1ヶ月後 神聖ミリシアル帝国上空 特務輸送機『延空』機内
『当機はまもなく、神聖ミリシアル帝国ゼノスグラム空港に着陸いたします。シートベルトをお締めください』
「いよいよだな」
「あぁ。久しぶりの国外訪問が、こんな形なんてな」
属性神王竜と友誼の契りを結んで1ヶ月。三英傑の姿は、神聖ミリシアル帝国の上空を飛ぶ特務輸送機『延空』にあった。というのも今回、再び先進11ヶ国会議が開催されるのだ。それも前回の開催地であったカルトアルパスから首都のルーンポリスになっている上、本来なら外務大臣級なのが今回は国家元首クラスが出席する事になっている。オマケに本来は、まだ会議が開催される年ではないのだ。なぜ2年に一度の会議が今回開催されるのかは、もうお察しの通りグラ・バルカス帝国についてである。議題は当然『今後の対グラ・バルカス帝国戦略について』だ。
「それにしても慎太郎。お前のグチ、今になって理解したぞ」
「は?」
「ほらお前、前回の会議の時、帰ってきてから「事前の根回しもない会議とか地獄」とか何とか言ってたじゃん」
「あー……」
この世界の国際社会や国際関係は、弱肉強食の超実力主義。本来この手の国際会議では、本会議の前に色々と打ち合わせやら何やらがある。ニュースで「本日〇〇にて何とかサミットが開催され——」なんてやっている部分は氷山の一角で、実際はその裏や前後でかなりの時間をかけて協議や会議が行われている。
ところがこちらの世界では、何の事前協議もなくいきなりぶっ付け本番で会議が行われる。一応こっちの世界に来て年単位の時間が経ち色々と慣れてきた部分もあるが、それでも慣れない部分はなかなか慣れない。というか総理の海外訪問自体、転移以降は殆ど無かったのだ。今回のような国際会議であれば、転移後初となる。それもあって、今回は三英傑が揃い踏みなのだ。
「なーに心配すんな。外交は慎太郎、身辺は俺率いる皇国軍と現地のSPが守る。特にSPの連中は、お前がよく知ってるだろ?」
「勿論だ。例え前回の会議とか、いつかの戦略会議の時の様な事が起ころうと、全く問題ならないと思っている」
「その意気だぜ総理」
「そうよー。あなたには、力強い味方がいるんだから。しっかりと胸を張りなさい?」
一色の背後からメチャクチャ綺麗な声が響く。一色の後ろの座席には、一色の妻である愛梨が座っているのだ。
一色 愛莉(いっしき あいり)
年齢 29歳
職業 声優、モデル、アーティスト、女優
皇国のファーストレディにして、超人気声優。中学生の頃よりモデルとして活躍し、そこから高校生で声優デビュー。20歳を超えるとアーティストとして担当アニメの主題歌を手掛け、現在では幾つかのドラマや映画にも出演している。とは言え本業は声優である為、連続ドラマや映画の様な長期の撮影だと準レギュラー位しか担当していない。
川山の妻、亜里沙とは親交も深く、たまーにお互いのYouTubeチャンネルにゲリラ出演していたりしており、特にゲーム配信では自他共に認めるゲーマーの神谷やレイチェルと正面切って接戦を繰り広げる肌の力量を持つ。職業柄、FPS等のシューティングや龍が如くの様な三次元での格闘系は神谷とレイチェルに軍配が上がるが、スマブラの様な昔ながらの格ゲー、コンシューマー含む各種レースゲーでは2人を凌ぐ。
性格は常識人ではあるが、下戸であり酔うと途端に甘えるか謎に口が悪くなるかという、正反対の特性をランダムで出現させてくる。またゲームに熱中すると偶に残忍なまでに冷酷になり、夫を突っ込みがてらフレンドリーファイアする事もしばしば。声優として演じているキャラクターは幅広く少年、少女、大人のお姉さん、部活の後輩にいそうな熱血快活キャラ、心臓の令嬢、残念美人、駄目女まで様々。本人がドイツ語とフランス語を習っていた事もあり、その手のキャラクターではネイティブも唸る発音を見せてくる。
外見は身長170cmにグラドル顔負けのスタイルを持つ美女。顔はクール系であり、笑えば可愛いが初対面ではちょっと怖いと思われやすい。髪色は茶髪にインナーでピンクを入れたストレートのロングヘアー。
「愛梨……。わかってる、わかってるさ」
「愛ちゃーん。シートベルト締めてってさ」
「はいはい、分かってるわよ」
今回は神谷の嫁にして神谷戦闘団の一員であるエルフ五等分の花嫁とファーストレディの愛梨に加えて、川山妻の亜里沙も一緒に来ている。もう軽くトリプルデートみたいなものだ。
間も無くしてゼノスグラム空港には、大型の6発機が飛来する。延空のサイズは普通の旅客機どころか、あのジャンボジェットすらも遥かに上回る超巨大機。旧世界ですらそのサイズ感であり、こっちの異世界ではそもそも民間用の旅客機自体がレア物。しかも大半がDC-4とかのサイズであり、そこまで大きいものは存在しない。親と子どころか、大人と子犬並みのサイズ感である。
「いつも通り健太郎先頭だが、流石に怖いな」
「まあ、こういう時は浩三が先に降りて警戒した方が良いもんなぁ」
ミリシアルは確かに味方であり、一応は共に戦う盟友ではある。しかし貴族派と呼ばれる連中は皇国を嫌っているし、これまで2回の訪問ではどちらも襲撃を受けた。1度目は先進11ヶ国会議の帝国の奇襲。2度目は神谷が参加した戦略会議でまたも帝国による奇襲と、呪われてるのかと思うほどに襲撃が起きた。神経質にもなる。
「心配ご無用ですよ」
「ルクス?」
一色の肩から、小さくなったルクス・セラフィムがひょっこりと首を出す。どうやら一色の右肩が定位置らしい。
「私めの魔法にて、健太郎くんと愛梨さんをお守りします。ドラゴンズライト・コクーンであれば、例え皇国の戦車でしたか?あの巨大な大砲を撃たれようと、中にいれば全くダメージはありません。これを破るとなると、伝説級の魔術師でも連れてこなければ」
「つまり人の身でどうこうできないって事、であってる?」
「正解ですよ健太郎くん。尤も、浩三くんは例外ですが………」
「ルクスちゃんルクスちゃん。こーちゃんは例に入れたらダメよ?あれはね、イレギュラーとか化け物とか変態というの」
「おいコラー。後半ひどいぞー」
「間違っちゃいない」
「浩さんはねぇ?」
「川山夫婦もそっち行くなー」
神谷がイレギュラーなのはその通りだが、こうもボロクソに言われる筋合いはない。というか変態はないだろう。
「浩三は変態ではなく、何というか鬼か悪魔だと思うのだが?」
「いやいや!こーくんは変態が丁度いいって!刀振り回して戦ってるし!!」
「ならそうねぇ、朴念仁とかも追加したら?私達が来てすぐの頃って、全く相手しなかったじゃない?あの時のこーきゅん、硬派とかを超えてたもの」
「えっと、その、どうせなら浩三さんには魔導の異端者も追加して欲しいです」
「もういっそ、全部名乗って貰いましょうよ。浩三くんは鬼と悪魔で、イレギュラーの化け物の変態で、朴念仁の魔導の異端者。あっ、最後には私の追加して戦闘バカも付けましょう」
「………ッスー帰っていい?」
エルフ五等分の花嫁まで向こうに行かれては、いよいよ持って味方がいない。横では極帝が大笑いしてるし、他の属性神王竜も似た様な感じだ。約1名「いい気味だ」と言わんばかりにほくそ笑んでる奴もいるが、まあコイツは除外である。
『タラップの準備が完了しました。いつでもご降機ください』
「よーし行こう行こう」
「そうね!」
「あっ、置いてくなよー」
「そういう慎ちゃんも置いてかないでよ」
そそくさと川山夫妻&一色夫妻が逃げていく。なんかもう怒る気も失せ、神谷とエルフ五等分の花嫁もそれを追いかける。報道陣や随行するスタッフ達は、本来なら貨物を積み込む後部搬入口がある所から降り、逆にVIPである一色達は前方のタラップから降りる。
一応、普通ならば赤絨毯の階段に変更された特別なタラップ車が機体横に停車し、下には赤絨毯を敷いてから降りる。よくニュースで見る光景を想像してもらえれば、よくわかると思う。なのだがミリシアルには、まさかの延空に合うタラップ車が存在していなかった。その結果、自前のタラップである。
「さて、じゃあ仕事を始めよう」
さっきまでふざけまくっていた野郎は何処へやら。この一言で一色は、大日本皇国内閣総理大臣の意識へと切り替える。顔はキリリと引き締められ、ただ歩くだけでも自信や威厳を感じさせ、誰が見ても皇国を背負っている事がわかる程だ。
「えぇ、あなた。いつでも良いわよ。イッツ・ショータイムってね」
一色と愛梨が連れ添って、先にタラップから空港へと降りていく。既にタラップの先には赤絨毯と、総理専用車1号『
勿論その後方には、ミリシアルを始め世界各国の報道陣がカメラやカメラと思われる魔道具の類を構えて待ち構えていた。どうやら異世界でも意外と、こういう国家元首の来訪の時は変わらないらしい。
「さっすが健太郎。メディア慣れしてるぜ」
「うむ。あれだけの人間とカメラとやらに囲まれながらも、堂々と手を振っている。流石であるな」
アナスタシアが横でうんうんと頷き、他の嫁達もスマホでその様子を確認している。だがもう、今度は神谷達が降りる時間だ。
「行くぞ」
神谷がハンドサインと一緒に指示を出し、6人はタラップを降りる。神谷は安定の皇国剣聖羽織を纏い、腰に吊っている2振りの太刀に手を置いてタラップを降りていく。後ろに続く嫁達も、女騎士の名に恥じない武勇を感じさせつつも、どこか優雅で気品がある。
「お待ちしておりました、長官」
「なんや偉いかっこいい登場どすな」
「歌舞伎役者かと思たで」
「おう。このクソ忙しい時に、助かったぜ。ありがとな3人とも」
今回、先入りしていたのは安定の向上の他、白亜衆の槍河と権田川である。向上はこのまま神谷に随行し、槍河と権田川は引き続き白亜衆と共に待機する。
あくまで白亜衆は大規模な襲撃があった時の保険であり、一色らVIPの護衛は警視庁警備部第一課の特殊急襲部隊『SAT』と同じく警護課1係の警官達、所謂『SP』の他、近衛師団の兵士達から構成される対急襲部隊『CRT』が護衛にあたる。
「出迎えも済んだし、わてらは本陣に帰りますわ」
「ほな団長。お気をつけて」
「出迎えご苦労」
槍河と権田川を見送り、神谷とエルフ五等分の花嫁は奥州驪に乗り込む。1号車である白石には、一色夫妻と川山夫妻の4人が乗り込んでいる。向上は後ろのウォッチタワーに乗り込む。車列はミリシアル側のパトカーを先頭とし、空港を出発。今回の会議が開催される、このルーンポリスの中心に聳え立つアルビオン城へと向かう。
この車列は凄まじいものであり、ミリシアルのパトカー1台、白バイ6台、白バイサイドカー付き2台、パトカー1台、センチュリー警護車1台、総理専用車3号『小雲雀』(ダミー)、総理専用車2号『奥州驪』、総理専用車1号『白石』、ランドクルザー警護車2台、ランドクルザー突発事案対応要員車『マッスルトレーサー』4台、ランドクルザー突発事案撃退車『アクティブフォートレス』3台、白バイサイドカー付き2台、フォレスター電子戦対応車『スモークスクリーン』1台、フォレスター通信車『ホークアイ』1台、クラウン大使館車両2台、ハイエース警護車1台、センチュリー大使専用車両1台、ランドクルザー突発事案対応車2台、救急車兼多目的車『プレジデントアンビュランス』1台、ランドクルザー突発事案撃退車『アクティブフォートレス』3台、衛星通信車『ウォッチタワー』、ハイエース(随行スタッフ輸送用)6台、ヴェルファイア外務省スタッフ車2台、センチュリー警護車2台、ランドクルザー警護車3台、白バイ4台、パトカー1台、ハイエース(随行報道陣輸送用)3台、デリカ ゲリラ対策車1台。合計60台の車列だ。
「それにしても、物凄い量だねー」
「一応、大日本皇国総理の警護車列だ。そりゃ厳重にもなる」
「なら、あの。天皇陛下の場合はどうなるんですか?序列では陛下の方が上、ですよね?」
「場合によっちゃ近衛師団が出張ってくるし、普通でもこれの2、3倍は護衛が付く」
国内であれば現代の日本と余り変わらないが国外ともなると、かなり厳重な警備が敷かれる。例えアメリカやイギリスの様な国が相手でも、大規模な警護部隊が投入されるのだ。
「これ、襲撃したらどうなるのかしら……」
「なんだエリス、襲撃するか?」
「する訳ないでしょ!でもほら、映画とかじゃお決まりの展開じゃない?」
「確かに気にならところではあるな」
「そこのところ、どうなの浩三くん?」
「死ぬ」
余りに短い回答に、時が止まった。だが、本当にこうとしか言えないのだ。襲撃してきたら、そいつは確実に死ぬ。
「ミリシアルのパトカー、白バイ、それから後方の一般人が乗ってるバンは違うが、周囲を張ってる警護車は総じて全部、防弾仕様だ。アサルトライフル位なら塞ぐ。
CRT所有の警護車両、マッスルトレーサーは見た目こそ警察の警護車と変わらないが、シャーシから全部軍用規格に改造してある。パワーも段違いだし、フロントのグリルに7.62mm軽機関銃2挺が隠してある。アクティブフォートレスに至っては、フロントの軽機関銃にボンネットの自動追尾式ショットガン、屋根には隠されているがミニガンタレットがある。後ろの隊員が屋根を開けて、そのまま射撃できる訳だ。オマケにトランクには12.7mm機関銃がある。これでどう生き残れと?」
「うわぁ……」
「容赦ないですね……」
「殺意高いわね」
「高いなんてもんじゃないでしょこれ!なんだっけ……あっ!オーバーキルよ!」
「襲撃する奴はかなりのアホか、勇気ある者だろうな」
これまで正面切って襲撃されたり暗殺されたりは無かったが、それでも突っ込んできた車を止める為に体当たりして、その車を吹っ飛ばして廃車にした事はある。一応その車もSUVだったのだが、フロント部分が完全にひしゃげていた上にガードレールに突っ込んだそうだ。
「まあこの世界には、そもそも車が少ないし、考えられるのは生身での攻撃だ。最悪は轢き殺して突破できるし、案外アルビオン城より車の方が安全かもな」
道中適当に話していると、15分ほどでアルビオン城に到着した。門兵達は車列の多さに驚いていたようで、詰め所から何人か見物に出てくる程だった。
「ようこそお越しなさった、大日本皇国の方々。私は神聖ミリシアル皇帝、ルキウス・エルダート・ホロウレイン・ド・ミリシアルが息子。ラーパル・アルエスタ・ホグラヤン・ド・ミリシアルである。本日、皇帝陛下は体調が優れぬ為、皇子である私が名代を務めさせていただく。帝国を代表し歓迎を申し上げると共に、我が父の不在を深くお詫びする」
「ご丁寧な歓迎痛みいる。大日本皇国内閣総理大臣、一色健太郎である。どうぞお見知り置きを」
何度か新聞で見た老人ではなく、かなり若々しい見た目の男が一色と挨拶を交わしている。皇帝本人は居ないらしいが、実際の所はどうなのやら。本当だとは思うが、これまでのパターンで行くなら何か企んでるか、よくわからん理由でサボってるかである。
流石にこの世界に於けるアメリカポジの大国がする訳ないと思うが、一方で「絶対にやらない」と言い切れないのがまた、なんとも言えない所だ。
「浩三、ちょっと」
「なんだ?」
川山が手早く神谷の横に回り込み、素早く耳打ちで伝えてくる。「アイツ、貴族派のトップだ」だそうだ。ミリシアルの貴族派は、簡単に言えば「ミリシアルこそ最強!」という考えを捨てられてない、頭がお花畑な連中だ。
まあ最強の考えを捨てなくてもいいのだが、それを前面に押し出されると面倒臭い上、コイツらはそれを天下無双の言い訳とでも思ってそうな勢いで、この論理を持って色々と邪魔してくる。現場としては敵と同じくらいに厄介な存在だ。それが会議の場に現れ、恐らくはミリシアルのトップである以上、中々に荒れそうである。
「川山殿?川山殿ではありませんか?」
「あれ、マギさん。マギさんもこちらに?」
「(え、誰?)」
「(アガルタの外交官。襲撃の時にも居たぞ)」
川山を呼び止めたのはアガルタ法国の外交官、マギであった。前回の先進11ヵ国会議では、皇国に好意的に接触してきた数少ない国家でもある。
「えぇ。今回は我が国の法王、ヴィセント陛下の御付きとして参りました。それよりも、東京での事は聞き及んでおります。その、ご家族やご友人には?」
「幸い、近しい者には被害がありませんでした。友人関連も知る限りでは特に。私自身は総理と共に人質になりましたが、この男が助けてくれましたから。官邸を破壊しながら」
「か、官邸を破壊?」
「どうも、官邸デストロイヤーです」
川山の背後から現れた、謎の鎧こと機動甲冑に至極色の羽織、ついでに刀を腰に吊るしてるヤバそうな男に、マギは顔にこそ出さなかったが内心ではビビり散らかしていた。コイツ大丈夫かと。
「………ん?もしかして、神谷元帥殿では?」
「えぇ、そうですよ。我が皇国最強の戦士にして、我が軍の総司令。神谷浩三です。修羅と言った方が分かりやすいですかね?」
「やはり!前回の会議の際は、本当にお世話になりました!」
そう言って頭を下げるマギ。この世界でこういう、マトモな対応してくれたのはムー以来だ。エモールはマトモとはなんか違うし、他は下に見られるだけならラッキー、煽られる馬鹿にされるがデフォ、戦争が最悪のコースという感じだった。なんというか、感動すら覚える。
「頭下げる必要はない。川山はあなたを友人とまで行かずとも、誠実な相手だと認めた。であれば親友である俺も、それ相応に対応しよう。それだけの事だ」
「……我が国はこれまで、ファーストコンタクトから戦争というのが少なからずありました。しかし貴国、いや。あなたは私に、とても丁寧かつ誠実なコンタクトを取ってくれた。これだけで既に、我が国としては嬉しいのです。
前回も言いましたが、是非一度皇国にいらしてください。外交官マギとしての来日も歓迎しますが、個人的にはプライベート、単なるアガルタ法国に住まうマギとして遊びに来てもらいたいですね」
「まあ、来るなら戦争終わってからがいいだろ。そっちもこっちも、帝国のお陰で仕事量が大変だろうし」
「えぇ!是非とも一度、遊びに行きますとも!そうだ、どうせなら外交庁に偵察と称して資金を出してもらって……」
なんか目の前で、無料で皇国に行く算段を立て始めている。皇国では横領辺りに引っ掛かりそうだが、目の前の男はアガルタの人間。なにより、そういう悪巧みは三英傑の大好物でもある。止めはしない。
暫くして、議場への入室を促すアナウンスが流れ、続々と参加者が入っていく。今回の参加者は以下の通り。
神聖ミリシアル帝国
・ラーパル・アルエスタ・ホグラヤン・ド・ミリシアル皇子
・ペクラス外務大臣
ムー
・ペルセウス首相
・オーディクス外務次官
エモール王国
・竜王ワグドラーン
・モーリアウル外交担当貴族
アガルタ法国
・ヴィンセント法王
・マギ外交官
トルキア王国
・クシャナ第1皇女
・クロトワ将軍
マギカライヒ共同体
・シディアス学連長
・パルパル外務大臣
ニグラート連合
・マラグディナ王
・アルボナース外務卿
パンドーラ大魔法公国
・マイヤーズ公王
・リード卿
アニュンリール皇国
・ザラトストラ皇帝
・カール・クランチ外交官
大日本皇国
・一色健太郎内閣総理大臣
・川山慎太郎特別外交官
・神谷浩三統合軍総司令長官
見ての通り、かなりの重鎮だらけである。この他、護衛やら秘書官やらが控えており、実際に会議場にいるのは50人以上にも登る。言うなれば、異世界版G11だろう。因みに、当然であるがグラ・バルカス帝国は不参加。というか参加のご案内的な文書や通告もされていない。当然である。
『では、定刻となりましたので先進11ヵ国会議を開催いたします』
その言葉が出た瞬間、一色が早速手を上げる。この会議、というか異世界に於ける外交の場面では、事前協議とかは殆ど存在しない訳で、何が飛び出すかわかったもんじゃない。となれば即断即決で、先陣を切るのが1番だ。
『一色総理、どうぞ』
『会議が始まる前に、我が国はこの会議に集まる各国に宣言する。我が国は、グラ・バルカス帝国への本土上陸作戦を持って全面侵攻を開始し、グラ・バルカス帝国そのものを解体することを宣言する』
議場が一気にざわついた。どうやら国を解体するなんて発言は、ぶっ飛んでる扱いされるらしい。
『我が国はッ!!!!!』
一色の叫びで、議場は静まり返る。全面侵攻と今の叫びで、完全に議場の空気は一色が独占した。もうこれで、他の連中が入り込む隙はない。
『我が国は先の襲撃により、多数の臣民が犠牲となった。現在25,893名を数え、負傷者はその3倍以上。経済損失は15兆円以上だと言われている。
金は、まだいい。今後いくらでも取り返せる機会はあるだろう。少しずつ着実に取り返し、追いつけば良い。だが臣民は!人の命はいくら金を積もうと、どんな対価を支払おうと返ってくる事はない。
戦争だ。人は死ぬ。死ぬ数を減らす事はできても、0にはできない。戦場で兵士は殺したり殺されたり、死んだり死なせたりを繰り返す。時には一般人も巻き込まれることもあるだろう。だが奴らは!あのクソ野郎共は事もあろうに、何の罪もない武装すらしていない、単なる臣民を標的とし虐殺をしたッ!!!!流れ弾でもなく、戦場にいた訳でもない!!普段の普通の日常を送っていた!!にもかかわらず奴等は毒ガスで!銃で!殺されたのだ!!
それを見逃すのか?戦争だからと。仕方がないと。答えは否!断じて否ッ!!奴ら全員に思い知らせてやる。あの腐った連中に、何処の誰に喧嘩を売ったか思い知らせてやる!!
これが我が国の国民感情、皇国政府の意見を纏めた上での結論であり、我が国の主人。天皇陛下のご裁可を頂いた物である。本来なら我が国のみで報復を行う所ではあるが、ここにお集まり頂いた各国は勿論、取り分け第二文明圏の国家は帝国に並々ならぬ怨嗟が大なり小なりある事だろう。そこで我が国としては皇国主体の世界連合軍を構築し、共に帝国を打ち滅ぼしたい、と考えている』
再び議場はザワつく。前半から後半にかけての一色の演説では、流石と言うべきか参加者の心を掴んでいた。だが終盤の「皇国主体の世界連合軍」というのは、ミリシアルへの冒涜と取られかねない発言である。真っ向から喧嘩を売るような物だ。それ故に、内心では「コイツまじか」という感じだった。
『……発言よろしいか、議長』
『ワグドラーン王。どうぞ』
『我がエモール王国は、大日本皇国の決定を全面的に支持すると共に、あらゆる協力を惜しまない事を宣言しよう』
基本、排他的で尚且つ他国と協力する事が余りないエモールが、二つ返事でYESと答えた。この事実でまたもザワつく。普通なら国に持ち帰る程の案件であり、当の一色もここで明確な答えが貰えるとは思っていない。個人的見解でもOKがもらえたら万々歳くらいに思っていたので、正直かなり驚いている。
『皇国は我が盟友であり、開戦以来かなりの無茶をして貰ってきた。であれば断る理由はない!だが、公式の回答は待って頂きたい。一度本国で話し合う時間を貰っても?』
『今この場で好意的な回答が頂けただけで、我々としては満足である。是非、本国でよく話し合っていただきたい』
エモールとムーに続き、次々と参加の意思が出てくる。だがそこに待ったをかける国があった。ミリシアルのペラクスである。
『各国の代表者達よ。どうか待って頂きたい。お忘れか?かつての第一次バルチスタ沖海戦を。あの時、我々の総力を上げてぶつかるも手も足も出ずに終わった。その後の第二次では皇国の勝利で終わっているが、それはあくまで皇国単独だからできた事。
ムー大陸では連合軍が勝利しているが、あれも言うなれば帝国にとっては不慣れなムー大陸であればこそ。本土は奴らの庭!そう簡単に攻め込める物か。何より場所もわからないではないか!!』
とは言っているが、当然本当の理由は皇国に主導権を握られたくないからに他ならない。それは一色も分かっているし、こういう切り口で言われるとは思っていた。軍事関連といえば、もうこの男の出番である。
『軍事関連となれば、私よりも専門家の意見が欲しい所。という訳で、ここからは彼に担当して貰う。我が大日本皇国統合軍総司令長官にして、最高階級の元帥を持つ最強の戦士にして将軍。皇国剣聖 神谷浩三・修羅に説明してもらう。浩三!』
『おう、任せとけ』
バトンタッチ代わりにハイタッチを軽く交わし、神谷が前に出る。それに合わせて向上が議場の中心に立ち、立体映写機をセット。そのまま起動させる。
突如として議場の真ん中に現れた謎の画面に、全員が驚くが神谷はそれを無視して話を始める。
『……じゃあ、始めるか。グラ・バルカス帝国はムー大陸より西方5,000kmにある。各地には都市は勿論、軍事基地が点在し、沿岸部には防衛用の要塞陣地も存在している』
空中に浮かび上がる帝国本土を写した写真に、物凄いどよめきが上がる。そんな中、アニュンリール皇国のカールが急に立ち上がった。
『ちょ、ちょっと待って欲しい!それは一体なんだ!!なんでそんな空の魔写がある!!!!』
『軍事衛星からの写真に決まってるだろ。それに帝国本土には既に何度も、偵察機が飛んでいる。もっと精巧な写真もあるぞ?今日は持ってきてないけどな』
『な、なんという事だ…………』
このアニュンリール皇国、一応国際社会では後進国という事になっている。だがその実情はミリシアル並みかそれ以上に高度な魔法文明を持っており、それを隠しているのだ。というのも、この国は古の傍迷惑国家ラヴァナール帝国の末裔なのだ。
その為、国家機関に魔帝復活対策庁とかあるし、その中には復活支援課支援係所属とかいう隠す気ゼロの場所が存在している。いつかのグラメウス大陸での第75歩兵中隊の遭難事件の際、エスペラント王国を滅ぼしかけてた元凶でもあった。
当然そんなテロ支援国家じみた、皇国基準でもこの世界基準でもアウトな国家ではあるが、現状では皇国内で留めている。というのも現在、アニュンリール皇国はグラ・バルカス帝国に関わっている感じはない。無関係なのだ。となれば、その辺を追求するよりも、取り敢えずは現状維持にしておけば良いだけだ。
『今回の報復に於いて、皇国は陸海空軍に加え、海軍陸戦隊と特殊戦術打撃隊も全面的に投入する。これまで皇国軍は勝ちを収めてきたが、それは別に本気ではない。転移以降、本気を出したのは今亡きパーパルディア皇国のみだ』
次々に表示されていく皇国軍の兵器達。だが何が何だか分かっていない様で、凄いんだか凄くないんだかピンと来てないらしい。
『まあ、この辺を見てもらえれば分かるか』
次に表示されたのは、参加する戦力についてだった。単純な戦闘機や爆撃機だけで、全軍合わせ10万機以上。戦車等の機甲戦力も15万両越え。参加人員500万人越えという、訳の分からない膨大な数。空前絶後の大軍勢を、たかが島国1国が出そうというのだ。
『う、嘘はいけませんな嘘は。貴国は聞けば島国。何処の世界に、これだけの数を賄える国が』
『ウチ、最新の概算では1.4億人突破しましたが、何か?』
ペラクスは黙った。一色の経済政策により、良い感じに国民の所得も上がり続け、子供の数も結構増えてきた。お陰で出生数も鰻登りなのだ。
『我が軍には多数の特殊部隊がいる。上陸前にはあの手この手の工作で、帝国の進軍スピードを落として見せよう。無論この場で作戦を喋るつもりはないがな。それから各国には、ただ参加しろとは言わない。対価を用意した』
そう言って表示されたのは、例の戦術機。少し前、プロトタイプを実地運用した時の映像を見せる。映像ではF4ファントムが帝国の機甲連隊を4機で殲滅する姿が映っており、参加者の顔が驚愕に染まる。
『我が軍が開発した完全二足歩行型戦闘機、通称『戦術機』である。現在は我が軍のみでの運用ではあるが、この内、第一世代と第二世代については他国運用を視野に開発していた。よって連合軍加入国については購入時の割引や、各種サービスを行う。貢献度に応じては、さらなるサービスも考慮しよう。当然、初期の機体購入時はパイロットから整備士まで、各部門ごとの訓練プログラムも提供する。如何かな?
あ、因みにこの機体を開発した企業の親会社の御曹司なので、意外と融通効くから心配すんな』
最早代表者達は、御曹司発言なんて気にも留めてなかった。それよりも新兵器、戦術機の圧倒的性能に目が奪われていたのである。あの戦車の大群をいとも容易く葬り去る、圧倒的なまでの攻撃力。にもかかわらず、巨大な鋼鉄の巨人でありながら空中を舞うかの様な機動性。これがあれば、ラヴァナール帝国だろうと勝てると思う程には、代表者達を夢中にさせた。
これでもう、反対する国はない。する訳がない。寧ろどんな手を使ってでも、連合に入ると考えるだろう。ただ1国、いや。1人をを除いては。
『先ほどから聞いておれば、なんとも生意気な物言いだな。皇国よ』
「あっ!ちょ殿下!」
『男。第二世代、と言ったな?という事は第三世代以降があるという事だろう?』
『勿論。ただし第三世代と第四世代については、皇国でのみ運用する。機体コストが高い上、さまざまなシステムを搭載した結果、機密の塊となった。おいそれと友好国でも、他国に出すつもりはない』
『我がミリシアルには、来るラヴァナール帝国に対して備え、世界を守護する義務がある。故に皇国には、当該技術の無償供与を求め、いや。命令する』
ペラクス始め、議場にいた随行員から後ろの書記や記者に至るまで、全てのミリシアル人の顔から色が消えた。真っ白である。「コイツやりやがった」と。だが、コイツがやりやがっても止められない。止められる訳がない。ラーパルは続ける。
『貴様ら科学文明国には、些か勿体無い技術である。即刻開示、供与せよ。無論、技術者もセットだ。我が国が来るラヴァナールの帝国との戦に役立てよう。そうだ、此度のグラ・バルカス帝国への遠征についても、我々が全面的に指揮を取ってやろう。
今更第三文明圏外国家だからと言わないが、転移以来、この世界の中心にして守り手である帝国に挨拶にも来ないばかりか、文書の1枚も寄越さない皇国の皇帝とは名ばかりの愚かな王に率いられるよりも、我が神聖ミリシアル帝国にこそ率いられるべきであろう。貴国の軍は強い。故に使える主人は選ばなくてはな』
そう言って高笑いするラーパル。最初こそ、神谷を始め皇国の人間は変な事言ってるなー位にしか思ってなかった。だが後半の天皇批判で、完全に表情が消えた。特に議場の真ん中にいた神谷の表情の変化はよく分かった様で、参加者達の慌てふためく姿が見て取れる。当然、ラーパルはそれには気づかない。
『聞いたかお前達?コイツ、事もあろうに天皇陛下を馬鹿にしやがったぞ…………』
『うん知ってる。今すぐ首切り落としてやれ』
『いやいや、殺すのまずいって。両腕と両足、それで許してやろうや。後、熱湯頭からぶっ掛けろ』
三英傑、完全にブチ切れである。唯一エルフ五等分の花嫁だけは、そこまで不快感はないらしい。だが後ろに控える護衛や随行員達は顔に出ているか、内心で腑が煮え繰り返る程に来ているかのどっちかだ。
『ラーパル・アルエスタ・ホグラヤン・ド・ミリシアル。我が国の主人、天皇陛下を侮辱するは、それ即ち大日本皇国への宣戦布告も同義。神聖ミリシアル帝国は、我が国に宣戦布告したと看做す。よいか?』
一色から無表情で淡々と告げられる言葉に、ラーパルは何も答えられなかった。口をパクパクさせるだけである。その瞬間、神谷が刀を目にも止まらぬ速さで抜き、そのままラーパルの目の前にある机を叩き切った。
「さっさと答えろやッ!!!!首切り落とすぞ!!あ"あ"!?!?」
ラーパルは完全に腰を抜かし、尻餅をついてアワアワするだけ。話にならない。
「おう浩三。帰るぞー!侮辱されるくらいなら、とっとと帰るわ」
「オッケー」
一色を先頭に、皇国の人間は全員が堂々と帰る。帰り際、ムーの席からマイクを借り、川山が話す。
『あ、ミリシアルの皆さん。今回の一件で貴国が、我々の事を下に見るばかりか、公の、それも国際社会の場で半ば植民地になれといった発言をするグラ・バルカス帝国並みの対応する国家だと分かりました。よって、世界連合への参加は自由にして頂いて結構ですが、戦術機の提供はなしとさせて頂きます。あぁ、謝っても遅いのでやるだけ無駄です。では我々はこれで帰りますから、見送りも不快なので結構です』
川山が退室すると、議場は完全に静かになった。大変なのはここからである。ペラクスの命で会議は中断となり、ペラクスは皇帝の居室へと直行。本当に体調が悪く寝込んでいたミリシアル8世を叩き起こし、今回の事を報告した。
「なんだとッ!?帰ったのか!もう!!」
「はい。帰りました。申し訳ありません!処分は如何様にもしてください!しかし今はどうか、皇国の車列の後を追われてください!」
「わかっておる!誰か!!車を大至急用意せよ!!!!」
ミリシアル8世は護衛も殆ど連れず、寝間着のまま車に飛び乗って追い掛けた。しかし空港に着いた時、既に延空は動き出しており一歩間に合わなかったのである。皇帝はこの一見で、さらに病状が悪化したらしい。
「浩三」
「ん?どした」
「お前が言ってた例の作戦。あれ、実行しろ。こんな国、一度お灸を据えてやらないと、また皇国の安全が脅かされかねん」
「帝国市民には悪いが、まあ仕方がない。ラーパルだかトパールだか覚えてないが、アイツが悪いって事で」
もしミリシアル8世が間に合えば、また変わっていたかもしれない。この時を持って皇国の報復対象には、ミリシアルも含まれる事となった。