海戦集結より12時間後 03:00 レイフォリア上空
「いいか!我々の目標はただ一つ!レイフォリア西方を確保し、本隊である地上部隊の道を切り開くことにあるッ!!我々精鋭である空挺部隊が先陣を切る!!」
この審判の火作戦もいよいよクライマックス。レイフォリアを奪取しようという域にまで至ったわけであるが、まさかのここでミリシアルはやらかした。作戦開始以来、なかなか良いところがないミリシアル軍。取り敢えず先の海戦で敵艦隊を魔導戦艦『コスモ』単艦にて殲滅した為、表向きに国民や対外的に発信する部分は確保できた。しかし実情は殆どが皇国に持っていかれており、これでは国際社会での『世界最強』の看板が無くなってしまう。
功を焦った司令官達は、本来の作戦では皇国とムーも加えた3軍合同で行う筈だった空挺部隊による夜襲を勝手に1時間繰り上げ、抜け駆けで出撃してしまったのである。知っての通りレイフォリアの飛行場及び周辺施設は爆撃で破壊されているものの、それ以外の施設は未だ健在であり対空砲等は普通に稼働している。夜襲といえど足が遅く、運動性も劣悪な輸送機で突入するなど自殺行為だ。しかも発見のリスクを極力減らす為に、飛行場を破壊し制空権の確保に成功している事から、護衛含め援護機無しという思い切った作戦である。これを後から知った神谷も、聞いた瞬間は何を言ってるのか理解できなかった。
「なーにやってくれてんのミリシアル!!」
「これは困りましたな。確か当初の作戦では我が軍が対空施設をあらかた潰した上で、3軍合同での空挺降下でしたかな?」
「そうだよ!だぁーもぉー!!おい加藤!!投入予定だったのは…もう間に合わないか……。こっちの艦載機なら間に合うか!?!?」
「五航戦、そして本艦隊でも間に合いません。唯一可能性があるのは本艦が搭載している極ですが、マッハ6を持ってしても到達予想時刻が空挺降下のタイミングが殆ど変わりません。恐らく到着と同時に降下が開始されるでしょうから、空の神兵が花を広げてる真っ只中をミサイルが突き進むことになります」
「無理じゃねーか!!」
流石に皇国のミサイルでも、パラシュート降下中の友軍が大量にいる中を飛行する事は想定されていない。そんな中を飛ぼうものなら、着弾前に味方を巻き込んで盛大な汚い花火を上げる羽目になる。
「艦長!第一空挺団の絹松大佐より通信が入っています!!」
「回線開け!」
『長官、絹松であります。ミリシアルの件、ご存知ですか?』
「暴発しやがった件な。後、今くらい敬語は外せよ絹ちゃん。イラついてるんだ、愚痴らせろ」
飛行強襲群隷下第一空挺団、その団長絹松は神谷の同期である。偶に飲み行ったり、任務の内容的に訓練で一緒になる事もある相手なのもあって隊内の兵士同士も交流がある。
『へいへい。んでよ。これ、どうすんの?援護間に合う?』
「無理でーす。そもそも投入予定だった四○四空と四○七空は、最大推力で向かわせても間に合わないし、こっちの艦載機も無理だ」
『やっぱりか……。例えNATOとワルシャワが共同作戦したとしても、もうちょい足並み揃うぞ』
「やめて。悲しくなる」
どう考えても、この事態は余りに軍隊として有り得なさすぎる。実を言うと現在に至るまで、ミリシアル側からは何の音沙汰もない。独断専行までは、まあまだ100歩どころか1万歩譲って良しとしよう。だがそれを通告なしで、ここまで引っ張ってるのは訳がわからない。空挺部隊が勝手に暴発したとかなら良かったが、生憎と無線傍受でこれが司令部の絡んだ計画的かつ確信犯の暴発であり、つまりは先述の通り司令部の正式な命令で出撃している。はっきり言おう。馬鹿である。アホである。ミリシアルはクソである。
『今思ったんだがな、神谷よ。俺達なら、どうだ?』
「………」
『俺達、第一空挺団は滑走路の兼ね合いでイルネティア島にいる。俺達なら、まだ彼等の援護に向かえる筈だ。上にいるお前には政治があるんだろうが、それでも!現場の人間を大切にする男だろ!!頼む!!!!』
絹松の意見も理解できる。このポジションに立ってからというもの、基本的に敵も味方も利用して来たが、それでも神谷の本心では関係ない者は極力巻き込みたくないというのが本音だ。特に現場で戦う兵士達には、何の罪もない。彼らに政治を押し付ける事だけは、絶対にしたくない事でもある。だが現実と、この世界はそれを許してくれない。
「……まあ慎太郎に頼んで、後から利用できるカードにすれば良いか。
絹松!第一空挺団は直ちに出撃!!先発したミリシアル空挺部隊を掩護せよ!!」
『了解!』
「加藤!本艦の搭載する戦闘機隊は全機発艦の上、レイフォリアに急行!!第一空挺団の突入と攻撃を援護させろッ!!!!」
「アイ・サー!」
命令を受けた絹松は大隊長3人を召集し、作戦の具体案を詰める。最早一刻の猶予もないが、空挺団ではこの手の状況に対応する訓練も積んでいる。どうにかできる、否。しなくてはならない。それに既にパスファインダー部隊である、降下誘導小隊は先発させている。早く決めねば、彼らも危ない。
「当然ですが、今回は敵のど真ん中に飛び込みます。セオリーのレーダー範囲外に降下し、目標まで行軍する暇はありません。となれば自動開傘索方式は使えません。あんな事をすれば、全員纏めて仲良く二階級特進です」
自動開傘索方式とは、輸送機の天井に設置されたレールにフックを引っ掛けて、そのまま飛び降りると自動的にパラシュートが開く方式である。「空挺降下」と聞いて頭に浮かぶ、一気に飛び降りて段々の様にパラシュートが花開く光景。あれの降下方法だ。
「HAHO」
「NON。時間がかかり過ぎる。ミリシアル兵が先に全滅して、逆にこっちが孤立する。HAJL」
「NON。長期戦を考えれば、燃料はなるべく温存したいよな。HALO」
「NON。流石に被害が許容できない」
大隊長達も頭を抱える。まずHAHO。これは高高度降下高高度開傘という意味であり、降下後すぐにパラシュートを展開。そのまま操縦しながら、長距離を滑空するという方式だ。熟練であれば80分間、80kmを滑空できる。とは言え、当然時間が掛かる。
次にHALO。これはよく聞く高高度降下低高度開傘である。よく映画とかゲームで、特殊部隊がやる空挺降下がコレ。高高度から飛び降りて、そのまま自由落下。ギリギリでパラシュートを開いて着地という、かなりカッコいいやり方だ。だが今回であれば輸送機は生き残れるが、降下地点付近は対空砲がハリネズミの如く配置されている。発見されれば最後、自動開傘索方式並みの死者が出る。
最後にHAJL。これは皇国独自の方式であり、高高度降下ジェットパック着地という意味になる。簡単に言うとパラシュート無しで飛び降りて、甲冑のジェットパックで減速して着地するという方式だ。だがこれ、かなり燃料を消費する。減速しながらゆっくり降下なら問題ないが、急減速の場合は燃料消費の割合が上がってしまう。これが奇襲や何処ぞの鎌倉ヴァイキングの様な、降下後にジェットパックを使わない可能性が高い状況なら最適解だろう。だが今回の場合、本隊合流まで時間があり、尚且つムーの第212特別機動空挺大隊は不参加。オマケにミリシアルは対空砲の中を進撃している以上、ほぼ確定で被害甚大。この状況では博打を打つわけにもいかない。
「八方塞がり………」
「いっそ戦死覚悟か?」
「誰がミリシアル兵の為に自殺するか」
国の為なら喜んで死ねるとはいえ、やはり本音を言えば人間である以上、国の為でも死ぬのは極力回避したい。
「…………あるぞ。手段」
「団長?」
「結論はミリシアル兵が壊滅する前に合流できるスピードがあり、機体も兵士も対空砲が回避でき、長期戦に備えられるだけの手札を残せる。そんな
そう言って絹松がスマホから選んできたのは、なんとウィングスーツであった。ウィングスーツとは手と足に、ムササビの様に布を貼ったスーツで滑空するという代物であり、そのままムササビスーツとも呼ばれる物だ。
「輸送機をギリギリまで近づけ、我々はこれを装着し降下。通常の降下よりも素早く長く滑空でき、ジェットパックをブースター代わりにすれば最悪見つかっても被害を少なくできる筈だ」
「成る程、これなら!」
「行けるな」
「流石、元Sだぜ」
因みに絹松、東亜事変の頃は特殊作戦群に所属しており、しっかり実戦を経験している。パラシュートとウィングスーツの扱いは、部隊内でも随一だ。
「決まりだな。装備をウィングスーツに換装せよ!!!!」
パラシュートは背中に背負うだけであり、重かったりするので装着は面倒とは言え比較的簡単にできる。対してウィングスーツの場合は、装備を全部外し服を脱いで、スーツに着替えなくてはならない。当然時間がかかる。
だが皇国の場合、空挺部隊に限り機動甲冑ではなく空挺甲冑と呼ばれる別モデルが配備されている。この空挺甲冑は機動甲冑の機能はそのままに、パラシュート追加用の専用ラックと、腕及び足に特殊繊維のウィングを装備できるポイントが追加されている。しかもこのウィング、硬さを変更することができ強度を上げてウィングパック状態にも出来る上、ウィング自体の形状を操作し空力を最大限活用できたりもできる。
「さて、それじゃ俺も準備しますかね」
絹松は自分用の空挺甲冑にウィングを取り付け、ヘルメットを被る。被ると同時に視界内に水色の画面が現れ、女性の機械音声が再生される。
『ユーザー認証、絹松蓮大佐。使用許諾確認、適正ユーザーです。システム構築開始………完了。リアルタイム戦術リンクに接続します。外部装備パックに、ウィングスーツユニットが追加されています。制御系同期………完了』
準備が終わると、兵士達は続々とC2鍾馗に乗り込んでいく。武装はないが、それでもジェット機特有の速力を持ってすれば帝国支配域への突入は容易だ。02:06、第一空挺団の精兵を乗せた鍾馗はイルネティア航空基地を離陸。レイフォリアまで一直線に飛行する。
そして時は、冒頭のミリシアル空挺部隊を乗せた輸送機内に戻る。
「精鋭である我らの手で、必ずやレイフォリアをあるべき姿に戻すぞ!!!!」
隊長の威勢のいい訓示で、兵士達の士気は否が応でも上がりまくる。機内で雄叫びを上げ、終いには軍歌の大合唱まで始まる。兵士達は今まで感じた事もない全能感と無敵感を感じ、何処から来たのか分からない成功するという自信に酔いしれていた。
5分後 レイフォリア上空付近
『回避しろ!!回避!!右旋回だ!!!!』
『ダメだ持たない!メーデー!!』
『メーデーメーデーメーデー!!!!墜落する!!墜落する!!!!』
『あぢぃぃぃぃぃ!!!!!!!』
『エンジンが燃えた!!爆発する!!!!助け——』
輸送機は対空砲火に晒され、無線ではパイロット達の助けを求める声と断末魔が響きあう。本来なら薄暗い筈の機内も、爆発した砲弾と炎上する味方機の炎で朝日が昇ってきてるのかと思う程に明るくなっている。
だが兵士達はそんな事を気にする余裕はなかった。近くで爆発する砲弾の振動と、対空砲を避ける為に操縦桿を無茶苦茶に動かす事で生じる上下左右あらゆる方向の予測不可能かつ不規則な揺れで、経験した事もない強烈なGと戦う羽目になる。
「「「「うおぉぉぉぉ!?!?!?!?」」」」」
「こんなの聞いてないぞ!!」
「死にたくない死にたくない!!!!」
「ウッ、オロロロロロロロロ………」
「おいバカ!!こんな狭い所で吐かれた…オロロロロロロロロ!!」
「貰いゲロロロロロロロロ!!!!」
既に機内は地獄の様な空間であった。酔った者が吐いて、その光景を見て第一次貰いゲロ。そのゲロの臭いが充満し、第二次貰いゲロ。その臭いがより強烈になって、最終的にバイオハザードの如く嘔吐が広まる。すでに床はゲロまみれだ。というか何なら、振動でゲロが空中を舞ってすらいる。
一応念の為に言っておくが、これはまだ機内の話。戦場に降り立っていないにも関わらず、初っ端からこの地獄である。だがまだゲロを吐くだけなら、精神をゴリゴリ削られても死ぬ事はない。ここは戦場のど真ん中であり、この飛行機は猛烈な対空砲火の中を飛んでいる。その内、対空機銃の発砲も始まり、輸送機のペラッペラの装甲を貫通した弾丸が機内を暴れ回る。
「クソッ!!弾丸が貫通しやがった!!!!」
「軍曹が撃たれたッ!!」
「生きてるか!?」
「ダメです!!頭まで貫通してる!!!!」
機内も地獄だが、外の空も地獄だった。火だるまになって墜落する機体。翼がへし折れ、そのまま燃料に引火して爆発した機体。目の前で爆発した機体もある。
『あぁクソッ!!被弾した!!!!制御不能避けてくれッ!!!!!!』
『おい機首を上げてくれッ!!!!ぶつかるぞ!!!!!』
『ダメだすまない!すまない!!!』
『待て待て待て止まれ止まれ!!!!!頼——-』
目の前で制御を失い懺悔しながら、別の機体に突っ込んでいく機体がいた。こんな戦場、未だかつて経験したことはない。訓練でもこんな想定はなかった。
「右エンジン被弾!!!!」
「どうにかして持たせるぞ!!」
エンジンが燃えながらも、パイロット2人はどうにかして機体を持たせようと踏ん張る。丁度その時、降下ポイントに到達。せめて降下時間くらいは稼いでみせると、操縦桿を力一杯握りバランスを取り続ける。
「降下ポイントだ!!行け行け行け!!!!」
「行くぞ!!降下開始!!!!」
兵士達は
「助けてくれぇ!!!!」
ジャンプマスターの悲痛な叫びを無視して、兵士達は次々に飛び降りていく。だが降りるのも、一筋縄では行かない。
「ヤバい!開かない!!」
パラシュートが開かず、そのまま落下していく兵士や、墜落する機体が突っ込んできて、火だるまになりながら機体と共に落ちていく兵士もいる。それでも兵士たちは、死んでいく戦友達を無視して戦場に降り立つ。
そんな地獄が形成されている中、第一空挺団の方もレイフォリアより20km地点の上空に到達していた。
「ポイントに到達!」
「行くぞ!!降下用意!!!!」
「よし!集中!!集中!!」
兵士達はヘルメットを被り、カーゴドア前に整列。ジャンプマスターがカーゴドアを開け、降下準備とハンドサインを送る。
「スタンバイ!……GO!!GO!!」
「みんな行くぞ!!フォーメーションを保て!!!!」
次々に屠龍から飛び出し、そのまま滑空しながらレイフォリア近くの森を目指す。当初の予定であれば、この森林に降下する事になっていた。現在も恐らく変わらない筈だが、例え変わってようともう知ったことではない。もしもの時は単独でも、作戦目標のレイフォリア西方地域を占領、もっと正確には沿岸砲を破壊するまでだ。
『誘導ビーコン確認。マップにマークします』
HUDのマップに降下誘導小隊の設置したビーコンが表示され、そこを目指して飛行する。この降下誘導小隊というのは、こういった空挺部隊に先駆けて敵地に少数にて降下し、降下地点の確保と降下してくる味方や輸送機を誘導する精鋭部隊である。英語ではパスファインダーとも呼ばれ、空挺作戦に於いて重要なキーとなる部隊だ。
「左旋回、続け」
高度が下がるにつれて、帝国軍の対空砲火と燃え落ちていくミリシアルの輸送機が見えてくる。ミリシアル軍には悪いが輸送機と、降下中の空挺兵達が囮になってくれる形になっており、普通ならそろそろ気付かれそうな位置だというのに、一向に気付かれる気配がない。これ幸いと滑空をやめ、パラシュートで森林へ次々に降下。行動を始める。
「報告」
「第一大隊、欠員なし」
「第二大隊、同じく」
「第三大隊、同じく欠員なし」
「エクセレントだ。これより我々は先に降下したミリシアル部隊との合流を目指すが、当然この森には帝国兵もいるはずだ。これを迎撃しつつ、静かに行くぞ。訓練通りにこなせ。出撃!」
日本は知っての通り、山がこれでもかという程に多い。空挺団員は全員がレンジャー教育過程を通過させられる訳で、レンジャー訓練でも空挺団入隊後も山を歩かされる。そんな環境な為、山岳や森林は彼らにとっては最も得意とする戦場なのだ。
空挺団の精兵達が森林を突き進む一方、ミリシアル兵の方は地獄であった。取り敢えず降下できたものの、降下先はこの森林。池もあり中には池に突っ込んで、そのまま永遠に浮かんで来ない者もいる。だが1番多いのは、降下してパラシュートが木に引っかかって蓑虫状態で宙吊りになる状態だ。
「あークソッ。なんとも愉快な展開だな!」
神聖ミリシアル帝国陸軍、第506特別強襲大隊の小隊長、トンガー中尉もそんな蓑虫状態の1人だ。大体高さは1.5m位だろう。これなら、パラシュートの紐を切って飛び降りても、ちょっと足が痛いだけで済む。
「外れ、ろ!」
ナイフでどうにか紐を切断し、そのまま地面に飛び降りる。さて、どうにか無事に降り立った訳だが、まずやるべきは装備の確認だ。まずナイフ。これは紐を切るのに使った様に、ちゃんとある。そして胸に装備したホルスターに入っている、アンバーマシンピストルだけだ。モーゼルM712風の拳銃に大型のマズルブレーキの様なパーツとフラッシュライトが追加された、かなりSFチックな代物である。威力は45ACPと同等であり、装弾数は25発の空挺部隊専用拳銃だ。
トンガーはこのアンバーを構え、森林の中を1人で突き進む。普通なら迷わないように動かないのが鉄則だが、今回ばかりは敵軍の本陣ど真ん中に放り出されている上、しっかりバレてしまっている。そんな環境で大人しく動かなければ、夜明けには二階級特進を果たしているだろう。ならば危険を承知でこの森を進み、付近に必ずいる味方を探すしかない。
「ってか、俺のライフルどこだよ。この状況でピストルだけって、ちょっとキツイぞ………」
空挺部隊や特殊部隊向けに開発されたゾイサイトという、ミリシアルに於けるアサルトライフルがある。この銃はMC-Rの様な見た目であり、5.56mm弾と同等の威力がある。一応連射はできるがレートは毎分350発程度であり、大体M4カービンの半分程度であり性能は皇国の物に数段劣る。この銃は下部に多目的魔法ランチャーを搭載しており、任意の攻撃魔法を行使する機能がある。グレネードランチャーのような物、という認識で問題ない。
そんな兵士にとっては、この上ない上等なお守りであるゾイサイト。それが近くの茂みを見てみても、全くもって見当たらない。トンガーは遂に諦め、アンバーとナイフだけで森を歩く事にした。
「銃声が聞こえる……。こりゃ早く合流地点を目指さないと、こっちが狩られるな」
少し歩くと、向こうの方に何か揺れ動いているのが見える。目を凝らして見てみると、ミリシアル軍の制服を来た兵士が木にぶら下がっていた。しかも踠いている辺り、まだ生きている。
トンガーは周りに注意しつつも、急いでその木に向かって走る。すると向こうも気付いたようで、お互いの目が合った。
「小隊長!すんません助け」
「やぁ!!!!」
ミリシアル兵に帝国軍の兵士が、その腹に容赦なく銃剣を突き刺した。しかも刺されたのは自分の部下だった男だ。つい3ヶ月前、子供が生まれたばかりの若い気のいい奴だった男だ。「子供って何食うんすかね!?肉食わせていいんすかね!?」とか何とか騒いで、部隊の専任曹長から「アホか!!」としばかれていたのは良い思い出だ。
トンガーは頭に血が登る。このまま襲いかかって仇を取ろうとするが、寸前の所で冷静になりその場に伏せ茂みに転がり込む。今ここで突撃して兵士を倒しても、基本兵士は単独で行動しない。戦場の乱戦ならいざ知らず、こういった山狩任務の時というのは必ずバディを組む。つまり見えないだけで、周囲に高確率で1人いる。例え襲って倒せても、その次の瞬間には自分が殺されてしまう。それは避けなくてはならない。
(……………行ったな)
暫くすると、足音が遠のいていくのが分かった。茂みから素早く、だが静かに飛び出し部下に駆け寄る。やはり何度見ても、自分の部下だ。しかも心臓を一突きで刺されている。息もない。トンガーは彼の胸元から、ドッグタグを引きちぎる。死体を持って帰る訳には行かないが、これは持って帰れる。ついでに家族の写真を収めたペンダントも回収し、ポケットに仕舞う。
「……借りていくぞ、伍長」
下に転がっていたゾイサイトを拾い上げ、素早く動作を確認する。幸い壊れていない。トンガーは伍長のゾイサイトを装備し、また森を歩き始める。
途中何人か間に合わなかった兵士達を見つけては、ドッグタグを引きちぎりポケットに仕舞うのを繰り返しながら暗い森を突き進む。20分くらい歩いていると、突然口を覆われながら力一杯後ろに倒される。
「んーーーー!?!?!?」
腕を動かそうとするが、全く動かない。しっかり確保されている。今自由に動かせるのは目と足位なもので、どうにか解放されようと必死に踠く。
「落ち着けミリシアル兵。味方だ」
「ップハ!」
解放されて振り返ると、そこに居たのは全身を黒い鎧で固めた兵士だった。しかし昔ながらの鎧ではなく、先進的な動き易そうな鎧である。だが見た事がない。
「…………お前達、何者だ?」
「大日本皇国陸軍飛行強襲群、第一空挺団の者だ。貴様らミリシアル部隊が動いたのを察知した為、貴様らを援護するべくこうして出張ってきた訳だ」
「おいちょっと待て。お前達は天候不良で飛べなかったんじゃないのか!?ムーも機体トラブルで飛べないから、我々だけで出撃することが決まったと!」
「いや、そんな事はない。お前達が勝手に事前通告なしで飛んだ。いや、もうこの話はよそう。そういうのは上がやるべき事だ。今やるべきは、お前の様に幸運な兵士を1人でも多く救う事。合流地点はここから500m先の、森の外れにある大きなロッジで間違いないな?」
「あ、あぁ」
確かに今は彼らの言う通りだ。それに皇国軍が介入した戦いでは、一度も負けが存在しない。上層部では目の敵にされているらしいが、現場の人間としては寧ろ皇国が磨いて来た独自の高度な戦闘技術を手に入れたいと思う程だ。協力できるのは願ってもない。
「ところで、佐良山中尉だ」
「自分は浪川軍曹であります」
「トンガー。中尉だ」
トンガー、佐良山、浪川の3人は、そのまま森林を歩き出す。作戦中じゃなければ馬鹿話でもしながら親睦を深めたい所だが、こんな敵地のど真ん中ではそういう訳にもいかない。空挺甲冑にはレーダーが搭載されているとはいえ、やはり目や気配を使って探知する方が安心感はある。歩きながらも周囲の物音に聞き耳を立て、周りを見渡して観察しながら、暗闇の森を歩いていく。
「中尉……アレを…………」
「おいおいマジかよ………」
浪川が見つけたのは、木にぶら下がったミリシアル兵だった。パラシュートが木に引っかかって、そこを襲われて戦死した。言ってしまえばこれだけなのだが、その死体は色々と弄ばれていた。
指が切り落とされ、頬を切り裂かれて口裂け女の様になっている。その近くにある別の木には、拘束された上で目玉に銃剣が突き立てられている遺体もあった。
「奴ら、遊んでやがるな。この世界にジュネーヴ条約はないが、にしたってコイツは無いだろうよ」
「トンガー中尉、その、大丈夫……ですか?」
「……あぁ、大丈夫だ。だがどうか、彼らのタグを回収させてくれないか?」
「勿論です。中尉、構いませんね?」
「断るかよ。ついでだ。流石に埋めるは暇ないが、せめて寝かせてやろうぜ」
3人は木から死体を降ろし、括り付けられた遺体も紐を切ってその場に寝かせる。2人の被っていたヘルメットを顔に被せ、手を組ませてやる事しか出来ないが、せめてそれだけでもしてやるのが情けというものだ。
「中尉。さっきのジュネー何とかというのは、一体なんなんだ?」
「あぁ、ジュネーヴ条約か。簡単に言えば捕虜を処刑したりとか、民間人を殺すなとか、そういう戦争する時に最低限は守れっていうルールだ。とは言え、場合によっちゃ単なる紙切れになってるがな。
だが「無いよりはマシ」って事で、基本的に準拠することが求められる。恐らく今後、この戦争が終われば皇国は国際社会で発言権が貰える筈だ。多分その内、この話も出るだろうよ」
「……そうか。そんな決まりがあるのだな」
戦争の為のルールというのは、冷静に考えれば中々に狂気に満ちた話ではある。だがあった方がマシにはなるだろうし、少なくとも嬉々として破る国は無いだろう。もしそうなれば、自分が死ぬ時は幾分か楽に死ねるかもしれない。
そんなことを考えながら進んでいると、先頭を歩いていた浪川が左手をグーにして上に軽く上げる。「止まれ」というハンドサインだ。そのまま佐良山とハンドサインで話しながら、斜め左を指し示す。トンガーも中身はわからないが、取り敢えず指を刺した方向を見てみる。そこに居たのは捕虜にされ拘束された8人ミリシアル兵と、その後ろでライフルや拳銃を構えている5人の帝国兵だった。
「あれ、処刑コースですよね?」
「だな。中尉、浪川と先行しろ。援護する」
「お、おう!」
トンガーと浪川は走り出す。さっきから偶発的に銃声があちこちで鳴り響いている以上、ここで銃声をちょっと鳴らしても誰も気に留めない。敵は味方のものだと誤認するだろう。だったら遠慮なくぶっ放せる。
「捕虜を処刑する悪い子はお仕置きだべーってな」
佐良山は1×6スコープをマウントした、42式小銃7.62mm弾仕様を撃つ。マークスマンの資格を持つ佐良山からすれば、この程度の精密射撃は造作もない。素早く2人射殺し、倒れた2人に気を取られた残る3人はトンガーと浪川が素早く狩る。
「仲間の恨み!!」
「遅い!!」
トンガーはナイフを1人の首に突き刺し、浪川は素早く2人を26式拳銃で射殺。捕虜を解放する。
「と、トンガー隊長!!」
「ジャリノ!生きていたか!!」
「えぇ!危うく死ぬとこでしたがね。ガハハハ!」
そう豪快に笑うのは、部隊の専任曹長であるジャリノである。他の7人も、驚いてはいるようだが士気に問題はなさそうだ。帝国兵の武器を鹵獲し、捕虜を加えた11人は集合地点を目指して歩き出す。
第506特別強襲大隊の降下開始から1時間後、どうにか集合地点にまで到着し生き残ったミリシアル兵と、先に集結地を確保した第一空挺団と合流に成功した。この後も続々と生き残りが合流し、本来の作戦である沿岸砲台陣地破壊の為の簡単な作戦会議が始まった。