核起爆の翌日 イルネティア島 イースティリア港
「早いな、もうお別れか」
「えぇ。我々は祖国に帰還します」
あのバイオハザードから生還した翌日、帝国軍の残存兵とパガンダ島で生き残った住民達は帝国へ帰国する為、生き残っていた帝国製の輸送船に乗り込んでいた。
「願わくば、戦場で出会わない事を。あっ、そうだ。コイツを、君に渡そう」
「これは?」
「我が神谷戦闘団のエンブレムだ。共に戦った戦友の証、という所だ」
旧世界の世界地図を背にしたアリコーンと、その下にクロスした日本刀と拳銃が描かれたエンブレムを、神谷はボイルに手渡す。ボイルはまさかエンブレムを渡されるとは思っていなかったらしく、かなり驚いていたが受け取ってくれた。
「受け取っておきます。所で1つ、最後にお聞かせください」
「なんだ?」
「あの時、パガンダ島が最後に飲み込まれた巨大な炎。あれは一体、何だったのですか?」
「.......核兵器と呼ばれる、世界を崩壊させかねない兵器だ。あぁ、別にこれは機密でもなんでもない。皇国の民なら誰もというか、一般的な教養があれば知っているような内容だ。
詳しい所は省くが、あの兵器は使用後、使用された地域は汚染され生物が住めない環境となる。もしも帝国で核について聞かれたら、こう答えてくれ。「皇国は核を持っている。ようこそ、終末の世界へ」と」
ボイルは何が何だか分からないという顔だ。だがボイルが分からずとも、帝国の原爆開発に関わっている者なら理解する筈だ。核はその威力故、1発でも使えば戦争が終わる程だ。実際アメリカでは未だに世論として「日本が戦争を止めたのは、核をヒロシマとナガサキに落としたからだ」というのがある程である。
この意見は賛否が分かれる所である為、実際の所がどうだというのは、取り敢えず置いといて欲しい。重要なのは真偽がどうであれ、こういう核最強神話とも言える意見が蔓延する程の力を持っている点である。帝国は完成させた時、必ず「最終兵器を持てた。これで勝てる」と安堵する筈だ。
だがこの理論は知っての通り、何処か別の国が核を持っていれば話が大きく変わってくる。核の登場により、第二次世界大戦以降、大国同士が自国の軍隊を総動員して大戦争するなんて自体は今日に至るまで無くなり、相互確証破壊を基盤とする武装平和と呼ばれる状況になった。どんなに帝国が愚かであろうと、流石に気づく。もしも核を撃てば、報復で核を撃たれるという事を。しかも現在の皇国は、事実上の同盟が各国と結ばれているばかりか、盟邦の為であれば凡ゆる手段で支援する事は今までの戦闘で分かっている筈だ。この事実が余計に、帝国へのカウンターとなるのだ。
「一体それはどういう意味ですか?」
「そのまんまさ。それに例え大尉が分からずとも良い。とにかくもし何か核について聞かれたら、そう伝えて欲しい。もちろん、大尉が見たありのままで伝えてくれよ?」
「分かりました。では私は、これにて」
3隻の輸送船はイースティリア港を出港していく。途中までは念の為、第三主力艦隊が護衛に付く。イルネティア島から20km程離れたところで輸送船は帝国本土へ、第三主力艦隊は母港である呉へと帰還した。これに便乗し、現在、神谷戦闘団の駐屯基地となっているムー西部のリュウセイ基地へ帰還。そのまま輸送機に乗り込み、皇国へ一時帰国する。
同じ頃、皇国の方はてんやわんやの大騒ぎであった。まずは首相官邸で行われた、一色による記者会見の様子をご覧頂こう。
『昨日未明、現在作戦行動中の神谷浩三元帥からの要塞により、グラ・バルカス帝国領パガンダ島に対し、原子力潜水艦『伊1517』からのSLBM
無論、一気に会場はザワ付く。会見はライブ中継されていたのだが、速報でテロップが流れ、ネット上も大騒ぎとなる。当然、皇国が核を実戦にて実際に発射したのは史上初である。
『発射の状況については、報告書が作成され次第、国民の皆様にはお伝えしますが、現在判明している状況としましては、パガンダ島内に於いて未知の生化学兵器と思しきウイルスが蔓延しており、島内の人間含めた生物に感染しバイオハザードが発生。このウイルスが突然変異を発現させ、空気感染する特性を会得しつつあり、近隣各国への蔓延を防ぐべく、やむ無く核によってパガンダ島を完全消滅させる運びとなったとの事です。
現在政府は各国との調整を行っており、国民の皆様におかれましては、SNSを始めとする情報媒体に記載される情報、流言に惑わされる事なく、政府の発表をお待ちください。また、この場をお借りしまして、我々大日本皇国政府は本戦争に於いて核を用いた攻撃は、他国からの核攻撃に対する報復を除き使用しないという事を宣言致します。私からは以上です』
普段の会見と同じように、質疑応答へと移っていく。まず手が上がったのが、常日新聞の記者だった。
「常日新聞の大田黒です。この核攻撃による民間人の被害は確認されているのでしょうか?」
『現在は確認されておりません。島内の生存者については戦闘前に保護しており、現在は帝国へ送還されています』
「核で全てが吹き飛んだ後に、確認というのは取れるもの何でしょうか?」
『正直なところを言えば、核以前に生存していたかどうかを判別するのは難しいと思われます。このウイルス、誤解を恐れずに言うのであれば、映画やゲームでお馴染みのゾンビウイルスです。噛まれたと同時にゾンビ化していきますから、それを判別するのは至難の技でしょう』
次に手が上がったのは、東西新聞の田口という記者である。田口の質問は、この核使用について性急に過ぎるのではないかという、質問なのか批判なのか分からない物だった。
『確かに性急といえば、そう見えるかもしれません。しかし現場に立つ者がそう判断したのなら、きっと必要だったのでしょう』
「その意見には、主語に「神谷浩三だったから」が付くのでは?」
『アイツだろうが無かろうが、現場の判断が核使用を要請する事自体、明らかに異常です。今回の島はウイルスに汚染され、他国に被害が及ぶ可能性があった上、生存者も保護していた者のみ。その状況がわかっていたからこそ、私はトリガーを引きました。
世間で私は「軍事はダメダメ」と言われています。その通りです!私はこと軍事及び兵器は、全く持って分からない!兵器の名前、未だに間違えます!階級、ごちゃごちゃになります!そもそも訳の分からん、謎の部隊や組織を造語で作ってしまい、浩三をよく混乱させます!しかし!!こと核抑止に関してだけは、私は軍のプロ達と最低限会話できる程度は理解しているつもりです。この核使用は、あの現場では最良かは分かりませんが間違った選択ではなく、正当性のあるやむを得ない決断だったと断言します!!』
次の瞬間、カメラのフラッシュが一斉に炊かれる。批判的な質問をした田口もバツが悪そうに座り、他の記者からも様々な質問が飛び交う。数十分程度で会見は終わり、そのままいつもの部屋へと向かった。
翌日 大日本皇国 東京 首相官邸 会議室
「おう、お前らもう来てたのか」
「あぁ。丁度、慎太郎から文句言われてた所だよ」
「文句ってなんの?」
「核使用に決まってんだろがい!!なーに最終兵器ポチってくれちゃってんの!?外務省今、戦場だかんな!?コマンドーもランボーも逃げ帰る地獄だかんな!?許さないかんな!?」
「「橋本かーんな」」
やっぱり仲がいい。別に示し合わせた訳でもないのだが、何も言わずに神谷と一色は同じタイミングでこう答えた。お陰で川山の頭には青筋が浮かんでいるが、そんなこと気にしてる場合じゃない。
「.......なんか、もういいや。で、俺達を呼び寄せてまで話したい内容ってのは?俺はともかく、戦場の最前線にいた浩三まで呼び戻したんだ。余程のことだろ?」
「あぁ。それじゃ、本題に入ろう。俺が考えた策は正直の所、かなりヤバい策だ。別に反対して貰っても構わない」
こんな風に一色が話してきたのは、一体いつぶりだろうか。正直、三英傑同志じゃかなり適当というか自由な面もある。しかし今回のネタは、反応から見てもかなりの物なのだろう。2人もガラにもなく、固唾を飲み込む。
「国家を最強たらしめる存在とは何か。経済?軍事力?資源埋蔵量?技術?どれも必要な要素ではあるが、それ以上にお手軽な物がある。それが核兵器だ。核があれば例え相手が核保有国であろうと、ほぼ確実に交渉のテーブルに座らせられる。逆に小国相手なら、やろうと思えばスルーして核で脅すなんて手段も取れるだろう。
だがこの異世界では、核がなくとも我々は通常戦力だけで各国全てを交渉のテーブルに座らせ、こちら優位で話を進められるようになった。では核は手放すべきだろうか。答えは否、断じて否だ。ラヴァナール帝国のコア魔法を考慮しないとしても、核があるだけで皇国には計り知れないイニシアチブが取れる」
「まあ、そりゃそうだな。だが別にそれは、これまでの皇国軍的にも政府的にも何ら変わりのない政策だろ?」
「その通り。というかその辺は、外交官のお前の方が詳しいだろうな。だが帝国の核開発計画、確かハスタム・ソリス計画だったな。そんな計画が出ている以上、世界はどうなる?浩三、答えてくれ」
「.......まあ、普通に考えりゃ核開発競争だろうな。それこそ第二次世界大戦後、米ソが始めた東西冷戦の様相を呈するだろう。大方、今度は日ミ冷戦って所か?」
かつての東西冷戦では、熾烈な核開発競争が行われていた。宇宙開発事業も、その実情は核開発、正確には核弾頭を載せる大陸間弾道弾の開発競争の側面がある始末だ。正直な所、ガガーリンの世界初弾道飛行も、アポロ計画による月面着陸も、所詮は核開発が産んだ副次的な産物に過ぎないとも言える。
勿論、何もかも全てが核開発のためとは言わない。だがそれでも、そういう面があったのもまた事実。そしてそれは、血を吐き散らしながら走り続ける終わりなきマラソンだ。
「そうなるだろう。だがこの世界は、余りに野蛮すぎる。好戦的な国家が多すぎる。世界最強の座に君臨するミリシアルですら、理性的とは程遠い。そんな世界に核が蔓延すれば、間違いなく世界は終末へと突き進む。
そこでだ。核の開発、製造を全て皇国で管理しようと思う。その為に必要なステップも考えてきた」
「管理って、一体どうするんだ?」
「簡単だ。まず世界に核の優位性を見せ付ける。そう、それはパガンダ島で既に実証された。第二段階は実際に核を開発させる。これは帝国にやってもらう。第三段階は核の使用だ」
「おいちょっと待て、また使うのか?」
川山の当然の問いに、一色はニヤリと笑う。ここが味噌だと言わんばかりに、深く頷いた。
「そうだ。だが目標は大都市、それもど真ん中だ」
「だがそれじゃ、民間人への被害が!」
「慎太郎、それが狙いだろうよ。その威力と、それ以降の人体や自然環境への被害。これを見せ、核兵器の製造を止めさせるって寸法だろ?」
「あぁ。第四に各国で、核使用反対という世論を作り出す。何なら核抑止論についても広め、核の保有を民意という鎖で抑えつける。そして最終段階は、そう。核開発の全てを破壊する。施設や技術も含めて、その全てを。皇国の核開発、及び原子力関連技術は新世界技術防止法で門外不出にしてある。これにより核が蔓延する事を、当面は防げる筈だ。
例え今後、世界に核が蔓延したところで、その頃には核の五本柱が完成している。これを各国に示せば、確実に牽制となる。以上、5段階のステップにより核開発を管理できる筈だ」
出来なくはない。この世界であれば、皇国の各種技術を持ってすれば大体の事は可能だ。敵の中枢に潜り込んで操る事も、こちらが思うがままに動かす事もできる。
「.......本当にやるつもりか?」
「あぁ。皇国が世界で主導権を握り、恒久的な繁栄を得るためには1番手っ取り早い。それに今の国際社会は、余りにも野蛮すぎる。世界平和の為だ」
恐らく川山は、皇国の都合で死ぬであろう一般人の事を考えているのだろう。川山は3人の中で最も犠牲や血を嫌う。そういう犠牲を払わせない為に、相手国とか自国とか関係なく1人でも多くの人間が生き残れる為に、そういう信念を持って外交官をやっている。
勿論、必要とあらば時に心を鬼にしてでも皇国の利益の為に戦う。その過程で何人かを不幸にした所で、気にはしない。だがそれでも、今回の話は「はいそうですか」とは言えない内容なのだ。
「.......慎太郎。核の炎で死んでいく人間は、俺達が原因じゃない。確かに誘導はするだろう。だがそのトリガーを引くのも、核を作り出したのも、その業は帝国が未来永劫担っていく物だ。俺達は言わば傍観者。その炎が都市を焼き払うのを、ただ見ているだけに過ぎない。
それに例え、そういう命令を下したとしても、その命令を下すのは総理大臣である健太郎か、或いは全軍を預かるこの俺だ。お前は何も気に病む必要はない」
綺麗事かもしれない。だが実際問題、この誘導操作がバレたところで文句を言われる謂れはない。「皇国に落ちそうだったので、他の国になるように工作しました。しかし何処に落ちるかは把握していなかったので、警告や報告が出来ませんでした。そもそも信用度も低い情報だったので、あくまで念の為に回避させていただけです」というスタンスを取れば、それ以上どうこう言って来る事はない。
「.......なあ、本当にこれは皇国の利になるのか?」
「それは断言しよう。現職の総理として、その職務に誓って言える。この核が焼き払った以上の人間を、きっと救える筈だ。あくまで歴史のIFである以上、明確なデータを示すことはできないだろう。
だがこの野蛮な国家だけがひしめく世界が管理するより、理性的かつ核の恐怖を知っている皇国が管理している世界の方が、破滅からの距離は遠くなる。それは皇国の利でもあり、世界各国の利ともなる」
恐らくこの世界で核が蔓延すれば最後、発射トリガーはかなり軽くなる。何せ何処ぞのパーパルディアは己が驕りとプライドから始めた戦争に、ICBMを叩き込んできたのだ。その弾頭が核やコア魔法であれば、世界は終末の時を迎える。その後に残るのはFalloutシリーズの様な、荒廃した絶望に満ちた世界だろう。
「わかった!もうこうなったら、徹底的にやろう。今回の核使用を最大限使ってやる。明日から、各国大使との会談だ。そこで色々やってやる」
「なら、青写真を書くとしよう。おい健太郎!政治家として、どの辺まで譲歩できる!?」
「そうだな。核使用は原則禁止としても、各国に見返りというか利益とかはいるよな。ならば……」
三英傑は膝を付け合わせ、戦後国際社会の基礎となる設計図を描いていく。その中で様々なプランが生み出され、これら計画を『イージスピース計画』と名付け実行に移される事となった。
これより1週間後、川山はムーとミリシアルの大使に呼び出されることとなり、早速イージスピース計画に則った対応をする事となった。
1週間後 大日本皇国 外務省 特別応接室
「ユウヒ殿?」
「フィアームさん。あなたがここにいるということは、其方も皇国に例の件を?」
「無論だ。今回のコア魔法、失礼、こちらで言う戦略核兵器の使用で、本国は大騒ぎだ。お陰で私も、かなりの無茶をさせられる羽目になった」
「こちらも似たような物ですよ。幸い、今回は三英傑の川山さんが担当するそうですから、恐らくこちらの事情も理解してくれますよ.......」
ユウヒはパーパルディア戦役以来、ずっと皇国で大使をやっているので説明不要だが、実はフィアームもミリシアルの在日大使として赴任している。
一応、このフィアームって誰やねんという方向けに説明すると、ミリシアルが皇国に送った外交使節団のリーダーをしていたキャリアウーマンである。こんな男みたいな口調だが、歴とした女である。今年32歳。最近は中々縁に恵まれない事に、内心相当焦っているとか焦ってないとか。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
そんなこんな話していると、川山が部屋に入ってきた。大使が直接来たのはミリシアルとムーだけだが、それ以外の各国、特に第二文明圏各国からの問い合わせが大量に来ている。その対応に追われていて、少しばかり遅刻してしまったのだ。
「いえ、構いませんよ。どうやらそちらも、かなり大変な様で」
「余りこういう場で、この手の話をするのもどうかと思いますが、正直、戦場みたいな物ですよ。ひっきりなしに電話が鳴るわ、手紙やメールが届くわ、それの返信を書いている間に別の連絡が飛んでくるわで.......。いっそ1日を48時間くらいにして欲しいですよ」
「なんというか、その、頑張れ、だな。うん」
「お疲れ様です」
3人とも周囲に哀愁を漂わせており、どうやらお互い国は違えど中身は案外似たり寄ったりらしい。こんな話をしているが、時間は有限だ。早速3人は会談を始める。
「さて。それで今回、お二方が私を呼び出した理由をお聞かせください。まあ、大体は分かっていますがね」
「.......ではまず、ムー政府の要望をお伝えします。我々ムーは皇国の核を配備してもらいたいと考えています。陸上配備、爆弾、海上、どのプラットフォームでも構いません。確約頂けるのならば、我が国は如何なる代価を支払う所存です。勿論、配備への協力も惜しみません」
「我が神聖ミリシアル帝国は、皇国に対し核兵器関連技術の可及的速やかな提供、及び技術供与を要請する。代価については、ムー同様、交渉次第とはいえ凡ゆる要望に答える用意がある」
やはりというか、何というか。この展開は神谷と一色が予測していた通りだった。他の国々は知らないが、この2カ国、特にムーは核の恐ろしさを記録上とはいえ知っている。
その脅威を知っている国がやる事と言えば、自前で核を作るか核抑止論でいう所の核の傘に入る事だろう。となればミリシアルは自前で作る方を選択するだろうし、ムーは核の傘に入る事を望む。国家のあり様やこれまでの動きをみれば分かる。だがこれの答えは決まっている。
「正直、こういう要望が出る事は予測していました。ですので、今この場でお答え致します。答えは何れもNOです」
「.......理由をお聞かせ願えますか?」
「簡単です。メリットよりもデメリットが目立つ。この一言に尽きます。我が国は核を使いましたが、現状核を保有しているのは我が国だけ。つまり現状この世界に於いて、その頭上に核を落とせるのは我が皇国のみです。その唯一の国家と、あなた方は友好国。ムーに至っては同盟国です。その頭上に核が落ちるという事は、今の関係が続く限り有り得ません。
にも関わらず配備するとなると、まず我が国の国民を説得する必要があります。国民はこと核兵器や原子力技術になると、言葉を選ばずに言えば少々病的なまでに過敏な反応を見せます。世界初にして唯一の被爆国であり、東日本大震災や東海村での事故もありましたから、当然と言えば当然です。ですので我が国は、この手の話題は特に慎重に慎重を期さざるを得ないのです。ましてや、その核兵器技術を渡すなんて国民からどんな反感を買うか予測もつきません。それを帳消しにできる程のメリットは、ムーにしろミリシアルにしろ、今の情勢的に用意できないと考えています」
実際のところをいえば折角皇国で管理しようと言っているのに、態々核を拡散させる愚策はいないというだけである。無論、今後訪れる戦後の国際社会の流れによっては核の傘に入れるくらいはやるかもしれないが、今はまだそれも未定だ。
「核の傘でもダメなのでしょうか?」
「えぇ。そもそも核の傘を始め、核抑止論というのは所詮は仮定に仮定を重ねて出来上がった妄想にも近い理論によって形作られています。あの理論を平たく言えば「もし核撃ったら撃ち返されるかもしれないからやめとこう」ってだけですからね。
これは当然ですが、相手もそれを理解していなくては成立しません。仮に核の傘に入れたとして、考えたくはありませんが本当に核が使われた時。我が国が報復した結果、全面核戦争に突入するなんて事もあり得ます。それを回避するためにも、現状我が国はこれまで通りに使用は控えていくことを選択しています」
「ならば我が国に、秘密裏にであれば出来るだろう?確か皇国にも諜報組織がいると聞く!それを総動員し、こちらの組織も総動員すればきっと!」
「だとしても、やるつもりはありませんよ。そもそも恐らくですが、魔法立国であるミシリアルが作ろうとしているのは、核兵器ではなくコア魔法なのでは?」
国家機密である以上、フィアームは答えられない。だが実際はその通りであり、ミリシアルはコア魔法を作るつもりなのだ。それも発掘調査で見つかった、コア魔法の基礎理論と思しき文献と実験装置を使って。
「.......やはり、ダメなのか」
「えぇ。これだけは変わりません。その代わりと言っては何ですが、我が国が掴んだ情報をお伝えしましょう。帝国は核兵器開発プロジェクトを進めている可能性が高かった様ですが、既に凍結されているそうです」
「「ッ!?」」
無論、嘘である。帝国は今この時も、本土の秘密基地でせっせと核兵器を開発中だ。だがこの情報を流さなければ、変に対策されてしまいイージスピースのプランが狂ってしまう。まだ真実を知られるわけにはいかないのだ。
「現在我が国の諜報機関が裏を取っていますが、パガンダ島内にて発見された極秘文書に記載されていましたよ。尤も、その書類の原本も核のゴタゴタで喪失したそうですがね」
「その話、本当であろうな?」
「裏が取れてませんから、はいと答える訳にはいきませんね。ですが信用性から見て、ほぼ間違いないと聞いています」
既に偽造文書は作成済みだ。どうとでもなる。例え露見したとしても、その全てを帝国のせいにしてしまえば、こっちにダメージは入らない。細工は万全だ。
「.......こちらでもすぐに裏を取ってもらうとしよう。川山殿、これからも隣人として良き付き合いを期待している。
「えぇ。こちらこそ」
顔では笑顔を浮かべている川山だが、その内心は全くの無表情であった。何せミリシアルは、今となっては皇国にとっては目の上のタンコブ。そろそろミリシアルには退場して貰いたいと思っていたところでの、このイージスピース計画。どうせやるなら、これを利用して追い落とせる物なら追い落としてやりたいというのが本音なのだ。
「では川山さん。私もこれにて」
「えぇ。全く、お互い疲れる立場ですが頑張りましょう」
「ははっ。戦争が終わったら、故郷でのんびり休暇を楽しみたいですよ」
ユウヒも出て行き、部屋は川山1人になった。川山は1人、静かにコーヒーを飲む。大使に出すコーヒーなだけあって、なかなかに美味い。
「.......斯くて舞台は整い、哀れな
もうこうなった以上、イージスピース計画は誰にも止められない。この会談で既に賽は投げられたも同義だ。あんな嘘八百を並べ続けた以上、露見すれば最期だろう。とは言え、投げた賽を心配していては何も出来ない。投げたものは仕方がない。後は皇国の為に、やる事をやり続けるだけだ。