同時刻 侵攻軍本隊 上空
『こちらビッグボーイ。村今戦闘団へ!上空はクリア。制空権は我に有り』
「了解した。これより行動を開始する」
村今戦闘団は他の戦闘団とは違い、その全てが空挺旅団でのみ構成された特別部隊である。当初は普通に陸上部隊を有していたが、今回の全面侵攻に伴い完全な空挺部隊に編成し直されたのだ。
空挺部隊と聞くと第一空挺団の様にパラシュート降下を専門とする特殊部隊を想像するかもしれないが、彼らの場合はヘリボーンを専門とする部隊だ。一部の兵士は空挺徽章を保有しているが、大半の兵士は普通の兵士である。とはいえど、その性質上、生半可な連中では仕事にならない。その為、特殊部隊程ではないにしろ『精鋭』を名乗れる位には強い連中だ。
「これより我が戦闘団は、敵最後方の重砲陣地と司令部に強襲をかける。音楽を鳴らすとしよう」
「となると、掛けるのはアレですね?」
「そうだ。心理作戦開始!音を上げろ、さぁ!踊るぞ!!」
「了解であります、キルゴア中佐!」
各ヘリコプターに搭載された大音量スピーカーから、ワーグナーのワルキューレの騎行が流れ出す。いきなり空中から流れ出した音楽に、兵士達は何事かと上を見上げた。そこにはV字状の編隊が幾つも連なって飛んで行く姿があった。
「なんだこの音楽?」
「なんか、こう、やる気が出てくるよな」
「わかる!戦場の音楽って感じだ!!
「コイツは俺達のいた世界にあった音楽、ワルキューレの騎行さ。本当はクラシック音楽なんだが、今となっちゃヘリコプターの大編隊が飛ぶ時のお約束になってる」
最早、その映画が何なのかは語るまでもない。ベトナム戦争を描いた地獄の黙示録である。例えこの映画を知らずとも、ヘリコプターが大挙を成してワルキューレの騎行と共に進撃していくのは想像できるはずだ。
「全機突撃態勢。大きく遠回りして、敵後方陣地を急襲する!」
「であれば閣下、コイツが必要では?」
副官が用意したのは村今が好きなポタポタ焼きと、粉末の抹茶である。この村今、なんだかんだでパーパルディア戦役の序盤以降、殆ど出てきていなかった為、どういう人物か忘れた読者諸氏も多い事だろう。
村今和寿陸軍中将。皇国軍の中でも三次元の立体戦を得意とする将軍の1人であり、地元の仙台をこよなく愛する男。自らの元を訪れた部下には、基本必ずお菓子が渡される事で兵士達から『酒保将軍』と呼ばれている。その為、自らの執務室や乗っている兵器には必ずお菓子と、それに合うドリンクが常備されている。今回は偶々ポタポタ焼きと緑茶だっただけで、クッキーと紅茶とか、ドリンクがない代わりにアイスとかだったり、その日の気分で変わる。
「.......あーうまい」
「閣下ー!俺達にもくださーい!」
「あー閣下が乗るヘリコプターを操縦するの、精神すり減らす位緊張するんだよなー(棒)。なんか飲み物とか、そう!お茶とか煎餅が食べたいなー!!」
「あげる!あげるから、ちゃんと操縦しなさい!」
「「さーいぇっさー」」
場合によっては、こんな感じで強請られたりもする。酒保将軍が緑茶とポタポタ焼きでまったりする事、凡そ20分。編隊は遂に帝国軍の最後方に位置する重砲陣地兼、臨時防衛司令部の設置された塹壕陣地に到達した。
「おい、なんか聞こえないか?」
「音楽か?聞いたことないな.......」
「なんか近付いて来てる感じがするが、気のせいだよな.......」
最近はこの世界に於いても地球の幅広い文化が浸透しつつある。アニメ、ゲーム、マンガといった日本を代表するサブカルは勿論のこと、この世界の上流階級には同じ位の文明だった時代に流行った音楽、例えばオペラとかミュージカルの様な芸術も流行している。ワルキューレの騎行も意外と有名ではあるが、当然帝国はそれを知る由はない。
だが知らずとも、あの音楽の音色は彼らに不安な予感を与えるには充分だった。心理作戦は成功したと言えるだろう。
「敵機発見!!オートジャイロです!!!!」
「対空戦闘始め!!歩兵は退避壕に退避しろ!!!!」
これまで何度か帝国軍もオートジャイロ、ヘリコプターという兵器には遭遇してきた。しかしそのどれもが基本的に攻撃ヘリコプターであり、人を輸送するというヘリコプター最大の役割とでも言うべき認識はなかった。その為、この大挙するヘリコプターの大群は全て攻撃ヘリだと誤認してしまった。
今回村今戦闘団には勿論、純然たる攻撃ヘリコプターのAH32薩摩が配備されているが、その比率は少ない。大半がUH73天神だ。とは言えこの天神も全機に武装用スタビライザーが増設され、ロケットランチャーと機関銃がマウントされており結構重武装である。なので「全部攻撃ヘリ」というのは、あながち間違ってはいなかったりする。
「右30度!高角25度!!撃て!!!!」
ダダン!ダダン!ダダン!
「散布角広げろ!!右25!左20!!」
「右砲身25度!左砲身20度!!」
「撃て!!」
ドォン!!!!
帝国軍は即座に攻撃を開始。高角砲と機関砲で弾幕を展開し、飛来するヘリコプターの大群に攻撃を加え続ける。見た目こそ旧帝国海軍の八九式十二糎七高角砲と25mm三連装機銃ではあるが、高角砲についてはVT信管を搭載した砲弾を採用している。その為、単純な攻撃力だけで言えば油断ならない敵だ。
だが皇国にとっては、この程度の抵抗は予測の範囲内だ。攻撃が当たらぬ様に高度を下げ、その状態から対戦車ミサイルを高角砲に叩き込む。高角砲さえ潰してしまえば、後は自前の装甲でどうとでもなる。25mm弾程度、当たったところでどうという事はない。
「ぐわぁ!!!!」
「奴ら!この距離から撃ってきているのか!!」
「俯角取れ!!」
「ダメです!奴ら、稜線の影から撃ってきます!!砲弾が届きませんッ!!!!」
こちらはレーダー照準やGPS誘導で攻撃できるが、向こうは当然だが目視で砲弾を使わなければならない。となれば姿が見えず稜線という遮蔽物に隠れてしまえば、向こうは全く攻撃できないのだ。
一方的な破壊が終われば、即座にOH8風磨が突入。素早く偵察を行い、高角砲の有無を確認する。
『こちらアイボール3!敵陣地の高角砲は完全に破壊された!されど対空機銃は未だ健在!注意されたし!』
「了解。薩摩でLZ付近を掃討しつつ前進。攻撃を開始する。突撃せよ!!」
村今の指揮の元、空挺旅団が突撃を開始する。風磨がその機動性とセンサー類で脅威を即座に検知し、薩摩がそれを元に優先度を瞬時に判別し攻撃。撃ち漏らした分は、天神の武装や乗っている兵士達が攻撃を加える。
「撃て!撃ちまくれ!!」
ダダン!ダダン!ダダン!キンッ!
「装填!!」
「右よし!」
「左よし!」
「中よーし!」
帝国兵も果敢に攻撃を続けるが、薩摩の敵ではない。何せ機関銃には盾とか遮蔽物が無い、完全な野晒し状態なのだ。33式40mmバルカン砲が掠っただけで普通に戦闘不能になってしまう。
「うへぇ、ミンチだぜ」
「下には居たくないですねー」
「それな」
パイロットとガンナーもこの反応である。何せ40mm機関砲弾は、砲弾とある様に当たれば爆発する。そんなのがバルカン砲で発射されれば、着弾地点にいた人間なんてパーツが残ればマシなレベルのミンチ肉に早変わりしてしまう。勿論、対空機関銃の方も弾薬に引火したり単純に穴だらけになったりで大破している。
『アイボール3より指揮官機!地上はクリア!!繰り返す、地上の対空砲は沈黙した!!!!』
「ハードランディングだ。各機を捻じ込め!!」
ヘリコプターの軍団が次々に着陸し、歩兵を下ろす。普通ならファストロープを使う所も、そのまま飛び降りてジェットパックで減速し着地する事で、素早く展開可能だ。
「全周警戒!各部隊降下後、攻撃を開始する!!着剣!!!!」
今回は塹壕での戦闘も考慮される以上、念の為に銃剣を装備する。流石に銃剣での戦闘をメインにはしないが、塹壕の中で突発的に遭遇した場合は銃の様な飛び道具よりも銃剣のような近接武器の方が素早かったりするのだ。
「隊長!!あのオートジャイロは輸送機です!!歩兵を下ろして行きました!!!!!」
「何だと!?アレは攻撃用の兵器じゃないのか!!!!」
「直ちに歩兵隊を参集しろッ!!戦闘用意!!」
グラ・バルカス帝国軍はヘリコプターを攻撃機だと認識していたのが、見事なまでに裏目に出てしまった。全体を退避壕から戦闘配置に移行させるのは、そんな簡単にすぐ終わる物ではない。歩兵達が壕から這い出て自らの持ち場に走っている間に、皇国軍は塹壕に雪崩れ込み、上を取っている。
「急げッ!司令部テントに兵員を集結させ、そこで..............」
「……よぅ」
帝国兵の目の前に立ちはだかったのは、皇国の標準的な迷彩を施した機動甲冑を纏った兵士である。しかも手に持っているのは小銃ではなく、36式散弾銃。閉所戦に於いては、この上なく厄介なアサルトショットガンである。
「ね、狙え!!」
照準をつけるよりも先に、36式の12ゲージが穿つ。散弾が連続してバラ撒かれ、帝国兵達を数人纏めて排除して行く。
「やれやれ。マトモなのは、格好だけかよ」
気怠そうに皇国兵は塹壕に飛び降り、そのまま道なりに進んでいく。暫く進むと、横に部屋があった。
「さーて、親玉はここか?」
「し、指揮官はここにはいない、向こうのテントだ!」
親切にも帝国兵の1人が、拳銃をこちらに乱射しながら教えてくれた。なんと心優しく、親切な帝国兵だろうか。
「そいつはどーもご親切に!」
親切には、しっかりと感謝を伝えなくてはならない。贈り物をするのも良いだろう。生憎と散弾と手榴弾しか持ち合わせがないが、プレゼントを贈るのに重要なのは金や物の良し悪しではなく気持ちだ。顕限りの感謝を適当に込めて、中に散弾をばら撒き手榴弾も投げ込む。
当然5秒後には起爆し、部屋に充満した爆風は唯一の開口部である出入り口から暴れ出てくる。その爆音と爆風は凄まじく、人がいれば後ろに吹っ飛ばされている事だろう。
「ピュー。我ながらクールだぜ」
36式を装備した皇国兵は、そんな爆風を背中に感じながら塹壕の中を突き進む。
まだ機動甲冑の兵士に出会えたら、マジだったかもしれない。倒せるかもと言う、その希望が持てるのだから。だが装甲歩兵に出会えば最後、絶望するしかない。
「なんだあのデカブツは!!」
「撃て撃て撃て撃て!!!!」
装甲歩兵という兵科は自らの身体を敵前に晒し、歩兵の盾として、或いは移動砲台として戦う兵科だ。その為、装甲甲冑の装甲は通常の歩兵火器では全く歯が立たない。対戦車ライフルだとかバズーカの類を持ってこなければ、そもそも勝負にすらならないのだ。
「な、なんで効いてないんだ!!」
「分隊一斉に撃ってるんだぞ!!」
そして何より、隙を見せれば最後。無慈悲にも腕にマウントした、おおよそ生身では扱えない重火器が火を吹く。35式5.7mmバルカン砲や35式60mmオートライフル砲の前では、例え塹壕内の遮蔽物に隠れようと問答無用で遮蔽物ごと破壊する。
更には59式重火炎放射器装備の者もいる為、これを持ってる装甲歩兵に出会った帝国兵の末路は地獄そのものである。炙られて死ぬならいいが、中には引火したまま塹壕内をパニックになりながら走り回り、他の味方に引火させる兵士もいた程だ。
「おーおー、暴れてるな。そんじゃ俺達も重砲を破壊しますかね」
塹壕が攻撃で混乱している間に、他の部隊は重砲の破壊に向かう。とは言え転がってる砲弾と重砲を連結し、C5を仕掛けて起爆するだけの簡単なお仕事だ。無論、砲の周囲には砲兵等の兵士はいるが、砲兵の装備なんてたかが知れている。
「こんのぉぉぉ!!!!」
「フッ!!」
中には勇敢にも銃剣を握って格闘戦を仕掛けてくる、とても勇敢な兵士もいた。しかし幾ら現代戦は近接戦が少ないとはいえ、しっかり格闘やナイフファイトの様な近接格闘戦も訓練している。即座に殲滅され、程なくして重砲とついでに司令部の排除に成功した。
『村今戦闘団より全軍へ。最後方の司令部及び重砲は排除した』
「皆さん聞きましたね?直ちに攻撃を開始してください!!」
報告を受け、今度は本隊に先んじて進撃していたエイティシックスとミリシアルの独立装甲突入旅団が動き出す。彼らの攻撃目標は、重砲陣地と前線の塹壕陣地の間に構築された榴弾砲陣地だ。
「スノウウィッチ、初撃は任せる。ヴァアヴォルフは左翼、ラフィングフォックスは右翼から攻撃。ガンスリンガー、右の丘から攻撃しろ。残りは後方から一気に行く」
『後ろは任せろ、シン。何も気にせず突っ込め!』
『おいデュラハン!アンダーテイカーを自由にさせるな!!ソイツは現場指揮官だぞ!?』
「兄さん、後ろは任せる!」
『行けシン!!』
『人の話を聞けぇぇぇぇ!!!!!!』
シンことアンダーテイカーはエイティシックスの総隊長、現場指揮官である。本来現場指揮官というのは前線に立つが常に周りに部下を置く物だ。だがコイツの場合、最前線どころか更にその一、二歩先の孤立無援とすら言える最々前線とでも言うべき場所まで単騎で進撃する。
もう全員慣れてはいるし、何ならエイティシックスの上位部隊の神谷戦闘団の指揮官は、統合軍総司令長官でありながら同じような事を仕出かしているので今更である。因みにシンは神谷から単騎で攻め込んだ時の言い訳の仕方を習っており、最近は益々誰も口を出さなくなっている。
「皇国に負けてはいられないぞ!我々も突撃しようか!!」
「行くぞ!!」
スパイダー132号車を先頭に、独立装甲突入旅団も陣地に雪崩れ込む。戦車相手には通用しないかもしれないが、機動性を活かした奇襲は効果絶大だ。
「砲撃用意!弾種徹甲!!直接照準だ急げッ!!!!」
「だ、ダメだ!!奴ら早すぎる!!狙いが定まらない!!!!!!」
榴弾砲でも当然だが弾種を切り替えれば、対戦車砲として運用できる。しかし基本的に遠距離から砲弾を放ち友軍を援護するのが榴弾砲の役割であり、鈍重で直接照準にて戦車を相手にするのは苦手だ。まして相手が装甲を捨て、機動力にステータスを振り切った高機動多脚戦車ともなれば尚更である。
「スロー!スロー!クイッククイックスロー!!」
「素敵なステップだぜスパイダー!」
「他のスパイダーは上手に踊れるでしょうか?」
「心配する必要はない!彼らとて栄えある独立装甲突入旅団の一員だ。奴らにサプライズをくれてやっているだろう!!」
スロースロークイッククイックスローというと何処かの様子のおかしい人みたいだが、スパイダーの動きは正にダンスのソレだ。踊る様にして砲の間を擦り抜け、そのまま攻撃する。多脚戦車の強みを生かした優雅な戦闘だ。
「重砲の援護を要請しろ!司令部にもこの事を伝えるんだ!!」
「ダメです!連絡繋がりません!!」
「伝令を出せ!!」
「無茶です!!そもそも伝令を出そうにも、これだけ混乱していれば余計に火に油ですよ!!!!!」
間も無くして、この陣地も占領された。この報告を受けた本隊は最前線の塹壕陣地突破を開始。戦車を先頭に、その後方から歩兵部隊が進撃する。
「行くぞお前達!俺達戦車乗りの戦い方ってのを世界に見せてやろう!!」
「おうよ!!!!」
「パンツァーフォーーー⤴︎⤴︎⤴︎!!!!!!!」」
ムーと皇国の機甲軍団が土煙を立てて進撃し、帝国の塹壕線に迫る。無数の砲弾が飛んでくるが、そんなの意に返さず突き進む。皇国は当然として、ムーも先陣を切っているのはM4シャーマン・ファイアフライを元にしたキャスターと、M26パーシングを元にしたパーシーだ。更にはチャレンジャーを元にしたドラキー、オマケにマウスを元にしたシーランドもいる。負けるわけが無い。
「エルダータイガーより全戦車。優先排除目標は対戦車砲とトーチカだ。全部破壊して、歩兵の通り道を作ってやれ」
奈良山の指示に、コイツらが飛び出した。神谷戦闘団の誇る最狂の特攻部隊。もう誰だか分かるであろう。
「ヒャッハーーーーー!!!!!!!!どけどけ帝国兵共!!!!!!!!!!!特攻部隊突撃だぜぇ!!!!!!!!!!!!」
「逃げる帝国兵はクソだ!!!!!逃げずに戦う帝国兵は愚か者だ!!!!!!!!つまりどっちに転んでも死あるのみ!!!!!!!」
「歩兵の邪魔なんだよぉ!!!!魂バリバリ!!!!!!!」
ヒャッハー装甲車である。取り敢えずコイツら突っ込ませれば、戦線は確実に混乱する。何せ鈍重な装甲車なのにドリフトで砲弾避けるわ、兵士をドリフトターンでホームランよろしく弾くわと、神谷戦闘団とか神谷を持ってして「コイツらヤベェ」と言わしめる存在だ。
「なんだあの装甲車!!!!」
「弾が当たらねぇ!!ってか速ぇ!!!!」
「幾ら何でもスペックがおかしいだろうが!!!!」
今回ばかりは皇国が凄いのではなく、コイツらがヤバい。こればっかりは帝国兵に同情する。だが帝国兵とて、ただワタワタしている訳ではない。パンツァーシュレックの様なバズーカ砲を構えて撃つ。
「んなへなちょこ弾なんざ効くか!!!!!!おんどりゃぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
なんと着弾直前に車体を360度スピンさせて、ロケット弾のブースター部分に車体の後ろをヒットさせ、ロケットの進路を無理矢理180度捻じ曲げるとか言う離れ業をやって見せた。これには帝国兵も皇国兵も、何なら身内の神谷戦闘団の兵士達も目が点になる。
「はあぁ……?そ、そんなのありかy」
撃った兵士も何が起こったか理解できず、帰って来たロケット弾に吹き飛ばされた。
「いいねぇ狂ってるねぇ!!!!!!俺も負けてらんないぜ!!!!!!ヒャッハー!!!!!!!!」
ヒャッハー野郎は塹壕の前で90度直角ターンすると、そのまま片輪走行を開始。その状態のまま武装を操り、塹壕内を破壊していく。
「なら俺はこうするぜ!!!!!魂バリバリ!!!!!!!!」
魂バリバリ野郎は塹壕内に装甲車を突っ込ませ、そこからブルドーザーの様に塹壕内を爆走。塹壕陣地とはいえ緊急時用の急拵えの様な陣地なので車体は入り切らず、擱座したかのように片側の半分しか入ってないのだが、その状態のまま気合いで突っ込んでくるのだから帝国兵からすればトラウマ物だ。
考えて欲しい。デカい鋼鉄の塊に追い立てられ、外に出れば射殺され、塹壕内を進んでいても片輪走行してる装甲車に射殺される。進もうが逃げようが止まろうが地獄。抵抗したとしても、攻撃する為には結果的に止まる必要がある為、結局地獄。選択肢はDead or AliveではなくDead or Deadである。
「各車突入!塹壕線を越えるぞ!!」
帝国兵達は塹壕の中に身を隠す。塹壕に伏せてしまえば、戦車に轢かれる心配はない。だがそれは同時に、攻撃に一時的ではあるが決定的な隙が生まれる事でもある。その隙を世界連合軍は生かす。
機甲部隊の真後ろに歩兵を満載した装甲車やトラックを追従させ、この突破の瞬間に歩兵を展開。塹壕付近に大量のスモークを一斉展開し、視界を完全に遮っている隙に懐まで攻め込むというものだ。
「総攻撃開始!!!!」
全軍にこの指示が届くと、彼らが動き出す。いつもならここで、神谷戦闘団とか皇国軍が出てくるだろう。だがそれなら、こんな回りくどいやり方は必要ない。戦車で突破してスルーするなり、砲撃で吹き飛ばすなり、戦車で突破した後に装甲車を突っ込ませて掃討するなり、色々と方法はある。今回こういう風な回りくどい非効率的な戦法を取ったのは、彼らの為だ。
「クソッ!煙で何も見えねぇ!」
「気を付けろ、また何か来るかもしれねぇぞ!!」
兵士達は塹壕の中で己の武器をいつでも構えられるように持つ。今はまだ頭上を戦車が通過していっている以上、下手に顔を出せば轢かれてしまうだろう。いた顔を出すかタイミングを見計らっていた時、この現代的な戦場には馴染みがない音が聞こえてきた。
「.......なんだこの音は?」
「笛に太鼓か.......?」
「軍楽隊がこんな所にいるわけないだろ」
現代でこそ軍楽隊は何かのイベントに出てくる音楽隊だが、昔は軍隊における最重要部隊でもあった。この音楽は決して、士気を上げ兵を鼓舞する為の音楽ではない。戦争をする為の音楽だ。
「…………まさか!!!!」
1人の兵士が塹壕から顔を出し、ライフルを構える。辺りはまだ煙で何も見えなかったが、暫くすると煙の中からヌルリと銃剣の切先が無数に飛び出してくる。なんとそこにはマスケット銃を装備し、赤や青の軍服に三角帽や二角帽を被った戦列歩兵が居た。
「戦列歩兵!?」
「放てぇ!!!!」
戦列歩兵の横隊は、塹壕内に弾丸を一斉に叩き込む。余りに突拍子もない登場に、帝国兵達は混乱し応戦できずに倒れていく。これだけ隙を見せれば、銃士、或いは歩兵には充分だった。当然だが世界の命運を握る戦いに国を代表されて出撃してきた彼らは、その国々の精鋭中の精鋭か歴戦のベテランである。この隙を付いて素早く交代し、間髪入れずに射撃。塹壕内を掃討していく。
「おい!向こうに戦列歩兵が出たらしいぞ!?」
「何だと!?」
「ならこっちにも……」
別の塹壕には戦列歩兵こそ来なかったが、代わりに剣や槍で武装した歩兵が殺到した。彼らは塹壕内に飛び込み、次々と帝国兵を血祭りに挙げていく。
「コイツら、剣で武装してやがる!!」
「銃剣装着急げー!!」
「白兵戦だ!!!!!」
かつての第一次世界大戦では塹壕内にて、こういう白兵戦というのは何度も発生していた。だが第二次世界大戦にもなれば、そういう戦闘も少なくなっていく。格闘訓練こそするが、それでもたかが知れている。
まして今回相手にしているのは、剣を交えて戦う戦場で生き残ってきた白兵戦の玄人。勝てる訳がない。
「遅い!!」
「させるかッ!!!!」
「下がガラ空きであるぞ!!」
例えライフルでガードしようと、蹴りが飛んできて吹き飛ばされる。そうやって姿勢が崩れれば最期、剣を突き立てられてしまう。帝国兵にとってこんな接近戦はアウェーであり、死が間近に迫ってくる感覚というのは視野を狭め思考を鈍重化させる。対して歩兵はそういう世界で生きてきた以上、恐怖はあっても冷静に周囲を見渡し隙を見つけてそこを付ける。この差は大きい。
「に、逃げろ!!ここから逃げるんだ!!!!!」
帝国兵の誰かがそう叫んだ。次の瞬間、帝国兵達は塹壕から這い出て脱兎の如き敗走を始める。だがそれを見越して、更なる一手が打たれていた。それが後方から土煙を上げて、敗残兵達目掛けて突っ込む集団である。
「前進しつつ突撃横隊組めぇ!!」
マギカライヒ共同体学院守護軍が有する、唯一にして最強無敵の騎士団。『学院親衛騎士団』である。彼らは共同体直属の騎士団であり、全員が高い技量を持つ魔法剣士で構成された特別部隊だ。
「なんだこの地響きは!?」
「き、騎兵隊だ!!!!」
まず血祭りに挙げられたのは、極度のパニックで敵側にノーベース要塞方面に逃げてしまった兵士達。彼らは自ら飛び込むような形で、騎兵隊の波に飲み込まれていく。最早、剣で斬られるとか槍に貫かれるのではく、文字通り軍馬に轢き潰されるという悲惨な最期を遂げる。
「前方塹壕線!!跳べ!!!!」
騎士達は馬を巧みに操り、塹壕線を飛び越えていく。その様はまるで、英雄譚の1ページかと思える程に美しかったという。
「抜剣!!!!このまま後ろを突くぞ!!!!!」
後方に逃げた帝国兵達も、流石に600名からなる騎馬隊の地響きに気付き始める。騎馬隊にとっての天敵は銃なのだが、その銃の中でも高性能な物を持っている筈の帝国兵達は、最早その事すら頭に入っていなかった。
明らかに帝国のよりも高性能な戦車が現れたかと思ったら、帝国より弱く見下していた筈の世界連合軍が一撃で戦友を殺し、塹壕の中で剣と槍で白兵戦を繰り広げられ、そして今は騎士に追い立てられる。正常な判断を奪いパニックに陥れるには、充分すぎる戦場だった。
「団長!串刺し、いっときますか!?」
「おう!串刺しだ!!!!」
学院親衛騎士団の内、長い槍を持つ部隊は特技というか得意な戦法がある。それは…
「突っ込め!!」
「はぐぅぅ!!!!」
まず15mはあろうかという巨大な槍を、敵に突き刺す。脇で挟んで固定し、それを馬の馬力で突き刺すので、その威力は容易に人体を貫通せしめる程だ。
「掲げるぞ!!」
後はそのまま槍を掲げ持ち上げて行き、掲げるというもの。単純明快ではあるが、その絵面は凄まじい。さっきまで共にいた戦友が、同胞が、巨大な槍に貫かれた状態で空高く掲げられるのだ。その様はまるで、地獄の災禍その物。
「や、奴ら正気じゃない.......」
「俺達はあんな奴らを敵に回していたのか.......」
「こんなの、もう戦争じゃない!!」
「ああああああああッ!!!!!!!!!」
帝国兵達は絶望した。中には余りの絶望か、はたまた報復を恐れてか、単純に狂ったのかは知らないが、自らの頭を撃ち抜き自殺する者までいる始末だ。
「このまま排除する!!斬れ!!!!」
「行くぞ!!我らの剣に!!!!」
「「「「「新たな栄誉を!!!!!」」」」」
剣を装備する騎士達はダメ押しと言わんばかりに吶喊し、そのまま敗残兵達を斬っていく。これで帝国最後のレイフォルまでの防衛戦は突破された。
だがしかし、まだ諦めていない連中がいた。ノーベース要塞陥落と断定した後に派遣された、噴進砲トラックポイズンを装備する一個噴進砲兵中隊、対戦車砲を装備する2個砲兵大隊、そして重戦車ドーベルを有する一個機甲中隊である。彼らは塹壕陣地の西側に広がる森林に潜伏していたのだが、大挙する世界連合軍には勝てないと判断。情報を司令部に送り、その後で連合軍の後方から奇襲をかけるという作戦を立てていた。
普通なら、この作戦は見事にハマっていただろう。全滅させるのは無理でも、甚大なダメージを連合軍に与えられていた筈だ。しかし世界連合軍には、皇国がいる。司令部に送っていた暗号電文は皇国のAWACSビッグボーイにキャッチされており、場所もバレていた。しかも47式指揮装甲車にて偽電文を作成。「世界連合軍の迎撃に成功、現在敗走中であり殲滅に移る」という電文を送信するというオマケ付きだ。
「隊長、団長より砲撃のオーダーです」
「どれ、見せてみろ」
神谷から送られてきた命令文には、この勇敢にして愚かな帝国部隊が潜伏している地点の座標が書かれていた。となればもう、やる事は決まっている。
「よろしい、この座標に砲弾を届けてやれ。51式を使うがいい」
「了解であります」
程なくしてこの帝国部隊は、51式510mm自走砲によって排除された。しかもグラディエイターヴィーナスが有する全両が使われた為、森の一区画ごと全部まとめて吹き飛んだ。