最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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第九十四話要塞を乗り越えて

極帝と神谷率いるワイバーン連合飛行隊による攻撃から数時間。地上部隊はノーベース要塞のあった場所を突き進んでいた。本来なら皇国の戦車を先頭に進んだ方が良いのだが、ミリシアルの戦車に当たる兵器、スパイダー*1が先陣を切っている。

その後方にはムーと皇国の機甲部隊が続き、その後ろをトラック等の輸送車両が付いて行っている。今回の作戦は知っての通り、世界連合軍の合同作戦。皇国、ムー、ミリシアルはトラックがあるが、他の国はトラックがなく馬や魔獣に依存している。ここに基準を合わせては行動半径が劇的に狭まる為、3カ国が分けて輸送している状況だ。トラックの荷台に、鎧とか槍や弓で武装した兵士が乗り込んでいるのは中々にシュールだが気にしてはいけない。

 

「どうだいお客さん!皇国製、いすゞのトラックの乗り心地は?」

 

「すごいな。こんな悪路なのに、全然揺れていない!

 

「寝袋引けば、これ全然寝れるぞ!」

 

皇国のトラックは基本的に全ていすゞ製である。日常で使われる業務車枠であれば他の企業も使うが、軍用となればいすゞが1番である。装甲車や戦車の様な重装甲かつ主力の兵器となってくると、三菱や神谷コンツェルン傘下の神谷タクティクスが担当している。

余談だが基本的に枯れた兵器、例えば44式装甲車や36式戦車、F9心神、駆逐艦等の数が多い主力兵器は三菱重工が担当する事が多い。対して51式510mm自走砲や特殊戦術打撃隊の保有する奇想天外超大型兵器等の決戦兵器、或いはゲテモノ兵器は神谷タクティクスが担当する事が多い。ライバル企業とは言え、必要があれば普通に業務提携して量産を手伝いあったりもザラにあるので、実は「設計神タクで量産は三菱」やその逆なんてのは意外とザラにある。

 

「そいつは良かった。だが寝ないでくれよ?アンタらの装備の関係上、野晒しにせざるを得ないから普通に落ちる。落ちれば最悪、後続に轢かれて死ぬぞ」

 

「よし!お前達間違えても寝るなよ!」

 

「「「「サーイェッサー!!!!」」」」

 

いつもなら荷台には天幕を掛けるのだが、今回は槍とかを持ち込んでいるので普通に天井を突き破ってしまう。その為、屋根は全て取っ払っているのだ。幸い雨も降っていないので、濡れる心配もない。最悪降ってきたら、その時はその時だ。

 

『AWACSビッグボーイから各部隊へ。レーダーにて偵察機と思しき機影を探知した。方位、1-9-6。中央の輸送部隊は特に注意しろ』

 

「だとさ。お客さん、右側をよく見ていてくれ。もしかしたら敵の飛行機が来るかもしれねぇ」

 

「攻撃か!?」

 

「いや。取り敢えずは様子見の偵察機の筈だ。だが警戒し発見するに越した事はない。一応見ていてくれ」

 

兵士達は身を乗り出して、空を見上げる。正直何も見えない。見えるのは白い雲と青い空。ここが戦場じゃなければ、楽しいピクニックなっただろうという感想くらいしか溢れてこない程には美しい景色だ。

 

「あっ!おいあれ!」

 

「何だ、見えた?」

 

「あぁ!あそこだ!!」

 

兵士の1人が指差す方向を、双眼鏡で覗いてみる。そこには確かに帝国の国籍証が描かれたレシプロ機がいた。間違いなく帝国の偵察機だろう。

 

「あー、アレだな。すぐに通報しよう」

 

この情報は直ちに最外縁部を警戒している防空中隊に伝達され、すぐさま迎撃された。本作戦では高い対空能力を持つ皇国軍が最外縁部を固め、航空機からの防衛を担っている。今回の様な小規模による襲撃であれば陸上部隊が排除し、もしも大群でやってきた場合はAWACSが友軍航空戦力を持って迎撃する手筈だ。

 

「撃墜したのか?」

 

「あぁ。今のは44式ロ型の攻撃だ。俺達の居た世界じゃ、音速を超える航空機がこっちで言う誘導魔光弾とかいう兵器みたいなのが、お決まりのように飛んでくる世界だった。お陰でこういう大所帯を守る対空戦闘もお手のものって訳よ」

 

「お、恐ろしいな異世界.......」

 

「まるで神話だぜ.......」

 

戦場のど真ん中かつ、今は史上最大規模の作戦中。とは言えやはり皇国軍の兵士としては異世界を、各国の兵士達は皇国という異世界の事を知るチャンスである訳で、普通に互いの故郷の話だとか普段の暮らしだとかで盛り上がっていた。異文化交流というのは、異世界でも共通の話題になりあるらしい。

だがそれは、あくまでも後方の部隊。最前線を駆る機甲部隊は、こんな和気藹々とした空気はなく、ただただ緊張感溢れる空気感であった。

 

「全く。何故、皇国との共同作戦なんだ.......」

 

例えば彼。神聖ミリシアル帝国陸軍第三機甲師団隷下、独立装甲突入旅団のスパイダー132号の装填手ピューラーである。

 

「ぼやくなよピューラー。俺としちゃ皇国との共同作戦は、結構賛成だぜ?」

 

「俺も!」

 

「ボドル先輩にパーラーはそっち側ですか!?」

 

「お前達、作戦中だぞ」

 

一応、操縦手兼副隊長的立ち位置のノービスが釘を刺す。その後ろで車長のラーヤルは「まあまあ」と笑いながら宥める。こんな凸凹軍団ではあるが、このスパイダー132号は旅団どころかミリシアルきってのエース級戦車乗り達で構成された精鋭だ。精鋭だからこそ、最前線の先頭を駆る1両に抜擢されている。

 

「ピューラーくん。君は何故、そんなにも皇国を邪険に扱うんだい?」

 

「だって、だって!奴らは我が軍を「弱い」「遅れている」と言っていました!!そんな奴ら、何故戦友として信用しなくてはならないのですか!?」

 

「え、なに。アイツらそんな事言ってたの?なら俺も反対」

 

「アーレ、パーラーさん?アンタそっち行く?」

 

「.......その事が本当なら、私も君の肩を持つ」

 

どんどん車内では皇国へのヘイトが溜まっていく。だがラーヤルは少し悲しそうな顔をしながら、気持ちは分かると言った上でこう続けた。「向こうのを見たら自分でもそう思う」と。

 

「どういう意味です?」

 

「みんなは見てないだろうが、僕はちょっと司令部に用事があってね。出発前にテントに行ったんだけど、その時に皇国の戦車を見たんだよ。こっちのスパイダーがまるで子供みたいな感じがする位に巨大で、連装砲を搭載した威圧感たっぷりな見た目でね。あんな兵器があるんじゃ、僕達のを弱いとか言われても仕方がないよ」

 

尚、この「弱い」「遅れている」発言は、運用の仕方の話である。帝国や皇国以外を相手にするのなら、今の運用方法でも戦力として大いに期待できるだろう。だがスパイダーの運用方法として適しているのは、どちらかと言えば大量の物量で押しつぶすよりも少数が連携して戦う機動戦の方だ。その点が分かっていない所を「弱い」「遅れている」と発言していたのである。

 

「ッ!?各車戦闘用意!前方、敵戦車群!距離1500!数、多数!!」

 

ノーベース要塞通信途絶の報を受け、帝国は敵が大規模攻勢を開始したと判断。即座に警戒任務に当たっていた四個歩兵師団を投入。更に機動力に優れる軽戦車ブルと中戦車レトリバーを中核とした機甲部隊、更にカチューシャ擬きこと噴進砲トラックポイズンを装備する一個噴進砲兵中隊、対戦車砲を装備する2個砲兵大隊をノーベース要塞方面から侵攻してくるであろう世界連合軍への迎撃に向かわせていたのだ。

 

「車長!弾種はどうされますか!?」

 

「取り敢えずは榴弾でいい」

 

「ハッ!榴弾装填、よし!」

 

「ボドルくん、よく引きつけてからだ。慌てはダメだよ」

 

「わかってます!」

 

さっきまで皇国へのヘイトスピーチ大会と化していた空気は一変し、車内の空気は『精鋭』の名に恥じないピリ付いた戦場の空気となる。

 

『こちら133号!冷凍弾で驚かす!!』

 

ミリシアル帝国の砲弾は当然ではあるが、大体魔法が使われている。徹甲弾は単純に硬い鋼鉄が使われているが、榴弾であれば爆裂魔法、白燐弾に当たる火炎弾は炎系魔法が織り込まれている。この他氷系魔法が込められた冷凍弾、雷系魔法が込められた電撃弾等も存在する。

今回の冷凍弾は着弾後、一体を凍らせる効果を持つ。歩兵やスパイダーの様な脚を持つ存在にとっては、かなり厄介な砲弾となる。対スパイダー戦では常套手段だ。だが今回の敵である戦車は、無限軌道を持っているのは知っての通りだ。そして無限軌道は機動性は多脚には劣るが不整地、特に砂漠や雪上の様な場所に特化した駆動方式。正直、冷凍弾は余り効果が望めない。

 

『んなアホな!?こちら128号!奴ら、冷凍弾を諸共してない!!』

 

「何!?」

 

「どういう事ですかね車長?」

 

「分からないねぇ。奴ら、一体どんな魔法を.......」

 

ラーヤルがそう呟いた瞬間、車両の横から嫌な音が鳴った。次の瞬間、魔信に断末魔の声が響く。

 

『121号車大破!!』

 

『この距離で届くって言うのか!?』

 

「ボドルくん!作戦変更、牽制射撃開始だ!!」

 

「任せてください!ファイア!!」

 

スパイダー達は一斉に榴弾を撃ち込み、牽制を開始。何発かはブルを破壊するも、進軍速度自体は一切衰える事がない。何発か撃っていると、どうやら相手の間合いに入ったのだろう。加速度的にスパイダーの破壊報告が入ってくる。

 

『131号車大破!!』

 

『128号もだクソッタレ!!』

 

『応戦せよ!応戦せよ!!応せ…ガッ!』

 

次々と入ってくる破壊報告と、戦友達の断末魔の悲鳴。その一方で敵の撃破報告は余り多くない。ラーヤルは車長席から、共に戦っている最高の戦車乗り達を一瞥すると口を開いた。

 

「君達、模擬戦の要領だ。僕達の十八番、行くとしよう」

 

「.......ラーヤル、やるんだな?」

 

「やるとも。ノービス、熱いダンスを頼むよ」

 

「あぁ!ボドル、ピューラー、パーラー!合わせろよ!!」

 

ノービスは操縦桿を前に叩き込み、足のペダルを蹴る。次の瞬間、132号車は1両だけ前に飛び出した。帝国の戦車達は突出している132号車をこぞって狙うが、132号車は華麗なステップで砲弾を避けていく。

 

「スロー!スロー!クイッククイック、スロー!」

 

何処ぞの様子のおかしな人みたいなセリフだが、あんな変態チックではない。優雅なまるで社交会のダンスのように、スパイダーを操っていく。

 

「ボドル!」

 

「ファイア!」

 

華麗なステップで側面に回り込むと、片っ端から戦車を食い散らかしていく。今度は優雅さのカケラもない、まるで戦神の様な鬼気迫る戦いっぷりである。砲弾を撃てば、即座にピューラーが装填し、その間はパーラーが機関銃をばら撒いて牽制する。

 

「次!右1.5!」

 

「装填良し!!」

 

「捉えた!ファイア!!」

 

ズドォン!

 

「次弾徹甲!装填急げ!!」

 

「次弾徹甲、あい!」

 

高い機動性で翻弄し抜群のコンビネーションで、素早い攻撃を行う132号車。しかしこの行動、当然ではあるが脚部にかなりの負荷がかかってしまう。連続使用は脚部の接合部がオーバーヒートしてしまう、かなりの博打なのだ。

 

「脚部へのダメージが思ったよりも酷い!ラーヤル!一度退がって、態勢を立て直したい!!」

 

「分かった。各車!こちら132号車!一時脚部オーバーヒートの為、一時後退する。援護を頼む!!」

 

『了解した、カバーする!!』

 

他のスパイダー達が援護に入るが、ブルがスパイダー達の側面を取り囲む様に布陣し始め、こちらが劣勢になってくる。何せこのスパイダー、固定砲で車体ごと向ける必要がある上に、FCSの様な電子装置に相当する装備も搭載していない為、132号車の様な至近距離での接近戦でも無い限り、止まって撃たなくては命中精度が格段に落ちてしまう。お陰でこういう風に側面に回り込まれると、途端に対応しにくくなる。

 

「ノービス!早く車体を回すんだ!!」

 

「ダメだ!オーバーヒートで機動力が落ちてる!!」

 

「これはちょっと不味いねぇ。ノービス、なるべく急いでくれ!!」

 

精鋭達の脳にも焦りと死への恐怖がチラつき始める。だが今回は、後方に頼れる最強の味方が控えている。魔信に皇国のシグナルで通信が入った。

 

『こちらエルダータイガー。これより我が部隊はミリシアル機甲部隊を援護する』

 

ラーヤルがハッチ下にある小窓から後ろを覗くと、本部テントで見た大型の戦車と、それよりも遥かに大きい超巨大戦車が何両もいた。しかもその内の大型の戦車2両は基本色であろうダークグリーンに黒のタイガーストライプが描かれており、その2両を従えるように停車している超大型戦車はダークグリーンに赤のタイガーストライプが描かれていた。一目でその戦車軍団の、エースか隊長車だと分かるカラーリングである。

 

「隊長。結構やられてますよ、彼方さん」

 

「そうみたいだな。戦線を押し上げ、いや!敵を俺達だけで殲滅する!!轢き潰せ!!!!!!」

 

「ヤヴォール。パンツァーフォーーー⤴︎⤴︎⤴︎!!!!!!!」

 

皇国軍の数ある機甲部隊の中でも、最上位の練度を有するアサルトタイガーが帝国軍に向かって突撃を開始する。この部隊は知っての通り46式戦車と34式戦車改を主軸に編成された突撃機甲連隊であり、本来であればMBTで編成された機甲部隊を真正面から駆逐する部隊だ。戦術自体が根底から違う。

 

「いつも通りだ。3両編成、グランド・フリート戦術でいく!」

 

突撃機甲部隊が最も得意とするグランド・フリート戦術。46式を指揮官とし、34式改がそのサイドを固める。この3両は常に行動を共にし、単一目標を撃破するというだけの至ってシンプルな戦術だ。

だがこの戦術はリアルタイムデータリンクと、その巨体に似合わぬ機動性と高い操縦スキルを用いた、まるで日体大の様な一糸乱れぬ集団行動を戦車でやるという物であり、帝国の様なマニュアル照準には特によく刺さる戦術だ。

 

「目標、敵前衛軽戦車群。弾種、対装甲フレシェット弾!撃てぇ!!」

 

明らかにスパイダーとは格の違う、まるで戦艦の砲撃の様な轟音が一斉に鳴り響き、その1斉射のみで前衛の軽戦車群を全て破壊する。この対装甲フレシェット弾は鋼鉄できた大型の矢を周囲にばら撒く代物であり、本来は装甲車や歩兵戦闘車相手に使う砲弾だ。

だが帝国の場合、まだ発展途上時代の戦車を仮想敵として想定している以上、皇国基準のMBTには遠く及ばない。性能自体は基本的に歩兵戦闘車とイコールだ。しかも相手は快速性を得る為、当たらなければどうという事はない理論で装甲を削った軽戦車。この砲弾が文字通り、面白いように刺さる。

 

「次弾榴弾!副砲、及び34式は牽制射撃!!」

 

46式の主砲に次弾を装填している間に、両サイドの34式改と天井の副砲は牽制射撃を開始。牽制射撃とは言いつつ、しっかり他の戦車を正面から貫く攻撃だ。数はみるみる減っていく。

その内帝国軍は、最も目立つ赤いタイガーストライプの戦車に狙いを定めていく。だがしかし75mmの豆鉄砲では、装甲に凹みを作る位しかできない。言うなればドアノッカー砲なのだ。しかもコイツらはよりにも寄って、奈良山純也という『戦車殺しの死神』の異名を持つ男に喧嘩を売ってしまった。末路は決まったも同然である。

 

「殲滅するぞ!!副砲は左右を2両ずつ!主砲はそこの一団に叩き込めや!!」

 

エルダータイガー目掛けて砲弾を撃っていた戦車軍団は、瞬く間に破壊されていく。何せ相手の攻撃は通らないが、こっちは掠っても相手は致命傷という超イージーモード。殲滅も楽ちんだ。その内、1両を残して完全に殲滅されてしまう。ではこの残った1両、一体どうするのか。簡単だ。轢き潰す。

 

「カチコメぇぇぇぇ!!!!!!」

 

エンジンが唸りを上げ、最後のレトリバー目掛けて突進を敢行。勿論レトリバーも来るなと言わんばかりに砲弾をぶつけてくるが、全く意に返さず吶喊。そのまま文字通り、レトリバーに乗り上げて轢き潰した。

 

「せ、戦車を轢き潰しやがった.......」

 

「なんて連中だ.......」

 

「これは弱いと言われても、文句でないねぇ.......」

 

132号車の兵士達も、最早驚くとか恐怖するとかを通り越して、ただただ「そこまでやるか普通」という、ドン引きの感情しか生まれてこなかった。

 

『エルダータイガーより、残存部隊へ。本隊先鋒の任は我々に引き継がれたい』

 

奈良山の提案には、生き残ったスパイダーの戦車兵達も良い顔をしなかった。とは言え相手は皇国。そうそう反抗できる物ではない。だがラーヤルが魔信で、戦車兵達が抱くその気持ちを代弁する。

 

「こちらは独立装甲突入旅団、スパイダー132号車。車長のラーヤルだ。救援には感謝の意を表するが、その提案には些か承服しかねる。我々は皇帝陛下の御命により、この戦場に参上した。例えこの命尽き果てようと、任務を全うする」

 

『.......了解した。だがしかし、そちらの戦力及びスパイダーの特性上、本隊先鋒の任はやはり荷が重く見える。そこで貴部隊は我が方の多脚機甲戦力と共に、敵防衛戦への奇襲攻撃を敢行されたい』

 

「どういう意味かな?」

 

『本来多脚戦車は、その機動力で敵を撹乱する戦術でこそ輝く。こっちみたいに正面切ってぶつからず、側面に回り込むのが戦術としては正しい。その性能と、アンタらの腕を信用して、この奇襲を頼みたい』

 

正直な所、現場の特に精鋭と呼ばれる兵士達からはスパイダーの運用方法が根底から間違っているのは、薄々ではあるが勘付いていた。装甲で敵を引きつけるのではなく、機動性を生かした奇襲や側面からの攻撃にこそ真価を発揮すると。

だがミリシアルの頭の硬いエリートは、その事を全く取り合ってくれなかった。ラーヤルもその矢面に立った事があるので、この辺りの話はよく知っている。ましてこの独立装甲突入師団は、そういうのを理解した連中で構成された精鋭部隊。答えは決まった。

 

「.......了解した!我々はこれより、敵防衛戦への奇襲を敢行する。エルダータイガー、先鋒はお任せする」

 

『承諾に感謝する。本隊先鋒の栄養、謹んでお受けしよう。神谷戦闘団隷下の機甲部隊に恥じない働きを持って、その栄誉に答えて見せよう』

 

「か、神谷戦闘団!?.......そういう事なら、ますます断るわけには行かないね」

 

神谷戦闘団の名が出た以上、この戦場では無条件で信頼に足る唯一無二の言葉となる。本格介入以来、こちらが不可能だと考えてきた凡ゆる戦況を覆してきたばかりか、そのまま逆侵攻を敢行し島を解放してみせた最強の戦闘集団。その戦闘集団の言葉を疑う愚か者は、この戦場には誰1人としていない。

独立装甲突入旅団の残存部隊は皇国の多脚機甲戦力、第86独立機動打撃群(エイティシックス)との合流を目指し転進。アサルトタイガーはムー機甲部隊との合流を待ち、隊列を整えてから防衛戦を食い破るべく進撃を再開した。

 

 

 

数時間後 ポイント099 グラ・バルカス帝国臨時防衛戦

「き、来た!」

 

帝国兵の1人がそう叫んだ。地平線の向こうから、土煙を巻き上げながら進撃してくる大軍勢。間違いなく、世界連合軍の総攻撃だ。この防衛戦はノーベース要塞が突破された際に使用される塹壕であり、本来であれば遅滞戦闘で動きを鈍らせ、その間に側面や上空から攻撃を加えて殲滅する事を目的としている陣地だ。

 

「総員戦闘配置!!合図あるまで待て!!!!」

 

しかし世界連合軍、それも皇国、ミリシアル、ムーが揃い踏みともなれば、そんな悠長な事はしていられない。ここで何が何でも止める位の勢いでぶつかった上で、1人でも多く殺して戦力を削ぐ必要があるのだ。その為、既に多数の爆装した航空機がここに向かっている。後方には野戦砲もある。きっと勝てる。誰もがそう信じて疑わなかった。

だがその目論見すら彼らは打ち砕く。攻撃準備が整う前に、明らかに艦砲サイズの加害範囲を持つ砲撃に晒され、塹壕にいた敵はその大半が戦死する事態となった。

 

「こちらキャッツアイ3。敵第一防衛線は完全に消滅した」

 

『51式の直撃を喰らったのだ。これを防げるのは、戦艦くらいの物よ。フフフ、おかわりといこうか』

 

毎度お馴染みのチート兵器、51式510mm自走砲である。どんな塹壕線であろうと、オリジナルの大和型を超える510mmの大砲に狙われては一溜りも無い。塹壕は砲撃によるダメージを最小限に抑える為、直線ではなく適度に曲がりくねった作りをしている。これで爆風や砲弾の加害範囲を抑えるのだが、流石に510mmは考慮にいれてすらいない。お陰で、そういう障害ごと消滅できる。しかもそれが数十門もいるとなれば、塹壕線なんて機能しない。

 

『こちらAWACSビッグボーイ。オールキャッツアイ、敵航空隊が接近している。直ちに退避しろ』

 

「こちらキャッツアイ1、了解した。退避する」

 

キャッツアイに所属するOH8風磨が現空域から退避する。それと入れ替わるようにして、極帝の強化によってオールドワイバーン級の能力を手に入れた各国のワイバーン達と、ムーの戦闘機パシフィカを有する航空隊が飛来。ビッグボーイによる誘導が行われる。

 

「こちらはAWACSビッグボーイ。これより諸君らを援護する」

 

『なんだ、皇国も戦闘機を出していたのか?』

 

『皇国の飛行機械がいれば百人力だ!!』

 

現代戦ではAWACS、或いはAEWを用いた航空戦は常識どころかスタンダードとすら言える。だがこの世界では未だ、大型の航空機に大型レーダーを載せるという発想は生まれていない。何度か共闘した事はあるとはいえ、それでもまだAWACSの認知度は低いのだ。

 

「生憎だが本機は戦闘を目的とした航空機ではない。通常の大型旅客機に、大型レーダーを搭載した機体だ。

我々の仕事は君達のような大空を股にドンパチするのではなく、後方の安全な空域からレーダー情報を用いて君達を情報面で援護する事だ」

 

『そんな機体があるのか!?』

 

「驚きだろうが、これが我々の常識だ。では仕事を始めるとしようか。

君達の編隊から見て2時の方向。高度3000。機種は分からないが、編隊から察するに単発の爆撃機。それと護衛の戦闘機だ。今のペースだと、接敵まで凡そ10分って所だろう。周囲に雲がある。上手く使え」

 

レーダーである以上、距離や高度が分かるのは当然だ。しかしまさか現場の天候すらも分かるというのは、些か信じられない。天候観測用のレーダー、及びそれに準ずる魔道具は無くは無いが、それでも凡その大きな雲の動きしか分からない。天気予報も「多分来週は何処かで大雨でしょう」位な物だ。

 

『了解したビッグボーイ。ワイバーンは後方から初撃を喰らわせてくれ。我々は陣形が乱れた所を、真上から行く』

 

『一番槍の栄誉、確かに貰ったぞ』

 

航空隊は2つに別れ敵編隊に向かう。パシフィカは高度を取り、雲の上を飛ぶ。ワイバーンは雲の中に突っ込み、ビッグボーイの誘導の元、敵編隊を補足するべく進路を取った。

 

「まもなく会敵する。注意しろ」

 

『見えた!目視にて発見!!』

 

『こちらも捉えた。頼むぞ、ワイバーン達!』

 

「アドバイスだ。真後ろ、正確にはその少し下から攻撃するといい。後ろの下方は、航空機にとっては死角だ。発見されるリスクを少しとはいえ下げられる」

 

『あぁ、わかった!行くぞ!我に続け!!!!』

 

ワイバーンは果敢に敵編隊目掛けて飛んで行く。ビッグボーイのアドバイス通り、背後の下方から駆け上がる様に。お陰で帝国側は気付くのが遅れ、気付いた頃には既にワイバーンの射程に入っていた。

 

「全騎、導力火炎弾!放て!!!!」

 

普通のワイバーンであれば、1機に対して数騎の導力火炎弾を集中させて漸く撃墜できるかどうかという、どう甘く見積もろうと「脅威になり得る」と判断されない攻撃であった。

しかしオールドワイバーンであれば、零戦相手に正面切って戦えるだけの火力を有する。放たれた導力火炎弾は次々に命中し、命中した機体からは黒煙が上がり、そのまま墜落していく。中には機体の中に引火したのか、コックピット等から火を吹いている機体もチラホラ見受けられる。

 

『ワイバーンでも戦える!!!』

 

『極帝様の御力を頂いたのだ!まだまだやれるぞ!!!!』

 

「お前、すげーな。もっと行こうぜ!」

 

導力火炎弾は本来、そうそう連発できる代物では無い。導力火炎弾の仕組みはワイバーンの口内で引火性の唾液に、火炎魔法で火を付けて、その玉を風魔法で包んで撃つという代物。その為、再充填から発射までは30秒程掛かる。

だが現在のワイバーンの場合、連射とまでは言えないが、3秒に1発という10分の1のサイクルで撃つ事が可能となっている。

 

『一体何処の誰がやりやがった!!ムーか!?皇国か!?』

 

『違います!奴ら、ワイバーンだ!!』

 

『なんだと!?ワイバーンが俺達を倒せる訳ないだろうがッ!!!!』

 

帝国に於いてもワイバーンの認識は「見た目の割に攻撃力は低く、歩兵では脅威だが、戦闘機であればルーキーでも完封勝利できる空飛ぶトカゲ」という物であり、少なくともこんな風にやられるなんて言うのはあり得ない事だった。

 

『攻撃は見事だ。だが!』

 

少なからず混乱するパイロット達だったが、戦闘機隊の判断は早かった。即座に増槽を捨て、翼を翻し、ワイバーン目掛けて突っ込む。

 

『俺達アンタレス改に勝てるかなぁ!?』

 

パイロット達は「アンタレス改が相手ではワイバーンは勝てない」と、そう考えていた。普通のワイバーンならその通りだろう。後ろを取られて、そのまま機銃で蜂の巣にされる。そういう結末を迎える。だがオールドワイバーンであれな、そうはならない。

 

「相手に取って不足なし!!行くぞ!!!!」

 

ワイバーンはそのままドッグファイトに持ち込む。アンタレス改のパイロット達は「待ってました!」と言わんばかりの、嬉々とした顔でドッグファイトに臨む。何せ元々のアンタレスよりも多少鈍重になったとは言え、そのドッグファイト性能は健在。皇国の分析を持ってしても「アンタレス改の格闘戦性能はWW2当時の機体と比較しても、文句無しの最強格に値する」という評価が出るほど。アンタレス改にドッグファイトを挑むのは、悪手も悪手。自殺行為に等しい。

 

「相棒!踊るぞ!!」

 

だが、オールドワイバーンに死角なし。そもそもワイバーンは生物があるが故に、身体が自由に曲がる。その為、機動性は複葉機をも凌駕する程なのだ。今回はそこに極帝による強化が入った事で、アンタレス改をも凌ぐ高い格闘戦性能を会得したのだ。

 

『なんだコイツら!!』

 

『その場で一気に反転とかアリかよ!?!?』

 

『こんなの戦闘機の動きじゃねぇ!!』

 

『オイ!コイツらはワイバーンだぞッ!!』

 

これに加えて戦闘機ではまず成し得ない生物が故のトリッキーな動きは、パイロット達を混乱の渦に叩き込む。冷静に見れば案外対策は簡単だが、攻撃が始まってからずっと続いている常識外の状況に呑まれ、冷静さを欠いてしまっているのだ。

これに加えて真上からパシフィカが突入。未だ殆ど手付かずの爆撃機に襲い掛かる。

 

「敵機直上!新手です!!」

 

「クソッ!今度はムーの新型だ!!」

 

パシフィカ含め、ムーの戦闘機は第二次世界大戦当時の連合国側の航空機を元にした物が多い。その為、零戦の様な格闘戦性能は無いが、真上から突っ込む一撃離脱戦法は大得意なのだ。

 

「野郎共!爆撃隊を食い散らかせ!!!!」

 

『『『『『『Yes Sir!!!!!!』』』』』』

 

爆撃機隊の上空から逆落としに、パシフィカの群れが突撃していく。防護機銃の弾幕が展開されるが、発見が遅れた上に完全な奇襲だった事も相待って散発的だ。気休め程度にはなるが、それで撃墜されるパイロット達ではない。

 

『こちら爆撃隊!敵の奇襲を受けている!!救援を請う!救援を請う!』

 

『こちらも手が離せない!どうにか持ち堪えてくれ!!』

 

帝国軍はズタボロであった。既に爆撃機も戦闘機も半数以上が落とされ、その数は今も増え続けている。だが彼らとて、タダではやられなかった。一部の経験豊富な爆撃機は、他を囮にする形で無理矢理包囲網を突破。敵進軍予想経路に向かっていた。

 

「隊長.......」

 

「あぁ。.......俺だってこんな形で、逃げ仰るなんて御免だ。だが!俺達の任務は、侵攻中の敵の頭ん上に爆弾を叩き込む事だ!!例えそれが味方を裏切る様な行為であろうと、これをしなければ何百人と死ぬ!!ならば、俺達がその役目を全うするのだ!!死んでいった仲間達の代わりに!!!!」

 

今やシリウス型爆撃機8、リゲル型雷撃機6という、余りに粗末な編隊だ。だが彼らは全員、総じて飛行時間1000時間を超えるベテラン達。実戦を何度も経験した、文字通りの古兵。何が何でも成功してみせるという、最早執着や呪詛にも似た気合いを滲み出させていた。

 

『ビッグボーイ!敵を何機か逃した!!場所を教えてくれ!!』

 

「心配しなくていい。既に対処済みだ」

 

『何だと?』

 

「現在、本隊の先鋒は我が軍最強の神谷戦闘団、その機甲部隊であるアサルトタイガーが勤めている。当該部隊含め、皇国軍の各部隊には対空兵装を満載した車両が随伴している。彼らに処理は任せる」

 

丁度この無線で喋っていた頃、爆撃隊の生き残りはアサルトタイガー隷下の49式対空戦闘車のレーダーに探知されミサイルの餌食となった。チャフやフレアを搭載せず、そもそも発射されたミサイルを目視で発見する事もできず、爆撃隊は火だるまになって全滅した。

 

「たった今、撃墜を確認した。繰り返す、当該空域に接近中の爆撃隊は全機撃墜された。全機ミッションコンプリート、警戒配置に戻れ」

 

斯くしてレイフォル侵攻軍迎撃支援の為に飛び立った、シリウス型爆撃機60機、リゲル型雷撃機40機、アンタレス100機、アンタレス改60機からなる航空隊は、ムー及び連合竜騎士隊によってその尽くが撃墜され、生き残った数機は皇国軍により撃墜された。

 

 

 

*1
蜘蛛の様に四対8本の脚を持つ、戦車な兵器。足は無駄に人間みたいな形をしている為、かなりキモい。装甲は帝国の中戦車ハウンドIIなら正面切って戦える程の物を有し、主砲自体はアメリカのシャーマンと同等の物を搭載している。だが慣れてなければ酔い止めを飲んだ上で座席にエチケット袋常備じゃないと、マトモに操れない程に揺れが激しい。

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