車誘導弾を取り出して構える。モードはトップアタックでやってみるが、これは普通に当たった。だが…

 

「だめ!!全く効いてません!!!!浩三さん、別の手を!!」

 

「嘘だろっ!?46式をも破壊する対戦車ミサイルだぞ!?」

 

この通り、陸上戦艦の異名を持つ46式戦車を破壊する38式でも全く歯が立たない。ならばと他の車両からも撃ってみるが、ダイレクトアタックだと魔力ビームと同じ手段で回避され、トップアタックだと命中こそすれダメージは全く入ってないように見える。

 

「海原!!」

 

『ハッ!』

 

「51式、徹甲弾で砲撃用意!!脳天に直撃させろ!!!!」

 

『心得ました!!』

 

ミサイルも銃もダメだと言うのなら、こっちの最大口径をぶつけるのみ。本来、こういう火砲は当てるのは難しい。基本的に「この辺のどこかに当てる」位のものだ。だがグラディエイターヴィーナスであれば、狙撃の如く目標に当ててみせる。海原の指揮、兵士達の練度、皇国の有する最新鋭装備を持ってすれば、奇跡を起こせるのだ。

グラディエイターヴィーナスが放った510mm徹甲弾は、正確に融合ゾンビの頭に直撃。だが、それすらも弾いた。

 

『着弾!!しかし、目標依然健在!!全く効果がありません!!!!』

 

「ねぇ浩三くん!!これ、例の港にむかってない!?!?」

 

「ミーナも気付いたか。恐らく、あの融合ゾンビは港を目指してる。幸い、避難民の乗船は間も無く終わる筈だ。だが、それでも放置はできん。どうしたものか.......」

 

銃、火砲、ミサイルと考えつく大体のものは試した。後は爆撃位だが、この感じを見るに効果は薄いだろう。そもそも帝国軍がギリギリ加害範囲内にいるそうで、爆撃の場合は一応の友軍である帝国軍諸共吹き飛ばす羽目になる。

こんな万事休すな状態だが、可能性はある。一つだけ、起死回生の手段があるにはある。だがそれは、かなりの賭けとなる。そう簡単に実行できる代物ではないが、この際仕方ないだろう。

 

「確かゾンビの習性は、生き物に寄って来るんだよな?なら、俺達で囮になる。総員、融合ゾンビにチョッカイを掛け続けろ!!然るのち、東を目指して突き進め!!!!!!」

 

神谷の指示に、兵士達が動き出す。融合ゾンビの周りをウロチョロし、ミサイルや銃弾を有りったけ食らわせ続ける。機甲部隊も砲弾を撃ち続け、とにかく融合ゾンビの意識をこちらに向けさせた。

帝国軍もこれに習い、攻撃を敢行。何ならトラックで足元に突っ込み、爆弾を仕掛けるなんて事もやっている。これには皇国の兵士達も驚いたが、すぐにこれを真似しだす。

 

「ボイル大尉、聞こえるか?」

 

『よく聞こえる!!』

 

「よし。このまま融合ゾンビには俺達を追い掛けてもらう。俺を信じて、とにかくまっすぐ走れ」

 

『わかった!』

 

車がまるで群れのように、パガンダ島を突き進む。神谷が時計を見ながらタイミングを見計らい、融合ゾンビを惹きつけて15分がたった頃。神谷が動いた。

 

「全車、このまま俺についてこい!!!!遅れるなよ!!!!」

 

神谷はトラックの屋根の上に登り、腕を前に出して魔法を使う。使う魔法は攻撃魔法ではなく、転移魔法だ。

 

三重最強化(トリプレットマキシマイズ)位階上昇範囲拡大魔法(ブーステッドワイデンマジック)最上位転移門(マスターゲート)!!!!!!」

 

車列の目の前に、虚無の空間が広がる。車列は迷わずそれに突っ込むと、港近くの平原につながっていた。転移魔法で、無理矢理ここにワープしてきたのだ。

 

「って、転移したら融合ゾンビ引きつけた意味無いじゃん!!!!」

 

「レイチェルさんよ。まさか、この俺が何の策を打ってないとでも?はーい、という訳で!やっちまえ、でんちゃん!!!!!!!」

 

次の瞬間、一団の目の前を水色の極太ビームが通過していった。そのビームは融合ゾンビを貫き、融合ゾンビを完全に消滅して見せた。

 

「いくら融合ゾンビといえど『倭建命』の、連装波動砲は耐えられねぇだろ?」

 

そう。近海にて待機していた超戦艦『倭建命』の収束プラズマ粒子波動砲を使い、完全消滅させる作戦だったのだ。収束プラズマ粒子とだけあって、このビームは熱エネルギーの塊。例え穴を開けて避けようと、避けた側から燃やし尽くす。ゾンビというのは、総じて炎に弱い。

 

「お見事です、長官!!」

 

「そうだ、もっと褒めろ」

 

こんな冗談を言い合っていると、ボイルがコチラに近付いてきた。敵意も何も感じない。何か話があるのだろう。

 

「神谷閣下。ありがとうございました。全員、無事生き残れました」

 

「お、おぉ。で、なんで敬語?」

 

「敬意を示すに値すると、自分が感じたからであります。これまでの無礼、どうかお許しを。そして、我が部隊が生き残れた、その名采配に感謝と敬意を評します」

 

こうもいきなり敬語を使われると、逆にむず痒いというか変な感じがする。軍人としてはこっちが正解なのだが、流石にさっきまでキャラが違うとやりにくさが半端ない。

 

「敬意も何も、戦友を生かすのは戦友の務めだろ?それは古今東西、どんな国の軍隊であろうと同じの筈だ。さぁーて、仕事も終わったしこの島から逃げるとしようぜ」

 

『長官!長官!!』

 

「どしたの特殊武器防護隊の皆さん。そんな藪からスティックに」

 

『今すぐ逃げてください!!!!』

 

「はぁ?」

 

いきなりすぎて訳がわからないが、話を纏めるとこうだ。今回ばら撒かれたウイルスは、本来1週間で自壊するらしい。つまり感染後1週間経てば、勝手に自滅してゾンビも灰になるそうだ。そこから復活することもない。

だが改造が施されたのか変異したのか、その1週間の時間の影響は想像以上に深刻で、これまで飛沫感染オンリーだったのが空気感染に変異しつつあるそうだ。恐らく、後数時間もすれば中心部から徐々に汚染が始まり、行く行くは風に乗って他の国にも広がるという。

 

「え、何それ。ヤバいじゃん」

 

『そうです!ヤバイんですよ!!とにかく撤収してください!!!!それから対策を考えないと!!!!!!』

 

「それ、ワクチンとかその手の物は作れるのか?」

 

『.......どうやらウイルスは科学の産物ではなく、魔法の産物な様です。ワクチンができる可能性はゼロではありませんが、限りなく低いかと』

 

であれば一刻の猶予もない。もしこれが他国に広がれば、大惨事待ったなしだ。最悪、大陸が死滅する。今回この程度で済んだのは、パガンダ島という外界から隔離された島だったからにすぎない。大陸であれば当然だが、被害規模も増える。ここで食い止める必要がある。

 

「総員撤収。悪いが帝国軍も、俺達と一緒に撤退してもらう。状況が変わった」

 

「何かあったのですか?」

 

「あぁ。どうやら、早いとこ逃げないと俺たち全員ゾンビの仲間になるんだと。今はとにかく逃げるのが最優先だ」

 

撤退の指示を出しつつ、神谷はそのまま秘匿回線で皇国本土にいる一色に連絡する。最後の手段を使うには、一色の力が必要なのだ。

 

「健太郎、不味いことになった」

 

『.......使うのはどっちだ?』

 

戦略核兵器(・・・・・)

 

これが神谷が用意した、最後の最後に使える切り札である。実を言うとパガンダ島近海には、念の為に核弾頭とECO nukeの異名を持つ伊邪那美弾頭を搭載したSLBMを装備する、潜水艦『伊1517』が中央特殊武器防護隊と共に秘密裏に進出していたのだ。もし地域を破壊する程度なら伊邪那美弾頭、島ごと消滅させる必要があるなら核弾頭を用いる手筈だった。

今回の話であれば、どう考えても核弾頭を使うべきだ。万が一残ってしまえば最期、下手をしたら世界が滅亡するだろう。ならばここはたとえ非情だ何だと罵られようと、この島を完全に破壊するしか無い。

 

『お前の判断を疑うつもりはない。だが、頼む。大日本皇国統合軍総司令長官神谷浩三元帥。その判断は本当に必要であり、尚且つそれしか無いんだな?』

 

「あぁ、断言できる。ここで核を使わなければ最悪の場合、帝国との戦争の前に世界が滅亡する。ここは多少のオーバーキルでも、核を使うべきだ」

 

『.......分かった。すぐに第二文明圏の各国に最優先で通報した後、直ちに発射命令を出す。それくらいの猶予は?』

 

「ある筈だ。状況は細かく見ていくから、もしもの場合はすぐ連絡しよう。幸い、核の使用も考慮して海域を封鎖してある。民間船は避難船を除いて存在しない」

 

『すぐに慎太郎に動いてもらう。お前もそこをすぐに離れろ』

 

一色の指示の下、川山はムー等の第二文明圏にいるイルネティア島の近隣国に通報。一方的ではあるが、核の使用を連絡した。皇国軍の撤退も確認されると、一色は秘書にかなりゴツいカバンを持ってきてもらう。

この黒塗りのカバンは、所謂『核のフットボール』というヤツだ。これを使い、核攻撃の目標等を設定する事ができる。今回は目標も弾種も使用するプラットフォームも指定するが、基本というか通常は目標と種類のみを指定しプラットフォームは自動的に選ばれる。

 

「大日本皇国万歳」

 

音声認証で最初のロックが解除され、ケースが開く。ここから更に網膜、指紋、顔の認証、8種類のパスワード入力、専用のデバイスを用いた電子ロックの解除といった行程を挟み、ようやく発射命令を送信できるようになる。

 

目標:パガンダ島

弾頭:戦略核兵器

プラットフォーム:潜水艦『伊1517』

 

この3つを入力し、三重の確認を済ませると命令が送信される。今回はプラットフォームまで入力している為、ダイレクトに『伊1517』へ命令が送信されている。

 

『新たな緊急行動司令受信!ターゲットα(パガンダ島)への戦略核兵器による攻撃命令です!!』

 

「副長は直ちに発令所へ!!」

 

艦長は艦長室の専用金庫に収められている、副長は発令所の金庫に収められているミサイルサイロ解放用のキーを取り出す。この2つの鍵を差し込み、同時に回さなければ発射されない仕組みになっている。

 

「まさかまた、こうやって引き金を引くことになろうとは」

 

「全くだ。前はパーパルディアに伊邪那美弾頭を。今回は戦略核兵器をゾンビにか」

 

「願わくば、核の炎が彼らの魂を清める鎮魂の炎とならん事を。いや、そんな訳ありませんね」

 

「あぁ.......。ファイア!!」

 

カチッ

 

この日、パガンダ島は地図から文字通り永久に消え去った。

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