15:00 首相官邸 総理執務室
「あー、そういや今日ってギアスの公式配信あったっけな?早く見てー」
つい5分くらい前に持ってきて貰った緑茶を啜り、大好きな煎餅を齧る。醤油の香ばしい香りが口の中に広がり、それを緑茶で流す。これを無限ループだ。
いつもなら、こういう普通の日常が流れる筈だった。しかし今日は違った。内線が鳴り、いつもの様に出る。
「はいはい、一色総理ですよー」
『総理!テロです!!毒ガステロが発生した可能性があります!!』
「テロって…………はぁ!?テロぉ!?!?」
流石にいきなり「テロです」と言われても、「はいそうですか」と対応できるわけがない。だがそれでも、意識は素早く切り替わった。
『現在、警察及び消防に毒ガス騒ぎの通報が相次いでいます!!』
「なら直ちにJアラートの発動を!!例え誤報であったとしても、国民の生命と財産を守ることを最優先に行動します!!」
『直ちに該当地域にJアラートを布告します!』
「誰か!!すぐに閣僚を参集してください!!対策会議を開きます!!」
指示を受けた側近達が動き出す。この時、神谷に連絡を取ろうとするも、神谷が皇居にいる上に今回のテロでドタバタしていた時であり、連絡に気付かなかった。もしこの時、連絡に気付けば、未来は変わっていたかもしれない。
一色は手早く、災害時に着る防災服に着替える。大体これに袖を通す時は、何かしら国で大事件が発生した時なので気が引き締まるものだ。
「総理、こちらへ」
「ありがとう」
一色はそのままエレベーターで、地下にある内閣危機管理センターへと降りる。すでに中には、閣僚達が揃っており一色を立って迎えた。
「皆さん、知っての通り現在、テロ攻撃が都内で発生しています。国家公安委員長、報告を」
「はい。先刻発生した毒ガスに関しては、現在二次災害防止のために調査を行わずに周囲の一般市民の避難誘導に努めています。しかし既に各警察官にはG事案への発展に備える様に通達しており、関係各所との連携を視野に入れて準備中です」
「東京消防庁は既にガスの調査に乗り出しています。既に上がった結果では、未だ種別は分かりませんが毒ガスに間違いないとの報告が上がっています」
総務大臣の言葉で一色は即決断した。有害なガスの時点で、これはもうテロ攻撃である。となれば非常事態宣言しかない。
「であれば、直ちに非常事態宣言を布告します。軍の動きはどうなっていますか?」
「神谷元帥が即応待機に切り替えています。また各基地でも防疫対策を開始しており、横須賀からは艦隊を退避させ、地下ドックは封鎖措置を取る予定です。
既に空軍の全ての航空基地から戦闘機隊と、特殊戦術打撃隊の基地から即応待機の空中母機『白鳳』をスクランブル発進させており、上空警戒に当たらせています。
陸戦隊と陸軍については、一部部隊は直ちに作戦行動が可能です」
「分かりました。では先に被害の状況を詳細に把握し、事態の解決に全力で当たりましょう」
これより数十分後、官邸の通信は途絶するのだが、それを知る由はない。
16:40 首相官邸前 対策本部
「偵察隊からの報告は!?」
「い、いえ。完全に通信が途絶していて………」
「一体中はどうなっているんだ………」
対策本部の指揮官である駒込警視は、苦虫を噛み潰した様な顔をしながら官邸を睨む。首相官邸との通信が途絶えて既に1時間近くが経過した。警察は官邸正面に対策本部を設置し、既に中へ二度、連絡の為の警察官を送り込んでいるが何の報告もなく、そのまま音信不通となってしまっている。
「ほ、本部長!」
「どうした?」
「そ、それが、その……。神谷元帥がお見えでして…………」
「はい?」
対策本部に入ってきた制服の警官の後ろから、完全武装の長嶺がヌッと顔を出す。口では気さくに「どーもー」と言っているし、笑ってすらいる。その一方で目は、明らかに笑っていなかった。
「………ここは警察の管轄です。いくら神谷元帥であろうと、関係者ではない以上、お引き取り願います」
「悪いが、そうも言ってられない。官邸の状況は?」
「関係者でもないのに教えるわけがないでしょう?」
「なら当ててやろう。大方、連絡員なり偵察隊を送り込んだ。でも通信途絶。しかも2回目、3回目辺りもそうだった。違うか?」
駒込の顔がこわばる。送り込んだ回数以外はその通りであり、何故それを知っているのかと問いただしたくなる程だ。しかし神谷は、そんな感情を知る由もなく続ける。
「警視さん。多分、この一件、警察じゃ無理だ。それに悪いが送り込んだのは死んでるよ」
「…………神谷元帥。あなたが皇国軍のトップで、三英傑の1人で、優秀な指揮官である事は存じ上げています。息子があなたのファンなのでね、特に知っていますとも。えぇ。
しかし!憶測だけで物事を語らないで頂きたい!!我々は警察、警視庁です!皇国軍ではない!!そしてあなたは部外者だ!!」
「勿論部外者なのは百も承知だ。警察の業務を、まあ今は結果的に邪魔してる奴が言っても意味がないが、邪魔するつもりはない。俺は最小限の犠牲で、事を解決したい。そこはアンタら警察だって一緒だろう?協力しろ、なんて言うつもりはない。話を聞くだけでいい、5分、いや3分でいい。時間をくれないか?」
そう言って神谷は頭を下げた。軍の最上位階級者で、三英傑で、現役の皇国軍全軍を束ねる指揮官に頭を下げられては、管轄が違う警察官でも話を聞かざるを得ない。
「…………良いでしょう。で、一体何の話なんですか?」
「ありがとう。………まず、今回の毒ガステロ。まず間違いなくテロじゃない。これは少数精鋭の特殊部隊による、緻密な計画に基づいた軍事作戦。映画である様な特殊作戦だ」
「その根拠は?」
「こいつを見て欲しい」
神谷はオートマトン、ロボット兵ことバンボラの写真を見せる。メカメカしいが、どこかのっぺりとしていて、マネキンの様にも思える人型の何かに、駒込は変な物を見る様な目で写真を見つめる。
「これは?」
「皇居を襲った連中だ。見ての通りロボット兵な訳だが、これが数百体も襲ってきた。………これは機密情報ではあるが、軍でもロボット兵の研究開発は行われている。だが生憎と、このロボット兵みたいな動きはできなかった」
「え?いや、はぁ!?」
サラッと機密情報を、同じ公務員とはいえ関係のない警察に話す。息子の話でも破天荒だとは言っていたし、ネットでもそう言われていたが、まさかここまでとは思ってなかった様で、目を白黒させて動揺している。
「日本は昔、地下鉄サリン事件があったよな。確か2000年代の始めかそこらの、オウム真理教とかいうカルト宗教の信者連中が地下鉄のラッシュアワーにサリンをばら撒いて、大量の被害者を出した世界的に見ても大規模な事件だ。この事件の教訓を経て、アンタら警察はより一層、テロへの警戒に磨きが掛かった。こんな事をしでかす事は不可能だ。何せ東京の主要な中心部のあっちこっちに、同時にガスを撒くんだぜ?無理だろ。
とは言えだ。前例があるんだ、取り敢えず毒ガスは作れたとしよう。武器、銃の密造ってのも出来なくはない。実際、安倍晋三だったか?30年位前の元総理が撃たれた事件もある。
だが、ロボット兵なんて作れるか?それも数百体の、言うなればロボットの軍隊だぞ。それをアンタら警察、それから国内の諜報機関の目を出し抜いて。内部ならいざ知らず、一般人ならまず無理だ」
「ではまさか、これは革命とか武装蜂起だって言うのか!?」
「それも考え難いだろ。仮にそうだとして、なら何で俺が生きてる?軍が犯人なら俺をとっとと殺すだろうし、というか三英傑の1人なら、寧ろ仲間に勧誘して来そうだ。ついでに言えば、ここ以外に攻めるべき要所がある。アンタら警察がいる警視庁、クーデターに参画していない軍の駐留地、それから参謀本部とかな。
あーそうだ。俺が仮にそのクーデターの関係者なら、わざわざペラペラ話さないからな?そもそも爆弾でも投げ込んで、テントごとアンタらを吹き飛ばす」
やはり恐ろしい男だと、駒込は思う。やはりクーデターや革命となると、真っ先に考えつく指導者は神谷だ。神谷ならそれができるし、大体クーデターは将軍がやると決まっている。だが確かに神谷の言う通りで、仮にクーデターの関係者ならわざわざ現れるわけが無い。
「確かに、そうなると何処かの軍隊という結論になるか………。だが、我々で解決できないとは?そのロボット兵が強いのか?」
「そりゃまあ数でくると、流石に拳銃、それも豆鉄砲の拳銃しか持ってない警察官じゃ難しいだろう。だけどな、俺が言ってる根拠はそこじゃない。まあこれは俺の勝手な推測だが、多分奴らの目的は毒ガスじゃ無い」
「……どういうことだ」
「毒ガスばら撒いて、ロボット兵を使って、民間人を大量に殺す。…………いや、馬鹿だろ。普通に考えて。だって絶対、ここにロボット兵やら毒ガスやらの機材を持ち込むまでに色々と骨を折ってるし、かなりの金と時間も大量につぎ込んできた筈だ。そこに加えてロボット兵と毒ガスを使う。そんだけの準備をして、やったのが民間人の大量虐殺
となれば、考えられるのはただ一つ。奴らの目的は別にあって、今回の毒ガス騒ぎは囮とか副次的な作戦に過ぎない。そして通信がいきなり途絶して、中に入っても帰ってこない警察官と首相官邸。となりゃ、大体の予測はつく」
これだけのロボットの軍隊と毒ガスを送り込んで、やる事が民間人の大量虐殺だけというのは、流石に考えられない。どんな国の軍隊であろうと、コスパは重要視される。何せ軍隊はタダでさえ金食い虫であり、毎年の予算獲得はある意味で戦争よりも大変だ。
何処の国がやるにしろ、これだけのテロ事件を起こしている以上、この準備には考えるのも億劫になる程の時間と、頭が痛くなる程の予算をつぎ込んでいるのは明白。それができたのは、確実に何かしらの大きな目的があったからに他ならない。加えて皇居への攻撃と、通信が途絶した首相官邸。目的は察せられる。
「ほ、本部長!!これを!!」
側近の警官が見せてきたのは、対策本部にあるノートパソコン。画面にはYouTubeのライブ配信が行われているのだが、配信している場所は首相官邸の総理執務室。しかも配信者は、時代遅れの装備を纏ったガスマスク姿の軍人だった。
『大日本皇国に住う、全ての人間に通達する。我々はグラ・バルカス帝国軍である。我々は現在、貴様らの国家元首が住む宮殿を占拠し、中にいた閣僚含めた数百人を人質に取っている。我々の要求は3点。
一つ、大日本皇国の速やかなるグラ・バルカス帝国への無条件降伏。
二つ、未だ我が帝国と敵対中の神聖ミリシアル帝国等を始めとした、世界各国への大日本皇国による速やかなる攻撃。
三つ、三英傑の速やかなる引き渡し。
以上である。尚、既に一色健太郎は既に我々が確保している。残る神谷浩三、川山慎太郎を首相官邸に連れて来い。最後に約束を守らない場合の、わかりやすいデモンストレーションをお見せしよう』
そう言ったテロリスト、否。グラ・バルカス帝国の軍人は、カメラの向きを変える。その先にはガムテープで拘束された30人近い官邸職員がおり、その前にはバンボラ達が銃を構えていた。
『やれ』
軍人の短い号令の直後、独特なSF映画のビーム砲の様な発射音が鳴り響き、職員達が血を流して倒れる。血を流し、動かなくなった職員達の亡骸を映したまま、軍人とバンボラは部屋を出て行った。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
対策本部は静かだった。目の前で起きた事態に、誰もが理解できなかったのだ。幾ら警察官とは言え、ここは日本。アメリカの様に銃撃戦が日常茶飯事でもないし、南米のように毎日ドンパチがある国では無い。こういう事態への耐性はない。
ただ1人、次から次へと戦場を渡り歩く神谷を除いて。神谷はこの映像を見てまずした事は、テントの外に出て、官邸の方を向いて手を合わせる事だった。数分間、そのまま動かなかった。
「……………皆殺しだ」
「は?」
「奴ら、ラインを超えやがった。あぁ、いや。始めからか。奴らはこの東京に住む臣民をガスで殺した上で、皇居にすら殴り込んできやがった。畏れ多くも、天皇陛下を殺そうとしていた。そして今度は官邸を乗っ取り、態々ライブ配信までして処刑しやがった。
その上で無条件降伏に三英傑を差し出せ?ハッ!笑わせてくれる。実に笑わせてくれる。ハハハ……」
声では笑っているのに、神谷の顔は能面の様に無表情だった。周りにいた誰もが、声を掛けられない。声を掛けるのが恐ろしかったのだ。
「駒込警視。どうやら、俺の予測が悲しい事に当たりやがった訳だが、今回の一件は我々が対処する」
神谷は軍務用の方のスマホを取り出し、専用のアプリを開く。指紋認証、顔認証、パスワードとIDの入力を済ませると、そのまま耳に押し当てた。
「コード、ビクター、キロ、アルファ、キロ、エコー、セブン、ワン、ワン」
『コードを認証しました。全周波数帯に通信します』
今のコードは警察、消防、海上保安庁、そして大日本皇国統合軍全軍へ無線を発信する為の音声コードである。正直な話をすると、まあまず在任中使わないだろとか思っていて地味に忘れかけてたのだが、ちゃんと繋がるか不安だった。
「大日本皇国の戦士諸君。こちらは大日本皇国統合軍、総司令長官。神谷浩三元帥だ。現時刻を持って大日本皇国統合軍、関東管区全軍に非常事態宣言による、特一級緊急治安出動の発令を宣言する。以降、事態終息までは警察、消防、海上保安庁の指揮権を統合軍総司令長官に統合する。尚、部隊の移動に関しては続報を待たれたい」
国家非常事態宣言法に於ける、超法規的措置の1つ。それが特一級緊急治安出動である。そもそも緊急治安出動とは、内閣が何らかの事由により機能不全を起こした場合、統合軍総司令長官の独断を持って軍を動かし、秩序の回復や事態の鎮圧が行えるという破格の命令であり、その中でも特一級は更に凄まじい命令である。先述の通り警察、消防、海上保安庁を指揮下に組み込む事ができ、指揮権を握れるのだ。
神谷は部屋の真ん中に軍務用スマホを置き、立体映像の投影モードに変更。現在関東圏に配置されている統合軍各部隊に加え、今回は警察、消防、海上保安庁の全戦力が表示されている。
「さぁ、ゲームの時間だ」
ここからは映像を見ながら最適解を導き出す、言うなれば一種の配置ゲームだ。何処からどの部隊を、どの位ここに集結させるか。それを考えるのだ。まず神谷戦闘団全軍をここに集結させるのは確定だが、他にどの部隊を使うのか。どういう経路で動かすのか、それを全て1人で考えなくてはならない。
勿論、戦力の抽出は最新の注意を払い二転三転は部隊が混乱するので絶対厳禁。尚且つこの未曾有のテロに対し、現場は必ず何処もてんてこ舞い。とは言え戦力はいるので、なるべく現場にダメージが小さいやり方でやるしかない。
「あーっと第三機動隊がここだから……………第四はこっちで分割して…………あーハイパーレスキューのこれをこう、いや!こっちのNBCを…………」
15分ほどアレコレやった結果、この首相官邸には神谷戦闘団全部隊と警視庁よりSAT、第四機動隊。消防庁よりハイパーレスキューの一部を配置し、万全の態勢を敷いた。現在の本部は解体し、後方に移動。そこに前線司令部を配置することとなった。
17:45 合同対策本部
「長官、ご無事で何よりです」
「向上!悪いなデートだったんだろ?」
「はい。しかしこうなっては、そもそもデートどころじゃないですよ。彼女は、すみれちゃんは避難所に置いてきました。ご安心を」
聞けば向上の方も大変だった様で、毒ガスが迫る中、殉職した警察官から拝借したニューナンブと体術でバンボラを倒しながら、彼女の星宮を守りきったらしい。
「浩三様!装備持ってきたわよ!!」
「おお!ありがとうミーナ!!」
今の神谷は近衛師団にある予備。神谷がいつも着る機動甲冑とは性能的な差はない。だがやはり、着慣れた物の方がいいのも確かだ。
漆黒の甲冑に右肩に旭日旗、左肩には神谷戦闘団の世界地図を背にしたアリコーンの紋章、そして胸には神谷家の家紋が金色で描かれている。腰に天夜叉神断丸と獄炎鬼皇を吊り下げ、その反対には金色の50口径の26式拳銃マシンピストル仕様。しかもドラムマガジン装備という、殺意マシマシの装備となる。
「団長の本気モードか。これは荒れるぞ………」
「ドラムマガジンか。恐ろしいぜ」
遠藤と奈良山が奥から出てきた神谷を見て、一瞬顔を強張らせる。ドラムマガジン装備の50口径の26式拳銃マシンピストル仕様は、普段はあまり装備しない。戦況的に必要な時か、今回の様なガチギレモードの時に使う。顔には出ていないが、内心ではブチギレまくっているのがよくわかる。
「全員揃っているな?」
テントに集まっている者達にかける声も、明らかに怒気が含まれている。いつもの優しかったり、人を鼓舞する様な声ではない。幕僚団は良いとして、初対面である機動隊、SAT、ハイパーレスキューの指揮官は緊張が凄まじい。
「現状を説明する。首相官邸はグラ・バルカス帝国の特殊部隊が占拠し、今も尚、我が親友にして総理である一色を始めとした閣僚達、それから職員356名が人質となっている。我々はこれを速やかに奪還するわけだが、当然正面始め全ての出入り口は封鎖されている。
兵力自体も人間こそ23名らしいが、例のロボット兵がかれこれ500体はいる。これを突破しながら、我々は人質を救出しなくてはならない。そこで部隊を分けた上で、奇襲を仕掛ける。これを見て欲しい」
神谷が見せた立体映像には右上に「極秘」「TOP SECRET」という赤文字が浮かんでいた。それもその筈で、これは何と首相官邸の詳細な見取り図だった。
「お前達も都市伝説とかで、一度くらいは聞いた事があるだろう。首相官邸、国家議事堂、皇居、地下鉄を繋ぐ、かつての大日本帝國が作り上げた極秘の地下トンネルネットワーク。
これはマジで実在していて、現代も使われている。当然、全ての出入り口は徹底的に隠蔽されており、今も尚、向こうにはバレていない。我々は少数の精鋭部隊を編成し、皇居、地下鉄、国会議事堂から地下トンネルを通り、首相官邸を奇襲。殲滅する」
「神谷元帥、よろしいでしょうか?」
手を挙げたのはSAT第一班班長、猪名寺だった。因みに格好がゴツいバトルドレスを着用しており、首から下がイカつい。何なら幕僚団の連中よりイカつい。
「何だ、SATの隊長さん?」
「突入はそちらの神谷戦闘団が行うのですか?」
「いや。SATチームは地下鉄の方から潜入してもらいたい。国会議事堂は五反田!遠藤!」
「承知!」
「お任せください!」
「皇居は槍河!権田川!」
「はいな」
「うっしゃぁ!やったんでぇ!!!!」
「そして地下鉄はSAT、俺。それから向上とミーナ!」
「お背中、預かりますよ」
「分かったわ!」
「他の者達は攻撃位置で待機!我々の突入を援護だ」
作戦は決まった。国会議事堂からは五反田のファランクスと遠藤のオーレンファンが、皇居からは槍河のラグナロクと権田川のアルマゲドンが、そして地下鉄はSAT、神谷、向上の赤衣鉄砲隊、ヘルミーナの白亜の
これの準備を始めた時、中のテロリスト共が動いた。なんと「動きが遅いから、人質を殺す。5分以内に三英傑を差し出せ」と言ってきたのだ。
「だ、そうですが………」
「行くしかないよなぁ」
向上の報告に、神谷は力無くそう呟く。このタイミングで仕掛けられるのは、地味に面倒臭い。というかそもそも、神谷は完全武装で既に暴れる準備は万端。その為、これを脱いだら外すのには時間が掛かる。もしこのまま、武器は外した状態でも中に入れば、確実に何か作戦が動いていることを勘付かれてしまう。
「…………これ詰んでね?」
「どんなに急いでも間に合いませんよ…………」
2人で頭を抱えていると、テントに血相を変えた兵士がやってきた。曰く「川山特別外交官が、至急団長にお会いしたいとの事です!!」らしい。早速会いに行くと、まさかのスーツに防弾チョッキを着てる川山がいた。
「浩三!俺を使え!!」
「………お前、念のために聞くぞ?何する気だ?」
「俺が人質になる!お前は出張かなんかで、到着まで時間がかかるとか言ってやるよ」
普通なら頬をぶん殴って、神谷が「馬鹿野郎!!!!」とか言う流れだろう。だが神谷はこれが最善策だと、すでに弾き出していた。川山は外交官。交渉に長け、これまで何度も日本の国益を守り、そして開拓してきた。その男が時間を持たせてくれると言うのなら、それだけで信用に足る。
「………普通なら俺達は、意見のぶつかり合いで殴り合うんだろうな。でも俺は敢えて、こう言うぜ。慎太郎、頼んだ」
「おーい、そこは殴れよ。お約束だろ?」
「俺達らしくて丁度いいだろ」
2人は笑い合う。川山は怖いし行きたくない。神谷だって行かせたくはない。きっと一色も、2人が来る事は望んでいない。だがそれでも、三英傑はやる。伊達に三英傑やら英雄やらは言われていないし、こういう時は真っ先に命を賭ける。親友を信じ、自らの命を賭けて、勝利を掴むのだ。
「また後でな、浩三。健太郎を迎えに行ってくる」
「そっちは任せるぜ。…………あー、そうだ。これが終わったら、俺はお前に伝えた」
「俺の死亡フラグを勝手に建てんじゃねぇぇぇぇ!!!!!!」
川山からの飛び蹴りが飛んでくる。勿論当たるわけなく軽々と避け、その時に神谷が舌打ちしたのを川山は聞き逃さなかった。
「お前今舌打ちしたよな!?したよな!?」
「…………フイッ」
「自分で効果音入れんな!!!!」
側から見たら感動的なシリアスシーンなのだが、全くその気を感じさせない。ふざけてる様にしか見えないが、実際ふざけてる。いつものパターンだ。
「いやーだってさ、お約束じゃん。こういうのは死亡フラグを建てて、感動的に死ぬんだよ。お前が」
「親友を殺す奴があるかッ!!!!!!」
「うぅーん、わっちがいるよねぇ」
「……………あー、黄猿?」
「似てない?」
「似てない」
お互いに微妙な空気感が流れる。因みに神谷の声的に、サカズキの声真似はうまそうではある。黄猿は喋り方だけだった。
「…………はぁ。なんかアホらしくなって来た。俺行くわ」
「おー、行ってらー」
「親友が人質になる時の態度じゃねーだろ。分かってんぞー、お前がブチギレてるの」
川山の言葉に、神谷は黙った。平静を装っているが、神谷はブチギレている。そしてどうやら、それは川山も同じらしい。その証拠に、拳が固く握られている。
「そりゃキレるだろ。ほんじゃあな、死ぬなよ」
「あぁ。アイツと待ってる」
神谷と川山はお互い背中合わせとなり、軽く互いの背中を叩く。神谷は川山が中で時間を稼ぐことを信じているし、川山は神谷が必ず助け出しにくると信じている。別れの言葉とか、そういうのは要らない。必ずまた会うのだから。
「長官。各部隊の準備、整いました」
「慎太郎が時間を稼ぐ。その間に俺達が他を救い出す。簡単だ、何も難しくはない。やるぞ野郎共!!!!」
いつもなら威勢のいい声が上がるだろうが、今回は流石に官邸近くなので上がらない。突入チームは各地への移動を開始し、作戦の開始に備える。一方の川山も、白旗を掲げながら官邸にたった1人で入った。
「俺は!!川山慎太郎!!!!三英傑の川山慎太郎だ!!!!!中に入るが攻撃しないでくれ!!!!!!!」
川山の叫びに、帝国兵達は何も答えない。川山は一歩一歩、ゆっくり踏み締める様に官邸へと歩いて行く。その姿を地上からはテレビのカメラが追いかけ、その後ろからは何人ものスナイパー達が見守っていた。
「撃つな。撃つなよ。このまま……このまま……」
暫くすると川山は官邸のロビーに到着し、そのまま中に入る。スナイパー達は最後まで入って行くのを確認し、そして姿を見失った。